りえる未来みらい

ここに歴史の書物がある。
これを読めば、お前たちの未来、死後を知ることになる。











「だ、そうだが。」
「くだらんな。死後の世界を知ってどうする」

曹丕と石田三成が、幕舎で地形図を広げながら軍議と決め込んでいたところ、思わぬ来客があった。太公望である。

太公望曰く。

「ここにお前の生きた時代を記した後世の書物がある。
つまりは未来の出来事について書かれている。
これを読み未来を知りたいか、人の子らよ。」

そう言って、1つの書物を投げて去った。

「読むも読まないも、好きにするがいい。」



書物には『三国志』とある。

「オレはお前の未来を知っている。だが話そうと思ったことはない。」
「先の未来など、行き着く先は死しかあるまい。」
「曹丕。ひとつ忠告しておいてやろうか」
「仲達のことであろう」
「…書物を読んだのか?」
「さて、な」

三国志を手に取り、曹丕は幕舎を出た。
すると物陰に司馬懿と左近がいた。何やら話し込んでいる様子だった。

「島左近よ、お前は未来の日の本の国の人物であろう。」
「まぁ、あんたたちからしたらだいぶ未来の人間になるんじゃないですかね」
「ふむ。一先ずこの世界のことは省いた話をするが良いか。」
「おや、何ですか珍しい。というかあの曹丕さんに言えない内容なんで?」
「…まぁ、聞け」

隠れるつもりもなかったが、何となく気になるので物陰で耳をすませていたら隣に三成もやってきた。
にやりと三成が笑い曹丕に言う。

「噂をすれば何とやら、か。あいつらが話し合いなんぞ珍しい」
「…私に話せない内容と言うのが気になってな」
「何だ嫉妬か、曹丕」
「嫉妬も何も、あれは私のものだ」

ぬけぬけとよく言う、と三成が曹丕に言うか否か。司馬懿が話した。

「魏・呉・蜀、この時代はこの先どうなる。」
「ああ、なるほどね。それをあんたが聞きますか。
教えてあげてもいいんですがね、先を知ってどうするんです?」
「…やはり止めておく。忘れてくれ」

羽扇で自分の頭を冷やすように扇ぐと、左近に向き直った。
曹丕は神妙な顔をして司馬懿を見た。三成は曹丕の様子を伺っている。

「未来とは、自分の手で掴み取るものよ。」
「ま、あんたらしいね。うちの殿もそんな感じですから」
「そう言えば、石田三成とはどのような人物なのだ?」
「おや嫉妬ですか司馬懿さん。最近曹丕さんにべったりですからねうちの殿は」
「ば、馬鹿めがっ!違うわ!私は同じ軍略を扱う者としてだな」

「まだ出ない方がおもしろそうだな曹丕」
からかうように言ったつもりが、曹丕に睨まれて三成は黙る。

「仲達はやらんぞ」
「いらんわあんな腹黒」

子供かと三成が毒づきながら曹丕に言った。
曹丕は未だ機嫌が悪いようだったが、司馬懿の言葉で顔が綻ぶ。

「私の主は生涯、曹丕殿と決めている。殿は殿、であるがな。」
「おやおや、これはこれは言ってくれますねぇ。」
「お前もそうではないのか」
「そりゃあね。うちの殿もほっとけない御仁なもんで」
「良い主を持ったではないか」
「あんたは違うんで?」
「主ではあるが幼少時の頃よりお仕えしている故、その何というかだな」
「あ、手がかかる子ほど可愛くて仕方ないって奴ですか?」
「う…いやそうではない!きっとそうではないはずだが」

顔を赤くして訴える司馬懿を笑いながら左近は言った。
腹を抱えて必死に笑いを堪えている三成を尻目に、曹丕が滅多に見せない笑みを見せた。
手に持っていた三国志をかがり火に投げる。直ぐに燃えて灰になった。

「よかったのか、曹丕?回避すべき危機も予測出来たであろうに」
「未来は私の手の中にあるのでな」

物陰から出て、司馬懿と左近の方に向かった。三成も続く。
少し驚いた左近の隣、逃げようとする司馬懿を曹丕が捕まえて話した。

「子桓様…き、聞いておられたので?」
「さぁて、な。」
「殿!曹丕さんも」
「内緒話ならもっと本人から隠れてすべきなのだよ」

其々の主従に向き直る。

「陰口ではなかったようだがな」
「そりゃあそうでしょ。殿と曹丕さんの陰口なんて恐ろしくて出来ませんわ」
「よくわかっているではないか」
「しかし立ち聞きは礼儀に反しますぞ、子桓様」
「お前は私が可愛くて仕方ないのか?仲達」
「い、いや、ですからそれは違っ」
「私はお前が可愛くて仕方ないがな」
「自分の国で帰ってやってくれ曹丕」
「では、そうするとしよう。行くぞ仲達」
「え、ちょっ…」
「はいはい。御馳走様でした」

司馬懿を肩に担いで帰る曹丕を見送って、三成が左近と向き合う。
太公望からの『三国志』の話を左近に説明した。

「成程ね。まぁ、司馬懿さんは結局見てないんじゃないんですかね」
「あの男はいずれ魏を裏切る。曹丕も気付いているようだがな」
「それでも尚、曹丕さんは手にしておきたいってことでしょ」
「独占欲は人並み以上だからな」
「それに今日さんっざんお二人に惚気られましたからねぇ」
「全くいい迷惑だ。左近はオレのものだというのに」
「おや、妬いてるんで」
「違う!」
「ははっ、わかってますよ殿」























「坊や、人の子は書物を見て何て言ってたのだ?」
「何というか、見せ付けられただけだった」
「何だ坊主がやりこめられたのか」
「…疲れた。人の子はわからん」

こっそり話しを聞いていた三仙は、そっと陣営を去るのだった。


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