ちいさなあなたと、なくした時間じかんつけかた 03

幼児同然の小さなあなたはどこへやら。

今朝目を覚めると、私の背中に埋まっていたのは少年の姿へと成長していたあなただった。
私が子桓様に出会ったのはこの頃だったように思う。

起こさぬようにそっと寝台を出て、先に服を着替えた。
結局、前日から用意した服が無駄になってしまい、改めて違う服を用意するように給仕に伝えた。

「…仲達?」
「おはようございます。子桓様」
「共に…寝ていたのか?」
「はい」

背後から声が聞こえて、目覚めたばかりの子桓様がぼんやりと私を見ていた。
眉間を指で抑える仕草に何処か懐かしさを覚えながら、咄嗟に直ぐ傍へ駆け寄った。

「頭が痛い…」
「…それは、どのように痛みますか?」
「余りの事態に、頭が追い付いていないようだ」

一夜にしてまた記憶が書き換わっているのだろうか。
青年には満たない少年の風体ではあれど、話す言葉は流暢でどこか背伸びをしている。
あの頃の子桓様だ。

額に手を当てて、熱を計ったが熱はないようだった。
安堵して手を離すと何故か子桓様の顔が真っ赤で、計り直そうと額同士を付けたら顔が熱い。

「…熱?」
「も、もう良い」
「しかし」
「お前が離れれば治る!」
「?」

何を今更慌てているのか解らないが、言われた通りに離れた。

改めて子桓様の前に膝を付き、頭を下げる。
姿は変われど、この方は私の主に他ならない。

「…此処は司馬家。あなた様は訳あって、私がお預かりしております」
「そうか…お前が傍に居てくれたのだな」
「…昼前には殿の元に出仕致しますが、このまま休まれますか?」
「いや良い。お前の傍に居たい」
「畏まりました」

用意された服に子桓様を着替えさせながら色々な話をした。
どうやら昨日の出来事は遥か過去の出来事として記憶しているようで、
私と風呂に入った事や食事をした事などは覚えていた。

食事の後、出仕する為に大階段を上る。
子桓様が先を歩きたがったのでその後ろに続くように、両袖に手を入れて背中を見守った。




殿に拝謁し、昨晩から今朝までの出来事を要約して伝えた。

子桓様を夏侯惇殿に預け、殿と二人で話し合う事になり席に着く。
窓辺からは、夏侯惇殿が小さな子桓様の剣の相手をしているのが見えた。

「子桓の部屋で書簡を見つけた」
「書簡?」
「日誌、のようだ」

その書簡のひとつを殿は私に渡した。
何となく、庭にいる子桓様を見つめた。

「読んでみろ。お主の事ばかり書いてあるわ」
「え?」
「子桓に随分と気に入られているようだな」

殿に促され、躊躇いつつも一番最近書かれたという書簡の紐を解いて中の文章に目を通していく。



『戦後の後処理も兼ねて、執務が長引く。
 暫くはこのような日々が続くだろう。
 今日は仲達に一目も会えなかった。明日は会って話したい』

『今日こそは一言でもと思ったのだが、仲達は郭嘉に呼ばれて目の前を通り過ぎてしまった。
 また何も話せなかった』

『仲達が師と昭と談笑しているのが見えた。
 話しかけようとしたが、止めた』

『暫く席を外すと言う。どうやら漸く休暇を貰えたらしい。
 疲れているのなら休ませたい。それ以上は話しかけるのを止めた』

『会いたい。お前がいないとつまらない』

『休暇が明けて、仲達が出仕をしてきた。
 休み明けで執務に振り回されているらしい。
 折を見て話しかけたが予定があると言い、今までの鬱憤が溜まってか仲達に酷い言葉をぶつけてしまった。
 大嫌いだと、言われてしまい執務に集中出来ない。
 漸く会えたと言うのに、もう会わせる顔がない』



『私達はいつからこうなってしまったのか。
 戻れるのなら出会った頃…過去に戻りたい。
 子供の頃の私なら仲達に甘えられるだろうか』

『私はまだまだ子供のままだ。
 悪かったと、一言そう言いたい。それだけであるのに』


『仲達に嫌われてしまったのなら、私は』




書簡を閉じて、頭を抱えた。
どう考えても原因は私にある。

眉間を寄せながらもこの人は人一倍寂しがり屋である癖に、口では何も言ってくれない。
人の気持ちに人一倍鈍感な私に察しろなど無理な話で、仰っていただかなくては解らない。

