久方ひさかた惚気のろけ

仲達との付き合いも長くなった。
春には二人で桃や梅の花を見て、夏には二人で涼み、秋には二人で重陽を祝い、冬には体温を分けるように二人で過ごす。


そしてまた、仲達と過ごす幾度目かの春がきた。



最近は多忙だった為、二人きりになれたのが久しい。
今夜は仲達が私の傍にいる。

「今宵は」
「はい」
「傍に居て欲しい」
「何時でも、御傍に」
「そうか。久しく感じるが」
「二人きりになれたのは久しいと思います。そうやもしれません」
「…因みに」
「はい」
「帰すつもりはない、のだが」
「っ、はい…」
「うむ…」

皆まで言わずとも、仲達は察してくれた。
仲達を誘い、手を握る。
手を握るだけではもの足らず、指を絡めて手を引いた。
同衾の約束をした後、仲達は少し頬を染める。


十余年と共に居る筈なのだが、いつも初々しい。
幾度抱いたか解らぬ程にその体を抱き、口付けていると言うのに未だ私の恋人はこのような誘いに慣れてくれぬようだ。
寧ろ慣れてくれぬからこそ、愛おしい。

今でも付き合い始めたあの頃のように仲達は頬を染める。
あの頃と変わったのは、仲達から私の方に触れてくれる事が増えた事だろうか。



仲達の手を引き、中庭を歩く。
夜空に咲く梅や桃を見て歩く。春の花々は美しい。
次はそろそろ木瓜が咲くだろう。

花々に負けず劣らず。
私の仲達も相変わらず綺麗だ。



春はまだ始まったばかりで肌寒い。
風邪を引かぬよう仲達の肩に上着をかけて、部屋に戻った。
体温を下げぬように、仲達の傍から離れない。



昨今の執務の量に比例してか、仲達の肌が少々荒れている。
軟膏を保湿の為に自分諸とも仲達の手に塗り込むと、仲達は私の手と合わせるように指を広げた。

仲達と視線が合い、笑う。

「どうした」
「御立派になられましたね」
「夏侯惇や張遼らに比べれば、まだまだ」
「武将になれ、と申したつもりはございません」
「まぁ、一人で戦局を打開出来る程度には武力は付けた。知力はお前が私に身に付けてくれた」
「はっ…」
「だが知力において、仲達には適わぬ。否、魏において仲達に適う者などおるまい」
「買い被り過ぎです、子桓様」
「…漸く呼んでくれた」

字は、二人きりだという認識がないと呼んでくれない。
仲達から呼んでくれたという事は、漸く意識してくれたのだろう。

「…嫌か?」
「否…」
「そうか」

額に唇を寄せて仲達と距離を詰めた。
身長差のせいで上から見下ろす機会が多いのだが、仲達は睫毛が長い。
切れ長の瞳に長い睫毛がよく似合う。

今度は唇を合わせて腰を引き寄せ、寝台に押し倒す。
握った手はそのままに仲達に口付けた後、額を合わせた。
頬を染め、睫毛が少し濡れている。

「子桓様、は…」
「何だ」
「我慢が、出来ない子ですね」
「漸く二人きりになれた。…仲達の前では無理だな」
「…少しは堪えられませ。お花見をするのではなかったのですか?」
「あれは口実だ。別にお前を呼び出す理由なら何でも良かったのだ」
「子桓様たら」
「焦らされるのは性に合わぬ」
「…情緒も何もありませぬ。いつも私を焦らす癖に」
「そうだったか」
「幾久しく、触れられますから…、私も、上手く出来るかどうか…」

口付けだけでも興奮するのに、不意に仲達は愛らしい事を言う。
これが無意識なのだから質が悪い。





私の勃ち上がったものを服の上から触れる仲達に唇を寄せ、仲達の体が熱く反応している事を確認した。

「私がお前を傷付けるとでも?」
「…要らぬ心配でございましたか」
「無論」

唇を指でなぞり顎を掴む。
端麗な顔立ちを見てから再び口付け、そのまま首筋や胸に痕を残す。
肌をはだけさせながら、仲達のにも服の上から触れる。
色の隠った吐息を吐く仲達を見ているだけで愛おしく、その手がずっと私の胸元に置かれているのも嬉しい。

