恋人こいびとになるまでの定義ていぎ 02

ごっこ遊びをしているつもりはない。
つもりはない、のだが。
仲達とは口付けだけの関係で止まっていた。

仮の恋人関係。
仲達が私を好きになってくれるまで、愛していると言ってくれるまでは手が出せなかった。
これ以上手を出していいものなのかと私自身も戸惑っている。
第一に、思いが通じた仲達の体も心も傷付けたくなかった。

張コウには年上相手に過保護過ぎるのでは、と詰め寄られ。
郭嘉にはあなたって意外と純粋なんだね、と笑われた。
彼等でなくとも、私と仲達の関係を知っている者は少なからず居て何かと我らは案じられていた。

張コウの仲達への好意は問題ないだろうが、郭嘉の仲達への興味は気になる。
あれは悪ふざけなのか、本気なのか解らない。

背中を押されているのか、からかわれているのか。
それもよく解らなかった。


仲達を守らねばと、私は必死なのだろう。
自分に余裕がないのが解る。





仲達は私が口付け以上を求めていないとでも思っているのか、無防備に私に心を許して甘えさせてくれた。
正直、年下だからと子供扱いされている気がしないでもない。


仲達に私は何処まで許されているのか、試してみたい。

執務が終わった後の夕刻。
室の長椅子で隣に座る仲達の腰を引き寄せ、そのまま胸に埋めた。
書簡を読んでいた手を取り、指を絡めるように手を繋ぐ。

「…子桓様?」
「逃げるな、よ」
「逃げる…?」

仲達の胸に手を当てながら唇を合わせ、少し椅子の背もたれに押し倒す。
舌を深く絡めるような口付けは数えるほどしかした事がない仲達を怖がらせまいかと、唇を離して様子を見た。

「…っ、ふ…ぁ…?」
「ふ、物足りぬか」
「いきなり、そんな」

頬を赤くして仲達は唇を拭い目を反らす。
嫌がられている訳ではないのだろうが、慣れてはいないようだった。

「…嫌では、ないのだな」
「子桓様、なれば」
「っ…、そうか。もう少し、しても?」
「…明るい所は、嫌です…」

仲達は不意に袖で口元を隠して下を向いてしまった。
頬を染めた赤い顔をこれまで何度も見ているだけだった私だが…。
私はもう子供ではない。


そのまま仲達の手を引き、奥の寝台に押し倒し胸元に手をかけた。
仲達は少し驚いたような様子を見せて、私を見上げる。
その唇に再び口付けながら、胸元に手を入れて首筋を吸った。
仲達が身動ぎ、私の頬に触れる。

「子桓、さま?」
「…私はもう子供ではない。お前とて解っていよう」
「はい…。しかし、私は男…、ですよ」
「私が好きになったのはお前だ。やり方が解らぬ訳でもない」
「やり、方…?」
「初めて、なのだろう。それとも戯れだとて…誰ぞに抱かれたか」
「…そんな事、私が許す訳がないでしょう…」
「そうだな…。愚問であった」

仲達の胸に唇を寄せて、乳首を吸うと仲達は目を強く瞑り唇を噛んだ。
恥ずかしくて堪らないのか、両手で顔を隠している。
幾度かそのように仲達の胸ばかり吸っていたら、仲達の息が荒くなっていた。
顔を隠している手をどけると、仲達は眉を寄せて顔を真っ赤に染めていた。

「は…ぁ、そんなに…吸われましても、乳など出ませぬ…」
「だが、感じているのだろう?」
「…解りませぬ」
「触っても、いいだろうか」
「…これ以上、何処を?」
「鈍いのか、わざとなのか…解らんな」

