あざな

夜更け。
湯上がりに一報が入る。
師が曹丕様からです、と書簡を携えて執務から帰ってきた。

帝位に就かれてから、お互い共に忙しく。
もう何日も二人では会えていない。
玉座に座る子桓様を、少し下の段差から見ただけだ。

『会いたい』とだけ一言書かれた書簡。



書簡を閉じて、寝間着から朝服に着替える。

「今から何処か行かれるのですか?」
「直々に呼ばれたのでな」
「このような夜更けに…明日では駄目なのですか?」
「少し気にかかる事もある。行ってくる」

まだ髪が濡れていたので、冠は被らず朝服に上着だけ羽織り出掛ける事にした。
夜間という事を師が気に掛けて、城門まで付き添う事になった。

「此処で良い」
「お気をつけて」
「礼を言う」

城門を開け、中に入る。
師が私の背中に声をかけた。

「あの…父上」
「何だ」
「今宵はもう遅いので…そのまま曹丕様のところに泊まられては」
「許可を得られればな」

結局、宮中の城門まで師に送られて宮中に入る。
夜衛に話が伝わっているのか、私の顔を見るなり案内された。
向かう場所は玉座の間。

「司馬懿様が御到着です」
「…入れ。他の者は外せ」
「はっ」

心なしか、いつもより声に覇気がない。
入室を許可され、扉を閉めると衛兵は一礼をして去って行った。

玉座の間。
足を組み、肘掛けに肘をついてうなだれている我が君。
俯いているので表情が伺えない。
回廊を足早に歩き、玉座より数段下に片足をついて礼をする。

「陛下、仲達が参りました。…どうされましたか?」
「来い仲達」
「はい…」

私が上れるのは玉座の一段下の段まで。
これ以上上がる事は出来ない。

「何をしている」
「これ以上は…」
「構わぬ。ただの段差だ」

手を引かれ、玉座に片足を掛ける形で子桓様が私の胸に埋まる。

字01

「…子桓様?」
「ようやく字で呼んでくれたな、仲達」

私の頬に子桓様が触れる。
ようやく顔を上げてくださった。

久しぶりに触れられる。
二人きりの時間。

「私を字で呼ぶ者は、もうお前しかおらぬ」

子桓様の表情は痛々しい。
その言葉に胸が痛む。

玉座。
魏帝になられてから公務、政務と忙しく。
子桓様を字で呼べるような者達も既に亡い。

絶対に口では言わぬが、この方は淋しいのだろう。

「私がお傍におります」
「…夜分、急に呼び出して済まぬな。お前の息子を見掛けたので言伝を頼んだ」
「いいえ。お構いなく」

子桓様が幼子のように私の胸に埋まった。
あやすように長い髪を撫でた。

「仲達、後ろを向け」
「?」
「座れ」
「しかし…此処は」

子桓様が脚を開く。
此処に座れ、と指示され仕方なく玉座に腰をかける形になった。
背後から覆うように子桓様が私の腰に腕を回し、肩口に顔を埋められた。

「このように玉座に座れるのはお前だけだ、仲達」
「恐れ多い…」
「玉座など、ただの椅子ではないか」

しかし権力の象徴であり、触れることすら恐れ多い。
国の一番上に立つ。皇帝になられるという事はそういう事だ。
子桓様はその重圧に堪えられなかった訳ではない。
むしろ今まで以上に政務に励んでいる。
名君であられると誇りに思えるほどに。

