頬に幾筋も涙を流して仲達は果て、そのまま意識を失った。
腹や股を伝う白濁が何とも厭らしい。
意識を失ってもなお、私の手を握っている。
可愛いらしくて堪らない。
口で言ったら怒るので言葉にはしないが、いつかは仲達に思いを伝えて怒られようと思う。
意識のない仲達の首筋から腰にかけて、指を滑らせるように触れた。
「…綺麗だな、お前は」
子供の頃に見た姿から変わらず。
白い肌に無数に咲く赤い所有印。私がつけた痕だ。
そう、これは私のものだ。
腹と股に伝う白濁。見れば随分と濃い。
このまま、ただ拭ってしまうのは勿体無い気がした。
仲達が着ているはだけて汚れたワイシャツを脱がし、代わりに少し厚手の上着をかけた。
脚を広げ、股に伝う白濁に唇を寄せ舐め取っていく。
仲達が少し身じろぎ、ぼんやりと目を開けた。
「っ…子桓さま?なに、して…」
「そのまま、寝ていろ」
「…汚い、ですから」
「お前は綺麗だ」
「…っ」
頬を染め、脚を閉じる仕草をするも私が脚を掴み阻止した。
「っ嫌、です…」
「先程あのように乱れていたのに何を今更」
「…子桓様っ」
「仲達の味だ」
「味…って…あああもう本当に止めて下さいっ」
「もう終わった」
仲達の腹や股を伝う白濁を全て舐めとり、綺麗にした。
口元を拭い、横に寝転ぶと仲達がおずおずと私の胸に埋まった。
仲達は顔を見せてくれない。
少し寂しいが、ずり落ちた上着をかけて肩を引き寄せた。
後ろ髪を撫でる。
「…自分で、したりはせぬのか」
「しません…」
「何故?」
「しようとも、思いませんし…」
「たまらぬのか」
「私はもういい歳だと言ったでしょう」
「しようとも思わぬのに、私には抱かれたのか?」
「…っ」
「なれば…もっと私が抱いてやらねばならぬな?仲達」
「ぅ…あの、…っ今夜は、もう無理です」
私の胸に埋まった仲達が漸く顔を上げてくれた。
顔が真っ赤で眉を寄せ膨れ顔だ。どうやらご立腹らしい。
私だから、仲達は抱かれたのだ。
全く、本当に可愛らしい。
「どうした?」
「…恥ずかしくて…」
「…可愛いな」
「もうっ、何ですか!」
「すまん。思わず口に出た」
「可愛い、とか…意味が解りません…」
「そのままの意味だが?」
顔を背ける仲達の顎を掴んで見つめると、仲達の頬が見る見るうちに赤くなった。
解りやすい人だ。まんざらでもないのかもしれない。
そのまま口付け、肩を引き寄せ抱き締める。
私の首におずおずと腕を回し、舌を絡めると瞳がとろけた。
毒のような色気。己を抑えて手短に唇を離した。
私の仲達。愛しくて堪らない。
中を掻き出してやらねばと思うも、傷口を広げる行為は気が引けた。
仲達とて、もう眠りたいだろう。
「…泊まっていけ」
「御迷惑でなければ…」
「…実はお前を抱こうと思った時から帰す気はなかった。
初めて抱いた相手を一人帰すような事はしたくない」
「…ありがとう、ございます…」
「薬を…。明日、風呂に…、許してくれるか?」
「ん…」
仲達はとろとろと眠りについたようだ。
枕元にある箱ティッシュと軟膏を取った。下半身を拭うとやはり血がついている。
胸元にいる仲達に一言、ごめんな、と謝り額に口付け薬を塗って下着を穿かせた。
己も身を正し、仲達を離さぬよう腕に抱き私も眠った。
明朝、温かい腕に気付いて見上げると子桓様の寝顔が目の前にあった。
寝顔は随分と可愛らしい。
朝は寒い。
子桓様の体温が温かく、もう少し近くに行きたくて首筋に埋まり脚を絡めた。
「…おはよう、仲達」
「あ…、おはようございます…起こしてしまいましたか?」
「いいや、少し前から起きていた。寒いか?」
「…はい」
「少し、待っていろ」
私に毛布をふわりとかぶせて、子桓様は足早に寝室を出て行った。
香の香り。
子桓様の香りは私の髪や肌にも染み着いていた。
体の中にも痕跡が残っている。
確かに腰も股も痛むが、心はとても満たされていた。
「…子桓様…」
子桓様が居た枕に擦り寄り、残り香にぽつりと呟いた。
私はこんなにもあの人の事を愛してしまったらしい。
「何だ仲達?」
「…あ…」
「ふ、飲むと良い。温まる」
