子桓様と昨晩、夜を明かし、今朝分かれ、本日も執務を終えた。
家に帰るには時間が遅すぎたので、部屋に泊まることにした。
湯浴みをするべく、着替えを持ち冠を脱いで髪結いをといた。
回廊を歩く。
月が映えた静かな夜だった。
石で造られた床に、私の靴音のみが響く。
浴室に着き、衣服を脱ぎ湯を浴びた。
一日の疲れが流れていくように心地好く、縁に腰をかけた。
「仲達か」
聞き覚えのある声がした。
否、聞き間違えるはずもない。
少し後方の湯煙の中には昨夜、夜を共にしたその人がいた。
向き直り拝謁しようと畏まると、手で制された。
そのままで良いと言うことらしい。
「よく私だとわかりましたね」
「後ろ姿でわかった。今、帰りか?」
「はい。子桓様もですか?」
「いや、少し剣をな」
「お相手は?」
「剣舞をしていただけだ」
「私を呼んで下されば、お相手致しましたのに」
「そういえば剣も使えるのだったな」
「御姿を見とうございました」
隣に座られる。
何度も見ているが、やはり逞しく凛々しい身体をしていると思う。
「呼んでも良かったが、お前を傷つけたくはないのでな。それに疲れていよう」
子桓様の剣舞を見てみたかったのだが、こう言われては何も言えない。
手の届く距離に座られたので、後ろにまわり湯を背中にかけた。
「お流ししましょうか」
「なれば、我が師の言葉に甘えようか」
汗をかいた身体に触れ、流していく。
体格差が歴然としていて少し落ち込むが、今更気にしても仕方がない話だ。
「…昨夜」
子桓様が呟かれた言葉に手が止まった。
「お前の身体は、未だ昨夜のままか?」
振り返り、作業していた手を取られる。
昨夜はこの腕に抱かれて眠った。
少したじろぎつつ、返事をする。
「…はい」
「なれば、後程。それとも私の前で自分でするか?」
「それは御勘弁を」
まだ身体の中には昨晩の余韻が残ったままだ。
子桓様のものが身体の中にある。
程よく、子桓様の髪も身体も洗い終えた。
「終わりましたよ」
「すまんな。さて、仲達」
手を引かれて、胸の中に埋められる。
「次は私の番だ」
「畏れ多い」
「お前なら構わぬ」
お言葉に甘えて、前に座らされ、湯を流してもらう。
子桓様が身体をなぞる手が心地好く気持ちいい。
指が私の髪をとかしていく。
この方になら何をされても構わない。
私も随分と惚れてしまったものだ。
否、好きでもない者に身体を捧げるほど酔狂ではないし、そんなに私は安くない。
一通り洗って貰い、さっぱりとした。
背中には子桓様がいる。
「…触れても良いか?」
「はい…あの」
「何だ」
「ここでは、声が…」
「私の指で良ければ噛むがいい」
「そんなこと、っ」
「もしくは唇で塞いでやろうか」
後ろから口の中に指を差し込まれる。
脚を広げさせられ、子桓様があいた片手で私の中に指を挿入していく。
「っ、ぁっ」
「暫し堪えよ」
「んっ、っ」
私の体の中にある昨夜の名残。
子桓様のが掻き出されていく。
白濁のそれは、私の腿を伝い脚に伝う。私の局部からの鮮血も混じっていた。
子桓様に慣らされているので、痛みは感じない。
ただ昨夜の快楽を思い起こされるようで、身体が熱い。
口に差し込まれた子桓様の指を決して噛まぬようにしていると、指を抜かれ顎を掴まれる。
後ろから子桓様に唇を塞がれた。
「っふ、っ」
「もう、終わる」
舌を絡めて深く口づけを交わし、唇を離す頃にはすっかり体の力が抜けていた。
頬が涙で濡れている。
心地好く、蕩けるような口づけに酔った。
子桓様の処理も終わったようで、少しぬるくした湯を体にかけられる。
「無理をさせたか?」
「いいえ、大丈夫です」
「すまぬ。今日はお前となかなか顔を合わせる事が出来なかったな」
「お互いに執務がありますから、仕方ありますまい」
脚に伝う鮮血を指で撫でられる。
子桓様が私の肩に口づけを落とした。
