夜夜よよ 12

先走りでしどとに濡れている仲達のに触れると、随分と我慢させていたのだと今更ながらに気付いた。
肩口に埋まり、息を吐くよう促し挿入するときつく締め付けた後、小さく痙攣し仲達の体が鏡側にずり落ちた。

「今…」
「っふ…、ぅ…」
「果てたな、仲達」
「…っく」

体が離れぬよう、腰を支えた。
仲達の膝が震えている。
股を伝う白濁に触れ、痙攣し締め付ける体に直ぐに果てたのだと解った。
まだ入れたばかりであるのに?、と顎を掴み耳元で囁くと小さく声を上げて、ごめんなさいと謝る仲達に情欲が煽られる。
微笑み、鏡越しに仲達を見つめた。

「悪いが、私も堪えられぬ」
「っ…?!…ぁ…!」

果てたばかりで過敏なのは解っていたが、この腕の中におさまる仲達が愛しくて仕方なかった。
締め付ける中を押し広げるように奥へ腰を進める。

「今は、ゃ…子桓、さ…っ…!」
「…こんなに締め付けて、私が欲しかったのか?」

姿見に縋るように手をつき、艶めいた声で私の字を呼ぶ仲達の顔が鏡に映し出されている。
仲達の体はきつく私を締め付ける。
指を絡めて、頬に口付け背中に唇を寄せ突き上げ続けた。
薄く遺る翼の痕をなぞる。

「…仲達」
「ぁ…!我慢、できな…」
「する必要はない」
「さっ、き…散々…っ」
「焦らしてしまったな。あれは悪かった」

元々敏感な体だが、先程果てたばかりで過剰に敏感な体を突き上げて快楽を注ぐと直ぐにまた仲達は果てた。
さすがに一方的に何度も果てさせ続けるのは可哀相だと思い、仲達が落ち着くまで快楽に震え脱力した背中を抱き留めた。
小さく痙攣している体を引き寄せて、頬に口付ける。

「…大丈夫か?」
「しか、んさま…の」
「ん?」
「ば、か…」
「ふ、悪かった」

落ち着いたのを見計らって仲達から抜き、姿見から剥がして横に抱き上げ、直ぐ後ろの寝台に寝かせた。
くたりと仲達は敷布に沈み、肩で息をしている。

横に腰掛け、仲達の髪を撫でた。
髪をなぞる私の指を仲達が握る。

「……。」
「?」

空いている片手で頭を撫でる。
変わらず美しい黒髪、日焼けない肌。
もう翼はない。角もない。爪もない。
気に入っていた尾も無くなってしまった。
それは少し残念だ。

人になった体を確認するように見つめていたのだが、仲達がしきりに私の指を力なく引っ張る。

「何だ?」
「…子桓様が、まだ…」
「病み上がりのお前に無理をさせるつもりはない。どうとでも…」
「…嫌です」

私の首に腕を回し引き寄せる。
仲達から擦り寄り、私のに触れる。

「どうした?」
「…私がどれだけ貴方に心配をかけたか、聞いたのです」
「…そうか」
「貴方は…私が目を覚ますと信じて、ずっと待っていて下さったのでしょう」
「ああ…もう目覚めないのかと思った」
「ずっと…傍に居てくれたのですか?」
「師に嫌がられる程度にはな」

ふ、と仲達は笑い私を見つめた。
誰ぞに聞いたのだろう。
仲達が一夜だと思っているのならそのままでも良かったのだが。

「どうか…子桓様」

仲達が私の襟元を握り、身を寄せる。
その先の言葉を口ごもり目を反らした。
仲達から誘われるなど願ってもいないのだが、あまり無理強いをさせたくないのが本音だった。

「…今でなくとも良かろう?」

仲達の額に口付ける。
努めて平静に嘘を吐いた。
自分の体は正直だ。
本当は今すぐにでもこのまま抱いて中に注いで私のものだとこの体に証を残したい。
仲達の全てを征服し、私のものにしたい。

私の言葉に仲達は暫く沈黙した後、私の体を更に己に引き寄せた。
仲達が乱れた官服から脚を出して私の脚に絡める。
官服は脱ぎ切れておらず、はだけて肩や脚に引っかかっている。

仲達から絡まれた脚は未だ拭っていない為、白濁が股を伝っていた。
脚で腰を引き寄せられて、私のが仲達に触れる。

「っ…仲達」
「…また、我慢なさっている」
「煽るな…お前に無理は」
「したい、くせに」
「…したいに、決まっているだろうが」

執拗な挑発に堪えていた理性が切れた。
腰を掴み、脚を広げて当てがうと仲達は赤面して目を反らす。

「私がどれだけ、お前を…っ」
「…私が居るなら」
「?」
「…我慢なんて、なさらないで…私は、あなたの…何、ですか?」
「あ…」

口を抑えながら、しどろもどろに言葉を繋げた仲達の言葉に気付かされ、すまなかったと謝罪した。
寂しかったのだろう。

ゆっくりと腰を進めて挿入し、仲達の肩口に埋まる。

「ぁ…、子桓、さ…っ」
「…私が悪かった」
「私と…て、貴方が好きなの、です…から」
「お前は、私の」
「な、に…?」
「恋人だ」
「…ぅ、れし、…しか、さ…ぁ!」

