久しぶりですね、司馬懿。
「諸葛亮か」
あなたの方は相変わらずのようで。
「貴様は窶れたようだな」
ええ、もう長くはないと思います。
「それは願ってもないことだな」
ええ。
もう少しでまた劉備殿に遭えます。
「まだ死ぬな。私が殺してやるのだからな」
ねぇ、司馬懿。
「何だ」
私達はお互い良い主君を持ちましたね。
「まぁ、そうだな」
お互いに見送る側になってしまいましたけれど。
「…そうだな」
あなたも曹丕様が忘れられないのでしょう?
「あの方はもう居ない。逢いたいと願っても叶うことのない望みだ」
司馬懿にしては珍しいですね。
あなたが一人の人を慕うなど。
「…子桓さ、いや曹丕殿は私の半生のようなものだ」
私もお慕いした劉備殿を失いました。
…あなたの気持ちは痛いほどわかりますよ。
もし敵同士でなかったなら、私達はよい友になれたかもしれませんね。
「馬鹿を言え」
司馬懿。
「今度は何だ」
何故、私達は戦うのでしょうね。
「今この場所で、お前がそれを言うのか?」
ふふ、言ってみただけです。
「答えを教えてやる」
おや、何ですか?
「互いに譲れぬ護るべきものがあるから、だ」
おっしゃる通りですね。
私は蜀を、あなたは魏を。
私たちは殺し合う運命。
司馬懿。
ひとつお願いがあるのですが。
「無理な願いは聞かぬぞ」
では、ささやかに。
「聞くだけ聞いてやる」
私の星が堕ちたら、あなたが見送ってくれませんか?
「何故、私が」
何ででしょうね。
では、私は自陣に帰ります。
「次に逢う時は、殺してやる」
今は違うのですか?
「…今のお前は、殺したくない」
ふふ、優しいのですね。
ではまた戦場で。
さようなら、司馬懿。
その日の夜、ひとつの将星が堕ちた。
月の綺麗な八月二十三日のことだった。
私は横目で見送り、目を閉じた。
「…馬鹿めが…」