この御方と出会って何度目になるのか。
子桓様に押し倒されて、触れられてから微熱が熱に変わり体が熱い。
敢えて中に注ぎ込むように、痕を残すように子桓様は私を幾度も抱いた。
私が果てたら、体が落ち着くまで体は動かさず。
己が果てて中に注いでも、私の痙攣が収まるまで子桓様は待ってくれた。
無理強いはしなかった。
過ぎた快楽は苦痛だと解っていらっしゃるのか…私が嫌、と言えばきっと子桓様は止めるのだろう。
幾日ぶりかにお逢い出来た事。
互いに互いを想い合っている事。
愛していると囁く子桓様を必要以上に求め、抱かれて、子桓様の言葉に私は泣いた。
今はただ、子桓様に溺れていたい。
私は誰のものであるのか。
愛されているのだと実感したかった。
私が求めれば、与えられて。
体が快楽に揺れて熱い。子桓様は私に応えてくれた。
「っ…ふ、ぁ…」
「熱いな。そろそろ止めねばお前が…」
「ゃ、です…」
「…未だ、足らぬか?」
「わかり、ませ…ん…」
「それとも未だ…不安か?」
「…ぁ…っ!」
繋がっている体を抱き起こされ、子桓様の膝の上に向かい合わせで座らせられる。
股を伝う子桓様の白濁が、奥に突き上げられるほど中から溢れた。
度重なる情事に、子桓様に支えられないと腰が立たぬほど体力を奪われている事に気付きながらも私は止める事を拒んだ。
子桓様から求めた情事であったのに、気付けば私の方が貴方を求めていた。
はしたないと思われるだろうか。
嫌われてしまうだろうか。
貴方はきっと一言で否定するでしょうけれど。
私は、貴方が居なければ…。
どうしても悪い方にしか思考が及ばず、ずっと堪えていた感情の糸が切れた私にもはや涙を堪える事など出来なかった。
師に犯され、昭に抱かれ。
子に辱められるなど、可能性としても全く予知出来ぬ事だった。
陵辱に近い無理矢理な抱き方ではあったが、二人とも気持ちの上では純粋だったのだろう。
私が女であったのならば、取り返しの付かない事が起きていたかもしれなかった。
私を見つめる師と昭の瞳は、子桓様と同じだった。
何処か子桓様に面影が重なり、薬と高熱に浮かされた私は抵抗が出来なかった。
其れを言い訳にするつもりはないが、言葉で直接子桓様に事実を伝えるのは未だ怖かった。
体は癒されているが、気持ちの整理が出来ていない。
私が言葉にせずとも全て子桓様は解っている態だったが、何も言わず赦されるなどそんなのは狡い。
そもそも赦されるなんて、思ってなかった。
ごめんなさい、と気付いたら何度も何度も呟いていた。
貴方以外に躰を暴かれてしまった事実に対し、平静を装うのはもう難しい。
私に抱かれながら、譫言のように仲達は私に謝った。
ただ、ごめんなさい、と仲達は呟いて私に揺らされながら涙する。
ぎゅっと私の服の裾を握る仲達の手を取り、唇を寄せ眉をひそめた。
小さく震えながら仲達は私を見つめる。
それは何処か怯えているようにも見えた。
「っ、子桓、さま…」
「…百万回の謝罪よりも、ただ一度だけ、愛していると言ってくれたなら…それで良い」
「…ぁ…」
「私を愛してくれているか?」
努めて優しく接しているが、優しさだけでは仲達を癒せない。
謝罪よりも愛していると言ってくれるのなら、その方が嬉しかった。
事実を、被害者の身である仲達から言葉にするのは辛かろう。
私は全てを赦したい。
仲達は何も言わなくて良い。
支えねば腰が立たぬ程、仲達が求めるだけ抱いている。
他の男に汚された記憶を上書きするように抱いた。
これは私のものだと、私自身も不安だったのかもしれない。
仲達が濡れた瞳で私を見つめ、私を受け入れたまま肩に頭を乗せた。
小さく吐息を吐く仲達の髪を撫で、頬に触れる。
私の手の上から仲達が触れ、私を一度見つめてから、瞳を閉じた。
長い睫毛が濡れている。
「…お話が、あります」
震えて掠れた声色で仲達はゆっくりと口を開いた。
