何分か車を走らせればマンションには直ぐに着くのだが、あの不意な出来事から子桓様の顔色が悪い。
もしかしたらあの時、私を庇って何処か怪我をしているのかもしれない。
無理をさせているのかもしれない。
そう思うと心配で堪らなくなって、車を止めて貰うように子桓様に頼み脇道に停めて貰った。
「どうした?」
「背中か、肩でしょう?」
「…よく見ているものだな。ただの打ち身だ。気にするな」
「ですが」
「お前が無傷ならそれでいい」
「…良くない」
シートベルトを外して、子桓様の襟元を緩め肩を見ると黒い痣が出来ていた。
私を受け止める際、肩が石か何かにぶつけてしまったのだろう。
黒い痣は内出血をしているように見えた。
「病院へ行きましょう」
「今日は土曜日だ」
「なれば急患で」
「そこまで大袈裟な怪我じゃない」
「…私のせいで」
「…ふ、大丈夫だと言うに。少し痛むだけだ」
「少し、待っていて下さい」
「おい」
ヒールに慣れず、脚が痛んでいる事も忘れて、車を出て近くにあった薬局に走る。
応急処置に湿布を買った。
助手席には戻らず、後部座席に座り子桓様の椅子を倒して後ろから服をはだけさせ湿布を当てる。
有無を言わさず、湿布を貼った生肌の右肩に額を乗せ目を瞑った。
「あなたに何かあったら…」
「心配し過ぎだ」
「私、とても怖かったのです…」
「そうであろうな」
そのまま私の胸に埋まるように、子桓様は私に身を寄せた。
偽りではあれど、柔らかい胸に子桓様が頬を寄せる。
胸元をはだけさせたまま、私の腰を引き寄せて目を閉じた。
「私も怖かった」
「子桓様が?」
「少しでも間に合わなかったら、私かお前が重傷で…酷ければ死んでいたかもしれない」
「…はい」
「こんなつまらぬ事で…。もう、離れたくない」
「はい…」
少し体を起こして、私の頬に触れ子桓様から唇を合わせた。
その優しい口付けを抗う事なく受け入れ、腰を引き寄せられ更に深く口付けられる。
漸く唇を離され、子桓様の肩口に埋まり胸の高鳴りを抑えていた。
子桓様もこれ以上は手を出すまいと、私の胸に埋まり目を閉じた。
外を見ればいつの間にか日も暮れていて、車内の暖房が利いているとはいえ寒々しい。
凍える寒さに身を寄せるように子桓様は体を起こし、背中から抱き締めるように私を胸に埋めた。
「…寒空の下、お前をひとり待たせてしまった」
「仕方ないでしょう。あの者達の言葉を気にしているのですか?」
「お前は気付いていたか?」
「はい。あの二人は呉の甘寧と凌統、先程のは蜀の馬超と馬岱でしょう」
「お前には気付いていなかったようだな」
「…そんなに、女に見えているのでしょうか?」
「ああ。とても綺麗だ」
他の者達には何を言われようとも、子桓様に言われると特別嬉しかった。
正直、女を装う事に抵抗はあった。
だが、人の目を気にせず恋人として過ごせるという事は私も本音では嬉しかった。
別に女装趣味に目覚めた訳ではない。
ただ、もう少し外で恋人で居たい。
そう耳元で囁くと子桓様は笑み、爪先からスカートのスリットまで手を這わせ私の腿を撫でた。
撫でられる仕草に唇を噛み、柔い感覚に声を堪えた。
「っ…ふ…」
「脚が、痛むのではないか?」
「少し…休めましたから」
「まぁ確かに…せっかく似合っているのだから、私ももう少しこの姿のお前を見ていたい」
「…あの、脚ばかり撫でないで下さい…」
「なら胸にしようか」
「そうじゃ…な…、っ」
「ん?」
私の背を抱くようにして背後から脚に触れられ、胸を揉まれ体を焦らされる。
偽りの胸といえども、揉まれれば中のパッドが擦れて感じない訳ではない。
それには絶対に気付かれないように目を瞑り、顔を背ける。
腿を撫でていた手が股に触れそうになり、流石に子桓様の手を止めた。
「子桓様…!」
「よく似合っているが…マーメイドスカートはけしからんな。脚を撫でたくなる」
「これ以上は…」
