唐突に、箱の蓋が開いて中から小娘が現れた。
水が入っていた筈の箱には、ガラシャが丸まって入っていた。
咄嗟に私を護るように前に立つ子桓様に苦笑しつつ、頭を下げてガラシャの傍に歩み寄る。
何故、貴方様が前に出てしまうのか。
「ほむ!司馬懿殿!」
「何をやっているのだお前は…」
「明智光秀の娘ではないか」
どうやらまた箱に入って紛れ込んでいたようだ。
小娘の手を引き箱から出してやると、私の腰に抱き付くようにしてくっつく。
先日、小娘を助けた時からどうにも懐かれてしまったらしい。
子桓様がふ、と笑い席を立つのを見て背中を追った。
私の背をガラシャが雛鳥のようについて来る。
「何処へ行かれます」
「光秀に返す。孫市が居れば奴に任せる」
「子桓様自ら呼びに行かれずとも、私が」
「ほむ?」
「ふ、随分と懐かれているようだな。故にお前に任せる」
「ですが」
「子守は得意だろう仲達。小娘を伴い陣地を移動するのは危うい。お前は留守を守れ」
「っ、なればせめて誰か供をお付け下さい」
「曹丕殿は司馬懿殿が好きなのじゃな」
「ああ」
「っ…、何を仰る」
唐突な一言に、子桓様はさらりと答えを返した。私が動揺する暇すら与えてはくれない。
小娘と子桓様、何処か似ている二人が揃うとどうにも調子が狂う。
混沌とした世界で離れ離れになり、一度ならずとも敵対し刃すら交えた。
それでも互いに本音では元に戻りたかった。
私が子桓様に敗北し引き抜かれた今、出来るなら成る可く別行動は避けたい。離れたくなかった。
それに私以外に供をつけると言うのなら恐らく、あの男だろう。
「ならば、三成を」
「…でしょうね」
「ん?」
「さっさと行かれたらよろしいでしょう」
「何を怒っている?」
「別に」
「ほむ。司馬懿殿は解りやすいのぅ」
「煩い。あの狐だけでは供として頼りないので、島左近もお付け下さい」
「?、ああ、解った」
「では」
それ以上の話をせずに、小娘の手を引いて奥の部屋に移動した。
曹丕様には三成がいるのだから、私は必要ない。
三成と左近が呼ばれて来たのを見計らい、私は姿を見ずに小娘を連れて扉を閉めた。
「司馬懿殿は、曹丕殿が好きなんじゃのう」
「煩い」
「何だか信長様と父上のようじゃ」
「主従だと、そう言いたいのか」
「ほむ。じゃが、司馬懿殿の瞳は乙女のようじゃ」
「う、煩いぞ小娘」
「む、すまぬ。…わらわを嫌いにならないで欲しいのじゃ」
「そんな事で嫌わぬ」
「ほむ!良かったのじゃ」
上機嫌で私の手を繋ぐガラシャは何処か埃まみれだ。
ガラシャが箱にどれ程入っていたのか知らないが、あちこち埃だらけだったので叩いてはらう。
赤い髪にも埃がついてしまっていた。手でぱたぱたとはらう。
「そなた、湯でも入ってきたらどうだ」
「では、司馬懿殿も!」
「ば、馬鹿か貴様は!私は男だ」
「ほむ。でもよいのじゃ」
「よくはないだろう。そなたとて、女なのだから」
一緒に湯浴みをすると言って聞かない小娘を言い負かせ、何とか一人で入って貰う事になった。
頬を膨らませながら布巾を持ち、何とか湯浴みに行ってくれた。
子桓様らの居ない屋敷は随分と静かで、誰に畏まる訳でもない。
寝台に横になり、冠を脱いで寝転んだ。
先程まで戦場に出ていたせいか、私も何処か埃っぽい。
正直、少し疲れている。
己の身の振り方や、戦での立場。随分と複雑な世界だ。
湯浴みくらい一人で大丈夫だろう。小娘が帰るまで少し眠る事にした。
三成、左近らと共に近くの陣地にいるであろう織田信長の陣に向かう事になった。
そこに明智光秀らがいるらしい。
「随分と司馬懿に嫌われたものだ」
