わたしそば

返り血をあびた。
戦場に立つ事に慣れているものの、別段人を殺す事に慣れている訳ではない。














魏、廷内。

突然後ろから口に布を当てられ羽交い締めにされて、そのまま無理矢理何処かの部屋に連れ込まれた。
持っていた書簡が落ちて廊下に転がる。

口に当てられた布に何か染み付いているのか、視界が揺らぎ脚がふらついた。

「…子桓、様…ではないな」
「ああ、やはり。公子様と?」

聞き慣れない声。

知らぬ男。
体格差からして将の類いだろうか。
口調から察するに私より身分は下、一方的に知られていると見える。

「俺が司馬懿様をどれだけ見ていたか知らないでしょう?」

そんなこと知るか、と言いかけたが、そのまま両手首を後ろから捕まれ床に叩き付けられる。
鈍痛が体に響き、肩を痛めた。
冠が転がり、髪が乱れる。

私が傍に01

「…っ、何の真似だ」
「この状況下、解らぬ司馬懿様ではないでしょう?」

顎を掴まれ、顔を向かせられる。
服を脱がされ、下半身に触れられた。

「私に触れるな…っう…!」

嫌だと身をよじり抵抗すると右頬を叩かれた。
唇が切れて、床に頭を打ち一瞬意識が飛んだ。

「大人しくしていて下さい。綺麗な肌を傷つけたくないので」
「…ほざけ」
「どうせ直ぐに墜ちますよ…何を嗅がされたか察しがつくでしょう」

この男の目的が体の凌辱だと言うのなら、嗅いだのは媚薬に違いない。

「貴方は俺を知らない。ずっとこうして貴方を組み敷き、澄ましたその顔を泣かせたかった」
「…や、め…っ」
「どうせ何も出来ないでしょう?口ではそう言いつつも体は素直な様子で」
「っ…死ね」