息を荒げながら首を傾げる仲達の下半身に服の上から触れると、目を見開いて私の手を退けた。
今までにない仲達の反応に驚き、仲達を見た。

そのまま仲達は体を起こして寝台の奥の壁際まで退く。

「駄目です…汚い、です」
「そんな事、ない」
「駄目、やめて…子桓様…っ」
「っ…!」

仲達に詰め寄り、そのまま下半身に触れて勢いのまま抱くつもりだった。
嫌がられていないと思っていたのだが、それは私の思い違いだったようだ。

私に押し倒された仲達は小動物のように怯えて震えていた。
決定的だったのは、仲達の言葉だった。

「…悪かった。もう何もしない」
「…子桓、さま…?」
「もう何もせぬ。手を」

乱してしまった服を正して、仲達の手を引き寝台から起こした。
髪を結い直し、仲達に冠を被せる。

「子桓様、私は…」
「…恋人だと思っていた」

そう思っていたのは私だけだったのだろう。
仲達にとって私は公子であって、特別ではない。
何よりも大切にしたかった者を怖がらせてしまった。
仲達を見送り部屋に戻って深く後悔した。

もう触れられない。
これ以上、傷付けてしまう事が怖い。
仲達の怯えた瞳が忘れられなかった。







最近、司馬懿殿が一人で居る所をよく見かける。
いつも傍に居た筈の曹丕殿が居ない。

曹丕殿が司馬懿殿を伴っている所も見なくなった。
恐らくは二人の間に何かあったのだろう。


少し思い悩んだ様子で溜息を吐いているのを横目で見ながら、執務室で賈ク殿を小突いた。

「どう思う?」
「何が?」
「司馬懿殿さ」
「いや、別に。相変わらず真面目に執務をしてくれてますよ」
「あれは恋に悩んでいる顔だよ。綺麗な顔に曇りがかかっている」
「あー、はいはい。そっちの話ですか」
「ちょっと話してくるよ」
「あんまからかいなさんな」

ひとり静かに書簡に筆を走らせている司馬懿殿を見ながら、書簡をまとめて歩み寄った。
司馬懿殿は私に気付いて少し頭を下げると、礼儀正しく筆を置いた。

「私に何か」
「少し私と話さない?」
「はい。構いませんよ」
「おや、珍しいね」
「…最近、時間が出来ましたから。家に帰れる時間も増えました」
「…何かあったの?」
「ええ、少しだけ」
「そっか。私で良かったら話を聞くよ?」
「…はい」
「!」

そう言って司馬懿殿は先に執務を終わらせますと言って、筆を持った。
じゃあ後で一緒に夕餉を食べようと提案すると、司馬懿は少し笑って頷いてくれた。

賈ク殿の隣ににこにこした表情で戻ると、賈ク殿が私の頬を筆の柄で小突く。

「今晩、司馬懿殿とご飯してくるよ」
「あんまからかいなさんなよ。あの人は真面目なんだからさ」
「先輩として話を聞いてあげようと思ってね」
「話、ね。あのお堅い司馬懿殿がへらへらした郭嘉殿に素直に話してくれるか、ね」
「はは。私だってやる時はやるよ」
「節度ある話し合いをお願いしますよ。
 司馬懿殿の背後に誰がいるか解らん訳でもないでしょう」
「曹丕殿か。最近、見かけないけどね」

司馬懿殿の横顔を見ながら筆を進めて、早々に執務を終わらせた。
いつもそれくらい頑張って下さいよ、と。
賈ク殿に愚痴られながら執務を終えた司馬懿殿を連れて執務室を後にした。






先ずは最近の執務の話を聞きながら食事を終えて、
静かな所で話を聞こうと司馬懿殿の肩を抱いて私の部屋に招いた。

「私と二人きりは初めてかな」
「そうですね」
「何か飲む?」
「お構いなく…」
「酒は苦手だっけ。茶で良い?」
「茶なら私が煎れますよ」

酒好きな私の部屋には酒ばかりだ。
司馬懿殿の飲める物をあさっていたら茶葉くらいしかなかった。

茶は司馬懿殿に任せて、私は書簡が散らかっている卓を片した。
暫くしたら司馬懿が茶を持ってやってきたので、向かいに座るように促す。

「どうぞ」
「ありがとう。良い香りだね」
「これ…全て、兵法書ですか?」
「うん。読みたい?」
「はい」
「なら司馬懿殿にあげるよ」
「よろしいのですか?」
「私は全部頭に入ってるからね」

