唇を離せば銀糸が伝う。
口付けはいつも深くて甘い。
咄嗟に押し倒した子桓様のが私の体に当たっている。
着衣の上からそっと触れれば、ぴく、と子桓様が反応した。
ふわふわと薄絹が私の背中で風に靡く。
私の髪も風に流れた。
下から子桓様が見つめて、頬を撫でられる。
左手の小指の指輪に口付けを落とした。
「仲達」
涙を子桓様に拭われる。
貴方に字を呼ばれる事がこんなに幸福と感じた事はなかった。
ずっと互いに想い合って擦れ違うなど。
今となっては遠回りになってしまったが。
「子桓様…」
この方と繋がりたいと、自分から思うようになるなんて思いもしなかった。
子桓様に絆されている。
思えば私は、この方から受け取ってばかりではないだろうか。
仲達が怖ず怖ずと後方に下がった。
離れるのは嫌だと、体を起こすと仲達が寝台を下りて私の前に跪く。
「仲達…?」
「ずっと、堪えられていたのでしょう?」
仲達が下穿きの紐を解いた。
この体勢で仲達がこれから何をしようとしているか察し、顎を掴んだ。
「お前に、それは」
やらせたくない。
「貴方にとって私は御褒美、なのでしょう」
「先は確かにそう言ったが、しかし」
「御褒美を差し上げましょう…私で宜しければ…」
顎を抑えていた手を払われた。
下穿きを下ろされ、怖ず怖ずと仲達が私のを手にする。
恐る恐る口に含む。
その光景を見るだけで背筋がぞくりと震えた。
昨晩も仲達を抱いた。
寝不足で体温が高い仲達の口内は熱く蕩ける。
柔らかく差し込む光が仲達の口元を照らす。
啣える様子が見て取れた。
たどたどしく舌を這わせて、頬張る様が妖艶で目を細めた。
やわやわと与えられる快楽が、心地好く仲達の髪を掬い口付ける。
慣れていない舌使いが尚更に私を煽る。
ぼんやりと薄目を開けて上目遣いで見つめてくる仲達に絆されていく。
長く堪えていた為、私の限界が近い。
仲達にこの手の事は仕込んでいないし、させるつもりもなかった。
故に慣れていないし、慣らせるつもりもない。
だが仲達の口陰する様は胸に来るものがある。
「仲達、もう…離せ…」
「…限界、ですか?」
仲達が自分の前髪を指ではらい、私を見つめた。
眉を寄せてまた口に含む。
「…離せと言うに、お前が汚れてしまう」
「ぃ、やです」
「っ…!」
仲達を離そうと頭を掴むも、離れようとしない。
流石に堪えられなくなり、そのまま仲達の口内に果てた。
苦しそうに眉を寄せて咳込んだ仲達を見て罪悪感が募るが、仲達はそれでも全て飲み干したようだった。
仲達がようやく口を離して、くたりと私の膝に頭を乗せる。
何度か咳込み、熱く荒く息を吐いた。唇が私の体液で濡れて白く光る。
「慣れぬことをするからだ…馬鹿者」
「ふ…子桓様の味が致します…」
「…っ、無理をしおって」
うっとりとした吐息は熱い。
頬に触れれば、とても熱っぽい。体がほてっている。
仲達も限界なのだろう。
「触れさせよ」
子桓様が私の体を寝台に引き上げた。
先程の口陰で体がほてっていることを悟られたようだった。
抱き寄せられて、横に寝かせられる。
くたりと、力を抜いて横たわると子桓様がのしかかる。
朝服の釦を外されて、帯を抜かれた。
下穿きを脱がされてやわやわと私のを握られる。
「っ…ん」
「こんなに濡らして…お前も限界か」
「…はやく、どうか…私に下さいませ…」
「待て、傷つけたくはない」
「貴方様ので…果てたいので、す」
子桓様の想いの大きさを知ってから、尚更に愛しさが募った。
この方といるだけで胸が苦しい。
子桓様は私を汚したり、傷つけることを極端に嫌う。
だから口陰なども強要されることはなかった。
酷く扱われた記憶もない。
体だけが目当てではないと、何時だったか子桓様は私に言った。
今はもう心も体も、子桓様が触れたところから熱くなるような心地で堪えられない。
子桓様が私の先走りで指を濡らし、そのまま後ろへ指を入れた。
つぷ、と容易に一本を受け入れる。
深く溜息をついた。
体が熱く、胸が煩い。
後ろから子桓様に頬を撫でられた。
私の首は割とよく回る方なのでそのまま振り返ると、深く口付けられる。
指は二本に増やされて、先程からしきりに抜き差しを繰り返される。
絡み付く子桓様の舌が私の口内を乱し、歯列をなぞった。
一度唇を離される。
「そのよう、に…されたら、も…う」
「口付けと指だけで、果ててみるか仲達」
「ゃ…そん、…ぁ…!」
「…私のを啣えただけでこんなに濡らすとはな」
