八月二十三日はちがつにじゅうさんにち

久しぶりですね、司馬懿。

「諸葛亮か」

あなたの方は相変わらずのようで。

「貴様は窶れたようだな」

ええ、もう長くはないと思います。

「それは願ってもないことだな」

ええ。
もう少しでまた劉備殿に遭えます。

「まだ死ぬな。私が殺してやるのだからな」








ねぇ、司馬懿。

「何だ」

私達はお互い良い主君を持ちましたね。

「まぁ、そうだな」

お互いに見送る側になってしまいましたけれど。

「…そうだな」

あなたも曹丕様が忘れられないのでしょう?

「あの方はもう居ない。逢いたいと願っても叶うことのない望みだ」

司馬懿にしては珍しいですね。
あなたが一人の人を慕うなど。

「…子桓さ、いや曹丕殿は私の半生のようなものだ」

私もお慕いした劉備殿を失いました。
…あなたの気持ちは痛いほどわかりますよ。



もし敵同士でなかったなら、私達はよい友になれたかもしれませんね。

「馬鹿を言え」













司馬懿。

「今度は何だ」




何故、私達は戦うのでしょうね。







「今この場所で、お前がそれを言うのか?」

ふふ、言ってみただけです。

「答えを教えてやる」

おや、何ですか?

「互いに譲れぬ護るべきものがあるから、だ」

おっしゃる通りですね。
私は蜀を、あなたは魏を。



私たちは殺し合う運命。









司馬懿。
ひとつお願いがあるのですが。

「無理な願いは聞かぬぞ」

では、ささやかに。

「聞くだけ聞いてやる」











私の星が堕ちたら、あなたが見送ってくれませんか?




「何故、私が」

何ででしょうね。
では、私は自陣に帰ります。

「次に逢う時は、殺してやる」

今は違うのですか?

「…今のお前は、殺したくない」

ふふ、優しいのですね。
ではまた戦場で。


さようなら、司馬懿。





















その日の夜、ひとつの将星が堕ちた。
月の綺麗な八月二十三日のことだった。

私は横目で見送り、目を閉じた。




「…馬鹿めが…」


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