「はは、しかし本当に解り易い反応でしたね」
「何の話だ」
「…司馬懿も手を焼く訳だな」
馬で向かう最中、三成は苦笑して私の隣を歩む。
道中、見覚えのある姿が見えて手を挙げた。
「曹丕様、左近!お久しぶりです!」
「昭ではないか」
「御無沙汰しております。父上を探しているのですが、御存知でしょうか」
「久しいな師よ。仲達なら後方の陣地にいる」
「…良かった、父上は無事なんですね」
「無事?」
「あ、いえ、何でもないです」
こちらのこれまでの経緯と、師と昭の話を聞いた。
左近と昭はどうやら顔見知りらしい。
三成は師と昭の顔をまじまじと見ていた。
「曹丕よ」
「何だ」
「まさか貴様の子ではあるまいな」
「なっ?!」
「はは。違いますよ。俺らは司馬懿って人の子です」
「ほう、あの…。似ていないな貴様は」
「俺は母親似なんですよ」
昭は持ち前の明るさで三成と難なく話していたが、師は何処となく落ち込んでいるように見えた。
私の子と言われたのがそんなに嫌か。
師の背中を叩き、地図を渡す。
「仲達は此処に居る。ガラシャのお守りを任せている」
「ふ、あの娘は本当に父上が好きですね」
「お前もな」
「ええ、ですから貴方には任せて置けぬのでお会いしに参りました」
「素直に、仲達が恋しくて会いに来たと言えばいいものを」
仲達に会いに来たという師と昭はどうやら二人だけのようだ。
何処かに陣地があるのだろうが、別段敵意も感じられず、我が陣地を脅かす気もないらしい。
そもそも仲達の子供らに刃を向ける気もない。
「お前達は味方、という認識で間違いないのか」
「俺達は父上に会いに来ただけです。第一、曹丕様や父上に敵対する気なんてないですよ」
「ふむ。それならば行くがいい」
「では、行って参ります。後程またお会い致しましょう」
「じゃあなまたな、左近」
「はいはい。またねへらへら坊ちゃん」
三成が一応、立場の確認をした上で師と昭を通した。
左近が昭の頭をくしゃくしゃと撫でてすれ違う。
「あのしたり顔に、随分と大きな子が居るものだな」
「あれは、子に甘い。仲達も喜ぶのではないだろうか」
「ふむ。お前もいつか司馬懿に要らぬと言われそうだな」
「どういう意味だ」
「貴様は鈍感なのだな。だから司馬懿も素直ではないのだろう」
「俺から見たら、曹丕さんも司馬懿さんも殿も皆素直じゃないですけどね」
そう言って左近は笑う。
師と昭の背中を横目で見送り、三成は私の横に立って話した。
左近は私の後ろに付いていた。
「貴様らの時代の方が難しい話であろう。此方の時代でもそうだが」
「司馬懿さん家は、そういうのなさそうですけどね」
「何の話だ」
「曹丕、お前は経験している筈だ」
「家督の話か。しかし…仲達の死ぬ話などは今、考えたくはない」
「そうだな。悪かった」
「曹丕さんは司馬懿さんにべったりですからね。うちの殿みたいです」
「言っておくがな左近、俺は俺の信じる道にしか行かんぞ。お前がついて来ないというのなら置いて行く」
「はいはい。うちの殿は頑固ですからね。今回は味方で居れて良かったです。殿のお守りは大変だ」
「……。」
三成と左近のやり取りを見ていて、ふと仲達を思い出した。
三成と仲達は身丈も性格は良く似ているが、全く違う。
左近は仲達と同じような立場で話をするが、やはり仲達とは全く違う。
「…仲達に会いたくなった」
「先程まで共に居ただろうが」
「とっとと用件を済ませるか。急ぐぞ」
「はいはい」
仲達に会いたい。話がしたいというか、触れたい。
別れ際の不躾な態度も気になった。
早く用件を済ませて帰ろうと、三成、左近を連れて野を駆けた。
