惨敗ざんぱい

朝、体の痛みで目が覚めた。
ぼんやりと眼を開けば、私は子桓様の腕の中にいた。


そうだ、昨夜…。


背中と頭をしっかりと抱かれていたので、少しでも身じろぐと子桓様が起きてしまいそうだ。

何となく昨夜の行為を思い出してしまう。
ああ、自分の部屋の寝台など…嫌でも思い出してしまうではないか。

あの後、私はいつの間にか眠ってしまって。
体が清められていて、傷の手当もされていた。

人を呼ぶとも考えにくいので、どうやら子桓様がしてくれたのだと思う。
私にだけ、甘い御様子。


「…ありがとうございます」

子桓様の胸に埋まりながら呟く。

「それはこちらの台詞だ、仲達」
「!」

返事が返ってくるとは思わなかったので、驚いて見上げると起きていらした様子。

「大丈夫か?」

髪を撫でられる。
頬に触れられる。

それがとても心地好い。

「大丈夫です。本日も執務がありますから」
「無理はするな。何なら私から父に進言して休んでも」
「そこまでするほどのことではございませぬ」
「私にはそこまでしてもいい事柄だ、仲達」
「そんな、恐れ多い」

子桓様は私を宝物かのように扱われる。
だが宝物らしくしまわれて愛でられるだけなのは私は嫌なのだ。

「…もっと」
「ん?」
「もっと自信をお持ちになったらよろしいのです。普段は自信がおありなのですから」
「お前のこととなるとな、私は敵わぬらしい」
「私があなたの弱点にならなければ良いのですが」
「既に充分、弱みだが?」
「もう、しっかりなされませ」
「すまぬ」

何だかおかしくなって笑った。
お互いにお互いを想っているのはよくわかった。
ただ自信がないだけ。

それもお互いに。




「出仕の支度を」
「もう少し寝かせろ」
「では置いて行きます」
「つれないな仲達。昨夜あんなに…」
「い、言わないで下され」

子桓様の腕から逃れて、寝台から出て服を着替えた。
髪を櫛でとかす。

ふと背後に人の気配。

「子桓様も着替えられませ」
「触れたくなった」
「駄目です」

後ろから子桓様に抱きしめられるが。
このままだとまたずるずると遅れてしまうので、腕をはがす。

「遅れますよ」

そのまま振り返り、子桓様の衣服を脱がせる。

「積極的だな」
「そういう意味ではございませぬ」
「髪を」
「はい」

子桓様が着替えられている間、御髪をとかす。
ただ、私より背が高いので上まで届かない。

「あの」
「何だ」
「座ってくれませぬか」
「ああ、うっかりしていた」

椅子に座ってもらえたので、指で髪を撫でて櫛でとかす。

「…御立派になられましたね」
「何がだ」
「子桓様が」
「変わったのは背丈だけだ。私は昔と変わらぬ」
「…私には、昔より優しくなられたように思います」
「それはお前の前でだけだ」

髪に触れていた手を取られ、口づけられる。
何故、私はこうも姫扱いをされるのだ。

子桓様は私の手が好きな御様子。

「朝礼は、私の横にいるのだろう?」
「はい。お傍に」
「くれぐれも無理はするな」
「御意」

立ち上がった子桓様に手を引かれる。
脚がふらつきそのまま胸に埋められた。









「仲達」

字を呼ばれ抱きしめられる。
ただそれだけなのに、心があたたかい。

「参ろうか」

しばらくそのまま抱きしめられた後、二人で部屋を出た。

傍を離れられぬ。
惚れたら負け。

私の惨敗。


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