青天霹靂せいてんのへきれき 03

「私が戻れているかどうか、お前が確認するがいい」

その体で、と子桓様は命じられる。

瞳、頬、鼻、唇。
命じられるままに、腕へ脚へと指でなぞっていく。

一通り触れると、今度は子桓様に触れられた。

長らくこの方に抱きしめられていなかったような気がして、その手に甘えた。
口付けをして、それでもまだ足りないと深く深く舌を絡められる。

ようやく唇を解放された頃には、私の体はすっかり絆されていて、とろ、と下半身が濡れた。
それを察してか、子桓様が私の口の中に指を入れて掻き乱し、抜く。

片手で下半身の服を脱がされて、その濡れた指を後口に当てられる。
そのまま容赦なく、中に挿入された。

「ぁ、は…!」
「っ、さすがにきついか」

咄嗟に腕を回した子桓様の背中に爪を立ててしまった。
自分の体の苦痛より主君を傷つけてしまった申し訳なさが先立ち、その背中を摩った。

「申し訳、ありませ…っ、っ…!」
「確認せよ、身を持ってな」

良い、と促された後、指を増やされて抜き差しを繰り返される。
胸を吸われ、子桓様の舌で嬲られながら果てる寸前まで追い詰められる。


子桓様のを当てがわれた。
がちがちに反応しているそれが少しだけ怖くて、子桓様の胸元の服を握り目を閉じた。

私の不安を察してか、子桓様が頬を撫でて顎を掴み唇を合わせられる。
仲達、と囁かれてそのまま深く子桓様と繋がる。

最初の声は子桓様の口付けで溶けた。
そのまま舌を絡められながら深く強く腰を打ち付けられる。

何度か軽く私が果てても、子桓様は突き上げるのを止めない。
何をそんなに急いているのか、と思いながらその体の下で泣いた。

「…も、くる…し…」
「もっと泣いてみせろ」

仲達、と耳元で囁かれて心臓が煩い。
いつもよりも激しいその動作に声を堪え切れずにとめどなく涙を流しながら、子桓様に泣かされて意識を手放した。











私が次に目覚めた時、仲達は隣に居なかった。
どうやらあんな体で出仕したらしい。

休め、と言ったはずだが仲達は聞かなかったようだ。

情事の後のけだるさもそのままに、どうやら暫く眠っていたようで背中がひりひりと痛む。
仲達に爪を立てられた箇所が痛んだ。

余程無理をさせてしまったのかと少々胸が痛んだ。

「…愛らしいことよ」

ふと、仲達との情事を思い出した。
我ながら、酷く抱いてしまったと思う。

私らしくもない。
仲達に悪い事をした。
どうにも未だ感覚が不安定のようだ。

泣き顔を思い出す。
普段はつんと取り澄ましている軍師の顔が、私の口付けで甘く蕩ける。

誰にも見せたくはない。


どうやら、私は嫉妬をしている。
何に嫉妬をしているやら、と溜息をついた。

仲達はしきりに口付けをする事を強請っていた。
口付けてから、私の体が元に戻ったような気がする。

あの得体の知れない飲み物を飲めば、誰でもああなるのだろうか。
そして、口付ければ元に戻るのだろうか。




好奇心がわいた。
仲達は私の幼少期を知っている。
私は仲達の幼少期を知らない。

不公平ではないか。

例えばあれを飲ませたらと何となく考えはしたが、もしもの事を考えるとどうも気が進まない。







漸く昼の執務が終わった。
持ち帰る書簡を数点抱えて回廊を歩く。

体中が痛い。

常日頃、顔色が悪いと他の文官たちに言われてきたが。
今日は出仕してきた私を見るなり開口一番、部下たちに帰って下さいと言われた。

私が帰ったとてお前たちに代わりが務まるのか?と論じて事は収まったが、体調が優れないのは事実。

原因は一つしかない。
だがそれをあの方だけのせいにするのは何か違う。
私のせいでもある。自業自得だ。

故に、情事の後にそっと寝台を抜けた。
戻られたばかりなのもあってか、何処かまだ子供っぽさが残っている気がする。