ふと、腕の中がもぞもぞと何かが動いている気がして目を覚ました。
見覚えのある赤い髪が腕の中に埋まっている。
「…これ、ガラシャよ」
「ほむ!」
「何をしている」
「司馬懿殿が眠っていたので、つまらなかったのじゃ」
「だからと言って」
「でもいつの間にか増えていたのじゃ」
「!?」
よく見たらガラシャの背後に昭が居た。
先程から熱いと思ったら私の背後に師がしがみ付いていた。
突然の再会に驚きつつも、起こさないように元居た位置に戻った。
「一体いつから…」
「司馬懿殿を探しておった。故にわらわが案内したのじゃ」
「お前は一体何をしているんだ」
「ずっと司馬懿殿を探して歩いていたそうじゃ」
「そうか。…まぁ、無事で良かった」
久しく師と昭の姿を見ていなかった。心の何処かでいつも気にはなっていた。
漸く再会できた寝顔を撫でると、師も昭も何処となく嬉しそうに笑う。
まだ髪の濡れている頭に触れると、小娘はぎゅうと私にしがみ付いてきた。
「どうしてそのように懐いてしまったのだか…。もう少し男に警戒しろ」
「ほむ?」
「何でもない。私にその気はないしな。髪はきちんと拭け」
大きめの布巾を取り、ガラシャの髪を拭いて櫛でとかした。
私の腰に師が埋まっているが、気にせず起き上がり寝台に座る。
起き上がってもやはり師は離れないようだ。
「この子は…、全く」
「司馬師殿は司馬懿殿に甘えたがりじゃのう」
「誰に似たのだか」
「司馬懿殿じゃ!司馬懿殿とて甘えたがりなのじゃ」
「…そうなのか。それは気付かなかった」
「ほむ?曹丕殿の前ではそう見えるがのぅ」
「煩い。今あの御方は関係ないではないか」
第一、今あの御方の傍には三成がいるのだから私は関係ない。
私の価値など、あの御方にとってはそんなに上ではないのだろう。
少し、色々な事を思い出してしまって俯いた。
「父上ぇー、どこですかぁ…」
「…うん?此処に居るだろうに」
寝ぼけた昭が私の膝に寝転ぶ。
師と昭から湯上りのような香りがして、見れば髪が濡れていた。
疲れているのだろう。二人とも少し身じろいだだけでは起きなかった。
「…一体どれだけ、走ってきたのだか」
「わらわも、司馬師殿と司馬昭殿の気持ちがよく解る」
「うん?」
「父上の事が大好きなのじゃ。敵対したとて、わらわの父上はひとりぞ」
「それは、そうだな」
「司馬懿殿とて、ひとりしか居らぬ。司馬師殿と司馬昭殿の父上なのじゃ」
ガラシャの話は尤もだと頷いていると、師が起きたのか私の肩口に埋まっていた。
昭も、はっとして私と目を合わせると漸く起き上がった。
「すいません、父上。何だか寝ぼけていたみたいで。あ、ガラシャちゃん、案内ありがとう」
「ほむ!」
「父上、探しましたよ。何処も怪我などはされていませんか?あの男に乱暴な事などされていませんか?」
「あの男とは、曹丕殿の事か?」
師は相変わらず、曹丕様が苦手らしい。昭が笑って、私の膝に埋まる。
熱いぞ、と脚を伸ばすと今度は其処にガラシャが座ってしまった。
まだ髪をとかしている途中だったのだ。
師と昭の髪が濡れているのが気になって、二人まとめて布巾を被せた。
「!」
「?!」
「ええい、きちんと拭け。いくつになったというのだ」
「父上、これはわざとです」
「何?」
「ガラシャちゃんが羨ましくて」
「全く。風邪をひくだろうが!小娘、貴様もだ」
「ほむ!」
「はは、父上にそうして欲しかったんです」
全く手のかかる。ガラシャの髪を結い終えた後に師と昭の髪も拭いてやる。
二人とも何かとても嬉しそうで、一体いつになったら親離れ出来るのだろうと思う。
