本日は、子桓様の生誕祭が開催される。
とは言え未だ天下定まらぬ乱世ゆえ、ささやかな酒宴が催されることになった。
本人曰く「わざわざ祝わなくとも良い」との事らしい。
こういう時、自分の機転が回らないのが悔しくなる。
何を差し上げればいいのか解らない。
長年共に居て解らないのか?と言われればそうではない。
既に様々な物を贈っているので、今回は何を差し上げればいいのか解らないのだ。
しかも贈った物を子桓様は大事にされているようなので、下手な物は贈れない。
去年は髪結いの紐を贈った。
気に入られたらしく、よく髪を結っているのを目にする。
髪を切られてからは腕に巻いているのを見かける。
ただ子桓様曰く。
「お前が私を想い、時間を割いてくれただけで十分嬉しい」
と二人きりの時にそうおっしゃられた。
一人悩んでいても進展しない、と思い席を立った。
ちょうど甄姫様に呼ばれていたのを思い出した。用件ついでに相談してみるのも手だろう。
部屋の前に着き、扉を叩く。
「甄姫様、司馬懿が参りました」
「お待ちしてましたわ」
扉を開けると、部屋の奥に案内された。
着席を許され席に座ると、そっと茶を振る舞われた。
「もう本日の執務は終わりましたの?」
「はい、滞りなく。今頃は曹丕殿が目を通しておられる頃かと」
直に夕刻。
仕事の書簡は先程、文官に子桓様の元に送らせた。
あとは子桓様が目を通し、印を押すだけだ。向こうの執務も程なく終わるだろう。
「ならよかった。私、司馬懿殿にお願いがありましたの」
「お願い、ですか?」
「本日の我が君の生誕祭、私と共に贈り物をして欲しいのですけれどいかがかしら?」
それは願ってもない。
甄姫様なら良い品を知っているだろう。
「実は私も、何を差し上げれば良いのか悩んでおりまして…」
「まぁ、そうでしたの?司馬懿殿ならば我が君の事をよく御存じでしょうに」
「知略が回らぬ事もあるのです。故、喜んでお引き受け致します」
「それは何よりですわ」
甄姫様がにこりと笑い、目の前の茶をすすめる。
拝謁し、いただくことにした。
何だか、茶とは違う味がするような…。
甘い味がする。
「全部お飲みになって?」
甄姫様が頬杖をついてこちらを見ている。
と言うより監視されているような。
余計な叱責を受けぬよう此処は飲み干すことにした。
茶を飲み干すと、何だか頭がくらくらして眉間をおさえた。
「実はあなたに断られても、無理にでも受けて貰うつもりでしたの」
「…え?」
「それはお茶ではなくってよ」
やはり。
どうやら一服盛られたらしい。
体が熱くなり、何だか息苦しくなってきた。視界がぼやけてくる。
「私からの我が君への贈り物は、先程の司馬懿殿のお茶に混ぜておきましたの」
甄姫様は立ち上がり、私の背中に回った。
顎を掴まれ、首をなぞられる。
「綺麗な白い肌ですわね」
「…っ何を」
「薬が効いて、息苦しくなっているのでしょう?」
「…まさか」
「とっておきの、媚薬ですわ」
やはりと思ったその時にはもう甄姫様に腕を取られていた。
抵抗しようにも体が上手く動かず、力が入らない。
それに立場上、本気で抵抗することが出来ない相手だ。
「体がほてってきたでしょう?」
「私を、どうするつもりで…」
「貴方はどうされたいのかしら?」
顎を掴まれ、顔を向けさせられる。
「女をお望み?それとも殿方かしら?」
「そのような事…」
「相手が誰でもいいなら、楽にしてあげてもよくってよ?」
甄姫様の魂胆が解らない。
自由が効かず、力が入らない。体は確かに欲情し、熱を求めている。
だが、私は。
「…私は子桓様のもの…です」
甄姫様の前で迂闊に『子桓様』と呼んでしまったことを言ってから気付く。
はっとして、直ぐに謝罪した。
「いいえ。それでこそ、我が君の腹心ですわ」
「…?」
「あなたが薬と欲情に負けて『誰でもいい』とおっしゃられたら、配下でも呼んで凌辱してやろうかと思ってましたの」