「胸を揉まれて感じたのか?」
「ちっ、違います…ただ、恥ずかしい…ので…」
「ふ…、続きは部屋に帰ってからだな」
「っ…!」
「腹が減ったな。そのまま靴を脱いで後ろに座っていろ」
「…嫌です。隣に行きます」
自らの襟元を正し、私の身なりを整えた後に子桓様は運転席に戻った。
後に続くようにおずおずと助手席に戻り、マフラーを巻き直して隣に座る。
子桓様の隣に居たい。
主従関係にない今の時代なら、もう三歩後ろについて歩かなくても良いのだとそう思いたかった。
私の思いを察したのか、子桓様は隣に座る私を見て笑み、私の名を呼んで顔を引き寄せ今一度口付ける。
脇道とはいえ、通行人の視線が気になり直ぐに唇を離した。
子桓様が車を発進させる。
少し車を走らせて、オフィス街の一角に入る。
高層ビル内の駐車場に車を停め、子桓様から腕を組むよう促されレストランに入った。
店内は全席ソファー席で、街の夜景が見渡せる。
間接照明がほの暗く、他の客はカップルばかりだった。
当然の如くカップルシートに通され、窓際の席に二人並んで座るように促されると目の前の視界は夜景と星星でキラキラと輝いている。
それとなく仕切りや観葉植物が置かれ、客同士が互いに干渉せぬよう半個室になるようにテーブルは配置されていた。
恋人同士二人きりで食事が出来るところ。
子桓様はそういう店を選んだのだろう。
店員の対応も慣れており、私のスカートを見るなり膝掛けをくれた。
上着やマフラーをハンガーにかけて、子桓様が膝掛けを受け取り私の膝に掛けて下さった。
オーダーを子桓様に任せ、店員が去ったのを見計らい子桓様の肩口に凭れる。
「…良い店ですね」
「この店を知ってからずっと仲達と来たかった。念願叶って何よりだ」
「左様で…。恋人同士ばかりですものね」
「私達もな」
「…はい」
子桓様の声が耳元に響く。
肩に凭れる私に擦り寄るように、子桓様も私に身を寄せて夜景を眺めていた。
視界に夜景と星星が煌めく。
私達は恋人同士に違いなかった。
運ばれた食事を食べながら、今日一日がもうあと数時間しかない事が寂しいと思い溜め息を吐く。
もう終わってしまう。
子桓様にそれを見られてしまい気に掛けられるが、余りにも自分が女々しくて理由を口に出すのは止めた。
食事はとても美味であったし、店員の気配りもあってとても穏やかな時間が流れた。
食後の茶を飲みながら、子桓様の肩に身を寄せ目を閉じる。
ずっとこうしていたいと思った。
二千年前も本当はもっと子桓様に甘えていたかった。
主従という間柄、礼節を重んじる私は自分に素直になれなかったのだ。
空いた片手。
子桓様が私の膝に手を乗せ、指を絡めて手を繋ぐ。
その手を握り返して子桓様を見上げる。
優しい眼差しで子桓様は私の額に唇を寄せながら話を始めた。
「…今度は独りにさせぬ。だから、今度は私がお前を護りたい」
「……。」
「もう主従ではないのだろう?先生」
「や、止めて下さい…今は、仲達で居たいのですから」
「…随分、素直になったものだな」
「あなたのせいでしょう?」
「私のせいか?」
「あなたのせいです」
店員がいない事を確認し、私から頬に口付けると子桓様は嬉しそうに笑った。
ふ、と優しく微笑まれる顔に弱くて直視が出来ない。
「…今度は、きっと…私の方が先に亡くなると思うのです」
「何を言う。縁起でもない」
「そんなに体が強い訳でもないので」
「なれば、私がお前を護る。きっとだ。…だからそんな事はもう言うな」
「…はい。…ごめんなさい」
子桓様は腕に力を込めて私の肩を引き寄せた。
この腕に埋まっていると、自分がとても小さく思える。
子桓様は若く逞しく健やかにお育ちになった。
対して私は、常日頃年齢を感じるようになった。
子桓様は私を綺麗だと言ってくれるが、体力の衰えは誤魔化せない。
子桓様に再会する前。
風邪を悪化させ、肺炎になるまで寝込んだ事がある。
