桜桃おうとう 04

初めて、ではないのに何故こんな。

生娘でも抱くのかのように、子桓様の指使いがいつもより優しくて何だか歯痒い。
体中に口付けを落とされ、愛撫されるも服を脱がさず肩や脚に引っ掛かったまま。
姫君の面影は消さず、司馬仲達として子桓様に抱かれる心地。

詰められた胸もそのままで、こうして押し倒されていると自分が本当に女であるかのように錯覚する。
だが決してそんな事はない。

先程の長い口付けですっかり体はほだされて、秘部はとろとろと先走る白濁で濡れていた。
そこを子桓様が直に触れて、ふっと笑う。

「このように濡らして…口付けだけで果てるよう躾してやろうか」
「何を馬鹿な…」
「…力を抜け、入れるぞ」

すっかり体を解されて、熱い。
子桓様が私の脚を開かせる。恥ずかしくて顔を逸らした。

当てがわれる感覚。中に入って来る心地。響く水音。ぬめる感触。

嗚呼、何度したって慣れる訳がない。

「ぁ、は…っ」
「辛いか?」

ずずっ…と奥に腰を進められて深く繋がるのが見えた。
ぐちゅ、とした水音に耳まで犯される。
吐息が当たるほど、子桓様の顔が近い。

指を絡めて手を握られる。きゅ、と弱く握り返した。

「…初めてお前を抱いた夜を思い出す」
「なっ、…や…」
「あの夜は私が生きている中でも、とても幸せな夜だった」
「や、めてくださ」
「…あれから幾度となく抱いているというのにお前は…相変わらず初々しくて」