わざわざお前が言葉にして話さずとも良い事なのだと、即座に理解したが仲達は言葉を続けた。
「貴方様にお逢いしに行った、あの夜」
けじめをつけたいのか、仲達なりの覚悟なのか。
言葉にして私に事実を伝えようとしているのは解っているのだが、どうにも痛々しい。
己自身が一番傷付くと仲達が解らないはずもないのだが。
思えば…あの夜は酷い夜這いだった、と今更ながらに思い出す。
あのまま師に連れられた、と思えば私には予測出来うる事だった。
あの時、本気で引き留めれば良かったのかと自問自答するも過ぎてしまった事は取り返しが付かない。
「…仲達」
「はい」
「辛ければ、言わずとも」
「…子桓様は私に甘すぎます。言わせて下さい…私のけじめです」
泣きそうな笑顔で仲達は笑う。
眉を顰め、ならば止めまいと私は口を噤んだ。
「…衝動的なものだと思います。体に、陵辱を受けました。…私は抵抗する事が出来ませんでした」
「…そうか」
声が震えている。
仲達に擦り寄り、頬に口付けながら話を聞いた。
「罰は私が受けます。何なりと…仰って下さい」
「何故、お前を罰せねばならん」
仲達は真っ直ぐに私を見つめる。
相手は既に解っているが、仲達が口に出さないところを見ると庇う気なのだろう。
己自身が酷い目に合いながらも、子供を庇う仲達はやはり人の親なのだろう。
不愉快ではあるが、それでも私は仲達を赦したい。
体がまだ繋がったままなのを思い出し、背中と腰を支えゆっくりと押し倒し、更に奥へ腰を進め突き上げた。
仲達が小さく声を上げる。
「…ぁ…っ」
「赦す」
「…え…?」
「だから、仲達」
「はい」
「私を、愛しているか?」
先程の答えを貰っていない。
仲達の頬をなぞり、指を絡めて手を握った。
仲達は私の手を握り返し、涙を浮かべながら私に口付けた。
「愛しています…貴方だけです…子桓様」
「それで良い。漸くお前を抱ける」
「…先程からもう何度も…」
「心、此処に在らず。快楽に逃げていたのだろう?」
「それは…」
「あの夜も酷かった。やり直しだ」
今までの情事、仲達は自暴自棄に快楽に逃げているように見えた。
故に私も、仲達が求めるだけ抱いた。
気持ちの上で、整理をつけた仲達は漸く真っ直ぐに私を見てくれた。
漸く仲達を本当の意味で抱ける。
奥に突き上げると、仲達は小さく声をあげて私の手を握り返す。
止まらない涙を舐めながら、仲達の顎を掴んだ。
「…怖かったな」
「は、い…」
「恐ろしかった、な」
「…っ子桓様」
「お前が堪えた思い、全て私が受け止めよう。言え。今なら全て聞いてやれる」
仲達の額に口付けながら、頬を撫でた。
もう少しで果てそうなのだと、抱いていると解る。
「言え、仲達」
「…っふ、ぅ…」
「私の前で感情を堪えるな」
「…こわかっ、た…おそろし、かっ…た…子桓、さま…以外と、なんて…嫌で、す」
「…ん。全て私が、上からなぞってやる。忘れるがいい」
「っ、ぁ…!」
感情のままに吐き出したのだろう。
私の前では父親でも臣下で居なくても良い、と伝えた。
仲達に深く口付け、舌を絡ませながら突き上げる。
仲達の中にある私のがいやらしい音を立てて、突き上げる度に溢れ出ていた。
赤い血が混じっていない事に安堵し、深く深く体を重ねた。
「子桓さ…、も…ぅ…」
「果てるがいい」
何度目になるのか解らないが、果てて体を脱力させた中に注ぎ込んだ。
痙攣し震える体を抱き締めた。
小さく痙攣したまま仲達は軽く気を飛ばし、くたりと 寝台に沈む。
私の手は握ったままだ。
「…仲達」
「は、…ぃ」
「大丈夫、ではないな。抜くぞ」
「っ…!」
濡れた瞳は今にも眠りに落ちてしまいそうだった。
漸く引き抜くと、散々中に出した白濁が股を伝い溢れ出す。
優しく仲達を抱き留めた。
「…湯殿は何処だ?連れて行ってやる」
「へや、をでて…みぎ、の…」
「…そのまま暫し休め。私も止めれば良かった」
