あいあいされ、昨夜さくやつづ

昌幸と心通わせ恋仲になった。
私の想いを伝えると昌幸はとても恥ずかしそうに、そして泣きそうな笑顔で知っていたと、待っていたと呟いていた。

恋焦がれ、そうであったらいいと互いに想いを馳せながら、互いに想いを秘めていた。
これを伝えたら、今の関係が壊れてしまうのではないか。
私も昌幸もそれを恐れて、何も言えなかった。

想いを吐露すれば、何ということはない。互いにずっと、ずっと想い合っていた。
恋しい恋しいと互いを想い、会えぬ時や距離を憂い、互いを想い続けていた。
私達の長い長い恋は叶ったのだ。


昨夜、初夜を迎え昌幸を抱いた。
誰ぞに手解きを受けたような素振りもなく、ただただ私の昌幸である。
漏れる声は感じているからなのか、それとも苦痛故にか。
あのように泣く昌幸を初めて見た。

初夜であったのに、今朝から昌幸は真面目に父上の元へ勤めている。
私が休ませてやりたいと言ったものの、昌幸は執務に私情を重ねたくはないと断った。
私は私として執務の為に部屋に篭っていたが、昌幸の安否が心配でならない。
昌幸の事だから、無理をしているに決まっている。

「まさゆ…、昌次、いるか」
「は。昌幸でなく申し訳ありませんな」
「ふ、昌幸はどうして居る」
「お館様のお傍に控えております。御自身で確認されては如何か」
「今、昌幸を見たら、きっと人目をはばからずに抱き締めてしまう」
「はは、昌幸は怒るでしょうな」
「それが可愛い」
「昌幸が怒る訳です」

躑躅ヶ崎館の幾人かには、我等の恋仲などは父上や土屋昌次、一応真田の兄ら、信綱や昌輝にも知られていた。
父上が知っておられるからこそ、昌幸がからかわれていないか気がかりである。
手など出されては父上だとて容赦しない。昌幸は私の恋人である。

「では、早々に終わらせて昌幸を迎えに行くとしよう」
「それが一等宜しいかと。昌幸も何処か虚ろでありましたから」
「そうなのか?昌幸は大丈夫だろうか」
「…成程。そういう事でしたか」

言葉にせずとも昌次は察したようだ。
私の落ち着きなさに昌次は笑って、書き終えた書簡を持っていった。
昌幸が虚ろと聞いて、やはり無理をしているのだと昌幸を案じた。
昌幸の事しか考えられなくなる。だって、一番好きなんだ。
何とか今日の書簡は終わらせた。

「父上は何処か」
「大広間に昌幸と居られます。皆々様が各々お館様に謁見されておりましたが」
「そうか。昌幸は傍に控えているのだな」
「はい。今は山県殿や内藤殿が帰られて、真田殿がいらしているのでは」
「ふむ。幸隆殿か?」
「今参られているのは、信綱殿ですな。昌輝殿も居りました」
「そうか。行くなら今だな」
「そう急がずとも、昌幸は逃げませぬ」
「早く会いたいではないか」

大広間にひた走る。
幸隆殿であったなら、私も緊張する。
流石の攻め弾正と言うか、幸隆殿には隙がないので緊張するのだ。
昌幸との事を知っておられるのか知らぬ振りをしてくれているのか、何も言われぬ事が申し訳ないとは思っている。
今度、真田に行く事があれば、昌幸との事を話してみようかと思うが一歩踏み出せないでいる。




幸隆殿と信綱は入れ替わりで各々の屋敷に滞在している。
信綱や昌輝ならば私も心置きなく会えるし、話も合う。
昌幸も恐らく心置きなく控えているのではないか。
最近、信綱の活躍は飛躍していて先方衆の中でも抜きん出ている。
武田にはなくてはならぬ真田家である。

「父上、よろしいでしょうか」
「や、勝頼。ほら、昌幸。お迎えが来たよ」
「勝頼様…」
「これは、勝頼様」
「勝頼様」
「信綱、昌輝。よく来たな」

一声掛けてから戸を開けると、父上はどかりと鎮座しており、その横に昌幸は控えていた。
その正面には信綱、昌輝が座っていた。
信綱の隣に座ると、信綱と昌輝は一歩後ろに下がった。

「勝頼、漸く来たね。昌幸が寂しがっていたよ」
「お、お館様…」
「兄弟揃ったところであったのに邪魔をしてしまったな信綱、昌輝。昌幸が心待ちにしていたぞ」
「は、日頃昌幸を目にかけて頂き御礼申し上げます」
「否、私こそ昌幸の世話になっているのだ。真田家には世話になる。今後とも武田をよろしく頼む」
「勿体ないお言葉でございます、勝頼様」
「御期待に応えられるよう、精進致します」

