不慮の事故だと繰り返して仰る。
だとしても、この状況はおかしい。
「…偶然ですよね」
「不慮の事故だ」
「何故脱がすのですか」
「…否、その」
「!」
「待て、仲達」
上着を剥がされて下着が透けた。
蜂蜜がべたついて気持ちが悪い。
地面が揺れるのを感じた。
頭上から蜂蜜が入った器を被ってしまったのはつい先程の話。
戸棚の落下物から咄嗟に子桓様が庇って下さったのだが、其れだけは避けられなかった。
「無事か、仲達」
「…はい」
「ふ…、無事とは言い難いな。怪我はないか」
「はい。咄嗟に私を庇ってはなりませぬ」
「仲達が一番大切なもの故」
「っ」
そう言って胸を撫で下ろす子桓様に頬を染める。
子桓様は私への好意を隠しはしない。
ただただ真っ直ぐ私に伝えてくれる。
茶器が落ちて割れてしまった。
砂糖が入った器も落ちて割れている。
茶道具が頭上から落ちてきたのだ。
割れた破片で互いに傷付いてはいなかった。
とりあえず大事な書簡だけは遠ざけて冠を脱いだ。
砂糖だったらまだ良かったものの、蜂蜜なのでべったりと肌を伝う。
私に覆い被さった状況のまま、子桓様は固まっている。
蜂蜜のべたつきを不快に思いながら小首を傾げていると、頬に口付けられた。
舌で頬に垂れた蜂蜜を舐め取られる。
そのまま首筋まで唇で拭われて、顔が熱くなった。
子桓様のお顔が近過ぎて直視出来ない。
「っ…、ゃ」
「甘い」
「蜂蜜ですから当然でしょう」
「下手に動けば、更にべたつく」
「あなたも顔に」
「お前よりはましだ」
「…子桓様」
「?」
子桓様からも甘い匂いがする。
そもそも蜂蜜は高級なものだ。
勿体ないという気がしたが甘い匂いに当てられて、自分か蜂か蝶にでもなった心地がする。
先程庇って下さった。
子桓様が何処も怪我をされてないか、身を案じて口付ける。
「っ、仲達」
「…、何処も、怪我をされていませんか」
「…ふ、随分と可愛らしい事を」
「心配しているのですよ…」
「ああ、大事ない」
子桓様のお顔や首筋に伝う蜂蜜に唇を当てて、舌で舐めとり口に含む。
口付けて綺麗にして差し上げようと、子桓様に擦り寄る。
御無礼かと思ったが、寧ろ子桓様は私の腰を引き寄せて抱きかかえた。
髪や頭を撫でられる。
子桓様のその手には愛しみが沁みていて私の心がゆるゆると溶かされていった。
私は子桓様の事が好きで仕方ない。
敬愛の想い以上に、私は子桓様をお慕いしている。
「…仲達」
「はい」
「少々、大人しく…されるがままに流されるがいい」
「少々…?本当に?」
「訂正しよう。最早堪えられぬな」
「っ、ぁ…、は…」
私が被った蜂蜜ごと唇を奪われ、そのまま床に押し倒された。
そっと頭を庇われて子桓様の上着を下に敷かれる。
その一連の動作に最早何も言えなくなってしまった。
全てを言葉にしなくても解る。
体の下に敷かれた上着から持ち主の香りと、蜂蜜の香りが混ざる。
私を押し倒して唇や首筋を舐める子桓様は大きな猫にも思えた。
くすぐったくて、心地良い。
「仲達」
「…?」
「上着をはだけてくれぬか」
「命じれば宜しいでしょうに、今日はおねだりなのですか?」
「仲達が、誘ったのではないか」
「誘ってなど」
「お前の重ね着が煩わしい」
「…ぁ、っ…」
「蜂蜜と仲達という組み合わせが悪い」
「っくすぐった…、い…です」
「どちらも蜜ではないか」
重ね着した上着を紐解かれ、露出した胸に蜂蜜を垂らす。
上半身は蜂蜜に塗れてしまったので今更怒る気にもならない。
乳首にまで垂らされて目を細めていると、子桓様が胸に口付け乳首を吸う。
赤子のような行為だと思っていたが、片手で私の乳首をこねられて股を固くさせているのが赤子と違うところだ。
「っふ、ぅ、ぁ…ん…」
「今宵の仲達はとても美味だ」
「…甘党ですね」
「仲達は砂糖や蜂蜜より甘い」
「…?」
「大人しく、私に任せるがいい」
「!」
「仲達」
「そのような所にまで…!」
「ふ…、味わいたいではないか」
腰紐すら抜かれ、胸や腹に口付けながらも下穿きすら脱がされた。
蜂蜜と子桓様の行為に当てられて、私のも子桓様と同様に固くなっていた。
其処にまで蜂蜜を垂らし、子桓様は舌で私のを舐める。
「さすがに、それ…は…っ」
「とても甘いな、仲達」
「ゃ、っん…、ん…」
「果てても構わぬ」
「…っ、子桓さ…ま…」
甘い香りと子桓様の口淫に頭がくらくらとしてきた。
片手で腰を撫でられて、指同士を絡めて手を繋がれる。
気遣いと愛おしいという想いが伝わる。
口淫から手淫に変わり、子桓様に深く口付けられる。
限界だった私は既に果てて、戸棚に肩をつけて息を吐いていた。
子桓様も体を起こし、私のを扱きながら口付けを止めない。
私より、子桓様の方が堪えている。
蜂蜜のべたつきもいい加減煩わしい。
「子桓様…」
「何だ」
「…湯浴みに行きたいです」