師と昭に付きっきりで看病をしてもらい、何とか回復して職場に戻る事が出来た。
あの時の苦しみは、死ぬかもしれないと何処か人事のように思っていた。
あれから師と昭が私を気にかけて、寒くないようにとやたら私の身なりや体調を気にするようになった。
また風邪を引かぬようにと、厚手のマフラーや手袋を私にくれた。
子桓様には話していないが、私が寒がりだと言う事は知っているらしい。
子桓様と出会った今、一時とて無駄にしたくない。
「…あなたは温かいですね」
「寒いか?」
「……。」
「どうした?」
「子桓様…」
「何だ」
子桓様の胸に埋まり、鼓動を聞くととても落ち着く。
また私の世界に子桓様が居る。
子桓様は私の太陽のような人だった。
陽の光のない世界に私はずっと居たのだと思う。
胸に埋まったまま、繋いだ手を握り返す。
まだ、もっと恋人で居たい。
「今日はとても楽しかった。夢のような時間でした。子供達とあなた様に感謝してもしきれません」
「そうか。楽しめたのならそれは何よりだ」
「…また来ましょう。あとはもう、帰るだけですね」
「ああ」
「…今宵はとても寒くて、私一人では眠れそうにありません」
「……。」
「私はとても寒がりです…。帰ったら…子桓様が、私を温めて下さいますか?」
私なりに精一杯言葉を選んだつもりだが、子桓様には通じただろうか。
子桓様は私の言葉を聞くなり、帰ると一言言い早々に会計を済ませ足早にエレベーターに乗る。
繋いだ手はそのままに。
何も話さない子桓様が気になり顔を見上げると、子桓様は口元を抑えて頬を染めていた。
「…?」
「…お前、な…。私がどれだけ我慢しているのか解っているのか?」
「我慢?」
「今朝お前の姿を見てからずっと…お前を抱きたいと思っていた」
エレベーターの壁に繋いだ手ごと私を押し付け、子桓様は深く口付ける。
舌を絡めながら、私の股の間に脚を入れて腰を引き寄せた。
「お前から誘われるとは…良い時代になったものだな」
「…時代は関係ないでしょう。私とて…もっと、恋人らしいことがしたいと…そう思ったのです」
「…っ、お前には適わぬな…」
今一度口付けられて、子桓様は笑う。
車を出してから暫くは互いに顔を見れず、ただ黙々と景色を見ていた。
花園の敷地内に入り、車を停めて駐車場を出た。
私から手を差し出すと、子桓様は嬉しそうに笑い手を繋ぐ。
手を繋ぎたい。
それだけの事でこんなに悩ませてしまうとは思っていなかった。
それに、このような事になるとも思っていなかった。
エレベーターに乗り、子桓様の部屋の階を押した。
手を引かれて部屋のある階に着くなり、子桓様が私を横に抱き上げる。
「ちょっ…」
「逸る気持ちが、抑えられぬ」
「…子桓様?」
「お前のせいだぞ」
「私?」
部屋の鍵を開けるなり、ベッドに直行され押し倒される。
そのまま深く口付けられ、上着やマフラーを床に落とされた。
服は脱がさず、スリットから手を滑らせるように体に触れられる。
胸を揉まれ、コルセットの紐を緩められて、息も絶え絶えなった私を見て子桓様は漸く唇を離した。
「…いきなり、激し過ぎです…」
「漸く、外せた」
「っふ…、ゃ…」
「やはり胸…感じているではないか」
「中で擦れ…て」
「…ほぅ」
「っ…や、ぁ…!」
言わなければ良かった。
子桓様は胸が中で擦れるようにテーピングの上から揉み、
緩んだコルセットの隙間から手を入れ抑えつけられていた私のに触れる。
まだパンストも下着も身に付けたままであるのに、子桓様のせいで散々焦らされてしまい体が熱くなる。
「邪魔だな」
「!」
脱がす事すら面倒なのか、ビリッとパンストを破く音がして、子桓様が下着をずらし直に私のに触れた。
着衣は乱されるものの、脱がされる事はなくそのまま私のを擦り上げるようにして扱かれる。
破れたパンストから覗く生脚にベルトを緩ませてはだけた子桓様のが直に当たり、欲情した熱い吐息が首筋に当たった。