信綱と昌輝に頭を下げられつつ、昌幸を見つめた。
目を合わせてはくれたが、直ぐに反らされてしまった。
む、として昌幸に躙り寄ると父上に肩を叩かれた。

「勝頼、昌幸を連れて行っておやり」
「お、お館様…」
「はい。昌幸を迎えに参りました。私と一緒に来てくれるか、昌幸」
「勝頼様…」
「昌幸、おいで」
「?はい」

何やら父上が昌幸に耳打ちすると、昌幸は頬も耳も赤くして下を向いてしまった。
信綱が昌幸を心配して声を掛けていたが、信綱すら見れぬのか昌幸は首を振って下を向いている。
どうやら腰が立たぬ事を父上に指摘されたらしく、信綱らには知られたくないと首を振っていたようだ。
父上には見抜かれている。

「昌幸が十歩頑張ったら、おことが連れて行っておやり」
「畏まりました」
「昌幸、いいよ。まだ信綱と昌輝と話があるから勝頼とお行き」
「…それでは、失礼致します。お館様、信綱兄上、昌輝兄上」
「うむ、いつでも屋敷に寄れよ昌幸」
「またな、昌幸」
「はい。信綱兄上、昌輝兄上」
「勝頼に甘えておいで」
「お、お館様…」

父上と、信綱、昌輝に挨拶をして、昌幸に付き添い広間を出た。
人目がない事を確認して、昌幸に寄り添う。

「すまない。邪魔をしてしまったな」
「勝頼様…」

十歩、昌幸は頑張った。
背や腰を抱き寄せて、辛そうな様子の昌幸を支えた。
腰が立たぬのは、昨夜の事であろう。
事後の処理など、どうしていたのだろうか。
互いに初めてであったからこそ、昌幸が無理をしていないか心配でならない。

顔には出さぬが、腰が重そうだ。
昌幸をじっと見つめると、やはり顔を反らされてしまい寂しい。

「昌幸、どうして目を合わせてくれぬのだ」
「…申し訳ありませぬ」
「無理をしていないか、昌幸」
「お館様にも休むように言われたのですが」
「なら、無理をせず」
「今日は信綱兄上や昌輝兄上が来る日でした。一目だけでもと挨拶をさせていただきました次第」
「…それなら、邪魔をしてしまった」
「いいえ。勝頼様のお傍にいたかったのも本当の事です…。ただ、お顔を見ると…その、…昨夜の事を…思い出してしまって…」
「っ…!」
「申し訳ありません…」

昌幸が耳まで赤くしたのはその為か。
何て愛おしい理由であろうか。
寂しいと思っていた事が馬鹿みたいだ。怒る気にもなれん。
昌幸こそ、私のことしか考えていない。

人目を気にしていたら、庭を挟んだ向かいの縁側に昌次が居た。昌幸は気付いていない。
目を合わせて手で払うような素振りを見せると、昌次が頷いた。
おそらく、昌次は人払いを察してくれた。
余りにも協力的な父達に苦笑しつつ、昌幸と二人きりにしてくれる事に感謝した。




私の部屋に着くなり、昌幸を抱き寄せて畳に座る。
突然の事に昌幸は慌てふためいていたが、私の胸の中に抱き締めてしまえば大人しくなった。
此処からは恋人の時間だ。

「昌幸」
「はい…」
「まさゆき」
「勝頼様」

昌幸の頬に手を添えて口付ける。
幾度か唇を重ねて、最後は深く甘く口付けた。
私の胸元に手を添えて、舌を絡めると小さくその手が震える。
私の昌幸は何て愛おしいのだろうか。

髪に触れ、そのまま背や腰を撫でて尻に触れる。
桃のように柔らかい訳ではないが、昌幸は触り心地が良い。
昌幸を見れば身を強ばらせて、目線で私の手の動きを追っている。
私が何をするのか、見ているのだろう。
とは言え、抗う素振りを見せないのは私を許してくれているからか。
私が頬を撫でると、目を細めた柔らかい瞳で私を見つめている。
ああ、私を愛してくれているんだと心から思った。

「なぁ、昌幸」
「はい…」
「お前、そんなに可愛くてどうするんだ?」
「…血迷いましたか、勝頼様」
「む、私はいつでも本気だぞ?」
「左様なれど、何を仰いますか…。そのような言葉は私に相応しくありません」
「昌幸は可愛い」
「か、勝頼様…」
「うむ、愛い」

