事実じじつ

澄ましてはいるものの、私を見たら嬉しそうに笑う。
その反応がとても愛おしい。
私もずっと仲達に会いたかった。

時間が取れたので仕事上がりの仲達を食事に誘ったのだが、私も仲達も残業をしていた為、互いに待ち合わせの時刻に間に合わなかった。

灯りの消えない繁華街とは言え、仲達をひとり待たせる事に不安になり車を出した。
車で行くつもりはなかったのだが、白いスーツ姿の仲達を見つけて手を引く。

「仲達」
「曹丕殿」
「遅くなった」
「いえ、私も今来ました。そのまま来たのですか?」
「…忘れていた」

仲達に指摘されて気付く。
合流を急ぐあまり白衣を脱ぐのを忘れていた。

運転席に乗る前に白衣を脱いで後部座席に投げようとしたが、仲達に回収されて丁寧に折り畳まれた。
仲達は随分と几帳面だ。

「何が食べたい」
「胃に優しいもので…」
「疲れているな」
「少し」
「そうか」

仲達が少しと言う事はかなり疲れているのだろう。
頬を撫でてから口付けると、唐突だと怒られてしまった。
だが、嫌がった素振りは見せない。
待たせてすまないと謝ると、仲達は頷いて私の髪を撫でた。






深夜まで開店しているというレストランに赴き、食事を共にした。
ただ何となく決めたメニューが二人とも同じものだった事に笑う。

明日は休みなのだからと、仲達に酒を勧めたのだが私が飲まないならいらぬと言う。

「日々の疲労と不平不満には、酒も必要だ」
「せっかくのお誘いですが、今のあなたは飲めないでしょう」
「ほろ酔いの仲達は、好きだ」
「何を仰る」
「潤んだ瞳が、火照った肌が美しい」
「っ、子桓様」

少し頬を染めて仲達は口元を隠す。
口元を隠す仕草の仲達が可愛らしい。
私のもうひとつの名前を仲達は呼び、司馬懿のもうひとつの名である仲達と私は呼ぶ。
恋人だと、互いに自覚していた。

無理に酒を勧める事もないだろう。
注文を聞いたところ、もうラストオーダーらしい。
店に入ったのが遅かった。
食事も終盤に差し掛かり、もう仲達と居られる時間が終わってしまう。

「…話し足りぬな」
「はい」
「…連れ帰っても、良いか」
「…はい…」

意味は解っているのだろう。
食事が終わって一服していると、仲達は私の袖を掴んで頷いた。
駐車場に至る道でも仲達は私の指を握っていた。

「どうした?」
「…何も」
「会いたかった。仲達」
「はい…、私も」

可愛いとは言わない。
口に出したら仲達の機嫌を損ねる。
指を絡めて手を繋ぐと、仲達は嬉しそうに笑う。
ただ、寂しかっただけなのかもしれない。

仲達を助手席に乗せて閉まりかけた売店に立ち寄る。
日々の買い物が出来なかった為、簡単に買い物をして車に戻った。
襟元を緩めて寛ぐ姿に笑み、車を出した。


家に着き、仲達の手を引く。
互いに愚痴りたい事はあるのだろうが、二人でいるとそのような暗い話にはならない。
私も仲達もせっかく二人きりになれたのだからと、互いに暗い話題は避けた。

部屋のソファーに座ると、いつものように仲達がキッチンを借りて私の為に茶を煎れてくれた。
いつものように、仲達は私の隣に座る。
ずっと昔から此処が自分の場所だ、とでも言うような仲達の腰を引き寄せて目を閉じた。