「…子桓さ、っ…、急き、すぎ…で…」
「早く…入れたい、お前の中に…」
「っ…!」
「だが、まだ」
耳を甘く噛まれながら囁かれ、また局部の部分のパンストを破られて直に触れられる。
体を反転させられ、ベッドに俯せになるように寝かせられた。
太腿に当たっている子桓様のに触れると、それはとても張り詰めていて相当我慢しているのだと解った。
一体いつから我慢していたのだろうか。
このまま無理矢理挿入されるものかと恐れていたのだが、
子桓様は枕元の小瓶を取ると中身の液体を指に取り私の秘部に塗りゆっくりと指を入れていく。
中が滑る感覚に覚えがあった。
小瓶の中身はローションなのだろう。
思わず目の前の枕に顔を埋めてシーツを掴む。
子桓様は私の肩口に頬を寄せ、熱い吐息を吐きながら首筋を吸い痕を付けた。
「っ…、そ、れ」
「…ん?ああ、買ってきた。約束しただろう。お前を傷付けぬと」
「ぁ…っ、こんなに張り詰めて…いらっしゃるのに…」
「先は急き過ぎた…。力を抜いていろ」
「…あ、あなたは…もう…」
「不安にさせたか。お前を傷付ける事はしないと言った筈だ」
子桓様のは今にも果てそうな程に屹立して固くさせているというのに、私の為に堪えている。
もう傷付けたくない、と優しく私を抱き締めた。
そんなあなたが愛しくて堪らない。
上体だけ振り返るようにして唇を甘く噛み、頬に擦り寄るようにして子桓様に甘えた。
「どうした?」
「私が甘えたら…駄目ですか?」
「…否、とても嬉しい…漸くお前が平等になってくれた。随分と時間が掛かってしまったな」
「っ、子桓様…」
「…力を抜いていろ」
「き、て、下さ…い…」
「無論だ、仲達」
二本まで入れられていた指を抜くと、子桓様は私の腰を引き寄せてスカートを捲り上げて当てがう。
後ろからの体位は初めてで不安げに目を閉じた。
大丈夫だと子桓様は耳元で囁き、指を絡め私の手を握り締めてゆっくりと腰を進めていく。
ローションで慣らされた中は傷付く事もなくゆっくりと子桓様を受け入れ、
背中を駆け巡るような快感といつもより深く突き入れられているような挿入にぞくぞくと体を震えさせて軽く果てた。
自分の体が子桓様を求めて締め付けているのが解り、気恥ずかしい。
同時に何故か涙も止まらなくて、子桓様に口付けられながら腰を深く打ち付けられて声が堪えられない。
「っふ、…仲達」
「は…い…」
「痛むか?」
「…へい…き、です…きもち、ぃ…」
「っく、今宵は随分と…」
私の片膝を肩に持ち上げ、スカートを避けて接合部を見せつけられるように体を捻られる。
私の体が子桓様を受け入れているのが見えた。
また先程とは違う箇所に当たり嫌でも感じてしまう。
服も着たまま絆されて気持ち良くて、子桓様が愛しくて堪らなかった。
今はもう子桓様の事しか考えられない。
震える手で子桓様に手を伸ばすとその手に口付けを落とし、指を絡めて手を繋いでくれた。
愛しています、と伝えると子桓様は私もだと口付けて笑う。
幾度か突き上げられ、甘い口付けを受けながら私は先に果てた。
果てる際の締め付けに堪えていた子桓様も中に果てて私の肩口に埋もれる。
中に注がれる感覚を感じながら、高鳴る胸の鼓動を聞きつつベッドに凭れるようにして埋まり脱力した。
私は今、子桓様だけのもので…心が幸福に満たされていた。
ゆっくりと中から引き抜かれ、子桓様のが溢れ出て股を伝うのが解る。
タイツは荒々しく破かれて見る影もないが、私も何処かで興奮していたのだろう。
デートの時も、抱かれている時も女と殆ど変わらなかった。
「苦しかろう。大人しくしていろ」
「…?」
「ふ、まだ余韻が抜けぬか」
まだ快楽の余韻にとろけて呼吸も整わない私を仰向けに寝かせ、釦を外され上着を脱がされた。
サラシで膨らませている偽りの胸に触れ、大人しくしているように促される。
