飼い主で、母親で、恋人。
真夜子はオレにとってそういうもので。
唯一無二の、俺の魔女。
この恋がずっと続くように、っていつも思ってる。
これはとある、西の都での話。
左右瞳の色が違う黒猫を拾った。
水神が棲む沼から、それは小さな黒い子猫じゃった。
「強うおなり。妾を護れるくらいにの」
まだわらわには、騎士はなく。
子猫もようやく大きくなった頃、言ってみた言葉。
『真夜子、おれ、名前がほしい』
「そうじゃな 「千両」
どうじゃ ぜいたくな めでたい名であろう」
「千両や」
その日から俺の名前は「千両」になった。
あれから三百年経った、ある春の日。
西の都、京都。
「千両や」
「ん?」
俺はあれから 猫又 になった。
理由はひとつ。
真夜子とずっと一緒にいたいから。
「何か考えことかえ」
『いや、えっと…何でもない』
「何じゃ」
『えと…』
「そなたは嘘が下手じゃな、千両」
おいで、と伸ばされた手を取って傍に座る。
猫の姿の俺の視界には、琥珀色の瞳の真夜子だけ。
「今日は、猫の姿でなくて良い」
『え、だって』
「せっかくの花見じゃ」
「そっか」
何だか照れくさい。
だっていつもは猫の姿のままだったから。
こうして、人の姿で一緒にいれるのはすっげぇ嬉しい。
「いい陽気じゃ、春じゃの」
「俺はどの季節だっていいよ」
「何じゃ、つれないのう」
「だって、俺には真夜子が居ればそれで」
「…なんじゃ、口説いておるのか」
「俺はいつだって真夜子が好きだって」
黒薔薇に言ったらきっと、「千両くんキモい」とか言ってどつかれるだろうけど。
真夜子の前でだったら、2人きりならいいかなって。
「千両、近ぅ」
「ん」
「昼寝には何ともいい日和であろう?」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
ちりん。と耳の鈴が鳴り。
妾の膝に、淡い桃色の髪の男を寝かせて。
仰ぎ見るは、満開の桜と俺の頭を撫でてくれる真夜子。
「このまま、眼、閉じてたくないかも」
「なんじゃ、わがままじゃのう」
「だって、こういうの久しぶりだし」
「では…」
瞼に口づけて、おやすみと。
「俺、真夜子の夢見るよ」
「それはよい夢じゃな」
また頭を撫でられて、うとうとと。
飼い主で、母親で、恋人。
「今、そなたにとって妾は母親、かのう?」
膝の上で眠る、妾の騎士。
「妾は、恋人がいいのう」
どうかこの恋が、ずっと続くように。