私も師と昭に再会出来て嬉しかった。
二人が子供の頃のように甘える。ガラシャは相変わらず私に懐いていた。
正直こうして、私が必要とされるのは嬉しかった。
どう考えても仲達とガラシャだけではない会話に耳を澄ませると、師と昭の声が聞こえた。
「でね、兄上ってば酷いんですよ」
「お前は日頃の行いがな」
「父上も酷い。俺、今回はすごくいい子にしてると思うんですけど」
「煩い。あれはお前が悪いのだ」
「ほむ。司馬師殿は司馬懿殿と肉まんどちらが好きなのじゃ?」
「答えかねる」
「何と!」
「おい」
楽しそうな会話だ。仲達もよく笑っている。
というか、肉まんでまた師に何か騒動があったらしい。
親子水入らずの会話にガラシャが混ざっているようだ。
「という訳だ。此処に居る」
「申し訳ありません。ご迷惑をお掛けいたしました。娘を連れて帰りますね」
「おい、司馬懿。入るぞ」
扉を指さし、光秀を案内した。
三成が不躾に扉を開けると、そこには子供達に笑う仲達が居た。
光秀を連れた私達の姿を見るなり、少し顔を顰めて目を逸らす。
ガラシャが光秀の姿に気付くなり、寝台を降りて胸に埋まる。
仲達は溜息を吐いて襟元を正し、私の前に来て頭を下げた。
「おかえりなさいませ。御足労をお掛け致しました」
「…悪かったな」
「?」
「いや、何でもない。後で話そう」
仲達がガラシャや師や昭に微笑む顔は何処かとても優しかった。
私にあのように笑ってくれていただろうか。
ガラシャは光秀に少々怒られて、仲達に頭を下げていた。
「ほむ…。今度はきちんと、あぽいんとめんとを取るのじゃ」
「あぽ…?何?」
「いつも申し訳ないです司馬懿殿。娘がご迷惑をかけました」
「もうよい。慣れたわ。次からは箱をよく調べる事にする」
「またの!楽しかったのじゃ」
「全く貴女は…」
光秀と手を繋いで去るガラシャに別れを告げて、仲達は我等に振り返った。
三成を横目に見ると、つかつかと歩み寄り腕を組んだ。
「御苦労だったな」
「それが人に礼を言う態度か。第一、俺に曹丕のお守りを押し付けるな。お前の役目だろう」
「私が守役な訳ないだろう。昔の話だ。第一、曹丕殿が貴様を指名したのだ」
「まぁまぁ、落ち着いてお二人とも」
「煩い」
「煩い」
「…ふ、気が合うようだな」
「誰がこんな奴と」
「心外です」
仲達と三成が同時に左近に怒鳴ったのを見て笑う。
話を遮るように、師と昭が仲達の横に立っていた。
先程ぶりだと軽く話をすると、昭は左近に、師は私に話があるらしく部屋を離れた。
三成と仲達の口論はまだ続いているようだ。
廊下に場所を移し、師に改めて話しを聞く。
「どうした」
「父上の事です」
「何だ」
師は仲達を横目に見ながら、不安そうに話をしていた。
師と昭はいろいろな陣地を見て回って来たらしく、またその先の顛末も見てきたという。
正直話がよく解らないが、未来から来たと言う。
「どうか、父上をお護り下さい。私がいずれ合流するでしょう。暫くしたら昭が訪れる筈です」
「…何の話だ?お前達は此処に居るではないか」
「今は解らなくて結構です。貴方様の横に居る父上であれば遠呂智軍も退けるでしょう」
「話が見えぬ」
「父上の傍を離れないで下さい、って事です」
師はそれだけ言うと昭を連れて陣地を離れた。
仲達が二人を見送り、三成を一瞥して部屋に戻っていった。
左近が三成の元で一言二言会話をした後に、私の横に立つ。
「…何だか、妙な事が起きているみたいですね。司馬師殿から話は聞きましたか?」
「ああ。お前も昭から話を聞いたのか」