私の髪を、仲達の細い指が撫でる。

「お疲れですね…」
「仲達の顔を見たら、癒された」
「まだ何もしてませんよ」
「まだ?」
「…っ」
「仲達は、居るだけで良い。傍に居てくれぬか」
「はい」

随分と積極的な仲達に笑み、腰を撫でる。
今はまだ手を出さない。
少し話をしていたかった。
肌に触れているだけで良かった。

頬に優しく口付けた後、仲達を抱きかかえてソファーに寝転ぶ。
こうして抱いているだけで本当に癒される。
仲達は私の腕の中で大人しく抱かれていた。




暫くそうしていたらどうやらいつの間にか眠っていたらしく、温かみに目を開けた。
仲達も寝息を立てて私の腕の中で眠っている。

近くに布団はない。
起こさぬようにと、とりあえず私の白衣を肩にかけた。

その身じろぎに目を覚ましたのか、仲達を起こしてしまった。
小さく欠伸をした後、私の髪を撫でる。

「眠るなら、ベッドになさって」
「お前の肌が心地良い」
「何を仰っているのですか」
「ふ…、白衣も似合うな仲達」

仲達を抱き直して体を起こす。
私が肩にかけた白衣に気付いたのか、仲達は白衣に腕を通した。


事実


「似合いますか?」
「眼鏡もかけてみろ」
「子桓様、昔はかけてなかったでしょう」
「眼鏡をかけるのは診察の時だけだ」
「こうですか?」
「ほう」

白衣も眼鏡も仲達によく似合う。
私の仲達が私の服を着て笑う。
よく似合っていて、何よりも可愛らしい。
無意識に上目になる仲達が私を見つめて笑う。

「ふふ」
「どうした?」
「あなたの匂いがします」
「白衣か」
「頑張っていますね。ですが子桓様、無理をなさらぬよう…」
「…ふ、私の具合が悪くなったら、仲達先生に看てもらおうか」
「そのような呼び方」
「今も教師だろう、先生」
「私は医師ではございませぬ」

欲情しなかったと言えば嘘になる。
何時でも心から愛おしいと思う。

眼鏡越しに見えた長い睫毛は濡れていて、真っ直ぐに私を見つめていた。
私を心配をしてくれているのか、仲達は少し眉を下げた。

「きちんとお休みになって下さい。あなたは昔からよく無理をする子でしたから」
「先生」
「っ、何ですか」
「…ふ」
「ぁ、っ」

触れるだけの口付けから、徐々に深く舌を絡めた。
初めは強ばっていた肩も、腰を引き寄せれば随分と力を抜いてくれた。
顎に触れ、上を向かせて更に深く幾度も口付ける。

少し苦しいのか、仲達は私の胸元を握っていたが抵抗はしなかった。
寧ろもっとと強請るように、舌を絡められる。

仲達に誘われるがまま、口付けた。
相も変わらず柔らかい唇を指で撫でてから離し、頬を撫でればくた…と力を抜いて仲達は私に寄りかかった。
吐息に色香が感じられ、思わずそのままソファーに押し倒す。
吐息を漏らす仲達の頬を撫で、上着を脱がそうとしたが何だか勿体無い。

胸に触れるがそれ以上手を出さない私に仲達は小首を傾げた。
その様子に笑み、仲達を横に抱き上げる。

「…?」
「ソファーでは、辛かろう?お前に無理はさせたくない」
「…っ」
「医師の私を看てくれぬか、先生」
「お医者様のあなたには適いませぬ」
「お前は私にとって、誰よりも名医だぞ仲達」
「?」

傍に居るだけで気が和らぎ、触れれば安堵する。
そんな人は仲達以外に在りはしない。

仲達をベッドに寝かせて、押し倒すようにのし掛かる。
眼鏡を外そうとした仲達を止めて掌に口付けた。

「そのままでいい」
「ですが…」
「私の仲達が、私の白衣や眼鏡を身に付けているというのが良いのではないか」
「…もう」

私の。
その言葉に頬を染めながら、仲達から私に口付けをしてくれた。
私の首に腕を回して、額を合わせて目を閉じる。

「私の…」
「ん?」
「子桓様の事です」
「ふ…、お前のだ仲達」

仲達の独占欲が心地良い。
思いが止まらず、愛おしさのままに仲達を抱き締める。

白衣やワイシャツを脱がさず、胸元をはだけて仲達の肌を味わう。
仲達は無抵抗に何もせずという訳ではなく、私に口付けを求めたり首に腕を回してくれたりと愛おしい姿を見せてくれた。
結論から言えば、仲達が何をしても愛おしい。