男からの告白に気色が悪くて吐き気がする。
後口に指を入れられて、乱暴に動かされ私のは擦られて、薬のせいで勃っていた。

「公子様に抱かれて慣らされているのでしょう?もうこんなに指が入りますよ」
「っ、嫌…だ…」

嫌だ。絶対に嫌だ。
子桓様以外に触れられたくない。
こんな男に子桓様を蔑まれるのも気に入らない。

男が挿入しようと、手を離した時を見計らい袖に仕込んでいた短刀を手に取った。
そのまま男の腹に突き刺す。

「っな…、に…?」




私が傍に02



「私は、…私は、曹子桓様のものだ。絶対に…絶対に汚されぬ」

短刀を抜き、もう一度胸に刺した。
今度は確実に左胸。
返り血を、生身の脚に浴びた。

男に致命傷を与えたはずだったが、首を捕まれる。
床に押し倒されて、両手で首を絞められて息が出来ない。

「っか…、はっ…」
「殺して、やる」

がくがくと体が震えたが、暫くして手が離れた。
男が絶命したのだ。

「っは…、けほっ…、…はぁ…はぁ…」

死んだ男を蹴り離し、首をおさえて壁際に身をもたれた。

「っ…ふ…」

胸をおさえて身を縮めた。
涙が自然と溢れて視界が滲んだ。

咄嗟に殺してしまったが、果たして誰なのか。誰だと解らない以上死体の処分も出来ない。
何より体が震えて力が入らない。




立てない。

こんなつまらぬ事で殺されるかも知れなかったと思うと震えが止まらない。
あの方と離れてしまうかも知れなかったと思うと怖くて堪らない。

首や脚についた返り血すら汚く思えて目を閉じた。
それでも薬で体が疼いていて、じわじわと末端が熱くなる。

中途半端に焦らされた体が熱を求めて、勝手に手が動いた。
自分で自分のを擦り上げて、声を堪える。

私が傍に03


先程殺されかけて、足元に死体が転がっているというのに。
私もおかしくなったのかもしれない。

ただ酷く、『怖い』と思いながらあの方の字を呼んで果てた。
下半身は白く、赤く汚れている。涙が頬を伝って流れていった。














直ぐに戻る、と仲達が部屋を出てかなりの時間が経過している。
何処で道草を食っているのだ、と多少苛立ちつつ部屋を出た。

所要があった部屋に仲達を尋ねれば既に戻ったと言うので、すれ違いかもしれぬと部屋に引き返すことにした。
結局、部屋に戻っても仲達はいない。

苛立ちは不安に変わった。
不安から心配に変わるのも早かった。

もう一度、廊下を注意深く歩いた。

ふと、廊下の隅に書簡が落ちていることに気付く。
拾って広げて見れば、それは仲達が私に持ってくるはずの書簡だった。

書簡を握り、仲達に何かがあったと確信し周囲の部屋を捜索する。
どうやらこの辺りの部屋は人気がない。

近くの部屋を端から扉を開ける。
万一に備えて、剣を構えた。




とある部屋の前、人の気配がした。中から啜り泣くような声が聞こえる。
扉に近付くと、足元が何かを踏んだ。

部屋から扉を伝い、床に赤く血が流れている。
訝しくそれを見た後、尚更に仲達を思い胸が痛んだ。


此処にいるのかもしれない。
この血が仲達のものでないことを祈り剣を構えて、ゆっくりと扉を開ける。

「っふ、ぁ…子桓、さ…」

まず視界に入ったのは仲達。
その次に男の死体。

部屋の隅に、小さく怯えるように仲達は己を慰めていた。
服は乱れて、首に手の形の血痕、肩に痣、下半身は精液と血に濡れている。

扉を閉めて、剣を置き、死体を跨いで仲達に駆け寄る。
自慰をする仲達の手を抑えて、仲達のを擦り上げる。

「…仲達、何をしている」
「し、かん…さま…!」
「…自分でするなら、私が抱いてやる」

仲達は小さく頷いた。
腕を腰に回し、引き寄せると仲達はカタカタと小さく震えていた。
ぎゅっ、と私の服の裾を握っている。

此処で何があったのか何となく察しはしたが、口にはしなかった。
あの仲達が、怖がっていることだけは解った。

とろとろと濡れた秘部に指を入れて解していくと仲達が小さく声をあげた。

「……」

顔を見れば、右頬が腫れている。
散々泣いたのか声は掠れていて、酷い顔だ。

何があったのか今は聞かない。
だが仲達の様子がおかしいのは明らかだった。

「ぁ、は…っ!」

私の胸に顔を埋めて、しきりに擦り寄る仲達に挿入し腰を打ち付けて行く。

私が傍に04


そのまま腰を持って、壁に押し付けた。
かくっ、と仲達が私の肩に額を乗せる。
熱い吐息が首筋に当たった。血に濡れた白い脚が、私の腰に絡み付く。

ぐちゅぐちゅと、水音が響いて仲達を犯していく。引き抜いて最奥まで突き上げる。
仲達は私の首に腕を回して静かに声を堪えていた。

異常とまでに濡れたそこは通常ではない。媚薬の類いを盛られているのだろう。
あえて仲達を疲れさせるように激しく抱いた。
毒を抜くには発散させるしかない。果てても休ませる事なく突き上げ、犯す。



