あまりにもしあわせすぎて

昌幸を抱く時に、一つだけ心に決めている事がある。
それは昌幸が私を拒む仕草を見せたら止めるという事だ。
女子と違い、子を孕ませる為に抱いている訳ではない。
性欲処理の為かと言われれば、否であると即答しよう。

昌幸の事は、世界で一番愛していると自負している。
そう何度も伝えていたからか昌幸も漸く自覚をしたらしく、今では随分素直に甘えてくれるようになった。

愛おしくて愛おしくて、昌幸を抱いた。
あの日からその立場が逆転した事がない。
何かと体に負担がかかるのは昌幸の方だ。
故に無理をさせたくはないし、傷付けたくもない。
だがそうして遠慮をしていたが故に、私の果てなき情欲は溜まるばかりであった。

私を受け入れ、胸で息を吐いている昌幸の頬を撫でた。
私に脚を開かせられ、特徴的な白黒の髪は乱れて、その姿はあられもない。
昌幸の艶やかな色気は日に日に増して、隠しようがなくなっていた。
昌幸がこうなったのも私のせいであろうと責任も感じている。

今もこうして抱いているのに、抱き足りない。
それは私がいつでも加減をしているからだ。

「かつ、よ、り、さま…」
「ん…?」
「は、ぁ、勝頼、さま、勝頼…」
「何だ昌幸。こんなに近くに居るのに、泣きそうな顔をして…」
「誰の、せいです…か…」
「私のせいだな」
「ぁ、っぁ、も、だ、め…っ」
「…ふ、可愛いな…昌幸は」

もう幾度、果てさせたのだろうか。
今宵の昌幸は随分感度が良くて、挿入する前の前戯で既に二度は果てていた。
昌幸が果てると、中がきつく締まる。
きゅうと搾られているような感覚に負けず、そこは堪えて果てた直後である昌幸に敢えて追い詰めるよう腰を揺らした。

「っひ、ぁ、ぅ…!?」
「そんなに締め付けずとも、私は何処にも行かないと言うのに…」
「ゃっ、だ、だめ、だめ、です、また、いっ、て…!」
「存分に果てよ。昌幸、私は未だ足りないのだ」
「っ…ぁ…、………っ!!」

敷布を後ろ手に掴んで、背を仰け反らせるようにして昌幸が果てた。
切なげに眉を下げて声を押し殺す仕草がまたそそる。
昌幸の締め付けがきつく、私も中に果ててしまった。
中に感じてくれているのだろう。昌幸が目を細めて私を見つめていた。
幾度も中に果てているからか、昌幸から私の子種が溢れてきている。





焦点の合っていない瞳に視線を合わせるように腰を進めて、昌幸に額を合わせた。
腰を掴み、昌幸の両脚は私の肩に乗せている。
ぞくぞくと昌幸が震えて、私の頬に手を伸ばした。
その手は酷く震えていて、既に限界なのだろうと察する。
はぁはぁと浅く息を吐いている唇を塞ぐと、瞳がとろりと溶けて潤んでいた。
目を閉じれば、ぽろぽろと涙が溢れた。
全く、本当に愛おしい。

「…昌幸、可愛い。私の昌幸」
「かつよりさま…?」
「幾ら抱いても足らぬな、昌幸」

されとてもう止めてやらねば、昌幸の腰が立たなくなってしまう。
昌幸にとってはもう充分過ぎるのであろう。
頬を撫で見つめていると、昌幸からちうと一度触れるだけの口付けを受けた。
可愛らしい口付けに微笑み、昌幸の頬を撫でる。

「…、り、さ、ま」
「昌幸からなど、嬉しくなってしまう」
「…て、くだ、さ…」
「うん?」

体位が苦しいのだろうか。
肩で息をする昌幸の太腿に口付け、少し距離を取ろうとしたが昌幸に引っ張られてしまった。
首に腕を回され、ちう、ちうと私の唇を食んでいる。
恋人の可愛らしい仕草に微笑み、私からも口付けを返すと、昌幸は眉を下げていたが嬉しそうに笑っていた。