とても愛い、と顎を掴まれて口付けられる。
恍惚とした快楽に揺れる表情。

穏やかな優しい表情。


「…仲達が、本当に姫君だったら…」
「……」

その先を子桓様は言わない。
その先は何と無く予想している。

決して叶わない夢。
今日の事もきっと夢のようなもの。

貴方が王子様でも、私は決して姫君にはなれない。
私は貴方の軍師なのだから。

「私の…王子様…」
「…?」
「…今宵は、どうか…優しくして下さいませ…」

子桓様が優しく笑い、私の頬に口付けを落とした。







仲達の腰を掴み、奥に当てがう。
最初はゆっくりと、徐々に勢いをつけて突きあげていく。

着物の裾を噛み、声を抑える姿が尚更に私を煽る。
何故、声を堪えるのかと聞けば…似合わないでしょう、とか細く答えた。

私の軍師、いや姫君。




「…そんな格好をしなくても仲達は…まぁ、いい。今は泣くがいい」

絶頂が近く、伝えようとした言葉を飲み込んだ。
抑えていた声を抑え切れず、仲達から小さく嬌声が漏れている。

濡れた瞳に私を映すと、仲達は眉を寄せて柔らかく笑う。
この表情は私しか知らない。

「子桓、さ…ま…っ」
「良い、果てろ」

字を呼んで仲達が果てた。
擦りあげていた私の手が白く汚れる。
痙攣し、締め付ける仲達に促されて最奥に果てた。

口付けだけで果てるよう、何度も深く口付ければ仲達はとろける。
口付けだけで果てるように躾れば仲達はそれに従った。

「…ふ、愛いな」

このまま孕んでしまえばいいものを。

そんなことは絶対に有り得ない事を解ってて何度も中に出した。仲達の秘部から白濁が溢れ出すほどに。

これは私の独占欲。
仲達は私のものだと…仲達自身に解らせる為に。

私のエゴだ。

何度目かの接合の後、仲達は意識を飛ばした。
頬には涙が伝う。

結局、仲達への想いが溢れて優しくすることは出来ず…むしろ意識を飛ばしてしまうほど激しく抱いてしまったことに後悔する。

嗚呼、化粧も崩れてしまったようだ。
口紅が私の唇にも移っている。

仲達からゆっくりと引き抜くと、秘部からこぷっと音がするほど白濁が溢れた。
さすがにやり過ぎたと後悔する。

意識のない仲達の額を撫でて頬に触れれば、瞳は濡れていた。
意識を失っても、仲達は私の服の裾を握っていた。
尚更に愛しさが込み上げる。

「…可愛らしいことだ」

額に口付けて、上着をかけてやった。











薄明かりの下、ぼんやりと目を覚ました。

腰が酷く痛い。
何だか顔もひりひりする。

愛しい方の香り。
子桓様の上着を体にかけられていることに気付いた。

体を起こそうと思えば起こせた。
隣に子桓様が私に腕枕をする形で眠っていらした。

未だ緩く開いている引き締まった胸元に、先程まで抱かれていたことを思い出して頬を染める。

ああ…まだ中に。それと顔が痛い。

湯を浴びようと、子桓様から静かに離れて夜着をお借りし部屋を出た。
上着は子桓様にお返しした。



裸になって湯舟に立ち、湯を浴びる。
ようやくあの窮屈な服から解放された。

化粧は泡の如く、消えていった。
もう私は姫君ではない。

頭から湯を浴びて、下を向いて鏡を見る。

秘部から溢れた子桓様の白濁が太股に伝った。
あんな姿をしたとて孕む訳ではないと解っている。

「…どうして騙されて下さったのでしょうか」
「騙されたつもりはない」

独り言のような呟きに、後ろから返事が返ってきた。

「子桓様…?」
「何だ、言えば湯くらい私が連れて行ってやると言うのに」
「明日も早いので…御迷惑はかけられません」

子桓様が後ろから現れた。
鏡越しに見える。

「泊まっていけ、私の部屋からなら出仕しやすかろう」
「出仕先でもありますしね」
「…すまなかった」

じわじわと腰が痛い。
思ったよりも疲労している。

振り返ろうと顔を上げた時、眩暈がした。
地面が回ったが、不思議と痛くはなかった。

「…怪我はないか」

私は子桓様の腕に支えられて、護られていた。
嗚呼…本当は私が護りたい方なのに。

「無理をするな…」
「はい…」
「痛むか」
「少々…疲れました…」
「後は私が」
「はい…」

目を閉じて、子桓様に身を任せた。体を清められる。

暫くして、秘部に触れられる感覚。
掻き出されるのだろうと、予知して子桓様の胸に体を寄せた。
以前は自分でやっていたのだが、私が余りに辛そうなのでと子桓様がして下さるようになった。

ゆっくりと指を入れられ、中を掻き出されていく。
太股から子桓様の白濁が伝った。

何だか淋しい。だが今は痛みを堪えることで精一杯だった。

「…っ、ん…!」
「もう少しだ…」

最奥まで指を入れられて全て掻き出し終わると、私の体は脱力して呼吸もままならなかった。

吐息を吐いて、子桓様の腕に埋まればいいこいいことでも言うように頭を撫でられた。

気付いたらこの方の手を握っていた。

私は淋しいのかもしれない。











「子桓様…」
「何だ、もう眠っても…」

体を清めて、湯から上がりあからさまに無理をしている仲達の世話を焼いて二人で寝台に入った。

腕枕をして、仲達を胸に埋めた。
湯上がりで暖かい。今にもとろとろと眠ってしまいそうだった。

もう姫君の面影は消えた。
だがいつものように仲達は綺麗だった。
情事の後は尚更に艶っぽい。

まだ何か話したいのか、仲達は私の胸に顔を寄せた。

「疲れているだろう、もう眠っても…」
「子桓様…両想いって何をしたらいいのでしょう…」

ぽつりと、呟く。

「…仲達?」
「ふふ、何でもありませぬ…」

おやすみなさい…、と仲達そのままは眠りについた。

先の言葉。
あれだけでは真意が読み取れない。

「…仲達」

少し濡れた黒髪を撫でて寝顔を見つめた。
やはり仲達は私の服を掴んでいる。

ふと気付けば仲達は私に触れている。

それも必要以上に。傍に居るのに、尚。

仲達の寝顔を見つめながら、頬を撫でる。
女であれば疾うに娶っていた。

娶って、愛し、恋し。
だが仲達が女であるよう願ったことはなかった。

私と仲達の関係は、主従とか愛妾とかそういうものではないはず。
両想いなのはお互いに解っている。

解っているから、こそ。

「両想いなら、何をしようか」

仲達の額に口付けて、私も眠る事にした。


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