そんなこと私が言うはずがないが、涼しい顔で恐ろしい事を言う甄姫様に背筋が震えた。
細く美しい指で頬を撫でられる。
「我が君と一緒にいらっしゃる時のあなたがとても可愛いらしくて好きよ」
「おっしゃる意味が…」
「我が君があんなに朗らかに笑うのは、あなたの前でだけですわ」
にこりと笑い、手を離した。
心なしか少し淋しそうに見える。
「甄姫様、私は…」
「飲ませた薬は結構強いものよ。あなたが誠に我が君を想うなら、我が君が来るまで我慢出来るかしら?」
「……」
「それともどなたかに抱かれたい?」
「…嫌です…」
横に首を振ると、両腕を縄で前に縛られた。
「何を」
「あなたは、我が君に御自分を差し上げたらよろしくてよ」
「え…」
そんなこと言える訳がない。
だが既に腕の自由を奪われてしまった。
「我が君の部屋まで運んで差し上げますわ。ただし、我が君を待つこと」
「しかし」
「口ごたえは許さなくってよ?」
口に布を当てられた後、意識を失った。
執務が終わった。
これから私の生誕を記念した酒宴が開かれるらしい。会場に向かう。
仲達は酒宴を嫌う。だが毎年この日だけはきっちりと律儀に出席してくれているらしい。
酒宴の席に着くと、父や叔父、甄や将軍などから祝辞や贈物を賜った。
その中に仲達はいなかった。
執務が忙しいのだろうか、と少し胸につかえたが都合がつかないなら仕方がないと気にしないようにした。
夜も更けて、酒宴も終わった。
もう少しで私が生まれた日が終わる。
散会した会場を後に部屋に向かうべく回廊を歩いた。
結局、最後まで仲達の姿を見ることは出来なかった。
執務中だろうが、一目会いたいと思い踵を返し仲達の部屋に向かうべく方向を変えた。
「司馬懿殿はそちらじゃありませんわ」
背後から声をかけられた。
振り返ると甄がそこにいた。
「甄か」
「司馬懿殿は我が君のお部屋でお待ちですわ」
「私の部屋?何故だ」
「怒らないと約束してくださる?」
「…仲達に何かしたのか?」
甄が事のあらましを説明した。
何故、仲達が居なかったのか。そして最後に謝罪した。
「…傷つけていないだろうな?」
「勿論。そろそろ目を覚ます頃ですわ」
「眠らせたのか」
「だって、とてもお辛そうだったのですもの」
「全く…誰のせいだ可哀相に」
仲達も立場上抵抗出来なかったのだろうが、媚薬でなく毒薬だったらと思うとぞっとする。
恐い女よ。
「ふふ。司馬懿殿が待ってますわ。早く行って差し上げて?」
「無論だ」
「では」
「甄、…気を使わせたな」
「いいえ。私は司馬懿殿といる我が君も愛しておりますわ」
「ふ、そうか」
甄と分かれて部屋に向かった。
聞けば仲達は、甄と共に贈り物をしたいという頼みを聞き、
媚薬を盛られた茶と知らずに飲み今は眠らされているとか。
ほとんど拉致、監禁に近いが…今までの時間、意識がないだけマシだったと思うべきか。
媚薬を仕込まれ放置されているなど、体が堪えようもないだろう。
扉を開けた。後ろ手に鍵をかける。
寝台に向かうと人影を見つけた。
長い黒髪、細身で肌は白く。
冠と靴を脱がされてはいるが、服装は普段通りの朝服だ。
「…仲達」
「しか、ん…さま…」
ぼんやりした瞳は既に濡れていて、頬にいくつも涙筋があった。
手首は縄で縛られ、赤くなっている。
可哀相に、一人で果てる事も出来ないようにされている。
「全て聞いた。済まぬ事をした」
虚ろな瞳で見つめる仲達はぴくりとも動かない。
否、動けないのだろう。
手首の紐を解き、そのまま仲達を起こし胸に抱き寄せた。
体がとても熱くほてっているのがわかる。
「辛かろう。今…」
「…お待ちを…」
擦り寄るように私の首筋に頬を寄せ、上目遣いで見つめた。
「御生誕、おめでとうございます」
そう言い、私の胸に埋まった。
ようやく一番聞きたかった相手から聞くことが出来た。
仲達は言葉を続けた。
