今宵は随分と甘えたがる主に苦笑し髪を撫でる。
日が変わった。
今日はこの御方の生誕祭が執り行なわれる。
子桓様の誕生日。
「お祝い申し上げます」
「ああ。今年も仲達と共に過ごせた」
「それがお解りで、私を連れ込む癖に…」
「拒まぬではないか」
「…、それは、そうなのですが」
私を腕に抱いて笑う。
子桓様は私と共に過ごす時はよく笑っている。
少しくしゃみをしたら、上着を引き寄せて肩に掛けて下さった。
ほんの先程まで、体を重ねていたのだ。
火照った体に夜風が冷たい。
頬を撫でて、髪を撫でて。
触れる子桓様の手は何時だって優しい。
勇ましく綺麗な手だと、思わず掌を重ねて比べて見た。
大きくなったと、何処か懐かしく思う。
掌を重ねていたら、指を絡めて手を握られる。
ひと回り年下の主にこうも翻弄されてしまうのは何処か情けなく思うが、辱めだと思った事はない。
「どうした」
「…子桓様」
たまには私から。
今日が子桓様の特別な日だと言うのなら、私にとっても特別な日だ。
子桓様の頬に口付けると驚いた表情をなさった後、嬉しそうに私に口付ける。
「…仲達から、一番の贈り物だな」
「口付け以上も、差し上げております」
「仲達から、というのが良いのだ」
「…そうですか」
私とて子桓様の事が好きでなければ、このように抱かれはしない。
抱擁とて、口付けとて、情事とて。
何をしてもいい、と。
そう思えた人はあなただけなのだが、どうにも私は子桓様を不安にさせているようだ。
「…子桓様」
「先程からどうした」
「…大人しく、なさって」
「?」
未だに余韻の残る体を起こし、無礼を承知で子桓様の上に跨る。
下は何も身に着けていない。
子桓様が小首を傾げて上体を起こしたが、私が人差し指で唇に触れると目を閉じて下さった。
「…仲達から、してくれるとでも?」
「はい…」
「まだ、腰が立たぬのだろう」
「…そうですが、…善処致します…」
「無理を」
「…私とて、あなたをお迎えしたいと思う夜とて御座います…」
「っ」
「私はあなたのもの…」
「ふ…」
「そして、あなたは…私のものです」
「…今日はどうした事だ、仲達」
子桓様は本当に解りやすく、嬉しそうに笑う。
眉間の皺は相変わらずだが、口角は上げたままだ。
皮肉めいた微笑ではなく、私の前では微笑んでくれる。
「…、可愛らしいこと」
「?」
「いいえ、何でもありません…」
「いつ何時でも、仲達の事は助けよう」
「子桓様が、私を?」
「私は仲達にこそ仕えたかった」
「何を仰います…」
ゆっくりと腰を落として、再び子桓様と繋がる。
既に中に放たれた子桓様の精液が太腿を伝っていくのを感じて顔が熱くなる。
この人は加減というものを知らない。
皇帝を見下ろしているというのに、子桓様は先程からとても嬉しそうで私もつられて笑う。
「…苦しくないか、仲達」
「だい、じょうぶ…です…」
「…ふ」
「?」
「…仲達は私を悦ばせる才がある」
「っ、ぁ、あっ…!ま、待っ…!」
腰を落として息を吐いていたら、腰を撫でられて深く下から突き上げられる。
口を抑えて肩口に蹲っていると、子桓様から口付けを受けた。
「…う、ん…」
「至福を感じる。今ならば、いつ死んでも良いな」
「…っ、馬鹿な事、仰らないで」
「…仲達しか見えぬ」
「今は、私だけ…でしょうか」
「何、私はいつもお前しか見ていない」
「嘘仰い…」
「本当だ。信じられぬのか」
「…美人が、お好きでしょう」
「国一番の美人が、今目の前に居る筈だが」
「…仰る意味が解りません」
子桓様は立場上、女に困った事はない。
それに対し、私が嫉妬しないなんて事はない。恋仲の自覚はあれど、其れを表沙汰には出来ない。
私のものなのに、と思った事もある。
それを伝えると子桓様が口元を少し抑えた後、私を一頻り強く抱き締めた。
「!?あ、あの…」
「今宵は覚悟せよ」
「え、あ、…っ」
その後はひたすら丁寧に体を愛撫され、数え切れない程の口付けを受けた。
愛おしい、愛おしいと、子桓様は私に伝える。
今更何を言っているのだ…と頭の端で考えながら、首に腕を回した。
「…私もです」
「…ふ」
腕の中でそう呟くと、また嬉しそうに子桓様は笑った。