長く歩くのが辛くて柱に体を凭れた。
体が痛むほど、情事を思い出してしまう。

顔が熱かった。



ふと、前方に人影が見える。

「何をしている」

思い出していた時に当の本人が現れたので、顔が更に熱くなった。
子桓様はふっ、と笑い私に近付く。

「思い出していたようだな?」

含み笑いで問う子桓様に少しは殴りたい気持ちを堪えつつ、何でもないとその場を去ろうとしたら脚がふらついた。

咄嗟の事に、子桓様が私を支え胸に埋める。

「あのような刻限にあのような事…」
「ふ……仲達、書簡をしっかり抱えておけ」

そのまま軽々と横抱きにされる。
書簡が落ちぬよう握りしめると、それで良いと目配せを受けた。

「何処へ…」
「今度は私が、仲達の傍で沿い寝をするだけだ。
なに、何もしないから安心しろ」

それから額に口付けられて一言すまなかったと言われて、何だかどうでも良くなりその腕に甘える事にした。

「…腕枕」
「ん?」
「…してください…」
「ふ、わかった」

少しばかりの我が儘を子桓様に押し付けて目を閉じた。

時刻は夕刻になろうか。









今日は大変だっただの、体が痛い、だの。
仲達を腕に抱いて寝かせ、一通り愚痴を聞いてやり、悪かったと一言謝ると拗ねられた。
謝って欲しいのではないらしい。

何だ難しいな、と仲達に詰め寄ると私に擦り寄り、触れるだけの口付けをされる。
そのまま押し倒しお返しとばかりに、額、頬、首筋に口付けを落とすと濡れた瞳が私を見つめた。

「…貴方様の前だけです…あのような姿を見せるのも、声を聞かせるのも…」
「あまり私を煽るな」

壊してしまう、と仲達の手を取り口付けると、それでも構わないと甘い返事が返ってきた。

魅力的な誘いだが、これ以上無理をさせたくはない。
今日はなるべく休ませたい。

「だが、お前の体を気遣うのも私の役目だ。今日はこのまま眠れ」

手首に口付け、寝台に沈めた。
そのまま眠った事を確認し、仲達が持ってきた書簡に目を通した。

「失礼。我が君、いらっしゃる?」

甄の声がして、上着を羽織り扉を開けた。
どこと無く深刻そうな顔をしているのが気になりそれを問うと、開口一番謝罪された。

見覚えのある、あの、飲み物。

「少しよろしいかしら」

甄が話しはじめた。











しまった、と思い目を覚ますと鈍痛が体に響いた。
どうやら今日は本当に調子が悪いらしい。

「目が覚めたか?」
「申し訳ありません…直ぐに支度を…」

まだ執務は残っている、と体を起こすと子桓様に額を指で押され再び寝台に寝かせられる。

「良い。今日はもう休め」
「嫌です。……貴方が行ってしまわれるなら、私はお傍に…」
「わかった。お前が望むなら、『私が』傍にいよう」

眠るまでな、と額を撫でられる。
どうやら子桓様は私の執務を引き継いで下さっているらしかった。
申し訳なくて恐縮していると、唐突に湯呑を渡される。

「薬を煎じ、お前の為に作らせた。飲めるか」
「そんなわざわざ…申し訳ありません…」
「どうという事はない」

丁重に受け取り、其れを飲むと不思議な味がした。
どちらかというと美味ではない。

子桓様のお気持ちを無下には出来ず、何とか飲み干す。



途端に襲い来る急激な眠気。

「…?」
「…全て、飲んだか」

子桓様が含み笑いをしているような気がする。
視界は直ぐにぼやけて、意識が遠くなった。













体中に痛みが走る。

骨が溶けているような痛みに肩を抑えて、薄目を開けて見上げれば部屋には誰もいなかった。

声にならない声は掠れ、体が熱く痛い。

「しかん、さ…ま…」



そのまま意識を失った。


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