恋人と告げると仲達は照れたようにふんわりと笑った。
仲達の笑った顔が可愛いらしい。
快楽に体を揺らされ、途切れながらも仲達は嬉しそうに応えた。

ずっとこうされたかった、と仲達は言った。
仲達の言葉ひとつひとつが嬉しくて、胸の高鳴りが止まらない。
酷く扱うつもりなど毛頭なく、仲達の胸を甘く噛みながら腰を進めた。

私に体を貫かれ、突き上げられながら仲達は更に言葉を続ける。

“私の翼を斬り落とした事、劣等感や罪悪感など持たず普通に接して下さい”
“そんなに心配しないで下さい”
“私はもう天使でも悪魔でもない”
“貴方様と同じ”

私に揺らされながらも、精一杯の言葉を続けようとする仲達に愛しさを抱かぬ筈もなく。
間もなく私も果てようとしていたが、疲労困憊している体の中に出す訳にはいかないだろう。
腰を引いたが仲達が首を横に振った。

「…はなさ、な、っで、…ん」
「っ…離れ、よ」
「嫌で…す…っ、な、か…にっ」

体を気遣って外に出すつもりだったのだが、仲達に腰を脚で抱えられては離れる事も出来ず堪えきれず中に果てた。
相当たまっていたのか、仲達の腰を持ち上げて奥へ注ぎ込むように射精し、仲達の胸に埋まった。

「子桓様の…あふれ、て…」

快楽にぽろぽろと涙を零し仲達も果てた。
脱力し、漸く腰から仲達の脚が寝台に沈んだ。
体を繋げたまま、未だ快楽の余韻に震える仲達を今度は動かさぬように抱き締めた。

「…っふ…」
「…大丈夫か?」
「はい…」
「必要以上に心配するな、と?」
「…はい」

私の過剰な心配が不満らしい。
どうにも、私は仲達を過保護に扱ってしまう傾向にある。

私があんなに傷付けたのだ。
もう傷付けたくない、傷を付けられたくもないという思いが強い。
ましてや戦場になど出したくない。
善処する、と溜息を吐きながら一応返事は返した。

未だ体を繋いだまま、仲達は私の腕の中。
少しは体の疼きも抑まっただろうか。
腰を引こうとすると、仲達が手を引っ張り首を横に振る。
どうやら未だ、らしい。

「…もう…正体を隠す事もないのです。私はただの司馬仲達という人間です」
「ああ、ただ一人の私の仲達」
「私の代わりはいないと、まだあの夜夜のようにお考えですか?」
「私は変わらぬ。ずっとお前だけだ」

仲達の髪を撫で、誓うように左手の薬指に口付けを落とした。
決して花嫁にはなれない私の軍師に口付けを繰り返す。

「子桓様…あの…」
「ん?」

繰り返す口付けに仲達が頬を染めながら視線を逸らす。

「…もう加減しなくても、良い…のです…から」

言葉の端の方は消え入りそうで聞こえなかったが、仲達からの精一杯の口説き文句だろう。
今までは元の姿に戻る余力を残しておかねばならぬ為、執拗な情事は私が加減し回数を控えていた。
つまり、先程の仲達の発言は。

「…この状況で私を誘うとはな」
「っ…、いや、その」
「せっかくだがこの誘いはまた次の夜にな…体が限界だろう、抜くぞ」
「…はい…」

許されるなら何度でも抱いてやりたいが、今宵は仲達に無理をさせまいと私が退いた。
漸く仲達から引き抜く。
中から溢れるほどに私の白濁が仲達の股を伝っていた。
離れてしまった体は多少名残惜しく感じたが、これ以上なく幸せを感じた。

「…はぁ…」

仲達が色気を含んだ吐息を吐き、恍惚に瞳が揺れている。
雫を含んだ睫毛がきらきらと光り美しい。
快楽の余韻に浸る仲達に暫し見とれた。

何よりこの美しい人に快楽を与え、恍惚な表情をさせているのは己だと思うと独占欲、征服欲や支配欲が沸き起こり止む事はなかった。
私はあの夜夜から仲達に依存している。
男である事などどうでも良かった。

きらきらと眩い天使だった仲達は、悪魔に堕ち、人に堕ち、今は私に寄りかかり、私の腕の中に居る。
人になっても仲達は相変わらず、きらきらと眩い。
人になって漸く、私のものになったような気がする。