少し楽な体勢にしてやり、昌幸の後頭部を支えて唇を寄せた。
何を言いかけたのか耳を近付けると、私の耳を昌幸が食む。
くすぐったくて笑うと、昌幸が耳元で囁いた。

「…はぁ、勝頼様…」
「っ、そんな声で呼ぶのは私だけにしておけよ」
「当たり前でしょう…。あなただけです…」
「ふふ…。昌幸、そろそろ…」
「…勝頼様は、ご満足されていないでしょう…?」
「されとて、昌幸は」
「…普段、加減して下さっているのでしょう…。私が至らず、申し訳ありませ…、っ…!?」
「…ほら、昌幸が可愛い事を言うから、また、兆してしまった」

腰を撫でて再び中を抉れば、昌幸から艶やかな声が上がる。
中から溢れる子種に、昌幸を犯している自覚と共に幸福感に酔いしれる。
幸せだ。こんなにも私の事を想ってくれる人がいる。

私の溜息を不安げに見つめる昌幸は、いつもごめんなさいと眉を下げた。
ああ、謝らせたかった訳ではない。
優しく甘く唇を合わせて、深く深く口付ける。
昌幸が口付けに反応し、中が締め付けられて心地好い。
今宵の昌幸は随分と煽る。

「違うんだ。昌幸。違うんだよ」
「…?」
「幸せで堪らないんだ。昌幸が好きで好きで堪らない」
「…そんな、私、こそ…」

柔柔と奥に押し付けながら、腰を撫でて深く繋がる。
昌幸のが私の腹に擦り付けられて、またとろりと子種を溢れさせている。
感じてくれていると解るとやはり嬉しい。
今一度、脚を抱え上げて抽迭を再開する。
先程よりも随分甘く蕩けた様子で昌幸は声を漏らした。

「…いいのか?」
「はい…」
「ふふ。ならば今宵はじっくりと付き合ってもらうぞ、昌幸」
「存分に、勝頼様…」

私の頬を撫でるその手に口付ける。
もう殆ど力が入っておらぬが、それでも昌幸は私の為に尽くそうとしてくれていた。
昌幸が私の腰に脚を絡めさせ、首に腕を回して抱きついてくれた。
私の昌幸はこんなにも愛おしい。





深く甘く口付けながら、抜かずにそのまま深く深くじっくりと昌幸を抱いた。
荒々しく抱く事も出来たが、過ぎた快楽は気を飛ばしてしまう。
苦しませたい訳ではないし、何より昌幸と過ごす時を成る可く長く共有したかった。

今まで正常位や対面座位で抱き合っていたが、やはり昌幸と密着したい。
今宵はどうにも昌幸に甘えたくて仕方ないのだ。


空が白む頃、漸く接合を解いた。
じっくりと、とろとろと、昌幸に溺れていく事を自覚している。
心が満たされて幸せで堪らない。
溢れるほどの幸福感と、心地好い疲労感に昌幸を胸に抱き寄せて頭や背中を撫でた。
私と散々交合った昌幸はというと、自力では起き上がれない程に疲れさせてしまったようで、私の上着に包まり目を細めていた。

内股に手を這わせ尻に触れれば、昌幸の中から私の子種が溢れている。
そのまままた柔柔と触れれば、直ぐに私の指を飲み込みひくついている。
また直ぐにでも繋がれそうな程、昌幸はとろとろに蕩けていた。
啄むように昌幸の唇に口付ければ、昌幸の口角が柔らかく弧を描く。
微睡む瞳には私だけが映っていた。
重そうな瞼に唇を寄せて、私の腕を枕に昌幸を横に寝かせた。
肌蹴た着物を手繰り寄せて、昌幸を抱き締めた。

「…はぁ…、まさゆき…」
「っん…、はい…、かつよりさま」
「こんなにも長く抱いたのは初めてかもしれぬな…。大事ないか、昌幸」
「…はい…」
「ふふ。腰が抜けているな」
「…もう、起き上がれませぬ…。今宵はもう…何卒、御容赦いただければ…」
「ああ。無理をさせてしまったな。今日はずっと昌幸の傍にいるぞ」
「…本当…ですか…?」
「今日は休みだろう?昌幸の予定はちゃあんと把握しているぞ」
「…あなや。されど、もう御勘弁下さいませ…」
「ああ」

うつらうつらと微睡む瞳を見下ろしていた。
頬を撫でると、擦り寄るようにして甘えてくれた。
事後の昌幸はいつもとても甘えたがりで、私から離れようとしない。
間もなく寝落ちてしまった恋人を抱き寄せて背中を撫でた。