「少々…休まれては如何ですか?」
「別にどうという事はない」
「しかし…」

御心を心配し、気を使うも反応は素っ気ない。
手の置き場に困っていたら、後ろから手を握られた。



「夜分に突然呼び出して」

そのまま手を滑らせ、頬に触れられる。

「仲達が来なかったら、と考えていた」
「そんなこと有り得ません」
「多忙であろう」
「私が優先すべき、最高位に値するのは子桓様しかおりませぬ」

その言葉に偽りはない。
この方無くして、私は無い。

「…嬉しい事を言う。久しく触れておらぬ。仲達、お前に触れたい」
「もう触れているでしょう」
「まだ触れておらぬ」

後ろから首筋を噛まれる。
僅かな苦痛の後、柔らかな舌が這う。

「っ…、子桓様…此処では…」
「嫌か」
「いえ…ただ場所が場所では…っ…ぁ…!」
「元よりお前を帰すつもりはない」

すっ…と下腹部に手を寄せられる。
これから何をされるか解っている。
ただいくら私とて、玉座の上でなど…。

「子桓様、…本当に…此処では駄目です」
「…裾を」
「子桓様」
「裾を持っていろ。汚れぬようにな」
「子桓様っ」
「…私の言う事が聞けぬのか、仲達」

少し怖い口調。
耳元に寄せられる唇。

顎を掴まれて、その唇が私の唇と合わさる。
口調とは異なる優しい口づけに堕ちた。

「…なればせめて…優しく、して下さいませ…」
「約束しよう、仲達に誓って」

唇を離して、瞳を伏せた。子桓様がその頬に唇を寄せる。
裾を持っていろ、と言われたので怖ず怖ずと裾を両手で摘んで持った。

子桓様が私がたくしあげた裾の隙間から手を入れて触れる。
吐息を感じる距離にして、この場所でのこの行為。
どうしたって羞恥心が勝つ。

直に触れられ、声を堪えた。
裾を持つ手が震える。

「湯上がりか、仲達」
「っ…何故?」
「肌がほてっている」

くちゅ、とした音が聞こえて目を閉じた。
たくしあげた裾で見れないが、いやらしい水音が響く。
子桓様に触られてから、呼吸が辛くなり吐息が熱くなる。

「ちゃんと持っていないと汚れてしまうぞ」
「そんな、こと」
「ほら、私によく見せてみよ」

耳元で囁かれてぞくぞくと体が震える。
私は相変わらずこのお方の声に弱い。
与えられる快楽と子桓様の言葉に頬を染めながら、裾を握る手に力を込めた。

「っ…ぅあ…!」
「きついな…仲達」

先走った白濁を手に取り、私の秘部に指を入れられる。
思わず漏れた声が玉座の間に響き、声を抑えようとも両手は裾を握るのに精一杯で。
唇を噛もうとすると、子桓様に駄目だと指でなぞられる。

「素直に泣いてしまえばいいものを」
「誰の、せいだと」
「私のせいだな」
「…子桓様…、あの…当たって…」
「…お前の声のように、私とて抑えようとも抑えられぬものよ」

子桓様の吐息が首筋に当たる。
子桓様のが布越しに私の秘部に当たって、挿入される指が二本に増やされて、声がくぐもる。
私のものはしどとに濡れて、指に焦らされて果てそうになり裾を持つ手に力が入らない。

「汚れてしまうぞ仲達」
「も…無理で…」
「まだ入れてもおらぬと言うのに」
「辛ぅ…ございま、す」
「私にどうして欲しい?」

後ろから顎を掴まれて、顔を向けられる。
視線が合った。眉を寄せれば生理的な涙が頬を伝う。

故意に片手を裾から離して、子桓様が私に挿入している手に指を這わせ、子桓様の指をなぞった。

「仲達?」
「指ばかり…もう焦らさないで下さいませ、っ…仲達に子桓様を…下さいませ…」
「ふっ…怪しからん顔だな仲達」
「も、辛ぅござい…ます…っ」
「いいこだ。くれてやろう」

急に指を抜かれて、子桓様の肩に体を預ける。
乱れた着衣の裾を持つ手はままならず、結局服は汚れてしまった。

頬を染め、目を閉じて肩で息をしていると子桓様に腰を掴まれる。

「力を抜け、仲達」
「…っん、あ…!」

後ろからゆっくりと挿入される。
前方に見える光景がいつも朝議で見る光景で、此処が玉座の上であるということを嫌でも思い出し目を閉じる。

字02


「っう、…んっ…ぁ…!」

腰を掴まれ揺すられる度に声が漏れて、縋るように子桓様の服を握った。
その手に気付き、私の両手をそれぞれ玉座のひじ掛けに乗せ、子桓様がその上から手を握った。

「玉座の座り心地はどうだ、仲達」
「っ…何……っん…?」
「快楽に酔い、何も言えぬか」
「激し、過ぎ…で…っ」
「お前が煽るのが悪い」
「煽っ…てな…!」
「私がどれだけ堪えたと思っている」