私の動悸は既に仲達に伝わっているだろう。



ふと、仲達が体を起こして私の胸に埋まった。
どうしたのかと思えば、一方的に手を出されたままというのが気に食わないのか、私に仕返しをしたいらしい。

「…仲達」
「今宵は私とて、貴方に尽くして…、差し上げたい…と」
「…いつも尽くしてくれているではないか。お前が為す事全て、私を上機嫌にする」
「それは、私も同じ」
「…仲達も、共に居たいと、そう思っているのか」
「は…。貴方が私を…一方的に、好き…、と言う訳ではないでしょう…」
「…ふ」

唐突に嬉しい事を言う。
幾度か残した痕をなぞり再び唇を寄せると、仲達は私の前に屈む。
私に触れた仲達の肌が熱くなっている。
私は仲達を、仲達は私しか見れなくなっている。

片思いである日々が長かったせいか、仲達からの言葉が嬉しくて堪らない。


私の前に屈む仲達が何をしたいのかを察した上で、顎に手をかけた。

「…仲達」
「我慢…、出来ないのでしょう?」
「お前から、それは」
「今宵は幾久しいので…、まだ、少し…」
「情事は…、繋がるのは怖いか」
「今更、怖く、など…ない、です」

久しい情事に感覚が思い出せず、怖いのだろう。
以前より随分と余裕がないように思える。

目線を逸らして私の前に膝を付き、髪を耳にかき上げて口で奉仕をし始めた。
慣れぬ事をする仲達の口内は温かい。

仲達の本心は直ぐに解った。
仲達から口淫で奉仕をするなど滅多な事ではないのだ。
相当寂しがらせたのかと思い、仲達から離れぬ事のないよう故意に触れた。


苦しそうに私のを頬張る様子を見ながら、何も感じぬ訳がない。
悶々とした情欲が仲達を見る事で止まらなくなる。
目の毒過ぎて本当は口淫などさせたくない。

仲達も感じさせてやりたいと思うが、手が届かない。
せめて不安にはさせまいと、仲達の髪や頭、肩に触れて撫でた。
愛しいと、仲達に言葉でも仕草でも伝えたくて頭を撫でた。




八重歯が当たり、仲達の姿にも煽られて限界が近い。
仲達の奉仕は決して上手くはないのだ。
ただ私の為に、という思いを感じ、愛おしくて堪らないのだ。

口内に出してやるのは可哀相だと思い、もう良いと仲達の頬を撫でて口元から離す。
外に、と思ったのだが再び仲達から距離を詰められてしまい、中途半端に唇と顔と口内に果ててしまった。

「っ…、…!」
「すまぬ…」
「苦い、です…」
「口を開けよ。飲む物ではない」
「ぅ、あ…」

仲達の顔や唇を私の精液で汚してしまった。
やらかしてしまった行為に動揺し、情欲が溢れそうになるのを堪える。

直視できない。何て様だ。

仲達の口内に指を入れて精液を掻き出す。
唇や顔を拭いながらも、長い睫毛に潤む瞳が私を見つめる。
誘い込まれているのか、無意識なのか。

仲達は私を見つめて眉を下げる。
仕方のない方だ、私を叱る。


口内から掻き出し、仲達の顔を拭う。
汚してしまった事を謝り、仲達を抱き寄せようとするも仲達は首を横に振る。
寝台の手摺に凭れて動かない。

「…仲達?」
「今は、触れては駄目です」
「どうした」
「駄目、です」
「?」

肩が震えている。
寒いのかと思い肩を引き寄せると、仲達の体は小さく痙攣していた。

熱く漏れる吐息に、仲達に何があったのか察し、寝台に寝かせた。
どうやら仲達も果ててしまったらしい。
震える体から服を脱がせると、下半身はじっとりと白く汚れている。

「…ふ、私が触れる前に果てたのか?」
「申し訳、ありま…せん」
「否…、感じているのだな」
「はい…」
「このように下穿きを濡らせて…、気が高ぶったか」
「…よく、解らないのです…」
「うん?」
「…子桓、さま」

果てたばかりの仲達は敏感で、胸をなぞるだけでも目を細めて感じている。
気が高ぶっているのか。仲達から愛らしい口付けを受けてほくそ笑む。

濡れてしまった下穿きを脱がしながら、そのまま仲達の中に指を滑り込ませた。
少々きついが中は熱く、私の指を受け入れる。

仲達は両手で口元を抑え、ぽろぽろと涙をこぼしていた。
やはり少々痛むようだ。



不安にさせぬように身を寄せて頬を近付けると、仲達から口付けを求めてくれた。

「…、痛いか」
「私…どうか、してしまったみたいです…」
「ほう。傷まぬのならその方が良い」
「…まだ少し、痛い…、です。子桓様」
「ふむ…。もう少し時間を掛けるとしよう」
「ですが、焦れったいのは嫌です…」
「難しい事を言う」