「どうか…これは薬に浮かされた言葉と思わず、仲達の言葉として…お聞き下さいませ」
「どうした?」
「私は…軍師としてあなた様の傍にお仕えし、あなた様を護り支えるのが役目。
…そして私はあなた様のもの」
平静を装い、言葉を発するが吐息は熱く、肌はしっとりと艶やかだ。
「…恋人として…私はこの身心をあなた様に差し上げたい…」
再び、濡れた上目で私を見た。
今すぐ抱きたい衝動を必死に堪えた。
「駄目…でしょうか」
何を馬鹿な事を言っているのだろう、私は。
この体も命も、心もとっくに子桓様に捧げているのに何を今更。
もう体が限界だった。
だが薬の勢いで仕方なく抱かれるのは嫌だった。
子桓様に抱かれるなら、きちんと自分の気持ちを伝えたかった。
暫しの沈黙の後、子桓様が微笑む。
今まで見たことのないような笑顔だった。
「全く…仲達…」
そのまま背中からぎゅうっと抱きしめられる。
感度が高くなっている体はそれだけで反応した。
「お前に触れるぞ」
背後から服の隙間に手を入れられ、股に直に触れられた。
私のはそれだけで果てそうになる。
「っ…も、無理で…」
「一度、果てよ」
片手で腰紐や帯を抜かれながら、もう片手で扱かれる。
子桓様に背中を預けて堪えようもない快楽に声をあげた。
誰ぞに声を聞かれたくないのか、子桓様が唇を合わせた。
声は子桓様に吸い込まれる。
上半身は開け、下半身は脱がされて、脚を開かされる。
布越しに子桓様のが体に当たった。
「…子桓様も、反応していらっしゃいますか…?」
「当たり前だ。お前をこの部屋で見た時から、ずっとな」
くちゅ、と水音が響いた。私のもしどとに濡れていた。
子桓様が一度に指を二本差し入れても中はぬるぬると濡れて、受け入れた。
薬のせいとはいえ、恥ずかしかった。
「仲達、許せ。もう無理だ」
「え…っぁあああっ」
子桓様に耳元で囁かれたと思うと、そのまま背中から押し倒され一気に奥まで挿入された。
既に濡れていたそこは子桓様を容易に受け入れたが突然の事に体がついていかない。
「入れただけで果てたか…愛い奴よ」
我慢が抑えられなくなり、押し倒し深く繋がると仲達は声をあげて果てた。
その瞬間、中がきつくしまる。私ごと食いちぎられるような感覚だ。
「限界だったな」
「…そんな、いきなり…」
「だがまだまだ」
「っひ、やっ…」
細腰を掴み、深く深く突き動かす。肌がぶつかる音といやらしい水音が響いた。
いつの間にか仲達も自分から腰を動かしている。
「自分で動かすと、後で痛むぞ」
「違っ…腰が勝手に、動い…っぁ」
無意識に私を求めていると言うことなのか。
片手で仲達のに触れればまたも勃起していた。
「お盛んなことだな」
「言わない、で下さ…っ」
「そもそも媚薬と言う物は男が飲んだら普通は女を抱きたくなるものだが」
「……私…っぁ」
「私に抱かれたくて仕方なかったのか?」
「は…、い…」
繋がったまま仲達の体を反転させ、向き合うように寝台に寝かせた。
無理に動かした時に仲達が声をあげる。仲達はくたりとして、手に力がなかった。
「っはぁ…子桓様を、お待ちして…ました…」
「甄に言われて、か?」
「いいえ…これは私の意思」
「…まさかとは思うが、お前は媚薬と知りながら飲んだのか?」
「さぁ…?」
ふっと私を受け入れて笑う仲達の表情はしたたかだ。
挑発的な瞳に乗せられて、片足を肩に担ぎまた抽挿を繰り返した。
仲達が二度目に果てて、私が中に果てた。
暫くこのように触れていなかったので、中には沢山注がれたことだろう。
びくびくと体を痙攣させている仲達に口付けた。
「この身心は大分私に染められているようだな」
「…子桓、様…」
「お前は私のものだ」
「はい…仲達は子桓様のものです…」
涙を流しながら私の手と指を絡めて、仲達は微笑んだ。
「続けるぞ」
「え…?」
「これで終わりと思ったのか?」