昨晩分かれてから今に至るまで、すれ違いでなかなか顔を合わせることがなかった。
互いにそれぞれ執務がある。
どちらかが遠征に行けば数ヶ月離れることもある。
故に、体を重ねて朝に目覚めても独りきりの時もある。
今朝は、起きたら私独りだった。
「今宵も、連れ帰っても良いか」
子桓様に横抱きにされ湯舟に漬かる。
湯舟の温かさを子桓様の腕の中で感じながら目を閉じた。
この方の腕の中は落ち着く。
「はい」
「今宵はお前に無理はさせぬ」
「…私はあなたの傍にさえ居られるのでしたら、いつでもお傍に居たいです」
「やけに素直ではないか」
「…今朝からなかなかお会い出来なかったので」
淋しかったとは口に出さない。
子桓様は私に言わせたいだろうが、あえて言わない。
「独りにさせてすまなかったな」
「いいえ。ちゃんと書き置きまで残して行かれていたではないですか」
「ああ、後ろ髪を引かれてな。いっそ連れて行きたかったのだが…お前の寝言を聞いてしまってな」
「え、寝言…ですか?」
さすがに寝言を把握するほど器用ではない。
何かまずいことでも言っていただろうか。
「何か失礼なことを」
「逆だ」
「え、何です」
「ふふ、言わぬ。
お前の寝言が嬉しかったのだ。それと気持ち良さそうに眠っていたので起こしたくなくてな」
お前の額に口づけて部屋を出た。
そう言いながら、私の額に口づけする。髪を撫でられる手が心地好く、目を閉じた。
しかし気になるものは気になる。
「教えて下さいまし」
「ん?」
「気になります」
寝言で何か失礼なことを言ってないか気が気じゃない。
子桓様はまた思い出したのか、ほくそ笑んで笑った。
「お前の傍から離れようとした時だ」
子桓様が私を見つめて語られる。
その瞳はひどく優しい。
「お前が私の服を掴んでいてな。
その手を離そうとしたら横に首を振る。
そうしたらお前が私の字を寝言で呼び言った。『行かないで下さい』と」
「えっ…」
記憶にないので、おそらく無意識。
恥ずかしくなって顔が熱くなった。
「何度か、私の字を呼んでいた。あと『好きです』とか何とか」
「あああもう勘弁してくださいまし」
「何だ自覚があったのか」
「…寝言で嘘はつけませぬ」
「ああ、だからお前の唇に口づけた」
子桓様がやたら機嫌がいい。
私は恥ずかしくてたまらない。寝言までは流石に制御出来ない。
寝言で呼ぶほど、この方を慕ってしまっている。
気恥ずかしさと、少しの幸せを胸にしまった。
「そろそろ出るか」
「あの、自分で歩けますから」
「まぁ、そう言うな。甘えておけ」
湯舟から自分で立とうとしたら、手を引かれて結局、子桓様に横抱きにされてしまった。
「触れていたいのだ」
床に下ろされると、ふわりとした布に包まれた。
そのまま子桓様も引き込み、髪や体を拭いて差し上げる。
今まで子桓様にされるがままだ。
何だか悔しいので、不意に口づけたくなって子桓様の顔を布で拭きながら口づけた。
あなたが不意打ちに弱いのは百も承知。
「っ、仲達」
「何です。私からしてはいけませんか?」
「不意打ちは寄せ。私が持たん」
「ふふ、大人をナメているからです」
これでも私の方が年上なのだから。
「仲達はちゃんとあなた様をお慕いしておりますよ、ということです」
柔らかく笑い、頬に触れたら顔が熱かった。
子桓様の顔が赤い。
やはり不意打ちには弱いらしい。
私にだけ見せて下さる可愛らしい一面。
体を拭き、着替えをして、子桓様の御髪を櫛でとかす。
「今宵もあなたのお部屋に参ります」
「ああ。全く…私を挑発したらどうなるか知らんぞ」
「さぁ?どうなるのです?」
「今度の晩、覚えておけ」
髪を梳かし終わると、子桓様が櫛を取り、私の髪を梳かして下さった。
そんな会話をしながら子桓様の部屋に二人で向かった。
大好きな方の腕枕に甘えて、今日が終わり、目を閉じた。