私もそれなりに疲労感があるが、昌幸ほどではない。
頭や髪を撫でながら昌幸を見つめていた。
何刻でも見ていられる綺麗な男だと思う。
贔屓目に見なくても、凛々しく美しいと思う。
源五郎と呼んでいた頃はとても可愛くて、思えばあの時から私は昌幸に惚れていた。

私も昌幸も、唇が腫れぼったい。
口付けし過ぎて、互いに腫らしてしまった。
昌幸は乳首も随分腫れてしまって、弄りすぎてしまったと少し反省しつつ、合わせ目をしっかりと締めた。

身も心も満たされているが、昌幸に欲情しないとは言っていない。
だがさすがに、もう打ち止めだ。
眠っている相手にまで手を出すつもりはない。
するなら、昌幸が起きている時でなければ。
私の思いを受け取り、仕草や言葉で昌幸がどう反応するか、具に見ていたい。
寝息を間近に聞きながら、昌幸を胸に抱いて目を閉じた。





不意に離れた体温に気付き、手首を掴み抱き寄せる。
眠気眼に腹や腰を擦る様子を見て、昌幸を離さない。

「無理するな、昌幸」
「勝頼様…、大丈夫です…」
「ならん」
「されど、誰か、来てしまいます。その前に」
「来たとして、お前を見せるものか。今日は」
「…勝頼様」

朝を迎えて昌幸は身支度をせんと身を起こしたが、直ぐには立てず蹲ってしまった。
どう見ても無理をしている様子の昌幸を私の腕の中に抱き寄せると、不意に身を反転して私の上に伸し掛る。
私の胸の上に昌幸が抱き着く格好となり何だか可愛らしい。

「ふふ、どうした?」
「御無礼を、申し訳ありません…」
「昌幸、腰が立たぬのではないか。今日はゆるりと…」
「…勝頼様…」
「ん、っん…ぅ」

不意に唇を重ねられて、ぬるりと舌が割り込んでくる。
珍しく積極的な昌幸の誘いに下履きを履いていない事に気付き、尻や内股を撫で付ければ昌幸も兆していた。
昌幸の瞳が微睡み、揺れて、濡れている。
私を求めて、口付けたのだろう。
離れようとしたのは其れを気付かれまいとしたのか、はてさて。

ひとつ頷いて私から口付けると、昌幸は眉を下げて頬を赤らめていた。
そして頷く様子に、昌幸も同じ思いなのだと知る。
言葉での誘いは嬉しいが、昌幸は言葉で誘惑出来るほど手練ではない。
幾夜、体を重ねたとて、昌幸は初々しい。

下から昌幸の口内を蹂躙するように舌を絡めながら、くちゅと水音が響くほど私の子種を孕んだ昌幸の中に指を入れる。
昨夜散々抱いて、私の子種に満ちた秘部は柔柔と私の指を難なく奥まで飲み込んでいた。
もう一本指を増やしても飲み込む昌幸に微笑み、口の中に指を入れた。
口内も十二分に蕩けている。
私が触れるところ全て蕩けているのではないだろうかと思うほど、今の昌幸は抱き頃である。
ただでさえ事後で艶っぽくあるのに、こんな姿の昌幸を誰ぞに見せられようか。

「…全く、どうしてこんなに艶っぽいのだか」
「そのような、こと」
「何処も彼処も、とろとろだ」
「勝頼様が、触れるからです…」
「っ、全く、お前は」

堪らない。
前戯も程々に、騎乗位の体位で昌幸の中に深く繋がり息を吐く。
もう収まりきれないのか、昌幸の中から私の子種が溢れてきていた。
昌幸の腰がとうに立たぬのは知っている。
騎乗位の昌幸に動けとは言わん。
私に覆い被さるようにしている昌幸の両手首を掴み、指を絡めて手を繋いだ。

「まさゆき」
「ぁっ…!」

手を繋ぎたかったのもあるが、こうすれば昌幸は手で声を堪えられない。
自重で深く私を受け入れてしまい、昌幸は背を仰け反らせて私をきゅんきゅんと締め付けていた。





昌幸に溺れていく。
そして、昌幸もきっと、私に。
下から突き上げる度に上がる声に微笑み、昌幸の下腹を撫でた。
奥に奥にと突き上げる度に、昌幸の下腹に振動が伝わる。
此処まで入っているのだと、触れば解る。