傷付けぬように、傷まぬようにと爪を立てず中に指を入れて仲達の反応を見る。

焦らされるのは嫌だと、仲達は難しい事を言う。
ならば暫く口付けをしていてやろうと思い、仲達の身を起こして私の膝上に座らせた。
私が仲達を見上げるようにして口付ける。

口付けながらも中の指を動かし、仲達の反応を見た。
空いた片手で逃げ腰の仲達の腰を引き寄せる。
もう大分悦いのか、仲達のものは勃ち上がっていた。
私のもいきり立っており、仲達の腹に当たっていた。

十二分に指で解し、今は指二本でも受け入れられるようになった。
仲達がもういいと首を横に振る。
漸く指を抜いてやると、仲達は深く吐息を吐いて私の肩口に埋まった。
生理的になのか、瞳が潤み涙が零れ落ちていた。

「…っ、はぁ…」
「大人しくしておれよ」
「焦らし、過ぎです…」
「何、一度で終わらせる気など毛頭ないのだ。覚悟せよ」
「…子桓様」
「口付けをしたい。仲達」
「はい…」

仲達の肩を叩いて顔を上げさせ、深く口付ける。
そのまま仲達に当てがい、ゆっくりと深く深く奥まで挿入していく。
吐息がくぐもり、きつく締め付ける仲達の腰と脚を支えて押し倒した。

唇を離して仲達を見下ろすと、やはり少々痛むようだ。
ぎちぎちに締め付ける仲達の尻を撫でて、眉を寄せる。

「そんなに締め付けては、直ぐに果ててしまう」
「っは…、手を」
「手?」

仲達に乞われて手を差し出すと、撫でて欲しいのか私の手に頬を擦り寄せ唇を寄せた。
小指を甘く噛み、舌を這わせる。
私の指で自分の涙を隠し、その様子を見て頬を撫でた。

「痛むか」
「…子桓様」
「ん?」
「…幸せです…」
「私もだ…。仲達…、痛くないか?」
「平気です…。子桓様、我慢なさらないで」
「何だ。先程は我慢しろと言った癖に」
「私が、もう、我慢出来ないのです」
「…ふ、愛らしい事を言う」
「散々焦らしておいて…。もう、初夜ではないのですよ…」
「処女のように怯えていただろうに」
「っ」
「ふ…、動くぞ」

拗ねたような態度を見せる仲達に愛しさが増し、額に口付けてから腰と脚を支えて突き動かす。
拗ねてはいても、仲達は私の首に腕を回してくれた。

確かに初夜ではないのだが、仲達の初々しい仕草にどうにも慎重になってしまう。
それが逆に仲達を焦らし続けていたらしく、私に抱かれながらも仲達は少し怒っていた。

「…っ」
「…ぁ、っ!」

程なくして仲達が果てたのを見てから、私も中に果てた。
あの仲達を抱いているという征服欲は元より、私に抱かれて感じてくれている仲達を見るのが何よりも恍惚に感じた。

私の体の下で震えている仲達に口付けを落としながら、果てども抜かず再び突き動かす。
今一番、仲達は感じていてくれている筈だ。

「っあ、待っ…、っ…!」
「良い顔だ」
「子桓、っ…さ…!」
「今が一番美しい顔をしている」
「なっ…?ぁ…!」
「お前に私を感じさせたくて、私はお前を感じたいのだ。仲達」

仲達に額を合わせて見つめる。
涙が伝う目尻を拭い、再び腰を打ち付ける。
押し寄せる快楽に仲達は声をあげ、体を震わせて感じてくれていた。
漏れるような吐息に混ざり、私の字を呼ぶ仲達が愛おしくて堪らない。

私なしでは駄目なのだと、そう思わせたくて仲達を少々手荒に抱く。
傷付けぬように気を遣いながらも、抱く事は止めない。

本当は、私が仲達なしでは駄目なのだ。


幾度か中に果てた後、仲達が軽く気を飛ばしてしまったのを見て漸く体を離した。
胸で息をする仲達に口付け、強く抱き締める。
少し経った後、仲達が私の頬を撫でた。


仲達の手に甘えていると、不意に頬を抓られた。
少し怒っているらしく、仲達は頬を膨らませている。

「すまぬ」
「…、しつこいですよ…もう」
「っ、すまぬ」
「…ですが、私以外を抱かれていらっしゃらないと解り、…嬉しかったです…」
「当然だ。…ずっと、仲達を抱きたかったのだ。お前の代わりなど務まらぬ。
私はお前でいい、などとは思わぬ。お前がいい、のだ。仲達」
「…子桓様は本当に、真っ直ぐにお育ちで…、困ります」
「ん?困るのか」
「この上ない御言葉。
…ですが、このような抱き方は程々になされませんと…」
「おっと」

