仕返しかえしの仕返しかえしを

愛されている。
仲達が私を愛している。
深く愛されている事が知れて、幸せでたまらない。

大事に想っている事も、一番に想っている事も仲達に伝わっていた。
仲達が待ちの姿勢になってしまうのは解る。そういう性分だ。
故に私の思いは伝わっていないのではないかと、たまに不安になっていた。
だが、思い知った。そんな事はなかった。
感情表現が下手なだけで、仲達は私の事を深く愛してくれていた。

魏軍師、司馬仲達と恋仲になってもう随分と経つ。
仲達が教育係であった頃まで数えれば、もう何年経つだろう。
同性故に、世間的には認められぬ
二人きりの時だけ字を呼び合う間柄、二人きりの時だけ私は子桓になれる。
二人きりの時だけは、身分も関係ない。
仲達と二人きりの時は身分の差を感じない。

事後の余韻で色香を匂わせながら、細い首がしなっていた。項が白い。
褥に横たわり眠る仲達の傍、背を抱くようにして肩を撫でていた。
今宵も既に二、三と情交を終えて仲達は気を飛ばしてしまい眠らせていた。

肌着を捲れば、仲達の股を私の精液が伝っている。
思わず溜息を漏らす。
最中だろうが事後だろうが、仲達の色香は衰えない。
そしてあろう事か、仲達にその自覚がない。
あったとしたらそれはそれで妖艶だが、恐らくそれはない。

尻を撫でるのを止めて、腰を引き寄せた。
相変わらず細い事だ。
腰も腕も私より随分華奢だ。抱き心地が良い。
体が冷えぬよう脚を絡め背後から抱き締めていたが、不意に仲達に振り向いた。
瞳は未だ、夢見心地だ。

「寒いか?」
「…子桓様、御御足…、ん…」
「っ」

私が仲達の股に脚を挟んだのが悪かった。
事後で随分過敏になっている所に触れてしまった。
仲達は熱く溜息を吐いて、半身を捻り私に口付ける。
私の脚に仲達のが当たっている。
股もぬるりと湿り私のは仲達の腰に当たっていた。
熱を思い出してしまった。

「誘ったのは、仲達だ」
「違います。あなたのせい…っ、ぁ、…入っ、て…」
「ふ…、未だ、大丈夫だな…」
「ぁ…!」

先程まで繋がっていたのだ。煽られれば勃ちもする。
指を入れれば、直ぐに二本も受け入れられた。

そのまま仲達の腰を引き寄せる。
白い脚に溢れ出た精液が溢れるのを横目に、深く仲達に挿入した。
またきつく締め付けて、私を離そうとしない。

「…このようにして、欲しがりだな、仲達は…」
「は、っあ…、ぁ…、また…」
「今度は、ゆっくり…楽しませてもらう」

先程は声を上げさせる程、激しい情交であった。
仲達は気を飛ばしもしていたし、私も衝動のままに抱いたところもある。
今度は私を仲達に感じさせよう。
どれだけ好いているのか、愛しているのか。沢山伝えてやろうと思った。
私も仲達を味わいたい。

先日の仲達は可愛かった。
いつも綺麗で美人だが、あの日は特段に可愛かった。
聞けば、先日の行動の原理は日頃の仕返しだと言うではないか。
愛していると伝えてくれた。
その言葉に今死んでもいいと思える幸福を感じた。
仲達を置いては逝けぬ故、死んではやらんが、それほど嬉しかった。

私も、更に仕返しせねばならん。
仲達にやられたままで、私が収まる訳がない。
一頻りに抱いた後だが、未だ足りぬ。

挿入したまま、敢えて動かない。
背後から抱き締め、共に横になる。
仲達がぞくぞくと肩を震えさせているのが解る。
動いて欲しいのだろう。仲達が体を捻らせ私の方に身を寄せる。

「ぁ…、子桓、さ、ま」
「駄目だ」
「…どう、して…?」
「感じさせたい」
「あ、ぁ…っ」
「仲達」

耳を甘く噛みながら、耳元で字を呼ぶ。
仲達は私の声が好きだ。
私も声が好きだが、仲達は私に字を呼ばれると嬉しそうに笑う。
その微笑みが嬉しくて、執拗に私は仲達の字を呼んだ。
嬉しそうに笑う仲達が好きだ。

字を呼び続けながら、耳や首筋を甘く噛む。
手を太腿に這わせつつも、仲達のには触れない。
また締め付けがきつくなった。どうやら声でも感じるらしい。
仲達の吐息が荒くなるのを横目に、今度は胸に手をやる。

