青天霹靂せいてんのへきれき 04

正直、悪い事をしたと思う。
私欲の為に仲達を巻き込んでしまった事を悔いた。

「私の知らぬ仲達……か。息子共に何か言われそうだな」

さぞや、怖い思いをしたことだろう。
私が最後まで責任を取らねばならない。

扉の前で立ち止まり、声をかける。
誰かに見つかっては面倒だ。早々に連れ出さねば余計に面倒な事になる。
特にあの息子共には。

「仲達、起きているか」

扉に手をかけると、中からくぐもった声がする。
恐らくは布団をかぶっているのだろうが。



「…おきています。
おねがいです…きょうはやすませてください…このへやに、はいらないでください…」

ああ、やはり。
どうやら甄の話は事実だったようだ。

口調は仲達に違いないが、初めて聞く声。

入るな、という制止の言葉も聞かず扉を開けて中から鍵を閉めた。

「どうしたというのだ」

我ながら白々しいと苦笑しながら、布団を剥ぐと見覚えのない幼子がそこにいた。

仲達の寝間着を着てはいるが、背丈が合わず手も脚も出ていない。
白い肌、黒髪の長髪。まだふわふわと柔らかい。


一瞬、女子かと見間違えたがこれは間違いなく。

「…さくじつ わたしに なにをのませたのですかっ…」

間違いなく、仲達。
顔や雰囲気に面影がある。

散々泣いたのか、瞳が赤い。
その小さな体を抱きあげて胸に埋める。

「実は昨日、甄が来てな。
『我が君を小さくしたのは私ですわ』だと言ってきた。
本当かどうか確かめるために、お前にあれを飲ませた」

我ながら酷い言い草だと思う。
仲達の涙の筋を指でなぞると潤んだ瞳をこちらに向けた。

「それに…私は知りたかったのだ、お前を。
…お前の子供の頃を。このような真似をして、すまなかった」

包み隠さず全てを伝え、謝罪すると仲達は困ったように眉をしかめた。
幼い仲達は何とも、表情がころころ変わって可愛らしい。

「そんなこと… おっしゃられたら おこれなくなってしまいます…」

むすっとしてそっぽを向く仲達を宥めるようにすまなかった、と頭を撫でて私の上着をその小さな体にかけた。

「そのままでは身動きが取れんだろう…私の服を召せ」

可愛らしくもっと愛でたいが、まずは背丈の合う服を着せねば不便だろう。
そのまま仲達を抱き上げて服を探すべく、部屋を出た。

回廊を歩く。











「このすがたでは しかんさまを おまもりできないのが くやまれます…」

私にとっては青天の霹靂。
子桓様にとっては仕組んだ策。

だが、正直に話して下さったのでもう許す事にした。
先程からしきりに頬を撫でられるのが何だか心地好くてその手に甘える。


この小さな体では子桓様に抱き上げられる一方で、護衛も側仕えも出来ない事が唯一悔やまれる。

「いや、今度は私がお前を護る。誰にもお前を傷つけさせはせん」
「それでは わたしの たちばが… へいかを おまもりしたいのです」
「命令だ。今は立場を気にするな。絶対にだ。
また元の姿に戻った時に、私を護れ。よいな?」
「…ごめいれい とあらば わたしは さからえませぬ」
「それで良い。元に戻ったら存分に働かせてやる」

子桓様の強い口調に逆らえず、下を向いた。
倉庫についたのか、私を腕から下ろし待機するよう促される。
暫くして、服を何枚か抱えて子桓様が戻ってきた。
一人で歩けるというに、また抱き上げられる。