「はい。あのへらへら坊ちゃん。どうやら色々と考えがおありらしい」
「そうか。それを仲達に話せば良いものを」
「あれ、聞かなかったんですか。司馬懿さんはその内…」
「左近、行くぞ」
「あ、はいはい。殿、待って下さいよ。また今度、お話しましょう曹丕さん」
左近の進言が気になったが、奴は三成の元へ帰って行った。
その後、三成に話を聞き事の顛末を知った。
今すぐ仲達の元へ帰ろうと、部屋の扉を開けた。
子守りに疲れたのか、仲達は寝台に横になっていた。
冠も被らず、靴も脱いでおり、とても気が抜けているように思う。
水に濡れた布巾が寝台に散らかっている。
仲達が無事である事に安堵し、寝台に座り髪を撫でた。
「…どうした」
「おかえりなさいませ…。いえ、急に静かになったものだと思いまして」
「そうだな。今日は慌ただしかった」
「御足労をお掛け致しました」
靴を脱いで、何処か寂しそうな仲達の背に埋まる。
三成と左近の話が本当なら、この後、良くない事が起こる。
私の身も無事では済まないらしい。
力を込めて仲達を抱き締めていると、私の不穏な空気に気付いたのか仲達が振り返った。
「子桓様、どうされたのですか?」
「漸く、そう呼んでくれたな」
「三成や子供らの前で呼ぶ訳にはいかないでしょう」
仲達なりに一応、体裁を気にはしているらしい。
仲達の眉間に指を当てて皺を伸ばすようにしていると、頬を掴まれて伸ばされた。
「いひゃい、ちうたつ」
「っ…、もう」
「?」
ぎゅううと私の胸に埋まる。どうしたのかと思えば、仲達は私から離れようとしない。
先の棘のある言葉や行動が少々気にはなっていたが。
仲達は言葉にして言わないだけで、淋しかったのかもしれない。
「…これからは離れぬ故」
「三成の元へ行ってしまう癖に」
「あれは友だ。だが私の供はお前一人だ」
「供…、私は本当にそれだけなのですか?」
「…、今日は随分と饒舌だな仲達」
今度は仲達が私に甘えるように胸に埋まった。
仲達はあの話を聞いていない筈だが、何処か瞳が悲しみに揺れている。
そうか、これが私の仲達だった。
「…仲達、上を向け」
「え、っ…?ん…」
「やはりお前の元が一番落ち着く…。すまなかったな。また一人にしてしまった」
仲達に触れるだけの口付けをして、思い切り抱き締めた。
このぬくもりが好きだった。この肌が愛しかった。
仲達は暫し何も話さなかったが、私の頬に擦り寄り目を閉じた。
「今日は一人ではありませんでした。ガラシャもいましたし、師も昭も」
「そうであった。目まぐるしかったな」
「…ですが、貴方様は居ませんでした」
「悪かったと言うに」
「…淋しかった…、ですよ…」
「!」
「…もう言いませんから」
「…ふ」
仲達の元に今日は、ガラシャや師や昭が訪れた。
私には見せない、とても楽しそうな顔も見れた。
近い将来、私と仲達は命を落とすらしい。三成や左近も例外ではない。
その未来を変えようとする者達がいる事は確かだった。
「仲達」
「はい」
「私がお前を護ろう。護らせてくれ。どうか暫く、このままで居させてくれぬか」
「…子桓様?」
「お前が愛しい」
「…ど、どうしたのですか?」
「何でもない」
本当に今日は目まぐるしかった。
仲達を伴わず行動をしたのも久しい。離れた事で、このぬくもりの愛しさを実感した。
仲達が髪を撫でてくれる事に安堵して、その手を繋ぐ。
温かい手は何処か眠たげに思えた。
「貴方様が一番、手が掛かります」
「わざと、だ」
「…ふ、師は貴方に似たのか」
「何の話だ?」
「何でもありませんよ」
仲達はさも当然とでも言いたげに私の胸の中に埋まり、目を閉じた。