充分弄ってしまったからか、仲達の乳首は私の指を埋めて柔らかい。
随分弄ってしまった為に、ぷくりと柔らかい愛らしい乳首だ。
薄い桃色の乳首を指で弄りつつも、中は動かさず股にも触れぬ。口付けも敢えてしていない。

抑制しているのだ、これでも。
色香が過ぎる仲達を思いのまま抱いたら、下手をすれば傷付けてしまう。
私の唯一の弱味が仲達である。

「…しか、…さ…」
「ん?」
「…この、体位は…嫌です…、こわい…」
「ああ…、そうだったな」

仲達は後背位を嫌がる。
苦手ではない。嫌いなのだ。
受け手の仲達を思えば、後背位の方が負担が少なく、中も深く突く事が出来るので体位としてはやりやすい。
それに、後背位の方が仲達は乱れる。

以前、仲達の言葉を聞かず、体も心も追い詰めてしまった事がある。
顔が見れない、果てが解らないと仲達は不安がり怖がった。
果て続けて狂うのではないかと、仲達を怖がらせて本気で泣かせてしまった。
私に抱かれていると感じたいからこそ、顔を見ていたいと言った。
あれは私もやり過ぎてしまったと後悔している。
あの日は一言も口を聞いてくれず、あからさまに避けられた。

もうあのような事はしない。
一言も交わさず、仲達に避けられるのは堪えた。
仲達は結局許してくれたが、してはならない線を超える事はもうあるまい。

「許せ」
「っ…、ぅ…」
「これで良いか?」
「ん…っ、ぁ、あ…っ!」

一度引き抜き、仲達を褥に寝かせた。
くたりと横たえる脚に口付け、正常位で仲達に覆い被さる。
背を抱いて腰を引き寄せ、脚を絡ませた。
仲達に当てがい、そのまままた深く腰を進める。

「また避けられてはかなわん」
「っふ、ふふ…」

これなら顔がよく見える。
仲達が一度小さく頷き、私を薄目で見上げて笑った。
手酷く扱うつもりはない。
額を撫でて、絶えず流れる涙に唇を寄せた。
仲達の中は熱く、私を柔柔と締め付けている。
顔が見れて安堵したのか、仲達はほっと溜息を吐いた。
頬を撫でれば、私の手に擦り寄る。
逐一、愛らしい事よ。

「仲達」
「はい…、子桓様」
「今宵は長いぞ。覚悟せよ」
「…余り、苛めないで下さい…」
「ふ、可愛らしいと、ついな…」
「可愛くなど…、ん…っ」
「…もうあのような事はせぬ」
「はい…。子桓様も、懲りたでしょう」
「もう御免だ」

思い出したら泣けてきた。
あの時は、本当に嫌われたと思った。
仲達に擦り寄り甘えて、口付けを深く甘く繰り返した。

「…今宵は…、好きに、なさって下さいませ…」
「ほう…、好きにしていいんだな」
「…いつも、そうでしょうけれど…」
「なれば、遠慮はしない」

ゆっくり、じっくり、深く仲達に抽迭を行う。
仲達は温かく私を受け入れた。
漏れる吐息が艶々で淫靡である。

何度抱こうが中はきつく、尻は柔らかい。
私よりも華奢な腰を掴み、腿を撫でる。
いつもより急いておらぬ為、焦れったいがこれが良い。
仲達に私を染み込ませるように抱いている。

「っは、ぁ…」
「…この方が、きつくはなかろう」
「…どうなされたのですか…?」
「ふ、愛しているぞ」
「っ」

緩やかな抽迭だと、仲達の顔をまじまじと見る事が出来る。
時折私を締め付けてくるが、強く突き上げる事はせぬ。
たまにはこうした趣向も良かろう。

私が唯一心から愛した人だ。

「…綺麗だな、仲達…」
「そんな事、ありません…」
「また美しくなったのではないか?」
「…何ですか…先程から」
「ん、お前を堪能したくてな」
「…もう、お腹いっぱいです…」
「もう満足か?」
「いっぱい出しすぎです…」

いくら仲達の中に果てたとて、孕む事はない。
確かに其処に触れれば仲達の中から私の精液が溢れてきている。
夫婦にはなれぬが、事実夫婦のように私達は生きてきた。
仲達のいない人生など考えられん。

片手を重ねて、指を絡めた。
握り締めると、きゅっと仲達が柔く握り返した。
頬を撫で、顎に手を添え口付ける。
口付けだけで果てさせてやろう。

抽迭は止め、仲達自身に触れる事もせず、深く甘く口付けを繰り返した。
歯列をなぞり、舌を甘く噛む。
食むように口付け、舌を深く絡めた。
口付けの度に仲達の体がひくつき、中がきゅうと締まる。
感じてくれているのを見て、ふと笑う。

