ねこ

帰って来ない。帰って来ない。
扉の前で暫く待っていたのだが、やはり帰って来ない。





この姿になってから何かと不便で、執務は取り上げられて私は主の部屋に隔離されていた。
半分は猫、半分は人間という奇妙な姿ではまともに執務をする事は出来ない。
というのは建て前で、このような姿を誰にも見せたくなかった。
それは私の主とて同様の考えなのだろう。

家族には急な遠征だと伝えて泊まらせていただいているのだが、何しろ原因が不明で困り果てている。
実質、主に飼われている。
だがこの姿のお陰で主がまともに執務をしてくれる為、現状に少々ほくそ笑んでいる。

「仲達、仲達、何処か」
「!」

漸く、主の声を聞いた。
半分猫の姿になってから足音が聞こえないという理由で、腰に鈴を身に着けている。
首輪は絶対に嫌だと私が拒んだからだ。


扉の前で待っていたと思われたくなくて、奥の寝室に移動した。
私の鈴の音を聞いて、子桓様が顔を見せた。

「仲達、此処か」
「はい」
「今日はどう過ごした」
「良い日和だったので、日向で毛繕いをしながらうとうとと…眠ってしまいました」
「ふ…、このまま本当に猫になってしまうのではないか」
「それは困ります…」

漸く帰ってきた子桓様は何故か頭に布を被っていて、何処か怪我でもされたのかと心配をしていると子桓様が頬に口付けられた。
髪を撫で、腰を撫で、私を甘やかしながら寝台に座る。
首筋を撫でられるのは心地良くて、目を閉じて寝台に横になった。

子桓様の頭を隠していた布が落ちた。
体の上にのし掛かる子桓様の耳が私と同じように猫の耳になっていて、私と同じように尻尾もあるみたいだ。
唖然としていたのだが、子桓様はにやりと笑う。

「どうやら私も、仲達と同じものになってしまったようだ」
「…何と」

私と同じ猫の耳と尾を持って、手には肉球のような膨らみ、舌はざらりと鑢のように鋭い。
私のせいなのだろうかと戸惑っていると、首筋を吸われて私に甘える。

「ふ」
「嬉しそうですね」
「仲達と同じになれた」
「はぁ…」
「何、原因は知れた。これは直に戻る」
「!」
「だがその前に、恋人として同じ時を過ごしたい」
「ずっと、私を独り占めしているでしょう?」
「愛でるだけでは触れ足りぬ。今の姿のお前を同様の姿で抱きたくて堪らなかった」
「…子桓様はそれなりに変態ですね」
「誉と受け取ろう」
「勝手になさい」
「良いのか」
「…ん」

子桓様のお帰りを待つまでの時間が退屈だったので、今きっと私はとても機嫌が良い。
頷いて頬を舐めると、子桓様は嬉しそうに私を抱き上げた。

頬を優しく舐められ、頭を撫でられる。
耳の後ろを撫でられると弱い。
手を繋ぐように尻尾を絡められて、子桓様に甘えられる。
互いが本当に猫になってしまったように感じる。

寝台に優しく押し倒され、力が抜けて目を閉じる。
腰をくねらせる度に鈴が鳴った。
その音に気付いて子桓様はにやりと笑み、はだけた合わせ目の隙間から胸を吸う。
少し柔らかい肉球のようなものに乳首を弄られ、ざらざらした舌にも吸われて声を出さぬよう唇を噛む。

今更子桓様に対し抵抗などせぬが、こそばゆいことこの上なく身を捩る。

「ゃ、や…」
「どうやら私は盛りらしい」
「いつも、でしょう…?」
「今宵は逃がさぬ」
「私はあなたに食べられてしまうのですか」
「一口とて残さぬ」
「あ、っ、…!」

指先に口付けられ、そのまま肩と胸を伝い、脚の付け根にも口付けられる。
いつでも我が儘で、人一倍独占欲が強くが、私を一番に想ってくれる。
子桓様に振り回される自分が少し好きだと考えてしまっているのだから、私も相当末期なのだ。

今宵はお帰りが遅かった。
故に私は今、子桓様に触れてほしくて堪らないのだ。

「好きなのだから…仕方ない…」
「ん?」
「子桓様の好きにして、いらして」
「!」
「その前にひとつ」
「何だ」
「おかえりなさい」
「ただいま。寂しくさせたか」
「…はい…」

漸く唇に口付けをしてくれた。
嬉しくて口付けを返すと、倍以上に口付けられる。

「猫の生活は退屈です」
「ふ…、ならば今宵は一晩中可愛がってやる」
「っ」

私を押し倒した子桓様の目が据わっている。
手加減を、と言える状況ではない。
誘ったのは私だが、応えたのは子桓様だ。

全て子桓様のせい。
全てはあなたが私に甘過ぎるのが悪い。











自ら盛りだと言ったが、本当にそう思う。
野性的な本能そのままに、寝台に寝転がる仲達に欲情した。
仲達もそれを解ってか、誘うような素振りを見せて拒みはしない。

後ろから突き上げると、腰に付けた鈴が鳴る。
りんりんと鳴る鈴に合わせて、仲達の腰がくねる。
あの仲達とて腰を揺らしている。
猫の発情というのはどうやら相当なもののようだ。

「ゃ…、そ、こ」
「…きつくなったな、仲達」
「…そこは、っ…」

尾の付け根を触ると、仲達がきつく締め付ける。
仲達の今の姿が見たくて、腰紐は取らず下着は全て脱がせた。
尻尾の先は私と繋いだまま、仲達は四つん這いで私と繋がっていた。
前戯をしながら仲達を抱いて、奥に突き上げる。
背後からは滅多に抱かぬ為、私達はまさに交尾をしているのだと感じられる。

