六月四日ろくがつよっか

あー今日死ぬかもなんて気楽に考えてたらその日ってのは本当に来るもんで。

体が動かないなんて、惨めったらないねぇ。
せっかく今日は大安吉日だってのにさ。

ああ、何のバチか知んねぇけど雨はザアザア降っててお天道さまは拝めない。

淋しいねぇ。

仕方ないからゴロゴロと冷えた縁側に寝転んでみた。
いつも一緒にいた相棒はもういない。
あの裸の大将の伯父上も、おっかない伯母上ももういない。

去年なんてさ、スゲェんだぜ。
天下を賭けた大一番!日の本を賭けたでかい戦。

関ヶ原だったっけか。
国が天下を賭けて大喧嘩さ。

西軍についたんだけどさ、負けちまってね。
勝った家康が徐々に天下を掴んでる。
関ヶ原でさ、幸村はオレと一緒に西軍だったんだ。

あれはちょっと嬉しかったね。
戦場は違ったけど…幸村が秀吉のガキの為に戦ってるなんてさ。

意外でね。

そういや政宗は東軍だったなぁ。
でも戦場で幸村と政宗が会うことはなかったとか。

ま…いずれ決着つくだろうさ。
あの馬鹿共はそれが楽しいんだろうしねぇ。








秀吉も半兵衛も。天下を掴んだってよ。

死んだら…何の意味もねぇのに。
他の国まで攻めてさ、やり過ぎだよ。

天下天下ってどいつもこいつも。

戦終わらせたけりゃさ、お互いに武器捨てて話しあえっつーんだ。

武器持たなきゃ恋した人を守れない。
それでいいのか? 武器置かなきゃ恋した人を抱きしめられやしない。





死んだら、ねねに会えっかな。




なぁ、ねねは今でも綺麗かい?
そん時は秀吉と半兵衛も一緒かねぇ。

とりあえずあいつらは一発ずつ殴ろう。
そうしたら昔みたいに笑えたらいい。
ねねもまぜていっちょ馬鹿騒ぎしようじゃねぇか。

心底憎い気持ちなんてお前らが死んだ時、消えちまったよ。
オレはただ昔に戻りたかっただけ。




恋…かぁ。 今あの戦バカはどこにいるんだか。
関ヶ原以降行方がよくわかんねぇ。

最期くらい、恋した人に看取られたいなんて我儘かい?神さんよ。
最初の恋が叶わなかったんだから、最期くらいは甘やかせてくれよ。




いじわるだなぁ、神さんは。




また独りかい?










ああ、逢いたいなぁ…

















お、雨があがった。
































あぁ…いい天気だな…。あたたかい。眠い。
もう寝ていいかい?ちょっと疲れたよ。




「探しましたぞ慶次殿っ!」

ああ、懐かしい名前だ。

恋した人の声。
神さん、最期にありがと。

「…やぁ、久しぶりだね。…相手してやりたいのは山々だけど眠くってさ」

ああ、なんだいなんだい。
起こさないでくれよ。もう瞳すら開かないんだ。

息が荒いなぁ。走ってきたんだね。
それに血の匂い。戦帰りかい?

「ようやく逢えたというのにつれない」
「…はは、ごめんねぇ」
「死ぬのか」
「うん、そうみたい」
「死ぬな」
「無茶言うなよ」
「死ぬな」
「…もう充分生きたよ。あとは死ぬだけさ」

「慶次殿っ」
「その名前は…捨てたよ」



最期までその名前で呼んでくれるのかい?
『前田慶次』でいさせてくれるのかい。

ああ、嬉しいな。あんたはちっとも変わらない。











「なぁ…また恋しなよ。きっと幸せになるから…」


























その名前の通り、幸せにおなり。


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