「…ありがとうございます」
子桓様に見られてしまった。
子桓様は笑みを浮かべて私の額に口付けを落とす。
どうやら温かい紅茶を入れてきてくれたようだ。
上体を起こそうとするも、腰の痛みに起きる事が出来ず眉を寄せた。
「手を」
子桓様が肩と腰に腕をまわし、横に抱いてベッドに座らせてくれた。
カップを受け取り、紅茶を飲むと体が温まり落ち着いた。
「携帯、ずっと鳴っていたぞ」
「あ…昨晩からずっと見ていませんでした」
隣に座る子桓様が私に携帯を渡した。
画面を開くと子供達からの着信履歴で埋まっていた。
上の子、師からの着信が二十四件。メールが三件。
下の子、昭からの着信が二件。メールが二件。
そう言えば、泊まる事までは子供達には伝えていなかった。
これはかなり心配をさせているようだ。
「あの…」
「何だ」
「子供達に連絡をしていなかったので、電話をしても…」
「構わんが」
ちょうど着信がきた。
昭からだ。曹丕様に一言断って電話を出た。
「もしもし」
『あ!父上やっと出た!おはようございます!今何処ですか?曹丕様の家?』
「ああ…すまぬ心配をかけて…。曹丕様の部屋にいる」
『懐かしいですね曹丕様!上の階なんですか?』
「ああ…先日越して来たと…」
『へぇ、そうなんですね。
それはそうと父上、兄上が超心配してるんで今日は帰ってきて下さいね』
「…あー、師は何と?」
『超ふて寝してますけど…あ、兄上っ』
『父上今何処ですか!!』
「お…おはよう。すまぬ心配をかけて…今は曹丕様の部屋に」
『迎えに行きます。部屋番号を教えて下さい』
「いや…後で帰る故、すまぬが待っていてくれぬか」
『…曹丕様に代わっていただけますか』
溜息を吐いて、子桓様に電話を渡す。
かなり師は心配しているようだ。子桓様が首を傾げた。
「何だ?」
「上の子の師です。覚えていますか?」
「ああ、あの」
「代わって欲しいと」
「解った」
曹丕様が電話を取った。
苦笑をしながら子桓様は師と話している。
「ああ…解った。では仲達に代わる」
子桓様が私に携帯を渡した。
何だか笑っている。
「もしもし」
『先程は取り乱して申し訳ありません。
体調が優れないでしょう。曹丕様と昼食に帰ってきて下さい。お待ちしています』
「いや…私も連絡をせずすまなかった。またな」
『父上が御無事で何よりです。それではお待ちしています』
電話が切れた。
切れる手前、後ろで昭が何やら言っているのが聞こえたが聞き取れなかった。
曹丕様が苦笑して私に携帯を渡す。
「相変わらずファザコンだな、師は」
「いい加減、親離れして欲しいものなのですが」
「反抗期とか、なさそうだな」
「今のところ。昭はありましたけど」
「ほぅ」
「ところで、これ貴方の携帯ですか?」
「ん。アドレスを教えて欲しい」
「解りました」
アドレスを交換し、携帯を渡すと丁度良いタイミングで子桓様の携帯が鳴った。
どうやらメールらしい。
メールを読んで子桓様は苦笑し、メール返信を終えると携帯を布団に投げた。
「どうしました?」
「何でもない。三成からだ」
「何です?」
「今度左近と共に遊びに来るらしい」
「ふ、良かったですね」
「お節介なんだ、彼奴らは」
曹丕様に友達が居て良かったと思う反面、少しだけ淋しく思った。
随分と手のかからない子に育ったものだ。
紅茶を飲み終えて一息つくと、子桓様が私を横に抱き上げた。
「??」
「名残惜しいが、お前の体が第一だ」
「…あ…、はい、そうですね」
「痛むだろうが、堪えてくれるか」
「大丈夫です。寧ろ…」
「何だ?」
「ありがとうございます…私の事…」
「はっきり言え、仲達」
「…私の事、子桓様はまた愛して下さるのですね」
「ああ、勿論」
服を脱がされ、浴室に入り座らされる。
温かいシャワーを浴びて目を閉じた。子桓様が隣に座る。
寝室では暗くてよく見れなかったのだが、随分と逞しい体をしているようだ。
「脚を。痛むなら私の肩を噛んでもいい」
「そんなこと出来ません…」
「ならせめて、私の胸に埋まっていろ」
「…優しく、して下さいね」
「…そう言われると、何かムラっと…くるものが…」