茶を飲みながら普通にそう言うと、司馬懿殿が少しぽかんとした顔をして私を見ていた。
首を傾げながら司馬懿殿に手を振ると、はっとして顔を下げた。

「私はまだ、郭嘉殿の足元にも及びません…」
「そうかな。君は頑張っていると思うけれど」
「私が初めて見る兵法書ばかりです」
「そうだろうね。これは敵軍から奪った兵法書だから」
「敵軍から…」

司馬懿殿は一つの書簡を取り、紐といて文字を目で追った。
司馬懿殿の隣に座り、その文字を指でなぞる。

「郭嘉殿のお考えには目を見張るばかりです」
「例えば?」
「例えば…、そうですね。
 敵軍の数が多く自軍の攻城兵器が足らない時の城攻めはどうしますか?」
「そうだね。その敵軍は兵器を持っているの?」
「はい」
「なら奪って使うかな。敵軍の兵器奪取後、そのまま本陣を攻撃。
 または正面を避けて裏道から本陣に急襲をかけて…。
 正面の敵軍が少なくなったら此方の攻城兵器で門を破る、とかね」
「…敵軍も郭嘉殿は敵に回したくないでしょうな」
「はは。使える物は何でも使うよ。それが敵軍の物でもね」
「勉強になります」

司馬懿殿の策はまだまだ考え方が固い。
もっと柔軟に広く戦場を見てごらん?と助言すると、司馬懿殿は深く頭を下げた。




その白い肌の頬に、ぷにと指で小突く。

「さてと。で、どうしたの?お兄さんに話してごらん?」
「話…」
「曹丕殿と何かあった?最近、一緒に居るのを見ないけど」
「……、はい」

司馬懿殿は頬の指を退けつつ、茶器を少し強く握り締めて俯いた。
とても小さな声でぽつりと司馬懿殿は話を始めた。

誰にも言わないで下さい、と司馬懿殿は念を押したが私は元より周りは大概二人の関係を知っている。
殿だって知っている話だ。

生返事をしつつ話を促すと、司馬懿殿の頬が真っ赤になっていた。
恥ずかしそうに司馬懿殿は話す。

「…子桓様に、体を…求められました…」
「へぇ、そう。良かったじゃない。漸く恋人らしくなったね」
「子桓様なら良いと、思ってはいたのですが…。
 ですが、私は途中で怖くなってしまって…、子桓様を拒んでしまいました…」
「…うん、それで?」
「それで、子桓様は私に嫌われたと思い…距離を取っているのです。
 恐らくもう、恋人でもないと…」
「はは。拗ねている子供みたいだね」

曹丕殿も存外まだまだ子供っぽい。
しかし子供が二人もいる既婚者なのに司馬懿殿は想像以上に鈍く、生娘のような反応を見せる。
恋をする前に親に結婚させられてしまったから、きっと恋をして恋人同士になった事などないのだろう。

「…私の覚悟が足りなかったのです。私が悪い…」
「それは違うよ。誰だって初めては怖いさ」

自分の覚悟が足らなかったと、自分を攻める司馬懿殿がいじらしい。
可愛い人だな、と思いながら肩を引き寄せた。







「私で良かったら、練習相手になるけど」
「練習…?」
「初めては怖いんだよね?」
「…っ、駄目です…、私は郭嘉殿と、そのような関係になるつもりは…」
「良いよ。最後まではしないから。君だって曹丕殿の恋人だって定義づけたいのだろう?」
「それは…」
「実際、司馬懿殿は曹丕殿の事をどう思っているの?王子様って感じ?」

戸惑う司馬懿殿に詰め寄り、冠を取って髪紐を解いた。
さらさらと流れる綺麗な黒髪を指ですくい、胸元の釦を外して胸に触れる。

くぐもった声で司馬懿殿は頬を染めて、私を見上げた。

「愛して、います…。誰よりも…」
「ふ…、本人に言ってあげて。今度は君から告白するんだよ?」
「…善処します…」

司馬懿殿の言葉に主語がなかったので、私に言われたのかと一瞬戸惑った。
整った顔立ちの司馬懿殿が頬を染めて、切れ長の瞳は潤んで濡れて色っぽい。
無防備に男なら抱かずにいられない顔を無意識にして…。

