小一時間前に父上と普通に話していたのに、
兄上に連れられて帰宅した父上は既に意識がなくて体温も高かった。
兄上が言うには、既に薬を飲まされていて副作用で眠らされているらしい。
父上の纏う気怠い雰囲気と、父上の白檀の香りに混じって匂う沈香の香りが全てを物語っていた。
こうなるって予想も出来てた。確信もあった。
それでも俺が父上を曹丕様の元に行かせたのは、父上の涙を見たからだった。
俺だって父上の事が好きだ。
好きだけど、俺じゃ適わない。
この人には幸せになってほしい。幸せにしたい。
父上の幸せが曹丕様であるのなら、少しでも会わせてあげたかった。
兄上には怒られたけど、きっと兄上だって根本ではそう思ってる。
口元を覆う布は曹丕様が巻いたらしい。
感染を防ぐため、と言うよりは、
曹丕様が父上に手を出すなと俺等に見える形で残していったように思えた。
父上の躰の中には、未だ曹丕様との情事の名残を残ってる。
痕跡は消され服は正されて着替えさせられてはいるが、寝間着には赤の混じった白濁が滲んでいた。
ぼんやりと、父上が薄目を開く。
濡れた長い睫毛が綺麗だと思った。
枕元に膝を付き、父上の額に手を乗せる。
「…子桓、さ…?」
「此処は家ですよ父上。あと其れ、あんま取っちゃ駄目です」
「……?」
父上は殆ど意識がないに等しいが、それでも曹丕様の字を呼ぶ。
まだ熱は低いが、油断は出来ない。
結果的にこの人は“貰って”きてしまった。
文字通り、己を犠牲にしたのだろう。
無意識に口元の布を取ろうとする手を止めた。
多分、まだ父上は状況が掴めておらず視点も定まっていない。
兄上が溜息を吐いて、父上にのし掛かるように寝台に乗る。
「…父上、暫し御辛抱願います。昭、脚を」
「はい…」
抱き起こして、父上の背後に回った。
父上の背中を俺の胸で受け止めるように抱きかかえる。
太股に触れ、父上に向かい合う兄上に対し強制的に脚を開かせた。
「…っ?!」
「痛むでしょうが、掻き出さねば病因が体に残ったままになります」
「ん…、ぅ」
兄上が父上に唇を寄せるように、口布の上から口付けた。
父上が俺の袖を強く握り締める。
意を決した兄上が父上の中にゆっくりと指を挿入し、中にある白濁を掻き出していく。
赤が混じった白濁は勿論曹丕様のものだろう。
「…んっ、…っ…!」
「痛いですよね。俺に掴まって下さい。引っ掻いてもいいですから」
父上からぽろぽろと零れ落ちる涙が凄く痛そうで、正直胸が痛んだ。
同時に、声にならない声で俺に掴まる父上に欲情してる。
自分の腕の中で喘ぐ父上を見ながら、必死に我慢してるけど多分限界だ。
きっと、兄上もそうなんだろう。
「こんなに、中に…貴方は本当に、もう」
「ごめんなさい、兄上…俺ちょっと見てらんないかも」
「なれば出て行け」
「そうじゃなくって」
この行為が父上の為とはいえ、これでは苦痛でしかない。
父上が曹丕様の躰を求めた、にしては躰には傷ばかりが目立つ。
多分、無理矢理、躰を抱かせたんだろう。
「気持ち良い方が、良いでしょう?」
「…っ」
父上のに手を這わせ擦りあげると、父上は殊更に俺の袖を握って首を横に振る。
涙が頬を伝って流れていた。
「…昭」
「はい」
「お前は父上の事を」
「…はい。兄上と一緒ですよ。愛してると思います。家族以上にね」
「なれば、共犯だな」
「え…?」
父上のを擦りあげると、途端に父上の瞳がとろけた。
嗚呼、そういう躰にされてるんだなって何処か悔しくてもっと攻め立てた。
俺が父上のを扱いて、兄上が中を掻き出す。
「…これは凌辱か」
「まぁ…殺されますね、きっと」
「そうだな…」
中にある白濁を全て掻き出しても、父上の躰の疼きは収まらない。
太股を厭らしく伝う白濁から目を反らせなかった。
父上を支えてる俺だってヤバいし、父上に直接触れてる兄上はきっともっとヤバい。
多分もう止められないだろう。
父上から白濁を全て掻き出した。