「もうっ…馬鹿ですか」
子桓様の胸を叩いて埋まった。
背中を抱き締められて、脚を開かれ、股に触れられる。
やはり、怖い。子桓様の腕をぎゅっと掴んだ。
私の気持ちが解っているのか、額に唇を寄せて頭を撫でてくれる。
私の方が幾分も年上なのに…。
中に指を入れられて、掻き出される痛み。
唇を噛むと怒られるので歯を食いしばった。痛いに決まってる。
でもそう言ってしまうと、自分を責めるのだろうこの人は。
だから言える訳がない。言ったら心配させてしまう。
「…痛いか?」
「へい、き…です…」
「そうか、痛むのだな」
私が素直でない事をご存知なのだろう。
もう直ぐ終わる、と子桓様は私の額に口付け手を早めた。
堪えても、やはり涙が頬を伝った。
作業が終わったのか、子桓様は私にシャワーをかける。
安堵して肩の力が抜けた。
床に白濁と、血が流れているのを横目で見て目を閉じた。
「痛むか?」
子桓様の問いに目を開けて、首を横に振った。
指で涙を拭い、子桓様は私の唇に口付ける。
ごめんな、と一言。子桓様が私に謝ったが私は首を横に振って笑った。
私の体を傷付けた事がどうしても気になるらしい。
謝らないで、私が望んだ事だから。
そう一言伝えると、子桓様は私を強く抱き締める。
終始優しい指使いでそのまま、体を流してくれた。
お返しに、子桓様の髪を洗う。
幼い頃は後ろに流していた髪だったが、今では短く切ってしまったようだ。
タオルで軽く拭いて、子桓様は今度は私の髪を洗ってくれるらしい。
長いので面倒なのだが、一言も文句を言わず洗ってくれた。
シャワーを軽く浴びて、タオルで髪を包み子桓様は私を横に抱く。
「服のサイズ、合わないな」
「随分と貴方がご立派にお育ちなので」
服を貸してもらうが、一回り以上大きい。
手が出ないので袖を捲ってズボンを履いた。
腰が痛むが、ずっと世話になる訳にもいかない。
なるべく子桓様の手を借りず、自分で歩くようにした。
台所に立って、何か朝食を作ろうと手を洗った。
「お前を抜かしたぞ」
「以前は私の腰くらいの身長で随分と、可愛かったのに」
「何を言う。私は早く大人になりたかったのだぞ」
「どうして?」
「こうやって、また、仲達を抱き締めたかった」
「…全くもう、貴方は」
背中から抱き締められる。
そのせいで朝食が作れないのだが、少し抱き締められていたかったので黙っていた。
冷蔵庫に玉子を見つけて、戸棚に春雨を見つけた。
鶏ガラスープの元もあるし、何だかんだで少しは調味料もあるみたいだ。
「子桓様も少しは料理を覚えましょうか」
「ん…別にどうでも」
「私が毎日作りに来る訳にはいかないでしょう」
「通い妻みたいで良いなと」
「ばっ…、もう、私これでも忙しいのですから。
お一人でも、簡単な料理くらい作れるようになって下さいね」
「む…善処する」
鍋に鶏ガラスープの元を入れて湯を沸かし、適当に葱を切って玉子をとく。
塩と胡椒で適当に味付けをして、湯が沸いたら春雨を入れて玉子で閉じた。
葱と適当に胡麻を入れて終わりだ。春雨スープが出来た。
私の料理なんて、基本的には適当だ。
「おお…すごいな」
「貴方、随分と単純なのですね」
「ものの五分程で作れるものなのだな」
「適当ですよ。簡単でしょう」
「これなら作れそうな気がする、がやはり仲達に作って欲しい」
「私は忙しいって言ったでしょう」
子桓様は感心したように私を讃えるが、これは本当に適当なのだ。
この人、本当に料理をした事がないのだろう。
少しくらいなら通ってやるか、と思いながらも口には出さず。
春雨スープを器によそってテーブルに持っていった。
昨日の天気が嘘のように、空は晴れ晴れとしている。
蒼い空。
「仲達」
「はい」
この人の隣。
「ありがとう。美味い」
子桓様がスープを食べて、笑った。
余りにも子供のように笑うものだから、何だか更に愛しくなって頬に口付けた。
「…仲達?」
「私は、どうなんですか?」
「それは勿論」
格別に決まっている、と子桓様が私に口付けて、私も笑った。
我ながら恥ずかしい事を聞いた、と頭を抱えながら子桓様の隣に座った。