「そうだな。流石に、蜂蜜が煩わしい」
「はい…。それに」
「ん…」
「…後程、お話しします」
「ふ…、何だ?」
私を抱き寄せて、私室から浴室へ向かう。
執務も終わり、子桓様と二人きりでお話ししていたところだった。
不慮の出来事で蜂蜜を被り、子桓様と過ごす夜が少し濃密になってしまった。
湯浴みの際、私の服は脱がすのに子桓様は脱ごうとしなかった。
理由を察し、敢えて子桓様の衣服を濡らす。
「っ、仲達」
「…子桓様」
「寝台まで、待てるのですか…?」
「…仲達には全て悟られてしまう」
「私をあのようにして…、あなたが平静でいるとは思えません…」
「…仲達も少しは自覚が芽生えたようだな」
体を流され、濡らした子桓様の服を脱がす。
子桓様のはそそり立っていて、ずっと堪えていたのだと解る。
子桓様を座らせ、そのまま膝を付き子桓様のに口付ける。
大きく勃起させたそれを口内に何とか頬張り奉仕を続ける。
子桓様が私の髪を撫でた後、引き抜いて私の奉仕に合わせて動かす。
「っく…!」
「ふ、ぐっ…、ん…!」
子桓様が私の口内に果てられて、息を吐く。
全て飲み込み唇を拭っていると、腕を引かれて膝に座らせられる。
床に座り冷たくなってしまった尻を撫でながら、再び勃起した子桓様のを当てがわれ局部を擦られる。
「…っ、子桓様」
「入れたい…」
「はい…、来て下さい…」
「仲達、今宵は随分と…」
私から腰を落とし、首に腕を回した。
まだ甘い匂いがする。
子桓様と繋がり口付けを受けると、私から腰を押し付け子桓様を求めた。
「仲達…、余り、無理を」
「…大丈夫…です…」
「っ、待て」
「ぁっ…?っ…ぅん…!」
幾度か中に果てられているのを感じる。
私で感じてくれているのだと解ると嬉しくて、首筋に埋まり腰を揺らした。
ぐっと腰を掴まれて、浅い湯船に押し倒される。
子桓様の目が据わり、強く奥まで突き上げられて激しさに声が抑えられない。
「ぁ、っあ、ん、っや…!」
「良い声だ…仲達」
「し…、かん、…さ…ま!」
「蜂蜜など無くとも、仲達だけで充分に甘い」
「わたし…」
「ん…?」
「あなたの事が、大好き…です…」
「っ…!」
「ずっと…、傍に居て…下さい…」
自分でも今日はよく口が回ると思った。
恐らく、子桓様のふとした仕草ひとつひとつに自分への想いを感じてしまったからだろう。
愛おしいと思うのは、あなただけじゃない。
そう伝えると一層強く貫かれて、快楽の波が押し寄せてきた。
溺れてしまうような心地良さに何度も果ててしまい、私の締め付けに子桓様も中に果てる。
何度も繰り返し子桓様に抱かれて、胸の中に体を寄せた。
仲達を一頻りに抱いて、体の中に精を注ぎ込んだ。
意識を飛ばしてしまった仲達を支えて膝に座らせ、掛け湯で体を清めて温める。
「…仲達」
「はい…」
「大丈夫か?」
「…はい」
「まだ、蜂蜜の匂いがする」
「今宵は、蜂蜜に当てられたのです…」
「そうか」
「…子桓様」
気だるさに溜息を吐いて、情事の余韻を残した仲達はとても美しく愛おしい。
口付けを強請られて深く口付ける。
弾力のある唇を指でなぞり、体を温めた後に私室に戻った。
部屋は既に片付けられており、蜂蜜に塗れた仲達の冠や服は仕立て直すよう手配を施した。
寝台に仲達を運び横になる。
腕の中の仲達が疲労していると解ったが、まだ起きていたいのか仲達は眠ろうとはしなかった。
顔を見ていると、情事の時の言葉を思い出してしまう。
大好き、と言う仲達の言葉がぐるぐると巡っている。
「…大好き」
「?」
「大好きなのか」
「…そ、それは」
「あの言葉も、蜂蜜に当てられたものなのだろう」
そう思うと少し寂しい。
私は考えが顔に出やすいようだ。
ましてや取り繕う必要のない仲達の前では、解りやすいのだろう。
仲達が私を胸に引き寄せた。
まだ甘い香りがする。
仲達の胸に埋まり目を閉じていると、仲達が耳打ちに話してくれた。
「あなたとて、私には人一倍甘いのですよ」
「そうだな」
「…先の言葉は、蜂蜜に当てられたからとか…、情事の勢いで語った言葉ではございません」
「!」
「…大好きなのは…本当の事です。今まで羞恥心に負け、言葉では伝えられませんでしたから…」
「もう一度」
「?」
「私には、何度でも言ってくれぬか」
「…大好き、です…」
「私もお前が大好きだ」
「…羞恥心に耐えられなくなってきたのでもう寝ます」
「…仲達の言葉の破壊力が凄まじい。また襲いかねない」
「もう…駄目です」
「解っている。傍に居ろと言ったのは仲達だ」
「…約束してくれますか」
「勿論」
仲達の胸に埋まったまま目を閉じる。
優しい抱擁と仲達の甘い香りに安堵して眠った。
私が仲達を大好きだという事は、今更過ぎる話なのだ。
仲達が額に口付けてくれた事に気付き、本当に今宵は私に甘いと胸の中で笑った。