いまむかし二千年にせんねん物語ものがたり 04

頬に幾筋も涙を流して仲達は果て、そのまま意識を失った。
腹や股を伝う白濁が何とも厭らしい。

意識を失ってもなお、私の手を握っている。
可愛いらしくて堪らない。
口で言ったら怒るので言葉にはしないが、いつかは仲達に思いを伝えて怒られようと思う。
意識のない仲達の首筋から腰にかけて、指を滑らせるように触れた。

「…綺麗だな、お前は」

子供の頃に見た姿から変わらず。
白い肌に無数に咲く赤い所有印。私がつけた痕だ。

そう、これは私のものだ。

腹と股に伝う白濁。見れば随分と濃い。
このまま、ただ拭ってしまうのは勿体無い気がした。
仲達が着ているはだけて汚れたワイシャツを脱がし、代わりに少し厚手の上着をかけた。

脚を広げ、股に伝う白濁に唇を寄せ舐め取っていく。
仲達が少し身じろぎ、ぼんやりと目を開けた。

「っ…子桓さま?なに、して…」
「そのまま、寝ていろ」
「…汚い、ですから」
「お前は綺麗だ」
「…っ」

頬を染め、脚を閉じる仕草をするも私が脚を掴み阻止した。

「っ嫌、です…」
「先程あのように乱れていたのに何を今更」
「…子桓様っ」
「仲達の味だ」
「味…って…あああもう本当に止めて下さいっ」
「もう終わった」

仲達の腹や股を伝う白濁を全て舐めとり、綺麗にした。
口元を拭い、横に寝転ぶと仲達がおずおずと私の胸に埋まった。

仲達は顔を見せてくれない。
少し寂しいが、ずり落ちた上着をかけて肩を引き寄せた。
後ろ髪を撫でる。

「…自分で、したりはせぬのか」
「しません…」
「何故?」
「しようとも、思いませんし…」
「たまらぬのか」
「私はもういい歳だと言ったでしょう」
「しようとも思わぬのに、私には抱かれたのか?」
「…っ」
「なれば…もっと私が抱いてやらねばならぬな?仲達」
「ぅ…あの、…っ今夜は、もう無理です」

私の胸に埋まった仲達が漸く顔を上げてくれた。
顔が真っ赤で眉を寄せ膨れ顔だ。どうやらご立腹らしい。



私だから、仲達は抱かれたのだ。
全く、本当に可愛らしい。

「どうした?」
「…恥ずかしくて…」
「…可愛いな」
「もうっ、何ですか!」
「すまん。思わず口に出た」
「可愛い、とか…意味が解りません…」
「そのままの意味だが?」

顔を背ける仲達の顎を掴んで見つめると、仲達の頬が見る見るうちに赤くなった。
解りやすい人だ。まんざらでもないのかもしれない。

そのまま口付け、肩を引き寄せ抱き締める。
私の首におずおずと腕を回し、舌を絡めると瞳がとろけた。
毒のような色気。己を抑えて手短に唇を離した。
私の仲達。愛しくて堪らない。

中を掻き出してやらねばと思うも、傷口を広げる行為は気が引けた。
仲達とて、もう眠りたいだろう。

「…泊まっていけ」
「御迷惑でなければ…」
「…実はお前を抱こうと思った時から帰す気はなかった。
 初めて抱いた相手を一人帰すような事はしたくない」
「…ありがとう、ございます…」
「薬を…。明日、風呂に…、許してくれるか?」
「ん…」