子桓様が私の頬をなぞり、首筋に唇を落とす。
ちゅ、吸われて痕がつく。

「私から離れるなよ…仲達」

その言葉の後、子桓様の突き上げる行為がより激しくなり悲鳴をあげるように声を漏らした。
快楽で思考が遮られる中、決して手を離すまいと子桓様の手を握り力を込めた。

私とて離れたくない。
いつまでも、これからも。
この方と生きたい。

「子桓、さ…まっ…!」
「ん……」

字を呼んで、果てた。
続けて子桓様にも中に注がれる。

裾が白く汚れる。
私の体や服が汚れただけで玉座が汚れていないことに安堵し。
久しぶりに激しく子桓様に抱かれたことで意識が混濁する。

くたり、と子桓様の肩に頭を乗せて目を閉じると顎を掴まれて口づけられる。
口づけだけでも蕩けるよう。

力が抜けてくたりとした体の私から、子桓様がゆっくりと抜く。
びくっと体が震える。
白濁としたものが尻を伝い、子桓様に脚を開かれ、其れは太股にまで至る。

「これではもう帰れませぬ…」
「元より帰すつもりなどない」
「玉座でなど…不敬にも程が」
「許す。私の前であろう」
「…もう、腰が立ちませぬ」

子桓様が後ろから私の頭を撫で、白濁の伝う脚を撫でた。
その行為だけでも煽られてしまう。

「子桓様…」
「何だ」
「玉座より、貴方のお部屋で続きをして下さいませ…」
「ふっ、足りぬか」
「此処ではもう嫌です…普段思い出してしまうでしょう」
「良いではないか」

ちっとも良くないわ、と内心毒づく。

子桓様が姿勢を正し、私を玉座に残したまま立ち上がる。
腰が立たぬ私を玉座に座らせ、子桓様が私の靴を脱がせた。
裸足の脚を、子桓様が片足をついて傅き触れる。

「子桓様…?」
「我が仲達」

ちゅ、と脚に口づけられる。
下から子桓様に見つめられ、嫌でも顔に熱が集まる。

「何、を…」
「お前が私の主であったなら、私は喜んでお前に忠誠を誓うだろう」
「そんなこと…」
「そしてお前を玉座に座らせ、私はお前の傍に侍り、毎日暮らす事だろう」
「子桓様…?」
「そしていつかは、お前を護り私は死ぬ」
「止めて下さい…そんなお話」
「お前が主であったなら、私はお前を護れるのに」

ふっ、と自嘲気味に笑う子桓様に手を伸ばし頬を両手で包み、口づけた。

「私は宰相、軍師、参謀…何にでもなりましょう。決して貴方より上には参りません」

子桓様の手を取り、唇を寄せる。
玉座から子桓様を見つめる。

「ただ子桓様、貴方様の前では私は…貴方様の仲達です」

私からの口づけに子桓様は微笑み、私を手を取り横抱きにして玉座から掬う。



「続きを」

私を抱き寄せ、御自身の寝室に向かって歩いておられるのが解る。
玉座を横目で見て目を閉じ、我が君の腕に甘えた。
今夜はやはり帰れそうにない。

「…ただ一人の、私の仲達」


間もなく寝室に着き、ゆっくりと子桓様の寝台に寝かせられ、手に口づけを落とされる。

「お前に酔いたい」
「お好きなだけ」

子桓様が私の上にのしかかる。
長い御髪がはらはらと滑り、唇を合わせる。

太股を掴み、開かれた脚は子桓様の白濁が伝う。
前戯も程々にして、子桓様と繋がる。互いに互いを食い合うように、溺れる。



この時だけは、私はただ一人の貴方様の仲達。

「子桓、さ…ま…」

縋るように首に腕を回し、字を呼ぶ私の声はもう嗄れていて掠れる。

「…辛そうだな、仲達」
「声だけでは…ありませぬ…」
「泣くな…」
「ずっと…ずっと貴方様とこうして居たい…叶わぬ、願いですが…」
「私が叶えてやろう…仲達が望むならば」

最奥を突かれて、自分の体が子桓様を締め付けているのが解る。
中に子桓様の白濁を注がれるのを感じ、己も果てた。

お互いの手を握り、指を絡め、どちらからでもなく唇を合わせた。
強く、子桓様に抱きしめられる。
額を撫でられ、口づけられると子桓様が私を見つめた。

言葉にしなくとも解る。
ゆっくり、体から引き抜かれて脱力する。
流石に二回も中に出されると、秘部から溢れて脚を伝う。
少し恥ずかしくなって、脚の間にいる子桓様に股を閉じるように脚を寄せた。