果てたばかりなのに、子桓様のは中でまた大きくなっている。
私の返事も聞かぬまま、また抽挿が始まった。
既に中にある子桓様の精液がぐちゅぐちゅといやらしい音をたてる。
私の体も心も既に子桓様に支配されている。
もう子桓様以外に抱かれることなど考えられない。
そう、子桓様に躾られている。
「っぁ、っは、壊れ…ぅあっ…」
激しい抽挿に耐え切れず、子桓様の首に腕を回した。
子桓様は私の頬に擦り寄せるように甘えている。
可愛らしいと、子桓様の頭を撫でた。
「も…、子桓様しか…見えませぬ…」
「私も仲達しか見れぬ」
「…どうか、今だけ、でもっ…」
「ずっとお前だけだ」
また中に注がれていく感覚に体が震えた。
ようやくゆっくりと引き抜かれると秘部から子桓様の精液が溢れ出した。
恥ずかしくて脚を閉じたいが、脚は子桓様に掴まれている。
腰が痛み、体が軋むがそれでも幸せだった。
「このように溢れさせて…淫乱なことだ」
「っ…全てあなた様のではないですか」
「少しやり過ぎたか」
股が白く汚れている。
子桓様がそれに舌を這わせた。
「っあ、何を…?」
「まだ薬は抜けぬか」
私のに舌を這わせ、口に含まれた。
既に二回も果てているのにまたそのようにされたら。
「や、やめ…っ汚いです、から…ぁっ」
「何が汚いものか。お前は綺麗だ、仲達」
「そのようなお言葉…っあっ、ぁ」
「私ばかり良くなってはお前に悪い」
仲達のに舌を這わせて口に含めば、精液の味がした。
小さく震える体が愛らしい。
仲達は自分から情事を誘ったりはしない。
自分から腰を動かすなんて以っての外。普段、恥ずかしがって声すら抑えるのに。
今宵の仲達はひたすら素直で、私の字を呼び愛らしく泣く。
泣き顔すらそそる。
その顔を見て情欲が溢れる。
仲達の乳首を口に含み、舌で転がせば小さく声をあげた。
指で摘めばぷくりとして愛らしい。
それでもやはり恥ずかしいのか手を口に当てて抑えている。
白い肌、赤く紅潮して花が咲いたようだ。
「子桓、様…」
「ん?」
「…あなたが生まれてきて…よかった…」
とろけた瞳をゆっくりと開けて、私を見つめて言った。
仲達から言われることが何よりも嬉しかった。
そのまま仲達に口付けて、指同士を絡めて手を繋ぐ。
私より年上の。
私の軍師で、側近。
私の愛しい。
私の仲達。
愛しくて恋しくて堪らない。
子桓様の気が済むまで、私は抱かれた。
もう指一本も動かせない。
体は子桓様の愛液に満たされて、下半身は白濁に濡れた。
甘い言葉に酔い、情事に溺れ快楽に堕ちた。
子桓様が濡らした布で私の体を清めて下さっている。
愛しい人の腕の中、とろとろと蕩けたように意識が沈んでいった。
くたりと脱力した細い体を清めていく。
仲達から寝息が聞こえた。
無理もない。疲れて眠ってしまったようだ。
開けて汚れた上着を脱がせて、私の上着を着せた。
その細い体を背中から抱きしめる。
私が生まれた日はもう明けて、日が変わっている。
最後に賜った仲達との一時はひたすらに甘く仲達に溺れた。
何度、字を呼び、字を呼ばれたことだろう。
子桓と、仲達と。
仲達からの言葉ひとつひとつ、行動や反応ひとつひとつに愛しさが募った。
お前は世界で一番私に愛されている。
「この想い…どう返してくれようか、仲達」
穏やかに眠る仲達の髪に口付けた。
僅かな誕生日の時間、仲達と幸福な時を過ごした。
「見てましたわ」
「何を?」
「昨晩、お楽しみだったのでしょう?」
早朝、甄が私の寝室を訪れた。
上着だけ羽織り、甄と寝台に腰かけた。
仲達は私の背後で眠っている。
「いじらしいな、情事を覗くなど」
「部屋から甘い嬌声が聞こえたもので、つい。直ぐに余り聞こえなくなりましたけれど」
仲達の唇を私が塞いだからだ。
覗ける程度に扉は開くだろうが、鍵をかけたので入ることは出来ない。
「私が聞かせたくなくてな。で、お前は妬くのか?」