また深く舌を差し込まれた。
息が出来ないほどの口付けに頭が蕩けて何も考えられない。
卑猥な水音で、己の体が如何にこの方で反応しているのかを自覚せざるをえない。
子桓様の口の中に声は吸い込まれて、堪えきれず果てた。体が小さく痙攣して、中の子桓様の指を締め付ける。
ようやく唇が離された頃、私はもう息も絶え絶えで寝台に深く体を沈めた。
指を抜くと、仲達の体液が糸をひいた。
口付けと指だけで果てた仲達の体はまだ小さく痙攣している。
体を起こし、仲達を押し倒す。
もう脚の力も入らない様子だったので、片足を担ぎ上げ仲達に己のを当てがう。
「ま、だ…果て、たばかり…で…」
「呂律も回らぬほど良かったのか、仲達。此処はもうとろとろに蕩けているが」
「っ、…ぁあ…!」
果てたばかりの仲達の中に挿入する。
中はきゅんと締め付けるような心地で、酷く熱い。
ぽろぽろと生理的な涙を流す仲達の左手を握る。
指輪が光っていた。
仲達の右手は私の胸元を掴んで震えている。
「…動くぞ」
ぐちゅ、と水音が響いた。
中からぎりぎりまで引き抜くと、仲達の体液に濡れているのが解った。
再び深く仲達の中に収め、それを繰り返した。
「ぁ…し、か…ん、んっ…!さ、ま…子桓、さ…」
「此処にいよう?」
「子桓、さ…」
「どうした、何が言いたい?」
何か言いたげな仲達に一度動作を止めて、頬を撫でた。
快楽に溶けて濡れる瞳で仲達は私を見つめた。
「愛し、て…いま…す…」
息も絶え絶えに、私に抱かれながら仲達がようやく繋いだ言葉に胸が詰まる。
幸せ過ぎて、どうにかなってしまいそうだ。
赦されるならこの幸福にずっと溺れていたい。
「愛している…ずっと前から、仲達…お前を」
子桓様、と何度も声を枯らしながら仲達は私を呼び、果てた。
促されるように私も仲達の中に果てる。
痙攣し、私を締め付ける仲達に繋がったまま、その胸に倒れ込んだ。
仲達がよしよしと私の髪を撫でる。
「子桓、さま…」
「…心地好い…お前の中で溶けてひとつになっているようだ…」
頬を赤く染めて仲達は視線を逸らした。
まだ抜く気にはなれず、そのまま仲達に擦り寄ると、中が締め付けられたようだった。
「…ふふ」
「どうした?」
「…馬鹿げていますが、こんなに幸せなことはありません…」
私もどうかしている、と仲達は笑った。
窓から心地好く風が流れた。
まだ日は落ちていない。
「名残惜しいが、このままでは辛かろう…抜くぞ」
こくり、と頷く仲達からゆっくりと白く汚れた己を引き抜いた。
中はもっと私の白濁に満たされているのだろう。
ずる…と胸元の仲達の手が落ちた。
体はくたりとして力なく、仲達は意識を飛ばしているようで声をかけても返事がない。
無理もない。昨晩も眠れていないのだろう。
そのままゆっくり寝かせてやることにした。
体を清める。
己も服を着直し、仲達の汚れた服は脱がせて私の夜着を羽織らせた。少し仲達には大きいようだ。
執務も終わり、仲達もいる。
後ろめたい事は何もない。
昼寝には丁度よかろう。
一度、部屋を出た。
近くにいた女官に、暫く起こすなと声をかけて仲達のいる寝台に戻った。
後ろから仲達を抱きしめる。細い首筋をなぞった。
「…ん…」
「ああ、すまぬ…」
起こしてしまったようだ。
仲達が身じろぎ、体をこちらに向けた。
ぼんやりとした眼はまだ眠い様子だった。
「そのまま、眠ってよい」
こくりと頷いた。
仲達は私の腕を引っ張り、それを枕にすると私の胸の中に収まった。
ふとした仲達の仕草に幸せを感じ背中を抱いた。
いちいち可愛らしい。
「これが落ち着くのです…」
「腕枕がか?」
「子桓様の腕の中にいることが」
ふ…と笑って仲達はまたとろとろと意識を沈めていった。
風がそよそよと寝台の帳を撫でた。
「…全く」
仲達を起こさぬよう強く抱きしめた。
「仲達…お前は全く…もう、どうしてくれる」
限りない幸福が今、私の腕の中に居る。
幸せすぎて辛い、と誰かに言ったら笑われるだろうか。
「…私が死ぬまで、ずっとお前を護ってやる」
仲達という、この幸せを。
この気持ちに主従や身分などは関係なかった。
「私が居なくなっても…魏がお前を護ってくれよう」
魏の朱雀。
仲達の左手に口付けた。
風が心地好い。
仲達の体温が移り、私も何だか眠い。
「お前が起きたら、葡萄か…そうだな桜桃でも摘むとしようか」
額におやすみの口付けをして、仲達を抱いて眠る。
そよそよと心地好い風が私達を撫でていった。