「昨晩は、怖い思いをさせてすまなかった」

改めて仲達に謝罪すると、仲達は眉を寄せてむすっと頬を膨らませた。

「からだが いたみ なきそうなとき あなたさまが そばにいなくて… さびしかった」

そうしてそっぽを向く。
その仕草が愛らしくて、膨らませた頬をつつきながら改めて謝った。
愛らしいことだ。

自室に戻る。
小さな仲達を寝台に下ろした。
着替えさせる為に服を脱がせると細い肢体の、太股の脚に白濁の筋が伝っているのが見えた。

仲達からは何も聞かされていないが、どうにも顔色が良くない。

「…処理を、していないのだな?」

仲達に問うと、思い出したのか頬を染めて自分の丈に合わぬ夜着で体を隠した。



「じぶんで やります…」

仲達は私から後退り、距離をとる。
今の私に、仲達に触れる資格はない。

この小さな体に、余計な負担をかけさせたくはない。
頬を優しく撫でると濡れた瞳で見上げられる。

「今の私にはお前に触れる資格がない。終わったら声をかけろ」

そのまま部屋を出ようと立ち上がれば、小さな仲達が俯いて呟いた。
翻した外套の裾を、その小さな手で握っている。

「…もう ひとり は いや です」
「近う」

寝台に膝をついて抱き寄せ頭を優しく撫でると、おずおずとその腕の中に埋まった。

「私は何も見ない。終わったら服を着替えさせてやる」

仲達は頷き、吐息をついて私の腕の中で処理を始める。
昨日の情事後の体のまま縮ませてしまった事を悔いる。

目の前の仲達にさせていることは、子供の体には辛い事だろう。
処理が終わったのか、仲達は脱力し、私の肩に頭を凭れる。
白い肢体と敷布に、私の白濁がつたっていた。

よく頑張った、と褒めてやると仲達は疲れたように笑った。
白濁を拭い、唐突に仲達の顎を掴み口付けをする。


これが元に戻る方法。

徐々に成長していく体を見て、途中で唇を離した。
甄から聞かされてはいたが、元に戻る姿をこの目で見るのは初めてだ。
年齢に例えるなら四つか、五つくらいであろう体を少しだけ元に戻した。

見た目は年若い少女に見えるが、勿論仲達は男だ。
今の仲達は十を超えた年齢に見えた。

「しかん さま」
「やはりな……元の戻り方も聞いていたのだが、実際にこの目に見るまでは信じられなかった。
仲達が私にしてくれた事は、偶然ではなかったということだな」

きょとんとしている仲達に、ふっ、と笑い唇を指でなぞった。
其れで察したのか、仲達は頬を染めた。

「…くちづけ…で…?」
「そうだ…しかも、自らが好いている者の口付けでないと駄目らしい」
「すいて いらっしゃるのですか…?」

仲達が不安そうに尋ねるのを見て、頬に触れた。

「お前の他に誰がいようか」
「しかん さま…」
「私も…お前を好いている故、このように戻ることが出来た。お前も私を好いているのだな?」

仲達が私を好いていなければ、私も元の姿に戻れてはいなかった。
妙な劇薬ではあるが、互いの気持ちを確かめる事が出来るのは唯一の利点か。

「ちゅうたつ の みこころ は あなたさま だけ に」
「ふ、そうか。仲達」
「はい」
「今すぐ、元に戻りたいか?」
「しかんさま は」
「ん?」

仲達が私の手を取り、胸に当てた。
その手で頬に触れて撫でると仲達の表情が変わる。
頬を染めて私から目を逸らした。

「あなたは こんな ちいさな こどもに なにをする おつもりですか」
「…ふっ、そういう事か。心配するな、元に戻すまでは何もせぬ」

仲達の考えている事を察し、額に口付けを落とす。
いい加減寒そうなので服を着せてやり、その髪を結ってやる。

「さて」

そろそろ、と寝台から立ち上がると仲達がついて来る。
手を差し出せば、その手を握られた。

「何か食すか?それとも少し眠るか?」

体を気遣ったが、仲達の返事は『傍に居られるのなら何とでも』との事だった。

余り他人にこの仲達の姿を見せたくはない。

「では別邸へ赴く。なに…何か聞かれれば適当にごまかす故」
「はい」

手を繋いで、城下へおりた。


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