さみしがりや

忙しい。
そんなこと私が一番解っている。











粛々と執務をこなす日々。
それというのも、大きな戦が控えているからだ。
普段の執務に、戦の準備が加わりやたらと忙しい。
席を立つ間もない。

公子である子桓様も同じく、忙しない毎日を過ごしている。
あちらはあちらで激務とのことで、暫くまともに会話をしていない。

唯一、お互いの姿を見る事が出来るのは軍議で隣に立つ時だけ。




軍議の最中。

何となく、目の前にいる子桓様の服の裾に触れた。
気付かれる前に離そうとしたら、唐突に上から手を握られた。

「…ぁ」
「以上だ。散会。」

殿の言葉で、軍議は終了し、諸将は散会していく。

手を握られたまま、子桓様は動かない。
結局、残されたのは私と子桓様だけとなった。

「…どうした?」

握った手をそのままに、子桓様が振り返った。
空いた片手で、罰が悪そうに顔を伏せる私の頬に触れる。

「…何でもありません」
「そうか」

離される手。
何故だか酷く切なくて、下を向いた。

離れた手は、ふわりと私を引き寄せる。
かの人の腕の中に埋まる。

「子桓様…?」
「もう少しで、区切りがつく。すまぬ」
「…別に、私は何も」

淋しい、などと。
私ではとても口に出来ない。

子桓様は其れを察しているのか、言葉には示さない。

「時間が出来たら、お前に会いに行く」

頬に手を添えられる。
優しく見つめられる瞳を、少し下から見つめた。



今、私はどのような顔をしているだろうか。

唐突に唇が合わせられ、舌を挿入される。
吐息が漏れて、熱く交わる。

子桓様から与えられる熱。
名残惜しく、銀糸をひいて唇は離れた。

「今は口づけだけしかやれぬ」

曹丕殿!、と遠くで誰かの呼ぶ声。
名残惜しく、子桓様は私から離れていく。別れ際に、額に口づけられる。

「また、何れ」
「余り、御無理をなさらぬよう…」
「お前もな、仲達」

子桓様を見送る。
お互い別方向に分かれて、会議室を後にした。













どうせまた明日も早いのだからと、今宵も執務室に泊まる事にした。
暫く私邸に帰れていない。

簡易ではあるが、床もある。
冠を棚に置き、朝服を適当に脱ぎ、夜着になり横になった。

ふと頭に過ぎるのは、子桓様の事ばかり。

次はいつお会い出来るだろうか。
次はいつお話出来るだろうか。
次はいつ触れる事が出来るだろうか。

次はいつ?