ああ、そうか。
そうやって私はこの人に甘んじるあまりに不安にさせ、独りにしてしまったのだ。

私のせいだ。


「まぁ、そう肩を落とすな。
 儂もお前達の事は知っていたのだ。気を回してやれば良かったか」
「そのような事は。殿…私はどうしたら良いのでしょうか」
「大丈夫だよ。だって段々戻ってきてるんでしょ?」
「おぉ、郭嘉」
「書庫を調べましたよ。異常は特にありませんでした」

私の肩に手を置いて郭嘉殿が現れた。
どうやら郭嘉殿は殿の命で書庫を調べていたらしい。
肩を落とす私に郭嘉殿は後ろから抱き締めるようにして頭を撫でた。

「書庫はただのきっかけか」
「…私のせいです」
「大丈夫だって。それにしても随分と熱烈な恋文だね。文才に関しては流石というか」
「…謝りたいのは私の方です。もし、もし…戻らなかったら」
「その時はその時じゃない?」
「まぁ、儂も今の姿の子桓は懐かしいとは思うがな」
「お相手して来たら如何です?」
「いや良い。儂は子桓を見守るとしよう」

私の視線に気付いてか、子桓様が剣を収めて私の元に駆けてきた。
夏侯惇殿がゆっくりとその後ろを歩く。

「お主と子桓の執務は一時的に止めてある。何かあれば郭嘉に振ろう」
「えっ、いや、それでは余りにも」
「えー?私ですか?」
「後輩が可愛いなら一肌脱いでやれ」
「仕方ありませんね。司馬懿殿が可愛いのでやってあげます」
「何の話だ?」

子桓様が私の隣に立った。
椅子から立ち上がり、手巾で汗を拭って差し上げると子桓様は顔を反らしてしまった。
何か気に入らなかったのだろうか。

郭嘉殿が何か思い付いたような顔をして、子桓様の前に立つ。
何となく嫌な予感がして郭嘉殿の隣に立った。

「ねぇ、曹丕殿。君は好きな人とかいるの?」
「…いる」
「!」
「それって初恋?その人をどうしたい?」
「…恋とは、どうしたら良いのかよく解らぬ」
「そうだねぇ…まぁ、この私でも恋は難しいと思うし。お子様の曹丕殿にはもっと難しいかもね」
「馬鹿にするな。私はもう子供ではない」
「はは、どうしても解らなかったら先生に聞いてみたら?」
「…私?」

子桓様と郭嘉殿に挟まれて会話を聞いていたら、突然話を振られた。
訳が解らず首を傾げていると、郭嘉殿が私に耳打ちする。

「もしかしたら、仲直りすれば元に戻るかもしれないよ?」
「!」
「恐らく…というか、九割の確率で曹丕殿の初恋相手は君だよ」
「…そうでしょうか?」
「何?自信ないの?しょうがないなぁ」

郭嘉殿は突然私を引き寄せるように抱き締めて胸に埋めた。
訳が解らず困惑していると曹丕殿が私の袖を掴む。

「??」
「ちなみに恋愛沙汰に奥手な人はね、こうして…。
 自分から引き寄せてやらないと気付いてくれないものだよ。例えば司馬懿殿とかね」
「あ、あの」
「仲達を離せ」
「はいはい」

ほらね?と郭嘉殿は私の肩を叩いて離れた。
子桓様は私を手を握り締め離さない。

「子桓、司馬懿と話したい事もあろう。行ってくるといい」
「はい」

殿と夏侯惇殿に頭を下げ、郭嘉殿に礼を言うと子桓様は私の手を強く引っ張り先に歩き出した。





向かう先は子桓様の部屋だった。
久しぶりに入室するその部屋は、書簡が積まれていて。
筆の手入れの途中だったのか、筆が干されたままだった。
子桓様は先に私を部屋に入れると後ろ手で扉に鍵をかけたようだ。