疲れ切って呂律の回らない仲達を無理に起こすのは胸が痛む。
仲達に上着を着せ、上着を羽織り部屋を出た。
曹丕様から戴いた薬の即効性たるや驚くほどで、いつの間にか頭痛もおさまり熱も下がっていた。
汗もかいたし、このまま寝台に独りでいると何だか色々と考えてしまいそうで気分転換に湯に入ろうと部屋を出た。
廊下で曹丕様の背中を見つけて、足が止まる。
腕には父上を横に抱いているのが見えた。
父上の脚が生足で、曹丕様が軽装なところを見れば何をやってたかなんて直ぐに解った。
邪魔しちゃ悪い、と踵を返す。
正直、会っても何を話したらいいのかよく解らない。
「昭」
「っ、はい」
「仲達を清めたい。湯殿まで付き合え」
「えっ?いや、あの俺は…」
「お前に話がある。解っているな」
「…はい」
唐突に声をかけられて正直心臓が止まりそうだった。
曹丕様は父上との関係を隠しはしない。
振り返ると曹丕様は俺を待っていた。
声色に覇気はあれど、怒気はない。
曹丕様の横に駆け寄る。
「此方です」
横目に見た父上の瞼は伏せられていて、長い睫毛が濡れている。
漂う白檀と沈香の混ざる匂い。
あの夜と同じ匂いがした。
湯殿への扉を開けると、曹丕様は先に湯殿へ向かって父上の上着を脱がせて湯をかけた。
嫌でも父上の股を伝う白濁が目に入る。
湯をかけられて父上は薄目を開けた。
曹丕様と視線が合うと、ふ…と笑いまた瞼を閉じた。
俺には気付いていないみたいだった。
父上が曹丕様にだけ見せる顔を見ると、やっぱり羨ましいと思う。
心から曹丕様を信頼し、愛しているのだろう。
そこに居るのは“父上”ではなくて、“仲達”だ。
そそくさと湯殿を出ようとしたところ曹丕様に服を投げられた。
「それを片付けて、お前も入れ」
「…御意」
父上を支えながら、曹丕様は湯を浴びていた。
服を脱いで曹丕様の横に片膝をつく。
「…先に入れ」
「何か、手伝いますか?」
「未だ仲達に触れさせる訳にはいかぬ」
「…はい」
父上は全て話したのだろうか。
それとも流行病の事を言っているのだろうか。言葉少ない曹丕様の真意はどちらともに見えた。
曹丕様に背中を向けて、先に湯に入った。
顔面を湯につけて目を瞑る。内心、溜息を吐きながら暫くぶくぶくと空気を吐いていた。
ちょっと苦しくなって顔を上げようとしたら、頭を小突かれてまた湯に埋まり溺れかけて慌てて顔を上げた。
やっぱり曹丕様だった。
「っ…げほっ」
「昭」
「…はい」
曹丕様は悪びれていない。
父上の体はもう清められているのだろう。
二人とも髪が濡れて肌も艶やかで、香の匂いも消えていた。
「…父上は、大丈夫ですか?」
「何が、だ」
「…すいません。俺が言えた事じゃないですよね」
「私の軍師を見くびるな。お前が思っているよりも遥かに仲達は強い」
曹丕様が父上の頬を撫でた。
肩を落としてもう黙ろうと口まで湯に浸かる。
隣に父上を横に抱いた曹丕様が座った。
「…仲達?」
ぼんやりと父上が微睡んだ瞳を開けていた。
疲労の色が隠せないようで、曹丕様の腕に首を擡げたまま俺を見た。
俺はきっと怯えていたと思う。
「…おいで、昭」
父上が俺に手を伸ばす。
一度曹丕様を見たが、曹丕様は目を閉じていた。
父上の手を取り、傍に座ると父上は俺の頬を撫でた。
「良かった…熱はもう良いのだな」
「…父上っ」
「私は大丈夫…子桓様が居て下さるから…。後は…子桓様のお話を聞きなさい」
「はい…」
「…後は任せよ」
「どうか、酷い事は…私の、子供なのです…」
「解っている。もう、おやすみ」
父上はいつもなら“曹丕様”と言うのに、“子桓様”と俺の前でもはっきりと仰った。
やっぱり曹丕様にだけは絶対に適わない。
父上はそれきり目を閉じた。小さく寝息が聞こえて、このまま寝かせてあげようと手を戻した。
父上を抱き直して、改めて曹丕様が俺に向き直る。
「私はお前達を赦すつもりはない」
開口一番、曹丕様は言った。