ズボンと下着だけは脱がし、白い生足に口付ける。
そのまま胸や腰を吸い、痕を残していく。
眼鏡の下の瞳が濡れて、眉を下げて私を見つめていた。
私が触れる事で仲達が感じてくれていると解る。

吐息を漏らしながら眼鏡のフレームを上げて、挑発的に仲達は困ったように笑う。

「私が居るだけで、良かったのでは…ないのですか…?」
「気が変わった」
「…気分屋ですこと」
「嫌か?」
「それは…、狡いでしょう…」
「私に、襲われる気だった癖に」
「襲うなんて仰って…。今宵は…あなたに、抱かれ、たかったのです」
「っ」
「私が居る事で、あなたが癒されるのなら…、これ以上の喜びはありません…」
「…疲れているのか?」
「大丈夫です…。優しくして…下さるのなら」
「これ以上ない程に」
「っ、ん…、っ」

仲達のを口に含むと少し抵抗する素振りを見せたが、体の中に指を入れてしまえば大人しくなった。
どちらもとろけてしまう程に熱くなっていて、仲達は私の白衣の袖口に頬を寄せている。


私の口淫に気をやってしまったのを確認し、仲達が果てる手前で口を離した。
私とて仲達の中で果てたいのだ。

「っ…、子桓、さ…」
「焦らすのが好きでな」
「意地の…わるい…」
「まだ、果てるな。私とて仲達の中で果てたい」
「…はや、く」

胸で息をする仲達に当てがう。
そのままゆっくりと腰を進めて、仲達と繋がり口付ける。

体を繋げる少し前から、仲達は私の手を握り締めていた。
指を絡めて手を繋ぐと、少しずれた眼鏡を直して仲達が息を吐く。

「…っふ…」
「…子桓さ、ま…?」
「今宵は…、ずっと…、仲達…といたい」
「はい…」
「…寝かせぬぞ?」
「もう…」

少し締め付けがきつくなった。
普段の澄ました顔が今は快楽にとろけて、私に抱かれている。
奥に突き上げる毎に息を漏らし、仲達は次第に腰を揺らしてきた。

頬を撫でて見とれていると、きつく締め付けて仲達は先に果てた。
続けて仲達の中に私も果てるも、突き上げる事は止めず腰を揺らす。
果てた直後、体の隅々まで敏感になっている事は知っているのだ。

「ぁ、あ…、や、っ…!」
「っふ、まだ…、仲達…」
「や、ぁ、こんな、の…」
「止めて、欲しいか」
「っ、は、ぁ…、っふ…!」

ぽろぽろと涙を流して体を揺らされる仲達が、私を抱き締める。
幾度も口付けて、名を呼ぶ。

名を呼ぶ合間に、私の、と。
色香を含んだ吐息に混ざり、そう聞こえた。

「…何だ、仲達」
「わたし、の」
「ふ…」
「私の…、子桓さま」
「…ふ、これ、離れられぬではないか」
「…、私の」

離れる必要もないが。
私が仲達に対する独占欲は大概だが、仲達も私を求めてくれていた。
頬に擦りよる仲達が愛おしい。

頬に当たる眼鏡を外し、仲達に深く口付ける。
体は繋げたまま、もうどちらがどちらなのか解らぬ程に抱き合った。
幾度果てようとも、仲達の中にだけ果てた。


名残惜しく体の繋がりを解いて、仲達を腕に抱き横になる。
私の腰が立たなくなった。
仲達はとうに腰が立たず、私に抱き上げられなければ動こうともしなかった。

「…子桓様」
「すまぬ」
「…もう…、馬鹿ですか…。もう…」

互いに腰が立たぬ程に体を繋げたのは久しく、仲達は少し怒っていた。
泣き腫らした瞼を撫でてやると、私の指を甘く噛む。

「ひどい…、責任をとって下さい…」
「では、結婚してくれ」
「…馬鹿めが」

仲達に頬を抓られた。
事実、付き合っていると言うよりは既に結婚しているのではないかという思いにかられる。
同居もしていないし、籍を入れられない関係であれど、そう思わずにいられない。