「私とて…貴方様を独り占めしたいのです」

私からの告白に子桓様は優しく笑った。





















仲達からの思いがけない告白に微笑んだ。
くたりと力なく仲達の体は敷布に沈む。息も絶え絶えで、声も掠れ辛そうだ。

二度の情交。
腕の中に収まる事で安心する。
結局、書簡で呼び出し帰れない体にしてしまった。
元より帰すつもりはなかったのだが。

互いに着衣は乱れて、ほとんど着ていないに等しい。
仲達の秘部から溢れ、脚に伝う私の其れが暗い室内の中で白く光り、何とも言えない妖艶さを醸し出す。

仲達の頬を摩った。いくつもの涙の筋をなぞる。瞳が赤い。
仲達は擦りよるように私の手を弱々しく握り、瞳を閉じた。

「暫し、待っていろ」

仲達に私の上着をかけて、軽く肩に羽織り寝室を出た。
別室にて、桶に湯を張り数枚の布と水差しと器を持ち寝室に戻った。

仲達の様子は変わりない。余り体を動かせないのか、視線だけを私に向ける。
寝台に腰掛け、持ってきた其れらをまとめて盆に置いた。

「水を」

声が掠れていた事を案じ、器を渡したが仲達の手に力がない。
器を取り上げ、自分の口に含み仲達に口移しで飲ませた。

「っ……ありがとうございます」
「熱は」
「いいえ…少し疲れただけです」

唇を離して、額同士を合わせた。
熱はないらしい。

「湯に入れてやりたいところだが、生憎この時刻では致し方あるまい」
「そこまで私を気になさらなくても…」
「唐突に呼び出し、お前を帰れなくさせた原因は私にある」

仲達にかけた自分の上着を退かし、乱れ汚れた着衣を脱がせていく。
白い肌に幾つか咲く赤い痕。
一糸纏わぬ姿にしても、仲達は美しいと思う。

「そんなに…見ないで下さい…」
「ふっ、見とれていた。楽にしていろ。先程は散々お前に甘えさせて貰った。今度はお前が私に甘えるがいい」
「はい…」

湯に布を浸して絞る。
裸体の仲達の体を清めていく。

「子桓様は…私との情事をどうお考えですか」

仲達は話した。思わず手を止める。

「どう、とは」
「子を宿す事も出来ぬ私との情事を…子桓様はどんな気持ちで私を抱いているのかと気になっただけです」
「仲達はどうなのだ」
「私…?」
「同じ男である私にあられもない姿を晒しながら抱かれ、どう思っている」
「……」
「辛いか」
「…辛くなどありません」
「少し話そう」
「はい…」

作業を再開する。
顔を拭いてやると気持ち良さそうに目を閉じた。
仲達と久しくしていなかった二人だけの会話。

「お前が愛しい。だから抱く。本当に其れだけだ」
「性欲処理…ではなく?」
「誰に吹き込まれたのか知らんが、私の言葉を信じられぬのか?」
「昨今…私が権力の為に子桓様に近付いているのでは、という声を聞きまして」
「違うのだろう」
「はい」
「ふっ…即答出来る程には仲達に想われていると、自惚れて良いか?」
「私とて…子桓様でなければ嫌です。こんな事、こんな姿を見せる事が出来るのは貴方様だけです」
「…以前より、随分と愛らしい事を言うようになったな仲達」
「子桓様のせいです」
「私がこのように甘くなったのは、お前のせいだ」

一人の人間に私がこれ程執着するなど。
仲達が初めてで最後であってほしいと願う。

あらかた仲達の体を清め終わり、軽く上着を羽織らせ上にのしかかった。

「…楽にしていろ」
「子桓様…?」
「少々お前には苦痛やもしれぬ。私の手で良ければ噛むがいい」
「何っ…?っん…ぁ…!」

片足を持ち上げて自分の肩に乗せ、ゆっくりと仲達の秘部に指を入れて中を掻き出していく。
私が仲達に注いだものが、秘部より溢れ脚を伝う。
あいた片手を口元にやり、噛むように促すが仲達は首を横に振る。

「っ、ゃ…ん…!」

私の腕に捕まり、声を堪えながら身をよじる仲達の姿は十分に私を誘う。
本人にそのつもりはないのだろうが、仲達の表情や声、しがみつかれる手を見ながら胸が高ぶる。
指を二本まで入れて奥から更に掻き出していく。
さすがに辛いらしく声を抑える為に口に差し入れた私の指を仲達が噛んだ。