「子桓様?」
「お前と話したい事がたくさんある。だから二人きりになりたかった」
「左様でしたか。して、お話とは何でしょう?」
「まずは座れ」
「はい。茶でも入れましょうか」
「ん」
「少々お待ち下さい」

茶の湯の用意をさせて卓に着いて隣同士、二人で茶を飲み話を聞いた。
本来ならば作法として私が膝を付き視線を合わせなければならないのだが、子桓様はこのままで良いと言う。
子供扱いされたくないのだろうか。

話が長くなりそうな気がして、給仕に何か茶菓子をくれと声をかけた。
暫く無言が続き、漸く思い詰めたように子桓様が話しを始めた。

「…ずっと前から、好きな人がいるのだ」
「それは、良い報せですね。一体どのような方に恋をされたのですか?」
「それは…」

初恋の人の話。
郭嘉殿はああ言えど、子桓様の口から直接聞いた訳でもない。
まだ私なのだと思える確証はなかった。
私はあくまでも教育係としての立場で話を聞いていた。

「初恋の人と結ばれるには…どうしたらいい?」
「もう、お分かりなのでしょう?」
「告白して…それから、だ」
「それから?」
「想いを伝えて、もし相手も同じ想いなら…私はもうそれで幸福だと思う」

頬を少し染めて、恋を語る子桓様は若々しい少年そのもので微笑ましい。
その先を知らぬと言うのなら、教えてもいいのだがこんな昼間から教えるものなのだろうか。

「好きな方というのは、どのようなお方なのですか?」

はぐらかそう。
そう決めて、話題を変えた。
子桓様は私を一目見た後、溜め息混じりに語った。

「年上で…黒髪の長髪。白い肌。
 それでいて切れ長の瞳に長い睫毛、とても綺麗だと私は思う」
「……素敵な方ですね」
「お前だ、仲達」

ああ、やはり。
動揺を悟られまいと茶を口に含んだ。

あの方が私をどう思っているのか知らないが、特徴を聞く限り私の事だと思いはした。
直接本人から聞くまでは、と思っていたとはいえ…やはり言葉にされると胸が締め付けられるように痛い。
また子桓様は私に恋をした。

この方は私を何処まで覚えていて下さっているのか。
果たして本当に元に戻れるのか。
何もかもがまだ解らなかった。

仲達に嫌われてしまったのなら、私は。
子桓様の日誌の言葉が私の頭に響いている。



なればこそ、この純粋な恋心に応えない訳にはいかなかった。

「…本当に…私で、よろしいのですか?」

子供のくせに、大人びた瞳で見つめて。
子供のくせにまた私に恋をして、本当に仕様のない人だ。

私の言葉を聞いて、小さなあなたは動揺し私に駆け寄り肩を抱いた。
小さな手で私の頬に触れる。

「愛している…お前がいいのだ仲達」

いつの間にか泣いていたようで、子桓様が私の涙を拭ってくれた。
情けない。こんな子供相手に情けない姿を見せてしまうなんて。

早く、元に戻ってほしい。
大人のあなたに謝りたい。抱き締められたい。
そんな事を背丈も異なり、記憶もない子桓様に求めたところでどうなる訳でもなかった。
せめて淋しい思いはさせまいと、私の涙を拭う小さなあなたを抱き締めて胸に埋めた。

「私もあなたが好きです…ずっとお慕いしています…」
「…それは、しても良いと言う事だろうか?」
「しても良い?何を?」

胸の中にいる子桓様が床に膝を付いて、私の頬を掌で包むようにして唇を合わせた。
小さなあなたの唇はまだまだ全然子供っぽくて、柔らかくて。
突然の事態に驚きはしたものの、抵抗はしなかった。
唇を離し、もう一度口付けられると今度は舌が入ってきた。
一体何処で覚えたのか知らないが、さすがにこんな子供相手にこれ以上の事は出来ない。
子桓様の肩を叩くも離してはくれなかった。