「いいえ。司馬懿殿が可愛らしくて我が君の気持ちが解りましたわ」
「余り仲達をいじめてくれるなよ。なかなか繊細に出来ているのだから」
「その繊細な殿方を昨晩は一体どれほど可愛がられたのかしら?」
「気を飛ばすほど、かな」
「あら、壊れてしまいますわよ?」
「一生、傍に居てやると約束している」
「まぁ…司馬懿殿が羨ましいですわ」
仲達は静かに寝息を立てている。
その頭を撫でた。
「お前が仲達にしたことは許されることではないが、あまり仲達をいじめてくれるな。
何かあれば私に直接言え」
「御意に、我が君。本日はその可愛らしい司馬懿殿の傍に居てあげてくださいませ」
「ああ、そうしよう」
「朝食は私が作りましたわ。今度は何も入れてませんので御心配なく」
「それはすまないな」
「司馬懿殿にも食べさせて下さいませ。私からの謝罪ですわ」
「伝えよう」
「では」
頭を下げて甄は部屋を出て行った。
卓には朝食が置かれている。仲達には白湯と粥だ。
「子桓様…」
「ん、起きたか」
「今の刻限は…」
「気にするな。その体で執務は無理だ。今日は休め」
「申し訳ありません…お言葉に甘えさせていただきます」
けだるそうに額に手の甲を当てて目を閉じた。
「体を…清めて下さったので」
「ああ。まだ痛むか」
「はい…でもあの、ありがとうございます」
「昨晩は散々泣かせてしまったからな」
「うぅ…言わないで下さい。私は恥ずかしいことを沢山言いました」
「でもあれが、お前の本心なのであろう?」
「はい…」
「ならばよしだ、仲達」
髪を撫でて、唇を重ねた。
「甄が先程来てな。私とお前にわざわざ朝食を作ってくれたようだ」
「え…何故私にまで…」
「お前に謝りたいと言うことだ。おいで」
子桓様に手を引かれて、何とか重い体を起こした。
体を起こすと、自分が子桓様の服を着ていることに気付く。
はっと気付けば子桓様が後ろから抱きしめるように私の背後に座った。
「白湯だ。飲めるか?」
「はい。ありがとうございます」
湯のみを渡され、両手で受け取りゆっくりと飲む。
体が温まった。
そういえば布団の下はまだ下履きを履いていない。昨晩を思い出して、顔が熱くなった。
私は昨夜、何を言った。
子桓様に何を話した。
恥ずかしい。恥ずかしくて死んでしまいたい。
「どうかしたか?」
子桓様は私を胸に抱きながら、黙々と朝食を食べている。元気なことだ。
「私の服は…」
「汚れたので洗うように給仕に頼んだが」
「はぁっ?」
それはつまりまざまざと私と子桓様がここで何をしていたか見せ付けるようなもので。
「馬鹿め…がっ…」
「何だ?まずかったのか?」
「給仕に知られてしまうではないですか」
「何を今更。バレてないとでも思ったのか?皆、知っていると思うが」
「ぅぅうう…甄姫様といい、もしやと思いましたがあなたの仕業ですか?」
「さぁてな」
「子桓様っ」
「良いではないか。甄はお前を可愛らしいと言っていたぞ」
もうやだこの夫婦。
何が可愛らしい、だ。馬鹿めが。
魏内に知られているという事実に頭を抱えた。
「口を開けよ」
「何っ…ん」
「甄が作った」
頭を抱えていると子桓様にれんげで粥を食べさせられた。
美味しい玉子の粥だった。
「美味いか?」
「はい」
「それは良かったな」
粥とれんげを渡される。
何だかはぐらかされたような気もするが粥が美味いので許すことにした。
散々な一日だったが、子桓様の生まれた日に子桓様と過ごすことが出来た。
それで良かった。
あなたの生まれた日。
あなたに出逢えて良かった。
あなたが生まれてきてくれて、良かった。
子桓様への想いが募り、かの人の腕の中の元、下から頬に口づけた。
頬への口づけのお返しに、沢山口づけが返ってきた。
子桓様に口づけられながら、今日もまたこの方の傍に居たいと願った。
お誕生日おめでとうございました。
私からの贈り物は、きちんとあなたに届きましたでしょうか。