そのままほおっておくと眠ってしまいそうな仲達の手を握り、腰を引き寄せた。
唇で仲達の官服の紐を解いていく。

「…?」
「脱がせてやる。そのまま楽にしていろ」

仲達の胸元を唇でなぞり、合わせ目の紐を解く。
仲達の肌に唇が触れる度に口付けを落とすと仲達の手に少しだけ力がこもり握られる。

「何故、唇で…」
「右手は仲達の手を握るのに忙しい」
「…左手は」
「仲達の腰を支えるのに忙しい」
「もう…」

赤面する仲達に擦り寄り、唇で体をなぞりながら汚れた服を脱がした。
終始くすぐったそうに身を捩る仲達であったが、私に身を任せ大人しくしている。
私も汚れた服を脱ぎ捨て着替えを羽織る。
仲達に私の上着をかけてから横に抱き上げた。



部屋の近くにある湯殿まで連れ、早々に体を清め共に湯船に入る。

情事で受け入れる体の仲達は疲れ切っていて、私の肩に頭を乗せ膝の上で小さく寝息を立てている。
私も体を清める事以外は、余計な手出しをしなかった。

「…仲達」

何となく名前を呼んだ。
またずっと眠ってしまわないか不安になった。

瞼に唇を寄せると、仲達はぼんやりと目を開く。
鳶色の瞳に私が映っていた。

「子桓様」
「…起こしたか?」
「いいえ」

小さく欠伸をしてまた私の肩に頭を乗せた。
きらきらしている。やはりそう思った。

「…仲達」
「何です?」
「きっと、私はお前より先に死ぬと思う」
「…何です…唐突に、そのようなお話し…」
「まぁ、聞け。お前にいつか話しておきたかったのだ」

仲達が上目遣いで悲しそうに私を見上げる。
ふ、と笑い仲達を起こして向かい合うように私の膝に座らせた。

「不死のお前が全てを捨てて私を選んでくれた…だが」
「…独りになる覚悟は、とうに…」
「人となったからには、お前もいずれ死ぬ。だが、な。私は…死してもまた…お前に逢いたい。来世でまた出逢えたら、私はお前に恋をしたい。もし、お前が女に生まれていたら…私は仲達を娶りたい」
「…人って、夢見がちで本当に馬鹿な生き物ですね」
「お前も最早、人であろう?」
「そうでしたね」

仲達の頬を涙が伝っている。
両頬を掌で包み込んで、唇を合わせた。
永遠を亡くした仲達に、生きている限りこれ以上にない幸福を与えたい。

人に堕ちた仲達とは違い、私は元から人だ。
仲達が止まっていた時間の分だけ、私の時間は進んでいる。
限られた生。それが人だ。

恐らく仲達より先に私が死ぬだろうと何となく予期した。
仲達は其れを覚悟の上で不死を捨てている。
不死を捨てた事で、仲達は悠久の孤独も捨てた。
落日のその日まで、仲達に“生きていて良かった”と思わせたい。

「子桓様」
「…ん」

私の頬に手を添え、珍しく仲達から唇を合わせる。
暫し深く口付けた後、私を見上げる。
仲達が私を見つめ距離を詰めて胸に埋まる。

「…来世で、貴方様に会えたら」
「ああ」
「私、何と仰ったら…名など在り来たりで、人の記憶など、そんな曖昧なものを信じろと?」
「…其れでも私は、信じたい」

未来など解らない。
同じ名なのかどうかすら解らない。
記憶があるのかも解らない。
来世でも、転生でも良い。私は仲達と共にまた生きたい。

「もし、名も記憶も…全て私が覚えていて、貴方に逢えたとしたら…私から貴方に話しかけましょうか」
「合い言葉か。何だ?」
「“魏という国を覚えていますか?”」
「…ふ、良かろう」
「答え方は貴方次第。貴方に私が見つけられたら、ですが」
「承知した」

名でも字でもなく、敢えて仲達は魏を合い言葉に加えた。
もし全く見知らぬ他人であったなら、ただ流せば良いだけの話だ。



「……。」
「疲れただろう…眠るがいい」

口数の少なくなった仲達が眼をこする。
流石に寝かせてやろうと湯船から上がり、体を拭いてやり少し大きい私と揃いの寝間着を着せた。

寝台に仲達を寝かせ、私も横になる。
仲達が私を見つめ袖を引っ張るので腕を出してやると、頭を乗せ私の胸におさまった。
随分と可愛らしい事をする。口で言うと怒るので言ってやらんが。

「…ずっと」
「ん?」
「こうして…いたい」
「私もだ」
「…子桓様の傍に居ます」
「好きなだけ、居たら良い。私はお前を離さぬ」

仲達が笑い、目を閉じた。
髪を撫で、背中をさする。

「…来世では…」
「ん…?」
「貴方様の元に、人として…生まれますように…」
「なれば私は…そうだな」
「?」
「…仲達を、ずっと」
「ずっと?」
「ずっと…ふ、言わぬ。今を共に生きよう。おやすみ仲達」

敢えてその先を言わなかった。
仲達が不満げに眉間に皺を寄せたが、睡魔には適わないのか暫くすると眠りについた。

来世でも絶対に仲達を探し出そう、と思ったのだ。
探して見つけ出したら、またずっと傍に居たい。
仲達が私を覚えていたら、もう寂しくさせないようにずっと傍に居たい。

眠る仲達の額に口付けを落として、私も眠りについた。


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