「っ…」
「ごめん…なさ、っぅあ…!」
「構わぬ。暫し堪えよ」

仲達のものが反応している事に気付く。
無理もない。
私がそう躾けた体だ。

少しでも苦痛を和らげようと、仲達のものを擦り上げながら中を掻き出していく。

「っ…?ゃ…子桓、さ…」
「辛かろう」
「子桓、様とて…」
「バレていたか」

正直、仲達のこんな姿を直に見せつけられたら堪えようもない。
だがこれ以上の情事は仲達に無体を強いる事になる。

「…果てるがいい。我慢はするな」

秘部からの掻き出しが終わり、手を拭った。
口元から指を抜いて、口づけ舌を絡めた。仲達のを擦りあげる。

口元に置いたままにしていた手を握り、噛んだ指を慈しむように仲達が舐めた。
時折漏れる快楽を含んだ吐息。
脚を肩から下ろし、仲達のものを口に含む。一度たじろぎ、不安そうに見つめる。

「子桓、さ…ま…」

指に触れる吐息は熱い。
目尻に涙が溜まっている。
ふっ、と笑い甘く噛むように仲達を奉仕し続けた。
程なくして、仲達が私の字を呼び限界を告げる。
その頬に触れれば熱く、眉を寄せて快楽に震える仲達の有り様に、己の欲を自覚した。

今すぐにまた泣かせてやりたい。
そう思いながらも実行には移さず、仲達に快楽を与え果てさせる。

仲達の其れを口内に受けて飲み、少々口内に残したまま体を起こし仲達に口付けた。
舌を絡め、ほろ苦い其れを仲達にも味あわせる。

「…っん…!」
「お前の味だ」
「っ…酷い方…」

咳込み唇を拭い、視線を反らした。
それでこそ虐め甲斐がある。

仲達の衿元を正し、寝間着を着せようとするも仲達が手で払う。
きっ、と私を睨む仲達。

「どうした」
「私ばかりは嫌です」
「何がだ」
「是れをどうするおつもりですか」

覆い被さるようにしていた私を仲達は下から見つめる。
膝を立て、ぐりっと私の股を詰る。

「っ…どうとでもなろう」
「子桓様」
「これ以上、お前に無理をさせる訳にもいかぬ」

見る限り、仲達の体は限界に近い。
そもそも情事が好きな訳でもない。
体だけが目当てでもない。
どちらかというと仲達は情事が苦手で、未だに声を抑える仕草を見せるほど自分に対し恥じらう。
何度抱いても初々しく、そこがまた愛しい。

「何を今更…私をこんなにしておいて…」
「そうだな、すまなかった」

仲達が頬を赤く染めて、つんとした態度で拗ねたように呟く。
可愛らしい、と声に出さず頬を撫でるとその手を両手で包まれる。

「私に御命じ下さい…」
「何をだ」
「如何様にでも」
「寝台の上で、主従の関係は無用だ」
「私を恋人と想って下さるのであれば…尚更」
「尚更、何だ」
「子桓様に尽くしとうございます…」

己の体が限界であると言うのに、仲達は。
そのような真っすぐな告白を受けては、抑え切れないのが本音。
ぐっと堪えるも、尚も仲達に股を膝で詰られる。

「辛いのでしょう」
「ならぬ」
「そのようなお姿を見てられませぬ」
「仲達」
「子桓様の前では、私は貴方様の仲達です。
先程も申し上げましたでしょう…次はいつ、私が貴方様の仲達になれましょうや」
「…淋しいのか」

頬に触れ、上から仲達を見つめ答えを促すも瞳を伏せるだけ。
暫くの沈黙の後、仲達から手が伸ばされ頬に触れられる。

「また朝日が昇れば、貴方様は皇帝、私は臣下に戻りましょう」

少しだけ体を起こし、私に触れるだけの口づけをする。
その背中を支え、仲達の言葉を聞いた。

「貴方様が私の『子桓様』である内に、『仲達』を眠らせて下さいませ…」
「…明日、辛い思いをする」
「執務に支障はございません」
「全く…仲達」

片脚を持ち上げた。
仲達がびくっと震える。
両脚を掴み、太股をしっかり合わせるように掴む。
擦り合わせるように、がっちり合わせた太股の隙間に自分のものを入れる。
仲達のと擦り合わせ、仲達の手に握らせる。