仲達はとろとろと眠りについたようだ。
枕元にある箱ティッシュと軟膏を取った。下半身を拭うとやはり血がついている。

胸元にいる仲達に一言、ごめんな、と謝り額に口付け薬を塗って下着を穿かせた。
己も身を正し、仲達を離さぬよう腕に抱き私も眠った。












明朝、温かい腕に気付いて見上げると子桓様の寝顔が目の前にあった。
寝顔は随分と可愛らしい。

朝は寒い。
子桓様の体温が温かく、もう少し近くに行きたくて首筋に埋まり脚を絡めた。

「…おはよう、仲達」
「あ…、おはようございます…起こしてしまいましたか?」
「いいや、少し前から起きていた。寒いか?」
「…はい」
「少し、待っていろ」

私に毛布をふわりとかぶせて、子桓様は足早に寝室を出て行った。


香の香り。
子桓様の香りは私の髪や肌にも染み着いていた。
体の中にも痕跡が残っている。
確かに腰も股も痛むが、心はとても満たされていた。

「…子桓様…」

子桓様が居た枕に擦り寄り、残り香にぽつりと呟いた。
私はこんなにもあの人の事を愛してしまったらしい。

「何だ仲達?」
「…あ…」
「ふ、飲むと良い。温まる」
「…ありがとうございます」


子桓様に見られてしまった。

子桓様は笑みを浮かべて私の額に口付けを落とす。
どうやら温かい紅茶を入れてきてくれたようだ。
上体を起こそうとするも、腰の痛みに起きる事が出来ず眉を寄せた。

「手を」

子桓様が肩と腰に腕をまわし、横に抱いてベッドに座らせてくれた。
カップを受け取り、紅茶を飲むと体が温まり落ち着いた。

「携帯、ずっと鳴っていたぞ」
「あ…昨晩からずっと見ていませんでした」

隣に座る子桓様が私に携帯を渡した。
画面を開くと子供達からの着信履歴で埋まっていた。



上の子、師からの着信が二十四件。メールが三件。
下の子、昭からの着信が二件。メールが二件。

そう言えば、泊まる事までは子供達には伝えていなかった。
これはかなり心配をさせているようだ。

「あの…」
「何だ」
「子供達に連絡をしていなかったので、電話をしても…」
「構わんが」

ちょうど着信がきた。
昭からだ。曹丕様に一言断って電話を出た。

「もしもし」
『あ!父上やっと出た!おはようございます!今何処ですか?曹丕様の家?』
「ああ…すまぬ心配をかけて…。曹丕様の部屋にいる」
『懐かしいですね曹丕様!上の階なんですか?』
「ああ…先日越して来たと…」
『へぇ、そうなんですね。
 それはそうと父上、兄上が超心配してるんで今日は帰ってきて下さいね』
「…あー、師は何と?」
『超ふて寝してますけど…あ、兄上っ』
『父上今何処ですか!!』
「お…おはよう。すまぬ心配をかけて…今は曹丕様の部屋に」
『迎えに行きます。部屋番号を教えて下さい』
「いや…後で帰る故、すまぬが待っていてくれぬか」
『…曹丕様に代わっていただけますか』

溜息を吐いて、子桓様に電話を渡す。
かなり師は心配しているようだ。子桓様が首を傾げた。

「何だ?」
「上の子の師です。覚えていますか?」
「ああ、あの」
「代わって欲しいと」
「解った」

曹丕様が電話を取った。
苦笑をしながら子桓様は師と話している。

「ああ…解った。では仲達に代わる」

子桓様が私に携帯を渡した。
何だか笑っている。

「もしもし」
『先程は取り乱して申し訳ありません。
 体調が優れないでしょう。曹丕様と昼食に帰ってきて下さい。お待ちしています』
「いや…私も連絡をせずすまなかった。またな」
『父上が御無事で何よりです。それではお待ちしています』

電話が切れた。
切れる手前、後ろで昭が何やら言っているのが聞こえたが聞き取れなかった。
曹丕様が苦笑して私に携帯を渡す。

「相変わらずファザコンだな、師は」
「いい加減、親離れして欲しいものなのですが」
「反抗期とか、なさそうだな」
「今のところ。昭はありましたけど」
「ほぅ」
「ところで、これ貴方の携帯ですか?」
「ん。アドレスを教えて欲しい」
「解りました」

アドレスを交換し、携帯を渡すと丁度良いタイミングで子桓様の携帯が鳴った。
どうやらメールらしい。
メールを読んで子桓様は苦笑し、メール返信を終えると携帯を布団に投げた。

「どうしました?」
「何でもない。三成からだ」
「何です?」
「今度左近と共に遊びに来るらしい」
「ふ、良かったですね」
「お節介なんだ、彼奴らは」

曹丕様に友達が居て良かったと思う反面、少しだけ淋しく思った。
随分と手のかからない子に育ったものだ。
紅茶を飲み終えて一息つくと、子桓様が私を横に抱き上げた。

「??」
「名残惜しいが、お前の体が第一だ」
「…あ…、はい、そうですね」
「痛むだろうが、堪えてくれるか」
「大丈夫です。寧ろ…」
「何だ?」
「ありがとうございます…私の事…」
「はっきり言え、仲達」
「…私の事、子桓様はまた愛して下さるのですね」
「ああ、勿論」

服を脱がされ、浴室に入り座らされる。
温かいシャワーを浴びて目を閉じた。子桓様が隣に座る。
寝室では暗くてよく見れなかったのだが、随分と逞しい体をしているようだ。

「脚を。痛むなら私の肩を噛んでもいい」
「そんなこと出来ません…」
「ならせめて、私の胸に埋まっていろ」
「…優しく、して下さいね」
「…そう言われると、何かムラっと…くるものが…」
「もうっ…馬鹿ですか」