私を愛してくれている瞳だ。

「はぁ…、柔いな、仲達」
「何が…、何処が、です…?」
「ん…、唇と胸と、尻と…」
「…もう、そのような所ばかり触れて…」
「私しか触れぬ。そうであろう」
「当然でしょう…。私が許すとでも…」
「ふ…、私の仲達だからな…」
「私の…、子桓様…」
「ああ、無論だ。仲達」

ずっとこうしていたいと思うほど触れ合った。
手でも唇でも、仲達と触れ合い体温が移って心地好い。
繋げた箇所が蕩けて、ひとつになったかのように感じる。

「…子桓さま…」
「ああ…、私ももう」

流石に動かずが過ぎた。
私も仲達も互いに焦らしに焦らし、少しでも動けば仲達が果ててしまうだろう。
私も仲達のも張り詰めていた。

「…仲達に言って欲しい」
「?」
「恋人に強請られるのは嬉しい」
「…そのような、恥ずかしいこと…」
「体を繋げておいて何を言う」
「…私からのおねだりを御所望ですか」
「おねだりの、おねだりだ」
「…あなたのお気に召すままに」

首に腕を回され、頬にひとつ、ちうと唇を寄せられた。
仲達からの口付けは随分と可愛い。
耳朶を食み、仲達に小声で囁かれる。

「…動いて、私を果てさせて…下さい…ませ、あなたの…子種が欲しいです…」
「…全く、お前は…」

艶が増した吐息と声に煽られ、褒美を与えると言いながらも私の顔に熱が集まる。
子種が欲しいは言い過ぎだ。
仲達の思わぬ不意打ちに、口付けを深めながら奥に突き上げる。
仲達はとろとろに蕩けていて、それでいて締め付けている。
程なくして仲達も私も続け様に果てたが、絶頂が何時もより長く感じる。
仲達の息が落ち着いたのを確認してから、再び腰を打ち付けた。

「ひっ…、ぁ…待っ、ゃ…!」
「…暫し付き合って貰う」
「あ、っぁ…!だ、めです、だめ、ぉ、おかし、くなり、ます…」
「なれば良かろう」
「は、ぁ…、ぁ…!ゃ、…ぁ…っ」

中を擦り上げるだけで、仲達が果てた。
と言っても吐き出してはおらず、その身だけで女のように果てた。
仲達のに触れてもいないというのに、何と過敏な事よ。

「…可愛らしいな」
「したく、て、…なった、のでは…」
「ふ、では、そうなってしまう程に感じているのか」

仲達が吐き出さずに果てた事は余りない。
触れれば無論果てようが、後ろだけで果てた。
つまりそれほど、感じてくれているのだろう。

「はい…」
「…全く、お前は…」

仲達は頬も耳も赤く染めて、瞳を潤ませながら私の手を握る。

「…誰のせいですか」
「私のせいだな」
「ぁ…、また…」
「お前が可愛らしい事を言うからだ」

触れられた手に指を絡めて、もう片手で髪を撫でる。
仲達の中に果て、奥に流し込むように腰を上げさせる。
下腹を抑えて恍惚に笑む仲達の色香がとてつもない。官能的で、淫靡が過ぎる。

そもそも事後であった。
仲達に収まりきれず、中から溢れさせている。
腹は仲達が果てたもので濡れていた。
私を見上げて、表情を蕩けさせている。

「仲達は、私が好きか」
「好きですよ…」
「私の方がお前を好きだ」
「…負けませぬ」

仲達のこのような表情と有様を、誰にも見せるものか。
吐き出させるように仲達に触れて、私もそれを最後に仲達から引き抜いた。
名残惜しく締め付ける仲達に、これと額を撫でる。

一先ず体を拭ってやり、頬を撫でた。
仲達が着ていた肌着は汗やら何やらでだいぶ汚れてしまった。
このままでは風邪をひく。
仲達には私の上着を貸して、着替えを取って一先ず上だけ服を羽織った。

「はぁ…、堪能させてもらった」
「腰が…」
「私もだ」
「子桓様が…?」

仲達が腰が立たぬ程に抱き潰す事はままある。
その度に献身的に仲達を甘やかすのだが、今宵は私も腰が立たない。
文字通り、仲達を堪能して搾り取られた。私も限界に近い。