「…素股…っですか」
「お前の体に無理はさせられぬ」
「…いつも以上に恥ずかしゅうございます…」

合わせた仲達の脚の間。
行為を続けながら上から見つめる。
手で扱かれながらも、仲達に快楽を与える事は止めず。

瞳をとろけさせて快楽に酔う仲達が私を見つめる様は、本当に堪らない。

律動されて揺れる体を見つめながら、果てる。
仲達の腹や胸が白く汚れた。
太股を抑えていた手を離し、仲達のを扱けば仲達も程なくして果てた。
白く、汚れる。

「…も…、子桓様、これ以上は…無理です…」

何度も私に果てさせられた仲達は、胸を上下させ荒く呼吸をしている。

「終いだ」

仲達を汚した白く交わる其れを舌で舐め取る。
残りは布を搾り、清めた。

寝間着を正し、軽く着替えて仲達の隣に横になった。
掛け布団を引き寄せ、仲達も引き寄せた。

顔が赤い。
鼓動が早い。
体温が高い。
呼吸が荒い。

己の胸の中に仲達を収めただけで、それら全てが解った。

「大丈夫か?」
「子桓様も、胸が煩ぅございます…まだ鼓動が聞こえますよ」
「久しぶりに仲達にまた触れる事が出来て…嬉しく思う…」

瞼が重くなる。
片手で髪紐を解いた。仲達がそれを見て頬を染める。

「?、どうした」
「っ…別に」
「何だ、赤いぞ」
「何でもありません」

そう言いながら胸に埋まる仲達。

「何だ」
「…御髪を触らせて下さいませ」
「髪?」

頬を赤くして何を言うかと思えば。触れることを許すと仲達が髪を撫でた。

「子桓様の香りがして…」

うっとりと仲達は微笑む。
仲達の髪にも触れた。さらさら、きらきらと流れる。

「綺麗だな」
「……。」
「仲達?」

返事がない。
見れば仲達はかくん、と私の髪に触れたまま眠っていた。

触れている手はそのままに、額に口づけを落とし、仲達を引き寄せ眠ることにした。
























「おはようございます陛下。司馬師です。父を返していただきたい」

早朝から不躾に、部屋の扉の外から声がする。
入って来ないのは入室を許可していないからだ。

「仲達の息子か」

服を羽織り、未だ寝息を立てている仲達はそのままに扉を開けた。

「おはようございます、陛下」
「師か。仲達はまだ眠っているが」
「…貴方に預けると決まって父上は寝不足だとおっしゃる。余り無体を強いられませぬよう」
「お前は何処まで知っている」
「おっしゃる意味が解り兼ねる」
「…ふ、仲達によく似ているな」

切れ長の瞳、気位の高い物言い、どこと無く纏う雰囲気も似ている。

「…私の希望が叶うのであれば、出来れば仲達はこのまま寝かせてやりたい」
「宜しいのですか」
「執務が滞らない程度にな。つまり仲達を『暫く返せない』という事になるが」

舌打ちほどではないが、あからさまに嫌な顔をする司馬師を見てふっ…と笑った。
どうやら仲達は息子に慕われているらしい。

「父上が安らげる場所が陛下の元であるならば…私が後程お迎えに上がります」
「ふっ…まだ親離れは出来ておらぬか、師よ」
「ん?陛下の部屋の前で何してるんですか兄上?」
「昭」

回廊を歩き、司馬昭が歩いてきた。
兄弟揃い踏みといったところか。
昭はどこと無く仲達に似ず、奔放な雰囲気がある。

「わっ…陛下、すいません。まさかいらっしゃるとは思わず」
「昭か。朝から兄弟揃って随分と賑やかだな」

平謝りする昭を許し、師に向き直る。

「師、昭。仲達は任せよ」
「はい?ああ、兄上、そういう事ですか…」
「何卒お願い申し上げる。行くぞ、昭」
「では、失礼しました」

師と昭が手を組み、軍礼をして去って行った。
扉を閉めて、欠伸をする。まだ些か眠い。

寝台に戻り、未だ眠る仲達の隣に横になる。
静かに寝息を立てている仲達の寝顔を見ながら、うとうとしてきたので暫し眠る事にした。

「陛下には敵わぬ」
「はは、子供の時から知ってます」
「父上が『仲達』で在られる事は陛下にしかお任せ出来ぬ」
「どういう意味です?」
「さてな」

司馬兄弟は回廊を歩いて去っていった。


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