五月十七日ごがつじゅうななにち

四月十日

やれやれ。帝位についてからというもの面倒くさいものだ。
本日も仲達と先の戦について話した。
いい加減諦めろと仲達に釘を刺された。
どうやら私は父と違い戦が下手のようだ。
「戦は私が致します」と言われてしまった。
だが、察せ。お前を前線に出したくない訳を。

四月二十六日

些細な用があり、出かけた。
もう桃の花も散ってしまった。儚いものだ。
城下の者が私に、藤の花をくれた。
その色は、あの者の衣によく似ていたので部屋に飾ることにした。
よい香りだ。

四月三十日

風邪をこじらせたようだ。
うつしたくなかったので断ったのだが、仲達が付きっ切りで傍にいてくれている。
幼少の頃を思い出す。
否、いつも傍にいてくれているのだがな。
(この日記は仲達の目を盗んで書いている)

五月四日

どうやら風邪ではないらしい。
自分の体のことだ。何となくわかっている。
しばらくお前に口付けできそうにない。
それが心残りだ。

五月十日

熱がひかない。
日に日に、まわりが騒がしくなっているのがわかる。
煩わしいので一喝し、仲達のみ傍に置いた。
ここから先は、仲達にあてる。








仲達

これは遺書だ。
お前にのみ、読むことを許してやる。

国や後継のことは別紙にまとめておいた。
それは私が亡き後に、お前が皆に読んで聞かせるがいい。
仲達、お前のことだ、何かあったとて。
お前が決してくれるものだろうと、期待しておく。

お前の好きにするがいい。

仲達、お前と共に過ごした数十年。
幼かった私が、お前の背を追い抜き、そしてお前を手に入れたあの日のこと。
今でも昨日のことのように覚えている。

思えば、お前と共に過ごさない日はなかった。
傍らを向けば、何も言わずともお前がいた。
私にとってそれはとても心地よく。とても愛い。

私はまもなく死ぬだろう。
お前より先に死ぬことが、少し惜しい。
仲達よ、お前は私を想い泣いてくれるだろうか。

願わくば、お前の心に残れるよう。

ちなみにこれはただの紙ではない。
羊皮紙という。特別に取り寄せた。
何十年、何百年経とうとも、この紙に書いた文字は消えることがない。

仲達よ、お前に対する想いは永劫消えることがない。



































五月十五日

少し疲れた。
空も曇って、今日は寒い。

この日誌が仲達に見つかるように。
そろそろわかりやすいところに隠しておくとする。

仲達、そろそろさよならだ。



































二二六年五月十七日 曹子桓 崩御
諱 文帝


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