褥に横になる仲達に寄り添い、脚を絡めて腰を引き寄せた。
私の腕を枕に、仲達がほうと吐息を吐いた。
眉を下げて、ふと笑う。

「…仕返しのつもりだった、のでは?」
「返り討ちにあった気分だ」
「ふ…、いつでも返り討ちにして差し上げます」
「仲達にしてやられるのであれば、本望よ」
「…本当に、好きなのですね」
「ああ…、愛している」
「ふ…」
「仲達には適わぬ」

脚を絡めて、仲達が満足気に笑う。
その笑みの何と妖艶な事よ。

素肌の太腿に触れて、尻に触れる。
割れ目に指を這わせれば、溢れさせた精液が伝っていた。
恥ずかしそうに唇を噛み、仲達は私の手を叩いた。
唇を噛むなよ、と仲達の口に指を入れる。

「…ら、め、れす」
「腹いっぱいか」
「…、出し過ぎです、もう…」
「そうか。満足したか」
「…おねだり、しても良いですか」
「未だ、足りなかったか?」
「…いいえ、充分すぎるほどに満ち足りております…。ただ…」

私が仲達を抱き寄せていたが、仲達に抱き寄せられた。
薄い胸に埋められて、私の頭に頬を寄せられる。
胸や腕には幾つもの私が施した痕が赤く残っていた。

「はぁ…」
「どうした?」
「…今は、こうしていたいのです…」
「抱いていてくれるのか」
「はい…」

時折、私を抱き締めたくなる衝動に駆られるのだと仲達は言う。
普段から存分にそうしてくれと言ったが、見目がございますと断られてしまった。
故にこうして、願望のままに抱き締めたかったのだと溜息を吐きながら仲達は私を抱き寄せた。
腕も胸も腰も何もかも細身であったが、仲達は柔らかく優しく良い香りがした。



仲達の寝息を横目に、書簡にて体調不良を理由に今日は共に休む事にした。嘘はついていない。
仲達も休ませるようにと、言伝の書簡を送った。
何よりこの事後の色気を他人に晒されては困る。
それに、仲達を一人占めしたい。

数刻後に書簡がきて、程々に休ませてやれと父から返答が来た。
父は私と仲達との事を知っている。

「…ん」
「起きたか?」
「子桓様…」
「おはよう、仲達」

額を撫で、目覚めた仲達に口付ける。
暫しぼんやりしていたが、はっとして仲達は上体を起こした。

「…、出仕の支度を…」
「今日は休みだ」
「は…。では、私は出仕致しますので…」
「お前も休みだ」
「そんな筈は…」
「私が言伝をしておいた。父に許しも貰っている」
「し、しかし…、それは」
「行かせぬぞ」

寝台から起き上がった仲達の背を引き寄せ、胸に抱き寄せる。
薄着で寝かせていたからか、仲達の肌が随分と冷たい。

「…本当に、よろしいのですか?」
「立てるのか」
「…っ、それは」
「立てまい」
「…はい…」
「大人しくしておれ」

昨晩は仲達の胸の中に甘えさせてもらった。
寝心地も夢見も良かった為、毎晩こうして欲しいとも思えた。
今度は仲達を胸に埋め、寝台に横になる。

「未だ横になっておけ」
「子桓様…」
「ん?」
「では…。今日は、子桓様を一人占め出来るのですね…」
「…それは私の台詞なのだが」
「腰が立たぬのは、お互い様では…」
「仕方あるまい。お前が妖艶であるからして」
「仰る意味が解りかねますな」
「…余り愛らしい事を言うと、今すぐ抱く事もやむなしだな」
「何がやむなし、ですか。もう」
「…暇が出来たと言う事は、何をして過ごしても良かろうな」
「何を…、っ、ぁ…!」

生理現象として勃起していたが、こうも仲達の言葉に煽られてはやむなしだ。
仲達に当てがうと、解さずとも私を中に招き入れるように繋がった。
朝から随分と淫靡な事だ。

「…子桓、さま、ぁ…」
「今日は一人占めさせてもらうぞ」
「…楽しみに、してます…」
「ふ…」

仲達からの予想外の返答に微笑む。
今日はずっと一緒だと起き抜けに一度体を重ねたが、それ以降は穏やかに時を過ごした。

愛らしくほおっておけない仲達を片腕に抱いて手を繋ぐ。
昨日は胸に抱いてもらった。今日は私が仲達を抱き寄せている。
ほぼ離れる事をせず、触れる機会を故意に増やした。
疲労の色を隠せずにいた仲達であったが、終始朗らかに笑っていた。
幸せそうだと、仲達の笑みを見て私も笑う。

仲達を愛している。
仕返しの仕返しとして、私の想いを手一杯に抱えて仲達に渡した。


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