「…昌幸、まさゆき」
「はっ、ぁ…、かつより、さま…!」
「こんな奥にまで、私が入っている」
「ぁ…!」
「ほら…、な?」

身を起こして昌幸を抱き留め、昌幸の手を私の手に重ねながら下腹に触れさせた。
昌幸はかあぁと頬を赤らめて、眉を顰めていた。
そのまま抽迭を再開すると、再び昌幸から甘い声や吐息が漏れる。
三度突き、四度、五度突き、六度目に一番奥に突き上げる。

「ぁっ…!だ、め、だ、め…勝頼、さまっ…!」
「ふふ、駄目じゃないだろう?逆ではないか、昌幸」
「だっ、て、こんな、の…」

昌幸が一際きつく締め付けたと思うと、私の首に腕を回して果てた。
足先が丸まり、ぎゅっと私の手を掴んで震えている。
意識は辛うじて残っていたが、果てた直後の過敏度合いは知っている。
私に身を寄せて震えている昌幸の何と可愛い事か。

敢えて休ませず、そのまま昌幸を押し倒して深く腰を抱き寄せ、奥に突き上げ続ける。
海老反りになり、昌幸は再び果てたが吐き出してはおらぬ。
体が昂り過ぎてしまい、下りて来れなくなってしまったのだろう。
こうなってしまったらもう、抱き潰すしかあるまい。

「かっ、かつより、さ、…!っぁ、ぁっ、ぁーっ…!!」
「まさゆき、まさゆき、可愛い、可愛い、私の、昌幸」
「ぁっ、だめ、ま、た、イッ…、て…!」
「幾度でも果てよ。抱き潰してやる」

溢れる子種は全て私のものだ。昌幸を抱くのは私だけだ。
昌幸は私のものだ。
そんな自分の醜い独占欲をぶつけて、昌幸を抱いた。
もう私達はひとつになっている。
互いの境界が分からぬ程に蕩けて、昌幸に溺れた。
私が幾度か中に果てると、昌幸が私を絞り出すように締め付け一瞬気を飛ばしてしまった。
これはもう、昌幸が悪い。

「全部、お前に食らい尽くされそうだ…。こんなに…、昌幸…」
「…出し、過ぎです…、も、う」
「昌幸、好きだ。私の、昌幸…」
「…はい。私の…、勝頼様…」
「っ」

流石に無理をさせ過ぎた。
終いに昌幸に触れて果てさせると、昌幸は気を飛ばしてしまい褥に沈んだ。





私も欲望に任せて随分勝手をした。
流石にこれは昌幸に無理をさせすぎてしまった。

昼過ぎに目を覚ました昌幸に甲斐甲斐しく寄り添い世話を焼くと、辛そうな表情はひとつも見せずに私を見つめて微笑んでいた。
身綺麗にされた事に気付き、昌幸は私に申し訳なさそうにしていたが、やはり起き上がれないのか私の腕枕から身を起こそうとする様子もなかった。

「…勝頼様…」
「無理をさせすぎてしまった。体は大事ないか」
「…、勝頼様…」
「っ、そんな顔で見つめてくれるな」
「さて、どのような顔をしておりますやら…」
「それは、私が好きな顔だ」
「はい…。勝頼様には隠せませぬ」

腰を抱き寄せて、私を見つめる昌幸に口付ける。
昌幸は随分と嬉しそうに微笑んでいた。

「勝頼様…」
「うん?どうした、何処か痛むのか」
「…あまりにも、しあわせ、過ぎます…、勝頼様…」
「っ、昌幸」
「…勝頼様を独り占めなど、こんな、幸せで、良いのでしょうか」
「ああ。だって、私は、お前の勝頼だろう?」
「っ…、は、い…」
「お前は私が幸せにするから、今はゆっくりお休み」
「…約束ですよ?」

疲労が祟り昌幸は再び瞼を閉じた。
今は武田家中であろうが、父上であろうが誰にもこの部屋に近付くなと人払いをしている。

「あまりにも幸せなのは、私の方だ」

繋がれた手を離さず、幸せそうな寝顔の昌幸に微笑み、額に唇を寄せた。
ああ、愛している。
幸せで堪らないのは私の方なのに。
両想いとは、恐ろしいものだと微笑み、私の幸せを胸に抱き締めた。


TOP