こんな顔を見せつけられて、曹丕殿は口付けまでしかしていないと言うのだから大したものだ。
恐らくは欲望のままに体を抱いて、司馬懿殿を傷付けてしまう事を恐れている。
本当に大切だから、手が出せないのだろう。

「…私ならもうとっくに抱いてるのにね」
「…?」
「私が抑えられなくなったら、抵抗して」
「?」
「君は少し初すぎるね。目を閉じていて」

首を傾げながらも司馬懿殿は目を閉じる。
先程の茶器に湯と蜂蜜を溶かして司馬懿殿に飲ませた。
司馬懿殿にはこれが何かを伝えない。
ぼんやりと目を開けて見つめる司馬懿殿の手を引く。

「寝台までおいで」

司馬懿殿の手を引き、そのまま足をかけて寝台に押し倒した。





司馬懿殿に深く口付けながら胸を弄り、脚を開かせた間に体を入れた。
司馬懿殿は惚けた顔で私にされるがままになっていたが、手は敷布を握り締めていた。

矜持の高い司馬懿殿にとっては屈辱なんだろう。
私の身分を気にして黙っているのか、それとも曹丕殿の為に堪えているのか。
何れにしても司馬懿殿の目尻には既に涙が伝っていた。

絶対に心までは開くものか。
そう顔に書いてある。まるで私が司馬懿殿を脅迫しているような心地だ。
まぁ、確かに…やってる事にそう変わりはない。

「…そんなに好きなら、早く想いを本人に伝えなよ?」
「郭嘉殿…?」
「人の心はなかなか思い通りにならないね。口付けられたら、応えてごらん?
 君が一生懸命なのはとても可愛いと思うから」
「…ですが、貴方は子桓様じゃ…」
「はは。やっぱり私じゃ嫌なんだね?」

定義づけなくたって、司馬懿殿と曹丕殿はとっくに両想いで恋人だった。
ただ司馬懿殿が素直じゃないだけで、真に受けた曹丕殿が距離を置いている。
二人ともお互いが大切すぎて距離を取る。

司馬懿殿の態度は心が通っているが、曹丕殿の為にこのままじゃいけないという思いも伝わった。
先程飲ませた蜂蜜を蜂蜜と伝えず、司馬懿殿の体を乱す方法がある。

「先程君に飲ませたもの、何だか解る?」
「…?」
「あれは媚薬なんだ。そろそろ苦しい?」
「なっ…!?ゃ…!」
「ああ、もうこんな風にして…口付けだけで感じたの?」
「ゃ、め…、触らない、で…下さ、い」
「凄く熱くて、固いよ?」

物は言いよう、考えようとはよく言ったものだ。
司馬懿殿はあの蜂蜜を媚薬だと信じ込んでいる。
それを聞いてから司馬懿殿の息が上がり、薄い胸を深く上下させていた。

直に触れようにも、司馬懿殿の服は脱がしにくくて面倒くさい。
特に下半身の布の多さに悪意を感じる。

「…ねぇ、司馬懿殿」
「?」
「君の服って、もしかして曹丕殿が選んだの?」
「子桓様と…、妻が」
「ああ、成る程。君って結構沢山の人に愛されているんだね」

そう言えば司馬懿殿にはとても麗しいおっとりとした美人の妻が居たのだと、今更ながらに思い出した。
上半身ははだけさせられたが、下半身の布の多さに脱がすのを諦め下穿きを緩めて直に触れた。

勃ち上がっているのを少し擦っただけで、司馬懿殿は体を震わせる。
声を出すまいと両手で口を抑え付けて、涙を流していた。




そんな司馬懿殿の頭を撫でながら額に口付けつつ、後ろの方に指を這わせた。
司馬懿殿の体が反応して震える。

「…司馬懿殿」
「は、い」
「力抜いて?痛くしないから」
「中は…、嫌…です…」
「ああ、何処に何を入れられるかは解ったんだね?」
「…初めて、は…」
「知ってる。最後までしないから、ね?それでも怖いなら止めようか?」
「…嫌、です…」
「もう、我が儘だね。解さないと本当に腰を痛めるよ?」
「だっ…て、怖…っ」
「ほら、力抜いて。ちゅーしてあげるから」