仲達が気を失うまで。

「…子桓さ、…激し…っ…!」
「果てよ」
「…し…子桓…、さ、ま…っ」

何度目になるか、仲達は遂に果てて意識を失った。
私も中に何度か果てて、仲達の秘部からあふれる程だ。

腫れた右頬を摩り、痣になっている肩に口付けた。
流れる涙の跡を指でなぞり、仲達に深く口づける。

意識のない仲達から己を引き抜き、ゆっくり床に座らせ壁にもたれ掛ける。
自分の上着を仲達にかけて、服を正し剣を抜いた。



足で死体の顎を突き上げる。

知らぬ顔だ。
だが何処かで見た気がする。

左胸に刺さっている短刀は、以前私が仲達に護身用として持たせた物と記憶している。
仲達の体に無数に残る傷痕、乱暴目的だったとしたら死んでも許しておけない。

「よくも私の仲達に手を出してくれたな」

身元を調べるのに体は必要ない。

首を斬り落とし、配下を呼んだ。
身元を明かすよう首を渡し、死体の後始末をさせる。
その間、仲達を連れ浴室に向かった。




















頬がひんやりと冷たい。

酷く長い怖い夢を見ていたような気がする。
ゆっくりと瞼を開けると、冷たい布を頬に当てられている。

子桓様が直ぐに視界に入った。

私は寝台に寝かせられていて、子桓様は寝台に腰をかけて座っていた。
辺りを見渡すと此処はどうやら子桓様の寝室のようだ。

体はけだるいが、服は着替えさせられていて体も既に清められている。
肩には湿布が貼られて、首には包帯が巻かれていた。
頬は子桓様が冷たい布を当てて下さっている。全てこの方が、して下さったのだろう。

その手を両手で縋るように握り、擦り寄ると子桓様が気付いたのか空いた片手で頭を撫でて下さった。

「…何があったのか、話せるか」
「はい…」
「辛ければ無理をするな」

子桓様の表情が痛々しい。私より貴方の方が辛そうだなんて。


私が傍に05


一部始終を話した。
話していく度、何度か視界がぼやけて目を擦った。
気付けば手を引かれ、子桓様の胸の中におさまっていた。頭と肩を抱かれて、苦しいほどに強く抱きしめられる。
怖ず怖ずと、この方の背中に腕を回して目を閉じた。

「お前を酷く抱いた。体が痛むだろう」
「いいえ…あれはわざと、なのでしょう」
「毒は抜けたか?」
「はい、御蔭様で…」
「そうか…すまなかった」
「何故、貴方様が謝るのです…」

子桓様の頬に手を当てて撫でた。
その手を子桓様が触れて、私を見つめた。

「あの男の身元が判明した。あれはお前の護衛兵の中の一人だ」
「え…」



護衛兵。
兵長の顔くらいは覚えているが、兵卒ひとりひとりまではさすがに覚えていない。

「何処かで見た顔だとは思ったが。ましてや私やお前が通う本殿に通えるような者など護衛兵くらいのものだ。
護衛が主を襲うなど、本末転倒ではあるがな」
「……」

複雑な思いがした。
この方の腕の中、子桓様の言葉に耳を傾けた。

「お前の護衛兵、全て粛清してやろうか」
「そこまで貴方様がなさる必要は…」
「あんな男にお前が殺されるかもしれなかったと思うと怖くて仕方がない」
「子桓様…」
「私が護ってやれず、すまなかった」
「…そんなこと…おっしゃらないで下さいませ」

また強く抱きしめられる。
この方が私を失う事を怖れている。子桓様の思いを知り、頬に手を添えた。




「子桓様」
「何だ」
「…口付けて下さいませ」
「ん…」

口付けをねだると優しく、子桓様から唇が合わさった。
舌を絡めて、互いを求め合うように深く口付けた。唇を離すと銀糸が伝う。

「もう一度…抱いて下さいませ…」
「…何を言っている。もうお前の体は」
「私は子桓様のものなのでしょう」
「そうではあるが…しかし」
「…そう、感じさせて下さいませ。貴方だけに触れられたいのです」

今度は私から口付けて、直ぐに離した。
滅多に私からは口付けないので子桓様は嬉しそうに私を抱きしめた。
そのままゆっくりと押し倒されて、子桓様に深く口付けられる。
空いた手は着物の合わせ目を乱して胸に触れられる。もう片手は股下に触れられて擦られる。

子桓様の服をぎゅっと握った。













私が仲達に溺れるように、仲達が私に縋るようにお互い交わった。
字を呼んで、互いの存在を求め合った。

涙を流す仲達の顔に触れて、口付けた。

「子桓様でないと…嫌なのです…」

私を受け入れながら、仲達は縋り付くように私の首に腕を回した。

傷つけられた箇所を上からなぞるように、撫でていく。
最後に右頬を撫でて、口付けた。

「…仲達…」

愛おしい。
口には出さず、見つめて仲達の中に果てた。

手を握り、指を絡める。
きゅ…と仲達から握り返されることが嬉しかった。


私が傍に06


「もっと私がお前の傍に居なくては」

また口付けて、仲達に誓った。


TOP