「慶次殿」
「ん~?なんだい幸ちゃん」
「幸ちゃんはやめろでござる」
「だってちまちましてて可愛いんだもん幸ちゃん」
「…可愛いくないでござる」
師走の夕暮れ。
寒い寒いと肩を寄せながら某の自室にて佐助が出した茶を飲む前田の風来坊こと、慶次殿。
師走なのだから実家の加賀に帰ればよかろうというのに聞かない御仁だ。
「だって帰ったら利やまつ姉ちゃんに年末大掃除しろって言われるだろうし。それに夫婦水入らずの方がいいじゃんか」
「淋しくないのでござるか?」
「別に淋しくないよ。心配かけないよう文は出してるから大丈夫だって~。それに」
「何でござるか」
「幸村と過ごしたかったんだよね」
「口説いてるので?」
「ん~そうかも」
卓に突っ伏しながら上目遣いで悪戯っこのように笑う。
とても年上には見えないのだが、そこは惚れた弱みというもので。
「つれないなぁ、幸ちゃんに好かれてると思ってたんだけど」
「好きでござるよ」
「…あれ?」
きょとんとした顔をして驚いて起き上がる慶次殿。
なんだその反応は。
「何でござるか」
「そうだったの?」
「何を今更」
「なんだいなんだい、オレが勝手に惚れてたのに、幸ちゃんにも想われてたんだねぇ。お兄さんびっくりしちゃったよ」
ぷいっと唇を尖らせて顔を背けたが、耳まで赤いのがよくわかる。
全く…愛おしい方だ。
「両想いだったんだねぇ…」
「嬉しそうでござるな」
「いやぁ、まさか堅物の幸ちゃんに告白されるなんてね」
「男に二言はないでござる」
「オレに惚れて後悔すんなよ?」
「無論。ところで慶次殿のお答えを聞いていないのでござるが」
慶次殿の頬を両手で包んでやれば、それはとても温かく。
何だかいい匂いもして。
思わず口付けた。
その後で慶次殿は「いいよ」と笑った。