お互いの官職は、代わりが利かないものだと。
仕方のない事なのだと、頭の中では解っている。

解っている。
そんなことは解っている。




ただ。

子桓様から与えられた、僅かばかりの熱が燻って仕方ない。

もう幾夜、触れられていないだろうか。
欲求不満、と言えばまさしく其れで。

貴方でないと嫌だと子桓様を求める体が、我ながら浅ましいと苦笑する。

まさか私から「淋しい」やら「抱いてほしい」などと言える筈もなく。
ましてや、多忙で疲労困憊している主の元に私欲で訪れるなど不敬にも程がある。


床に横になり、小さく灯る明かりを見つめた。

唇に触れた。
あの方はどのようにして、私に触れているのだろうか。

あの方も私を想ってくれているのだろうか。

そんな事を考えていたら、下腹部が熱くなり。
いけない、と思いながらも夜着の隙間から手をやり触れた。

「…子桓、様…」

この手はあの方だ、と。
そんな馬鹿げた言い訳を自分にして、擦り上げた。

手が止まらない。

「っ…子桓、さ…」

あの方の字を呼ぶ程、淋しくて。
あの方を想う程、体が疼いて。
このような体にしたのも、紛れも無くあの方で。

視界がぼやけた。

「っ…ふっ、ん…!」

体がガクガク震えて、自分の手の中に果てる。
快楽と脱力感で体が怠い。

快楽からの生理的な涙と、感情的な涙が混ざりどちらともつかない。
自分が泣いている事だけは理解した。





このような行為、虚しさが増すだけであるのに。
汚れた手を拭い、体を起こした。

「…コホン」
「!」

咳ばらいがして、振り向くと。
扉に手をかけているのは正しく私の想い人で。

「っ!!!…??!」

今すぐ死にたくなるくらいの羞恥心に襲われる。
何故、別室にいるはずの子桓様が私の執務室にいるのか。

「なっ、えっ…!?どうし…て…」

子桓様は頬を染めて、目を反らし口を抑えている。

頭が混乱して何が何だか解らない。
咄嗟に体を見られたくなくて、夜着を羽織った。

「…声をかける機を逃してな」



扉に鍵をかけた音がした。
背中を向けても、カツカツとこちらに歩み寄るのが音と声で解る。

「呼ばれた気がして来てみれば、随分といい格好だな仲達?」
「…見ていたのですか」
「正確には、『見とれていた』が正しい」

故に声をかける機を逃した、と子桓様が更に近づいてくる。

「申し訳、ありません…」
「何故謝る?」

子桓様が外套や装飾品を早々と床に投げるように脱いで落とした。

「淋しいなら素直にそう言えばいいものを」

襟元を緩めて、子桓様が私の上に覆い被さり。
顎を掴まれて、頬に流れた涙に舌を這わせる。

「…私のいない所で泣くな、仲達」

瞳にたまった涙は、優しく指で拭われて。

その仕草に、声に、優しさに、温もりに。
尚更に涙が堪えられなくなった。

「…区切りをつけてきた。今宵はずっとお前の傍にいる」
「は、い…」
「もう言わずとも解るな?私ももう抑えられぬ」

お前だけが我慢していると思うなよ、と曹丕様が私の手を取り自分の下腹部に触れさせる。
そこは熱く、確かに反応していて。

子桓様の吐息が熱く、首筋に当たる。
声色が耳に響いて、それだけで私の体も欲情する。

顔に熱が上がるのが解った。

「はやくお前を抱きたい」
「そのようなおっしゃりよう…恥ずかしゅうございます…」
「仲達にあのように呼ばれては、堪える方が無理というものだ」

するすると夜着の隙間から手を入れられ、胸を吸われる。
ちゅ、と吸われる音がして目を閉じた。
胸を吸われながら、やわやわと秘部に触れられて。

先程果てた白濁を手に取り、秘部に塗られていく。
気恥ずかしくて、視線を反らした。
子桓様のが脚に当たり、今からされることに少なからずの期待と、僅かばかりの恐怖を胸に秘めた。

「自分で…」
「っ…?」
「自分で触れてみよ」
「なっ、い…嫌です、貴方様の前でなどっ」
「なれば、どうすれば仲達に快楽を与えられるのか…子桓に教えてくれまいか」
「なっ…!」

したり顔で笑う子桓様に抗う術もなく。
既に手を取られて、己のものに触らせられる。

「っ…や…」
「ほら、どうして欲しいのだ?言わねば解らん」

私のものを手ごと握り、擦り上げていく。
自分でしているのか、子桓様にされているのか解らないまま、体に異物感が込み上げる。
指を中に入れられ、掻き回される。
何かを探すように動く指は、とある箇所に触れると雷でも走ったかのような刺激が全身を巡り快楽と変わる。
前も後ろも攻められて、快楽の逃げ場がない。

「っ…は、ゃ…また、果て、て…!」
「私も疼いて仕方ない。もう入れるぞ仲達」

指を抜かれて、子桓様のを秘部に擦りつけられる。
そのまま急減な圧迫感と快楽が全身を巡った。

「あ…!し、かん…さ…っ!」
「きつい…そして熱いな仲達」

尚も腰を進められて、最奥まで貫かれる。
肩で息をしてやり過ごすが、久しく体に触れられていないだけあって体への負担と快楽が交ざる。

「お前が淋しかったように…」
「っふ…ゃあっ…」
「私も淋しかった」

手を合わせて、指を絡めた。
ぎゅっと強く握り返した。

朝が来たらまた暫く会えない。

「っ…子桓様を下さい、ませ…っ」
「ああ、泣くがいい仲達」

ぐっと引き抜かれて、奥に突き上げられる。
快楽がとめどなく溢れて、髪の一本から指先に至るまで子桓様に染められていく。

この人がいなくては。

「愛して、います…っん」

淋しかった。
切なかった。
貴方が愛しくて、貴方が恋しくて。

子桓様に体を揺すられながら、今までの想いをぶつけた。
程なくして私が果てて、子桓様も私の中に注がれる。

私の言葉に、子桓様は眉を寄せて額を合わせ優しく笑った。











「水を」
「…ん…」

あの後、お互いがお互いを求めて抱き合った。
声がかすれている私の様子を見て、子桓様が私に口移しで水を飲ませて下さる。

泣いたし、泣かされた。
全身に鈍痛と倦怠感があるが、心は満たされていた。

「朝になれば…また私はお前から離れてしまうが」
「はい…」
「昼食くらいなら、共に出来よう」

頭を撫でられ、掌が温かく心地好い。
泣き腫らした目はだいぶ痛むが、それでも子桓様を見つめた。

「我が儘を言ってしまい申し訳ございませんでした…」
「構わぬ。何より私も嬉しい」
「今宵は傍に居て下さりますか…?」
「今宵と言わず、時が許せばお前の元にいよう」

またお前を泣かせては、と子桓様は私に唇を合わせた。


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