子桓様はサラシにナイフを当て、谷間から滑らせるようにしてサラシを切った。
パッドやコルセットも外され、破られたタイツも脱がされる。
靴ずれで痛めた指先に気付き、子桓様が口付けを落として脚を撫でた。
「…すまなかった。このような脚で長く出歩かせてしまったな」
「いいえ、私が望んだ事です。子桓様はお気になさらず」
「そうか。今日一日…夢のような時間だった。礼を言う」
「そんな、私こそ…子桓様にお気遣いをさせてしまってばかりで…」
「構わぬ。それより…急いてお前を求める余り勢いで破いてしまった。すまぬ」
「…いいえ。私も少し動揺していたみたいです」
「ほう。お前も大概好き者だな」
「ち、違います」
ベッド下に落ちた鞄の中から拭き取るタイプのメイク落としで私の涙跡を撫でるようにして化粧を拭いながら、
子桓様と一日を振り返り色々な話をした。
化粧も全て落とされ、何やら子桓様に色々と顔に塗られて漸く作業が落ち着いた。
殆ど何も身に着けていない私に対し、不公平だと子桓様の上着を脱がせ湿布の貼られている肩に触れた。
逞しい胸を見て、いつもこの胸に抱かれているのかと思うと直視出来ない。
子桓様が私に覆い被さるようにして、また脚を広げられ押し倒される。
溢れて伝う子桓様のを撫でるように、子桓様のが私の股に擦り付けられていた。
既に子桓様のはまた固く勃ち上がっている。
「…っ、子桓様?」
「今度はありのままの仲達を抱きたい。返事は要らぬ」
「ぁ、っく…っ!」
「私は仲達がいい。私はお前でないと駄目だ」
私の返事も聞かぬまま、肩に脚を持ち上げられる程に脚を広げられ、深く深く最奥まで一気に再び挿入された。
既に中にある子桓様のが厭らしい水音を立てて敷布に溢れている。
一気に最奥まで突き上げられた感覚に背を仰け反らせ、また私も感じてしまっていた。
胸を吸われ腰を支えられてベッドが軋む程に突き上げられて、思わず子桓様の首に両腕を回した。
ずちゅ、ぐちゅ、と厭らしい水音に耳からも犯されそうで、突き上げられ与えられ続ける快楽に声が抑えられない。
自分の嬌声など何度聞いても慣れなくて、出来る事なら聞きたくはなかった。
嬌声の代わりに字を呼び続け私は果てたが、それでも尚、子桓様は腰を突き上げ続けた。
果てたばかりの私の体はきつく子桓様を締め付け敏感になっていて、
少しでも動かされようものなら快楽が全身を駆け巡りどうにかなってしまいそうだった。
「しか、ん…さ…!だ、め…はげ、し…っ」
「私だけのものだと…体に刻みたい。何度でも」
「わた、し…っ…ぁ!」
「っ…足りぬ。お前が足りぬのだ仲達」
子桓様は果てて、また私の中に注ぎ込む。
私も軽く何度か果てていて、先程からずっと体が敏感で呼吸すらままならない。
萎えたものをまた勃たせるように、子桓様は私の中を擦り上げるようにしてまた己を私の中で勃たせた。
そのまままた、腰を支えて体位を変えて突き動かされる。
もはや果てる際の申告などお互いに出来ず、求めるがままに抱き合い果てた。
子桓様が恍惚な表情で溜め息を漏らす。
今度は私が上に乗って子桓様を受け入れ、下から腰を支えられて子桓様に突き上げられる。
股は熱くなり、もう何度注ぎ込まれているのか解らない程に私の中は子桓様ので溢れていた。
今まで会えていなかった分と今日の出来事もあって、情欲が発散出来ていないのだろう。
私も足りないのかもしれない。
自慰をするよりも、子桓様に抱かれたい。
体が壊れてもいい。
そう思える程に私もずっと子桓様に抱かれたかった。
快楽にとろとろと体がとろけて、気持ち良くて堪らない。
口付けを重ね、体を重ね、止め処なく涙が溢れた。
「…ずっと…」
「…?」
「ずっと…お前とこうしていたい、な…」
私を見つめる子桓様の瞳が濡れていた。
ローションと子桓様のが混ざり、挿入も容易になる程に私の体はとろけていて腰も立たない。