仲達の腰が揺れてまた鈴が鳴っている。
また果てたのか、仲達のを擦っている手の湿り気が増えた。

「っは、ぁ…、っ」
「ふ、…っ」

果てた仲達が脱力し、寝台に沈む。
接合部を離さぬよう、腰を支えて仲達を抱き上げる。
尻尾もそうだが、手を繋ぎたがったり、口付けを強請ったり今宵の仲達は随分と積極的だった。

「…可愛いな、仲達」
「…ふ、ぁ…?」
「ちょっと、にゃんとか言ってみろ」
「ゃ、です」
「…ちっ」
「ぁ、ゃ、いじわ、る…しないで…下さ…」

口付けをしたがっているのを知っていた。
私とて口付けたいのだが、仲達ににゃんと言わせたくて顔を背けた。
体は繋げたままで、膝上に抱き寄せた仲達の中には既に幾度も果てている。
接合部に指を差し入れると、中はとろとろにとろけて熱い。

「子桓さま」
「…」
「子桓さま…口付け、て…」
「…っ」
「…ちゅう、して…ください…」
「にゃん、は?」
「…に、にゃん…」
「ふ…」
「もう嫌です…ばか…」

涙ぐむ仲達に胸が痛んだが、漸く嫌々ながらに一度だけ鳴いてくれた。
泣かせてしまった事を謝りながら、慰めるように頬や首筋を舐める。
仲達も私の頬や唇を舐めて私の思いに応えてくれた。

口付けを沢山してやると、仲達の鈴の音が鳴っていた。
動いて欲しいのだろう。
私もまた仲達の中に注ぎ込みたい。
背後から胸を弄り、また突き動かしてやると仲達はか細く声をあげた。
手を繋ぎ、尻尾を絡めながら仲達を突き上げる。

「…こんな、に…たくさん、あなたに抱かれる…のは…初めて…です…」
「…やはり背位は好かぬな」
「…?」
「私の愛しい仲達の顔が存分に見れぬではないか」
「っ…ん…!」

交尾のような背位も良いかと思ったが、私達は人だ。
何より仲達の顔が存分に見れない。

動作の途中で仲達から引き抜き、寝台に優しく寝かせた。
戸惑っている仲達の頬を撫でてから、脚を支えて正常位で再び中に挿入した。

ぽろぽろと涙を零して泣いている仲達の顔が見れた。
ぎゅっと握られた手に指を絡めて額同士を付けた。
今度は仲達を人一倍、私に甘やかせたい。

「っ…、ん、っ…」
「顔が見れた。やはり此方の方が良い…。仲達、これで終いとしよう。そろそろ…辛かろう」
「っ、子桓さ…ま…」
「どうした」
「…もっと…、字を、呼んで下さい…」
「ふ、いつもと逆だな。今宵の仲達は可愛らしくて堪らん」
「っ、ぁ、あ、あ…!」
「仲達、仲達、…仲達、仲達…?」
「っ、耳は、だ、め…です」
「私の声だけで果てるのか、仲達?」
「だっ、て、子桓様のお声が…好き…ですもの」
「っ…!」

猫耳を甘く噛みながら字を呼び突き上げる。
望み通り字を呼びながら中に果てると、仲達も私の字を呼びながら果てて気を飛ばしてしまった。




少し苛めすぎてしまったかもしれない。
仲達の体を清めながら髪を撫でると、ふわふわとした猫耳が立った。
ぼんやりと私を見てから、仲達は私の腕に頭を乗せて胸元に丸まる。

「…これ」
「……にゃん」
「!」
「って鳴いたら、子桓様は私の言う事を聞くのですよ」
「いや、待て」
「聞いてくれないのですか?私をあんなに…」
「う…、聞こう」
「ずっと、こうして居て下さい…」

罪悪感に勝てず、胸に埋まる仲達の丸まった背中を撫でた。
口だけは本調子のようだが、やはり相当疲れさせてしまったらしく、尻尾を絡める力も弱い。
寝台から起き上がる力もないようだ。


私から尻尾を絡めて仲達に寄り添うと、仲達は私の腕の中で大人しくなった。
傍に居ろと言う事なのだろう。

今宵は仲達の元に戻るのが遅れてしまった。
この姿の仲達に使いを出す訳にもいかず、長らく一人で待たせてしまった。
半分猫になってしまってから、なるべく仲達から離れずに居たのだが今宵は寂しがらせてしまった。
だが今は私も同じ姿だ。

「暫く、猫として過ごさせてもらおうか」
「…元に戻る、のですよね…」
「残念ながらな」
「暫く執務が休める…」
「ふ、そうだな。休暇と思え。私も番として過ごさせて貰う」
「番とか言わないで下さい…」
「事実だろうが」
「う…」

背中を撫でていると、仲達が此方を向いた。
ちりんとまた鈴が鳴る。

「にゃー」
「!」
「今日は何処にも行っちゃ嫌です…」
「ああ、何処にも行かない。仲達の傍に居る」
「ふふ…」
「っ」

私が傍に居ると言うだけで、嬉しそうに笑ってくれる仲達に完全にやられてしまった。

「…可愛い…」
「?」
「とても可愛い」
「にゃー」
「またお願いか?」
「にゃー」
「可愛い」

私に抱き締められて笑うだけで、仲達は願いを言わなかった。
肌の温かい仲達が眠るまで、頬を舐めて甘やかせていた。
仲達がまた小さく鳴いて、私の腕の中で目を閉じる。








にゃーと鳴くのはお願いがあるからではない。
単に私を喜ばせてくれているのだと解ったのは明朝になってからだった。


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