セフレ、体だけなどと思った事は一度もない。
友達と呼ぶには愛おし過ぎて、恋人と呼ぶには思いが溢れ過ぎた。


私の白衣に丸まる仲達の腰を引き寄せ、生足に触れる。
白くどろりと、私と仲達の精液が溢れていた。
確かに、馬鹿だと言われる程やりすぎた。

声色を変えて真面目に仲達に謝ると、仲達は眉を下げて笑っていた。
首を傾げていると、隙を見たのか仲達に押し倒されてしまった。
押し倒されたところで仲達は軽い。

眼鏡をかけ直して、ワイシャツがはだけた私の胸に触れる。

「…?」
「…私は、傍に居れるだけでも良かったのですよ」
「本当にすまぬ…」
「…ですが」
「ん?」
「また少しだけ…、あなたを独り占め出来ました」
「幾らでも、私は仲達のものだが?」
「おもてになる癖に…」
「お前だけだと言うに。寧ろ、お前こそ。無意識に周囲やたらに色気を振りまくでない」
「仰る意味が解りません」

体を起こし腰を撫でる。
ベッドの上では信用されぬのか、仲達は頬を膨らませていた。
確かに顔を合わせるなり情事をしているような間柄では、信用されないのかもしれない。

暫くして、仲達は電源が切れたかのように寝静まり私の腕の中に落ち着いた。









仲達が私の傍にいる内は、少しでも離れたくない。
また仕事に引き戻されてしまう前に少しでも、仲達を見つめていたかった。
疲れてはいるが、眠りたくない。
仲達の寝顔を見つめているだけで、外はもう十分に明るくなっていた。

「…好きだ」

本当に。
激しい口付けではなく、唇に優しく触れて口付けた。
少し仲達が身じろいで、私の方を向く。
ぼんやりとした眠気眼だったが、私を見るなりその眼光は柔らかくなった。

「…仲達」
「あなた、寝ていないのですか」
「見ていて飽きぬ」
「悪い子ですね。疲れが取れませんよ」
「もう十分、私は癒されている」
「?」

仲達と揃いの小指の指輪が朝日に光る。
今も外さずに居てくれているのかと、仲達の手を握り締めた。
ふと、仲達が私の頬に口付ける。

「どうした」
「あなたは昨夜、け、結婚…がどうとか、言ってましたね」
「ああ。お前が良いと言ってくれるまでは待つ」
「ですが、あなた…、気は長くないでしょう?」
「そうだな。仲達を連れ去ってしまうかもしれぬ」
「…もう」

溜息を吐いて、仲達は私の胸に背を預けた。
私より小さい仲達の背を支え、後ろから抱き締める。やはり小さい。

「…書類がどうとか、関係ありませぬ」
「ん?」
「これが事実、でしょう。もう、今更。何が結婚ですか」
「何だ仲達。もう少し私に解るように言え」
「解っている方にわざわざ言いません」

事実婚だとでも言うのか。私の思いはとうに叶っていた。
寧ろ、私の方があなたを好きですとも仲達は言う。

「…仲達、それは狡い」

仲達の言葉の数々に安堵と幸福を覚えて、一気に眠気が襲ってきた。



「幸せだ…。そうか、私はもう仲達と結婚していたのか」
「ばっ、なっ、あ、あなたは小さい頃から、何も変わっていませんね!」
「…ふ。少し眠る」
「おやすみなさい…」

小指を絡めて、仲達の胸の中で漸く目を閉じた。


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