中に注がれる感覚に背を仰け反らせ、背後に倒れそうになったが子桓様に支えられ抱き締められた。
体を繋げたまま、子桓様の肩にくたりと体を預けて乱れすぎた呼吸を整えるべく深く息を吐いた。
子桓様も眉を寄せ、私の額や頬に何度も触れるだけの口付けを落とす。
子桓様の呼吸も荒く一頻り思うままに私を抱いたようで、ベッドの背もたれに私を抱き締めて凭れた。
「…堪らんな…」
「堪らない…?」
「仲達…お前がだ」
「っ…私も…」
「折角だ。仲達の言葉にして欲しい」
「…子桓様が愛しくて…切なくて…堪らない…」
漸く中から引き抜かれ、指一本も動かせない程にお互い文字通りに精根尽きてベッドに体を沈めた。
目を開けているのも辛く、そのまま寝入ってしまいそうになりうとうとと目を閉じていた。
体を拭われる感覚と、そっとバスローブのようなものを着せられる感覚に目を開けると子桓様が最低限の後処理をしてくれていた。
新しくワイシャツとズボンだけ履いて子桓様も疲れた顔をして私の傍に横になる。
「…しかんさま…」
「ん」
掠れた声で手を伸ばすと子桓様は私の肩を引き寄せて腕枕をしてくれた。
擦り寄るように甘えていると子桓様が眉を寄せて笑った。
「ずっと…こうしていよう」
「ずっと…?」
「今度は私から離れる事のないように…死が我等を分かつまでずっと、私はお前の傍に居る」
「はい…」
「たまにでいい。私の部屋に来てほしい。私もお前の部屋に会いに行く」
「はい」
うつらうつらとした瞳で子桓様を見つめた。
額に口付けられ、髪を撫でられる。
「私とお前の時代は一度終わっている」
「…?」
「だが、忘れはしない。
私とお前が過ごしたあの時代は、書籍にして数ページで語られるようなものではなかった」
「子桓様…?」
「もはや私は皇帝ではなく、お前も軍師ではない。また…私と共に生きてくれるか?」
「どうしたのです…改まって」
子桓様は、ふ…と笑い私を抱き締めて更に言葉を続けた。
「このような時間がとても愛しいと思った。何度生まれ変わっても私はお前に恋をしたい」
「…よろしいのですか?もう戻れません…。私に出逢わなければ違う人生もあったでしょうに」
「お前のいない人生は月のない夜空だ」
私が内心であなたを太陽に例えた事を見透かしたかのように、子桓様は私を月に例えた。
詩人なのは相変わらずで、子桓様の首筋に擦り寄り脚を絡めた。
「…私、あなたを心の中で太陽に例えたのです」
「太陽?私が?」
「あなたのいない人生は、陽の光のない暗い世界のようでした」
「月は太陽なしに光る事はない、か」
「…あなたはこんなにも温かい」
「寒いか?」
ふわふわとした布団に包まれて、体温を移されるように子桓様に抱き締められてそのままとろとろと睡魔に襲われて目を閉じた。
「明日が日曜日で幸いした。明日はお前に会いに行こうと……、ふ…、おやすみ仲達」
私も明日は子桓様に会いに行くつもりだった。
それは伝えられなかったが、子桓様は私の額に優しく口付ける。
胸が幸福で満たされていて、とても、とても幸せだった。
翌日の日曜日。
全身の気怠い疲労感に体を起こす事が出来ず、枕元にある携帯を取った。
師からの大量の着信履歴を見なかった事にして携帯を閉じた。
子桓様も何かとメールが着ているのか、片っ端から返信をしてから携帯を閉じたようだ。
私に甘えるように擦り寄り、額や頬に口付けられる。
子桓様は私が眠ったままだと思っているようで、擦り寄る仕草はまるで子供のようでとても可愛らしい。
頬に口付けをしながら擦り寄る子桓様の肩を叩いた。
「…くち」
「ん?おはよう」
「口がいいです…」
「そうか」
漸く唇に口付けられて、おはようございますと子桓様に口付けを返した。
「今日は甘えたがりだな」
「昨日から、でしょう」
「違いない」
「それにあなただって」
「それもそうだ」
ふ、と互いに笑いもう一度口付けた。