子桓様の胸を叩いて埋まった。
背中を抱き締められて、脚を開かれ、股に触れられる。
やはり、怖い。子桓様の腕をぎゅっと掴んだ。
私の気持ちが解っているのか、額に唇を寄せて頭を撫でてくれる。
私の方が幾分も年上なのに…。

中に指を入れられて、掻き出される痛み。
唇を噛むと怒られるので歯を食いしばった。痛いに決まってる。
でもそう言ってしまうと、自分を責めるのだろうこの人は。
だから言える訳がない。言ったら心配させてしまう。

「…痛いか?」
「へい、き…です…」
「そうか、痛むのだな」

私が素直でない事をご存知なのだろう。
もう直ぐ終わる、と子桓様は私の額に口付け手を早めた。
堪えても、やはり涙が頬を伝った。

作業が終わったのか、子桓様は私にシャワーをかける。
安堵して肩の力が抜けた。
床に白濁と、血が流れているのを横目で見て目を閉じた。

「痛むか?」

子桓様の問いに目を開けて、首を横に振った。
指で涙を拭い、子桓様は私の唇に口付ける。




ごめんな、と一言。子桓様が私に謝ったが私は首を横に振って笑った。
私の体を傷付けた事がどうしても気になるらしい。

謝らないで、私が望んだ事だから。
そう一言伝えると、子桓様は私を強く抱き締める。

終始優しい指使いでそのまま、体を流してくれた。
お返しに、子桓様の髪を洗う。
幼い頃は後ろに流していた髪だったが、今では短く切ってしまったようだ。

タオルで軽く拭いて、子桓様は今度は私の髪を洗ってくれるらしい。
長いので面倒なのだが、一言も文句を言わず洗ってくれた。
シャワーを軽く浴びて、タオルで髪を包み子桓様は私を横に抱く。

「服のサイズ、合わないな」
「随分と貴方がご立派にお育ちなので」

服を貸してもらうが、一回り以上大きい。
手が出ないので袖を捲ってズボンを履いた。
腰が痛むが、ずっと世話になる訳にもいかない。
なるべく子桓様の手を借りず、自分で歩くようにした。
台所に立って、何か朝食を作ろうと手を洗った。

「お前を抜かしたぞ」
「以前は私の腰くらいの身長で随分と、可愛かったのに」
「何を言う。私は早く大人になりたかったのだぞ」
「どうして?」
「こうやって、また、仲達を抱き締めたかった」
「…全くもう、貴方は」

背中から抱き締められる。
そのせいで朝食が作れないのだが、少し抱き締められていたかったので黙っていた。
冷蔵庫に玉子を見つけて、戸棚に春雨を見つけた。
鶏ガラスープの元もあるし、何だかんだで少しは調味料もあるみたいだ。

「子桓様も少しは料理を覚えましょうか」
「ん…別にどうでも」
「私が毎日作りに来る訳にはいかないでしょう」
「通い妻みたいで良いなと」
「ばっ…、もう、私これでも忙しいのですから。
 お一人でも、簡単な料理くらい作れるようになって下さいね」
「む…善処する」

鍋に鶏ガラスープの元を入れて湯を沸かし、適当に葱を切って玉子をとく。
塩と胡椒で適当に味付けをして、湯が沸いたら春雨を入れて玉子で閉じた。
葱と適当に胡麻を入れて終わりだ。春雨スープが出来た。
私の料理なんて、基本的には適当だ。

「おお…すごいな」
「貴方、随分と単純なのですね」
「ものの五分程で作れるものなのだな」
「適当ですよ。簡単でしょう」
「これなら作れそうな気がする、がやはり仲達に作って欲しい」
「私は忙しいって言ったでしょう」

子桓様は感心したように私を讃えるが、これは本当に適当なのだ。
この人、本当に料理をした事がないのだろう。
少しくらいなら通ってやるか、と思いながらも口には出さず。
春雨スープを器によそってテーブルに持っていった。






昨日の天気が嘘のように、空は晴れ晴れとしている。
蒼い空。

「仲達」
「はい」

この人の隣。

「ありがとう。美味い」

子桓様がスープを食べて、笑った。
余りにも子供のように笑うものだから、何だか更に愛しくなって頬に口付けた。

「…仲達?」
「私は、どうなんですか?」
「それは勿論」

格別に決まっている、と子桓様が私に口付けて、私も笑った。
我ながら恥ずかしい事を聞いた、と頭を抱えながら子桓様の隣に座った。


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