暫く舌を絡められて、こんな子供に情欲が掻き立てられる。
ずっとしていないので私も欲求不満なのだろう。

いくら子桓様といえ、こんな子供に。
そう思うと何よりも背徳感が勝り、子桓様を私から引き離した。

「っ…は…、これ以上は、大人になってから…です…」
「…お前も私を子供扱いするのか」
「私はただ」
「来い」


子桓様に手を引かれて、奥の寝室に連れて行かれた。
寝台の帳を下ろし、子桓様は私を其処に押し倒すようにのし掛かる。

「駄目です…このような刻限から、そのような事は…」
「お前の言うそのような事とは、どのような事だ?」
「…?」
「私は口付けまでしか知らぬ。
 郭嘉にはとりあえず寝台に押し倒してみろと言われたのだが」

あの人は子供に何を教えているのだ。
口付け云々以前も郭嘉殿のせいだろう。何より今の私の発言は完全に墓穴だった。
更に子桓様の興味を引いてしまった。



やり方が解らないくせに子桓様の股が私の脚に当たっている。
こんな子供でも反応して欲情するのかと子桓様の頬に触れた。
思春期真っ盛りの年齢。
何かと感情が豊かな時期なのだろう。

「…何を、したいのですか?」
「仲達を、幸せにしたい」
「私の、幸せ…?」
「どうしたら、いい?」

口付けしか知らぬ子供は私に何度も口付ける。
何度も合わせて、舌を絡められて、何処か懐かしくて涙が溢れた。

子桓様相手に抵抗出来る訳がない。
愛しい。どんな姿になっても私は子桓様をお慕いしているのは間違いない。

だがこんな子供に、情事などさせたくなかった。
まだ今のあなたには早すぎる。

「私は、あなたが健やかで居て下さるのならそれで…」
「情事とは、恋人同士が行うものだろう?」
「…告白して直ぐになんて、性急な。急いで行うものでもありませんし。
 私が男だと解っておいででしたら尚の事、最後までは教えて差し上げられません…」
「最後?」
「私で…本当に良いのですか?何か、気の誤りでは…」
「私の言葉を疑うのか?」
「…そうではなくて」

大人として譲ってはならないところだと私も弁えている。
本来は女とする性行為を、初恋とは言え初めから私に求めるというのは…。
愛されていると思えばいいのか、何処か間違っているのではないか。
短い髪の子桓様を見つめながら言葉に詰まった。



どうするべきかと苦悩していると子桓様が私の股に服の上から触れる。
駄目だと目で制するも、子桓様にそのまま上から擦られては感じてしまう。
ただでさえ、本能のままの若い口付けを受けて絆されているというのに。


「だ、めです…っ」
「何が駄目なのか、話せ」
「っ…!」
「私が子供だからか」
「せめて…、…せめて、したい…のなら、脱がして…下さい…」
「!」
「…あなたもそのままでは…お辛いでしょう」

焦らされ過ぎて辛い。遂には私が折れてしまった。
子桓様だけでも先に果てさせ、早くひとりになろうと子桓様の服を脱がして直に触れた。
子供のくせに不釣り合いな大きさで何だか悔しいが、そのまま手で抜いた。

「ち…仲達…」
「っ…、お一人でなら、した事…あるでしょう…?」
「お前を想って、なら」
「…っ!」
「お前も、反応しているのではないか?」
「っ…!触れては駄目です」

手より口のが早かろうか。
あなたは滅多に私に口淫など求めない。
私の体の方が保ちそうにないので子桓様の前に膝をついて口に含んだ。
子桓様はたじろぎ、私の髪を掴む。口でされるのは初めてなのだろう。
私を見つめる瞳は快楽にとろけていて、とても可愛らしかった。

「もう、はな、せ」
「…そのまま、口に」
「っく…っぅ」
「ん…っ」

口内にそのまま受け止めて、髪を掴まれ喉の奥に吐き出された。
何とか飲み干して口を離すも、もう体が動かせずそのまま寝台に体を沈めた。

子桓様が快楽の余韻にとろけた瞳のまま、私の服に手をかけた。
下半身だけ脱がされて、子供の手で直に触れられる。
それだけはさせる訳にはいかないと、何とか体を起こして子桓様を私から離した。