それでもまだ疼くのか、父上の中は収縮を繰り返している。
昭からの愛撫に父上の躰は反応していた。
快楽に慣らされている体。
これはもはや、据え膳どころの話ではない。
父上は嫌だと首を振るが、体は矛盾して是れ以上の快楽を求めている。
そう躾られているのだろう。あの男の笑みが過ぎった。
男に抱かれる事に慣らされている躰は、無意識に誘う事に長けていた。
態度では拒んでも、躰は更なる快楽を求めている。
ただ、父上が心を許している人は一人だけ。
私は、もう引き返せないだろう。
父上の腰に触れ、己を秘部に当てがう。
昭がはっとして私を見たが、止める事はしなかった。
昭が私と同じ気持ちならば、これ以上堪えるのは辛い筈だ。
もはや抵抗する力は残っていない父上は昭の胸の中に埋まり、
瞳を閉じ首を横に振っていた。
「あなたの前ではもっと…“子供”で居たかったのですが、それはもう無理のようです」
「……っ!」
ゆっくりと腰を進めて、父上の中に挿入していく。
中は収縮して私を締め付ける。
充分すぎる程、指で解した其処は難なく私を受け入れ締め付けた。
父上は目を閉じたまま開けてはくれない。
ただひたすら、昭の袖を震えながら握り締めている。
昭が父上の頬に触れ、伝う涙に口付ける。
昭も限界に違いない。
父上のを扱く昭の手に合わせて父上を犯した。
「…っ…ん…!」
「私がどれだけ貴方を想っているか、貴方はきっと知らないのでしょう。
それとも気付いていながら、気付かぬふりをしていたのですか?」
父上の顎を掴み、耳元で囁き、突き上げる。
慣らされている躰は、ぐちゅぐちゅと厭らしく水音を立てながら快楽を感じている。
突き上げられ、揺らされ、犯される躰。
それでもなお、父上は私を締め付ける。
本当に厭らしい躰だとつくづく思う。
「兄上…これ以上は父上が、壊れてしまいます」
「なれば、果てさせよ」
「…はい」
昭に強く押し付けるように脚を開かせ、腰を持ち突き上げ続け中に注いだ。
これは曹丕様のではなく、私のものだ。
父上も昭に果てさせられたのか、股を白濁で汚して躰を痙攣させ放心している。
口布が唾液を含み、首に落ちた。
父上から漸く引き抜くと、太股をしどとに赤が混じった白濁が溢れて流れた。
目の前で、兄上が父上を犯した。
それも凌辱に近い抱き方で。
こんなものを目の前で見せられて、
ただ黙って見ていられるほど俺は器用な方じゃないし我慢強くもない。
兄上を怒る気もないが、多分俺が曹丕様だったら絶対に赦さない。
俺も兄上と同じ。
まだ痙攣している父上を抱き起こし、目の前にいる兄上の胸に埋めた。
くた…と兄上の肩口に埋まる父上の腰を掴み、俺のを当てがう。
口布が取れている父上が振り向いて、首を横に振った。
「…ゃ、め…」
「昭、父上はまだ」
「ごめんなさい、もう無理」
「ぁ…!」
果てたばかり敏感な躰に一気に奥まで挿入し突き上げた。
兄上が先に出した白濁が溢れて、股を伝う。
入れただけで果ててしまったのか、
父上の膝はがくがくと震えて殆ど力が入っていなかった。
「…すごい、きつい。こんなに、何度も…犯されてるのに…」
「…し、…しょ…、ぅ…、」
「厭らしい人…曹丕様が羨ましい。いつも、曹丕様が父上を…」
兄上が曹丕様の名を出す事で、父上がぽろぽろと涙を零し、唇を噛む。
兄上が非礼を詫びるように父上の頬に優しく口付け、そのまま唇に口付けた。
唇を噛まぬよう、兄上が父上の口内に舌を差し入れて深く絡ませる。
父上を見つめ口付ける兄上の眼差しは、優しすぎた。
感情をなかなか面に出さない兄上が、本当に父上を愛しているんだって俺にだって解った。
口付けに反応して俺を締め付ける父上の肩に唇を寄せ、ゆっくりと腰を動かす。
動かす度に兄上の白濁が父上の中から溢れて、股を伝い脚を汚した。
白濁には血も混じってる。
「し、かん…さ…」
父上が小さく呟いた。
父上の躰は兄上の言うように、男を知っている躰、如いては男を喜ばせられる躰だった。