泣いたら可愛いなぁと思いながら、司馬懿殿に口付けて指に潤滑油を塗って中に指を一本だけ入れる。
本当に初めてなんだろう。
司馬懿殿の体は強張っていて、指一本すらなかなか奥までは入らなかった。

口元を抑えている手を退けて優しく口付け、体の緊張を解くように舌を絡める。
先程の私の言葉を聞いてくれたのか、偽りの媚薬効果か解らないが司馬懿殿から辿々しく舌を絡めてくれた。
小さく私の襟元を握り締めて、顔を真っ赤にして体を震わせていた。

「参ったな…」
「?」
「本当に、曹丕殿が好きなの?」
「ぁ、くっ…!」

私だったらもっと君を大切にするのに。

指を二本に増やして中で指を曲げた。
此処には前立腺がある。傷みよりは快楽の方が強い筈だ。
潤滑油のお陰でまだ傷付いてはいないらしい。
ひたすら苦しそうに眉を寄せて司馬懿殿は唇を噛む。



ぽろぽろと零れ落ちる涙が止まらない。

本当はひとりの男として欲望のままに司馬懿殿を抱いてしまいたい。
だが私が其処まで司馬懿殿に手を出してしまったら、曹丕殿は元より司馬懿殿を深く傷付ける。

唇を噛んで声を堪える司馬懿殿が可愛らしいけれど、見ていられない。

「駄目だよ。傷になってしまう。声が嫌ならこうしよう」
「ら、にっ…?」
「私の指なら噛んでもいいからね?」
「らめ、れ…す…」

私の腕の中にいる司馬懿殿は、人の為に自分を犠牲に出来る人だ。
私に体を好き勝手にされながら、口に入れている私の指を噛もうとはしない。

冷たい目線を向けながら、本当は誰よりも優しい。
故に大切な物の為に手加減はしない性格なんだろう。
ある意味、軍師に向いているのかもしれない。

「君は少し、殿に似ているところがあるね」
「…?」
「それとも、曹丕殿に似ているのかな?それとも曹丕殿が司馬懿殿に似たのかな?」
「そんら、こ…と」
「もう大分解れたね?」
「っ…ぁ!」
「痛っ…」
「!!」

指をぐっと奥に入れた時、司馬懿殿が勢い余って口の中に入れている指に八重歯を立てた。
じわりと滲む痛みと血に少し顔を歪める。
司馬懿殿からゆっくり指を抜いて手を拭う。

「申し訳…ありませ…っ」
「はは。そんなに怯えないで。怖かったね?」
「…ごめんな、さい…」
「大丈夫だよ。私は怒ってないから。ね?」
「……。」
「どうしたの…?」

司馬懿殿が眉を寄せて、私の手を握る。
血が滲んだ指を見て舌を這わせ、司馬懿殿が口に含んだ。
こんな事、仕込んだつもりはないのに。
余りにも無防備な姿に心配になる。


再び司馬懿殿を押し倒そうとするのも腰が引けて、そのまま司馬懿殿の背を私の胸に埋めた。
服を着たままとはいえ、司馬懿殿のが勃ち上がっているのが解る。
首筋に凭れて、司馬懿殿は苦しそうに息を漏らしていた。

指だけじゃ、同性同士の性交の準備にならない。
慣らしにもならないだろう。

余り使いたくはなかったけれど、枕元の戸棚から木箱を出した。
司馬懿殿が首を傾げて、とろけた瞳で私を見上げる。

「…曹丕殿のなんて見た事ないから、私には大きさが解らないけれど」
「!!?」
「これはそういう玩具だよ。本来は女性を弄ぶ物だけれど…」
「嫌、です…こわ、い…」
「初めてはきっともっと痛いよ?慣らしておきたいんじゃなかったの?」
「でも…」
「君が言った事だよ?」

木箱から出したのは男性器を象った木彫りの玩具だ。
それの先を司馬懿殿の秘部に見えるように当てると、司馬懿殿は私の手首を掴んで首を横に振った。

「そんな恐ろしいもの、入りませ…ん…」
「でも、入れるよ。君が言い出した事だからね?」
「…っ、く」
「君が怖いなら、口付けていてあげる」
「ぁ、あ…、ぁあ…!」