「だ、めです…」
「辛かろう…見ていられない」
「私は大丈夫、ですから…」
「言い方を変えよう。私が堪えられぬ」
「っ…?!」

胸元も開かれて子桓様が胸を吸う。
何が出る訳でもあるまいに、胸元に痕を付けて子桓様は私のを握り擦り上げた。
寝台に倒れ込む事も出来ず子桓様の肩口に埋まり、扱かれ続けて必死に耐えた。
こんな子供の前で、果ててなるものかと。
まだ頼りない肩幅に頬を寄せると、子桓様が優しく頬に口付けた。

「…我慢するな。別にお前をいじめたい訳じゃない」
「で、も…!」

いくら子桓様とはいえ、こんな子供にそんなこと。
そう思えば思うほど背徳感に襲われて尚の事感じてしまう自分の体が浅ましい。
小さな肩に埋まるように結局子桓様の手の中で果ててしまい、脱力してそのまま肩に凭れた。

「っふ…。申し訳…ありませ…ん…。ごめんなさい…」
「…否、とても…愛しいと思った…」
「子桓様…?」

申し訳ないのと、情けないのと。淋しい気持ちと。
こんな子供に、こんな事をさせてしまった背徳感と。
それでも相手が子桓様だという事実と。
色々な感情が入り混じり、涙が溢れて止まらなかった。




大人の私を護るように、小さな体で子桓様は精一杯抱き締める。
どうしてそこまでして私を、そう聞くよりも先に子桓様が話し始めた。

「私と二人きりの時は…軍師でも教育係でもなく、仲達で居てほしい」
「…そのような事、よろしいのですか?」
「父親でなくとも良い。仲達の傍に居たい」
「はい…」
「ずっと、会いたかった。お前と話がしたかった。
 近くにいるのにとても遠くに感じた。私はお前にずっと触れたかった…」
「子桓様…?」
「元の体に戻ったら、最後まで…続きをしよう」
「?!あなた、まさか」
「…先程な、色々と思い出した。黙っていてすまなかった」

顔が一気に熱くなった。
ああ、もう絶対に今は顔を見れない。
何時から記憶が戻っていたのか知らないが、私の子桓様は確かに此処にいた。
子供の姿のまま、私の子桓様は戻って来ていた。

「…もう、…もう…」
「泣くほど、私に会いたかったのか」
「…っ」
「ふ、自ら私のを咥えておいて…随分と淫靡な仲達を見る事が出来た」
「あああああもう言わないで下さい!!」

子桓様は少し赤面をして、私の唇を指でなぞる。
まだ顔を見れなくて肩に埋まっていたら頭を撫でられた。

さて、元に戻れるだろうか。
子桓様は自分の手を見つめながら、私の髪を撫でた。
なくしてしまった大切な時間が戻ったかのように思えたが、子桓様の体はまだ子供のままだった。

「どうして、子供の姿に」
「この姿なら執務に振り回されずお前に甘えられると、単純にそう思った」
「一体どうやって」
「書庫で書物を読んでいたら、たまたまかぐやが空に居たのを見かけて」
「ああもう…よく解りました」

仙界の、しかも時を操れるかぐやの力を借りているのならもう説明せずとも解った。
溜息を吐きながら子桓様の肩に改めて埋まった。

「三日の間、一日毎に元に戻れるよう頼んだ」

「なれば…」
「明日、元に戻る」
「そう、ですか」
「何だ。まだ子供の方が好みか?」
「元に戻ったってあなたは私より年下でしょう」
「それもそうだ」

少し拗ねるようにして顔を背けていたら子桓様が笑った。
子供のような笑顔で、中身はあの子桓様だった。

「…これ以上は大人になったら、だったか」
「っ…!」
「今でも、構わぬが」
「だ、め、です。何言ってるんですか」
「この体のままでは満足出来ぬか」
「子供にそんな事させられないって言っているのです!」
「ふ、その子供に口付けられて体を火照らせていたのは誰だ」
「っ…もう、余り苛めないで下さい…」

恥ずかしくてやはり顔を見れない。
顔を覆い隠すようにしていたら、無理矢理子桓様に顔を掴まれて上を向かせられた。




「…今まで、すまなかったな。私は酷い事をお前に言った」
「もう、いいのです…。私こそ、ごめんなさい…」
「もういい。解ったから」

顔を見たい。
そう一言私に言うと、子桓様は頬に手を添え唇を合わせた。


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