曹丕様に幾度も抱かれて、躾られて可愛がられているのだろう。
父上は物心ついた頃からずっと曹丕様のものだった。
兄上のように、父上の中に敢えて果てた。
俺にも父上に痕を残したかった。
引き抜かなくても、父上の下半身は既に白濁に汚れて酷い惨状だった。
どう見ても、凌辱されたと見える。
これは俺達が仕出かした事だ。
父上の胸に触れると、ひどく鼓動が早く体温が熱かった。
曹丕様からうつされた病が発症したのかもしれない。
「…父上…?」
「……。」
兄上と口付けながら、くぐもるような声を出していた父上が何も言わなくなった。
父上の異変に気付き兄上が唇を離すと、唐突に父上の膝が折れて寝台に倒れ、俺との躰の接合も離れた。
秘部から白濁を溢れさせて倒れる父上は、意識がない。
躰だけが未だ残る快楽に痙攣して、びくびくと震えていた。
昭が父上をゆっくりと抱き起こし、口付ける。
額に触れると、昭は眉を寄せた。
「…父上、すごく熱い」
「薬を。確か袖に」
「…兄上、これ」
曹丕様が父上に託したとされる薬を昭が袖の下から見つけたが、
それはあからさまに一人分ではなかった。
貴重な薬包紙に包まれた薬は、三角形に包まれて折られている。
その薬のひとつひとつに走り書きがなされていた。
「曹丕様は、全てお見通し…ですか?」
「…かもな」
その薬袋一袋ずつに“仲達”が多めに書かれていたが、
その中の半分以上には“子供達に”と書かれていた。
粘膜から強く感染するであろう感染病に曹丕様は己自身を蝕まれながら、
私達の行動を予測していたのだろうか。
「共犯ですよ、兄上」
「…そうだな。父上に手を出せば、殺すおつもりであろうに。
その私達に生きろ、とは…あの人は何を考えているのか」
父上はどんな気持ちで私達に抱かれたのだろう。
薬の副作用でなかなか体の自由が利かなかったようだが、
ひたすらに首を横に振っていた事が印象深かった。
無意識に近いのだろうが、父上は小さな声で“子桓様”と何度も字を呼んでいた。
全てを知ったら、曹丕様は何と言うだろうか。
私達は、恐らく曹丕様に殺されるだろう。
「…父上を寝かせましょう」
「ああ…丁重に」
今更後悔などはしない。
父上を犯した事は事実だ。
水に混ぜた薬を口移しで父上に飲ませ、昭が父上を横に抱いて部屋を出た。
躰を清めるのだろう。
三人分の白濁を受け、快楽を注がれ続けた躰は恐らくもう限界だ。
この部屋で起きた行為の痕跡を片付ける。
敷布には父上の血と白濁が染みていた。
痕跡を何もかも捨てて、新しいものに入れ替えた。
父上の白檀の香を焚く。
私の躰にもすっかり父上の匂いが染みついてしまっていた。
「戻りました」
昭が躰を清めた父上を横に抱いて戻ってきた。
父上を寝台に寝かせ、掛布をかける。
凌辱の痕が消えた父上は、見とれる程やはり綺麗だった。
新しく口布を父上に巻こうかと迷ったが、父上と交わった私達は既に感染していると思われる。
今更、感染の予防の措置など無意味だろう。
口布の代わりに、冷たく濡らした布巾を絞り額に乗せた。
父上を独りにさせぬよう、昭と交代で躰を清めに部屋を出て行った。
布巾で髪を拭きながら、父上の枕元に腰を下ろす。
「父上はずっと、こうか?」
「先程ちょっとだけ、意識が戻りました」
「それで」
「ごめんなさい、って俺が謝ったら、父上はまた目を閉じてしまいました」
「…そうか」
「寝かせてあげましょう。俺、ずっと付きっきりで父上を看てたいです」
「…私も、看ていたい」
父上には酷い事をしてしまったと思う。
だが、私も昭も、父上に対する想いは同じ。
純粋に本当に心から愛している。
曹丕様のようになれたら、とも思っていた。
何故、私はこの人の子供に生まれてしまったのだろう…と思いもした。
昭に薬を渡す。
私も薬を飲んだ。
寝台には父上だけを寝かせて、私は椅子に座る。
昭は床に座り込み、父上の手を握った。
襲いかかる睡魔に抗う事もなく、父上の傍で眠りについた。