司馬懿殿にゆっくりと押し当てるとそのまま一気に中に挿入した。
執拗までに潤滑油で解した中はどうやら傷付いていない。



司馬懿殿のくぐもった声を聞きながら、額に口付けて腰を抑えつける。
深く中を突いて抜き差しを繰り返すと司馬懿殿は私の胸に埋まって涙を流していた。
痛みではなく、自分の体がどうにかなってしまう事が怖いのだろう。

「抜いて、下さ…、何か、き…て…!」
「もしかして、気持ちいいのかな?」
「ちが…、ぅ、…違います…っ」
「果てたら、約束を破る事になるね?」
「っ…!」
「自分で抑えていられる?縛ってあげようか」
「…郭嘉、どの…っ虐めないで、下さ…っ」
「虐めてないよ?寧ろ可愛いがっているつもりなんだけどな…。
 此処に当てると気持ち良くなるんだよ。男でもね」
「やぁ、ぁ…、ぁ…!」

果てたら曹丕殿を裏切る事になる。
そう司馬懿殿に言うと、司馬懿殿は自分のを戒めて果てぬように強く握り、私の胸に埋まる。
肩で息をして涙をぽろぽろと流す。


司馬懿殿の嬌声なんて初めて聞いた。

「玩具でも感じるんだね…?」
「もう、や…め…っ」
「…じゃあ、止めるね」
「…っは、ぁ…あ…」

虐めているつもりはないのだけれど、正直司馬懿殿の体は限界だろう。
股が湿って、少し白く汚れていた。



というか、正直私が限界だった。
据え膳なのに手を出せない。

手を出してしまったらいけない人、好きになってはいけない人。
そう思えば思うほど、想いは募るばかりだったが私はそれ以上何も言わなかった。








寝台にゆっくりと司馬懿殿を寝かせて上着をかけた。
司馬懿殿は余韻に体を震えさせて泣いていた。
果てる寸前で止めているのだから、苦しくて堪らないのだろう。

「酷い事をしちゃったね…。大丈夫、じゃ、ないね…」

生憎、私も軍師だ。
同じような体型の司馬懿殿を抱き上げるのは正直厳しい。

「運んであげたいんだけどね…」
「司馬懿殿、司馬懿殿は居られませんか?」
「…?」
「ああ、丁度良いね。張コウ将軍かな。君を探しているみたいだ」

曹丕殿にでも頼まれたのか、はたまた司馬懿殿の細君か。
司馬懿殿の身を案じた張コウ将軍の声が廊下から聞こえた。

張コウ将軍は確か、司馬懿殿と仲が良かった筈だ。
司馬懿殿の服を簡単に整えて、廊下に出た。

「張コウ将軍」
「おや、郭嘉殿。夜分申し訳ありません。
 司馬懿殿をお見かけしませんでしたか?
 曹丕殿が夕刻から姿が見えないと心配されていて」
「司馬懿殿なら私の部屋にいるよ」
「…貴方、まさか」
「いや、最後まではしてないよ」

あからさまに私の不貞を疑う張コウ将軍に訳を話して、部屋に入れた。
張コウ将軍は溜め息混じりに司馬懿殿を軽々と横に抱いた。



「…張コウ…?」
「曹丕殿の為になんて…、無理をし過ぎです」
「っ…子桓様は…?」
「夕刻から姿が見えないと、とても司馬懿殿を心配されていますよ。
 貴方から距離を取った事をとても後悔しておいでです」
「そう、か…」

司馬懿殿を心配して、張コウ将軍が優しく声を掛けた。
張コウ将軍は張コウ将軍とて、司馬懿殿を慕っているのだろう。

「体は大切になさいませ。せっかくの美しさが台無しですよ」
「ごめんね。司馬懿殿を頼んだよ」
「私にお任せを。貴方の行いに感心は出来ませんが、どうか無理をなさらずに…」
「はは、ありがとう」

張コウ将軍に手を振って、扉を閉めた。
扉に凭れて目を閉じる。




「狡いなぁ…。どうして私じゃないんだろう」

思わず声に出た言葉に苦笑し、寝台に横になって静かに溜息を吐いた。


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