起き上がろうとしたのだろうが、体に力が入らなかったのか仲達はよろけてしまった。
片腕で支えて脚を閉じさせ、そのまま仲達に触れるだけの口付けを落とす。
相当疲れさせてしまったのか、私の腕の中に凭れたまま仲達は動こうとしない。
少し溜め息を吐いた後、仲達は私の胸に身を任せた。


目を閉じてしまったらそのまま眠ってしまうような気がして、仲達に私の上着を着せてから再び私の胸に埋める。
仲達の尻や脚を伝う私の精液を拭い、ひとまず寝台に寝かせる事にした。

羞恥心の為か、仲達は頬を赤らめて視線を反らしている。
仲達の体が落ち着くのを待ち、ただひたすらに仲達を大切に扱う。
私の宝物が寒くないように、体温を分け与えながら情事の名残を感じていた。




ほとぼりが冷めた体を清めた後、やはり仲達は耐えきれなかったらしく既に寝息を立てていた。
主より先に眠ってしまうなど申し訳ない、と瞼を開けていようとはしていたが、私は仲達を許して寝台に寝かせていた。

二人で居る時は主従関係を捨てよと言い聞かせているのだが、どうにもままならない。

「ゆっくり休め。腰も立たぬ体で執務をさせたくない。
それとな…、周りにむやみやたらに色香を振りまかれるのは困る」
「…ふ」
「お前は何も気にするな。悠々と羽を伸ばすがいい」
「子桓さま」
「何だ」
「見て…、いて下さい…」
「見ているとも」

情事の後の仲達は、いつもより私に甘えてくれる。
このような仲達を見れるのは私だけで、私に甘えさせるのも仲達だけだ。

仲達の寝息を腕に感じながら、はだけた胸の指でなぞる。
残したいくつもの所有印を指でなぞり、身丈の合わぬ私の寝間着を着る仲達の身形を整えた。

眠っていても構わぬ。
私も仲達に甘えたいのだ。



頬を寄せると、仲達が私を引き寄せてくれた。
まだ少し、起きていてくれたのだろうか。

どうやら眠っているらしく、無意識のようだ。
私の頭や頬を目を瞑ったまま撫でる仲達に笑み、離れないように目を閉じた。












朝方、軽く体を動かそうと中庭で剣を振った。

寝起きの仲達の色香にまた手を出さない自信がなく、煩悩を払拭しようと思ったのだ。
中庭と言っても、私の部屋は視界に入る距離だ。
格子は開けてある為、仲達が体を起こせば気付く。

三刻か四刻か。
剣を振り下ろし部屋に視線を向けると、仲達が格子に肩を凭れて座っていた。
起きてからずっと見ていたのか、仲達が小さく欠伸をしたのを見て駆け寄る。

「起きたのか。体が痛むだろう。まだ寝ていても」
「子桓様」
「何だ」
「大きく、ご立派になられましたね」
「…何だ、突然」
「剣舞の冴えに見惚れました」
「惚れ直したのか?」
「直す事などないでしょう」
「…そうか、うむ」

珍しく素直な仲達の言葉に口元を抑える。
私が仲達に好意を伝えるのはいい。いつもしている事だ。

ただ、仲達から好意を伝えられるとどうにも慣れぬ。
嬉しくて堪らず、口元がにやけてしまう。


仲達もそれを解っているのか、余り言葉では言ってくれない。



仲達が目を擦ったのを見た後、窓枠を乗り越え部屋に入った。
剣を置き、仲達の傍に戻る。

「お行儀の悪い」
「早く私の仲達の傍に戻らねば」
「…ふ」

仲達は私に手を伸ばす。
その手に唇を寄せた後、仲達の腕を引いて腰を寄せ深く口付けた。


横に抱き上げようとしたが、仲達は首を横に振り私と手を繋ぐ事を選んだ。

「…今日一日、傍に居てくれような?」
「お望みのままに」
「うむ」
「湯浴みなさいませ。剣を振っておられたのですから」
「ああ。仲達も来るか」
「はい」

仲達の頬に口付けて、横に抱く。
今日はひたすら惚気ていよう。

早朝なら誰もいない。
格子に座る仲達を抱き寄せて再び口付け、指を絡ませて湯浴みに向かった。


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