幾度か柔らかく口付けを繰り返すと、昌幸の瞳がとろとろと蕩けてきた。
口内も蕩けて、まるで昨夜の…。

そう言えば昨夜の後は、どうしたのだろうか。
昌幸の耳を甘く噛みながら、片手は髪を撫でつつ、もう片手で腰から下に手を這わせた。

「…勝頼様?」
「確認がしたい」
「…何をですか」
「身を任せてくれるか、昌幸」
「未だ夕刻です。皆様方も躑躅ヶ崎館に居られます。お館様の補佐を…」
「昌幸は父上の傍が良いのか」
「それが私の務めでございますれば」
「私の努めは聞いてくれないのか、昌幸」
「勝頼様の努めとは…」
「私は恋人の傍に居たいだけだ。本当は昌幸を誰にも会わせたくなかったのに」
「っ」
「人払いをしてある。そこは抜かりないぞ」

互いを想い合っていたとはいえ、情事は初めてだった。
口付けだとて、漸く慣れた頃合である。
四郎と源五郎であった頃にした可愛らしい口付けではない。

止めどなく溢れる涙を覚えている。
力なく首に回される手も、漏れる声も覚えている。
事後、褥に横たえて動かない昌幸を見れば恍惚とした様子で溜息を吐いていた。
脚や股には、私の精液と昌幸の血が流れていた。
本当は、苦痛だったのではないか。
昌幸は本心を隠すのが上手いが、これはきちんと確認せねばなるまい。

おそらく未だ体を傷めているであろう昌幸を案じると、それでも幸せだったと昌幸がぽつりと私に告げてくれた。
昌幸の言葉に頬を染めて、私もだと伝えると昌幸も頬を染めた。

昌幸の血を見ている。座っている事すら辛かろう。
横になれと肩を支えると、昌幸は不安げに私を見上げた。

「勝頼様」
「見せてくれぬか」
「…恥ずかしい…です…」
「暗がりなら良いのか?」
「何もかも、あなたに見られる事が恐ろしいのです…。私とて醜いものの一つや二つございます」
「なら、私の何もかもを見てみるか昌幸」
「勝頼様を?」
「私は見目より心が醜いぞ昌幸。いつも誰かを妬んでいる」
「勝頼様が、ですか」
「昌幸は私のなのにな。それでも不安なのだ」

私は激情を抑えられない性格である。
事後の昌幸を誰にも見せたくなかった。誰にも触れさせたくなかった。
そう伝えると、申し訳ございませんと昌幸が謝罪する。
違う。謝らせたい訳ではないのだ。
我ながら己が面倒だなと感じる。




袴を脱がせ、上着を肌蹴させた。
肌にぽつりぽつりと残っていた事後の名残を指で撫でながら、肌着に手を掛ける。
しゅるしゅると紐を解いていくと、昌幸が口元に手をやり肩を震わせて瞳を細めていた。
褌に赤い滲みを見つけて手を這わせば、其処は血濡れで痛々しい。
慣れぬ後処理で傷が広がってしまったか。昌幸が醜いと言ったのはこの事か。
其処を露わに剥けば、流血が痛々しい。
思わず眉を顰めて頬を撫でると、昌幸も眉を下げて私を見つめていた。

「…お目汚しを…」
「無理をさせてしまったのだな…、すまぬ」
「謝罪など無用です勝頼様。あなたは昨夜の事を…後悔されたのですか」
「まさか。幸せで堪らない…」
「ふ…、されば過分な心配でございますれば」
「…処理は、自分でやれたのか?」
「はい…、何とか」
「次からは私にやらせてくれ」
「勝頼様がそのような事」
「私は性欲処理の為にお前を抱いた訳ではないのだぞ昌幸。恋人として当たり前の事だ」
「こいびと…」
「そうだぞ?」

昌幸をやわやわと抱き締めつつ、尻に触れる。
惚けている昌幸に微笑み、額に唇を寄せた。
先程は気が張り詰めているのか背筋が固かったが、今はゆるりと寛いで気を抜いてくれている。

褌にすら染みている鮮血に眉を顰めつつ、軟膏をと指を這わせた。
未だ其所を触れられるのは慣れてないのか、脚を閉じてしまい再び体を強ばらせている。
脚を開くよう腿に触れて促すも、昌幸は首を横に振っている。

「昌幸」
「っ」
「私しか見ていない」
「あなただから、恥ずかしいのです」
「確認だと言っただろう?」
「う…」

耳まで赤くしながら、昌幸がおずおずと脚を開いてくれた。
それでも裾で隠したがるので、その手に指を絡めて手を繋ぐ。
顔を近付けて指で触れると、脚が跳ねた。
表面上は傷付いていないので中だろう。
昌幸に許可を取り、恐る恐る中に指を差し入れるとじわりと赤く指が濡れる。
結構深く傷付いている。
昌幸は痛くないと首を横に振るが、それよりも私に見られて触れられている事に戸惑い目を合わせない。
また避けるのかと言うと、裾で隠している意味を察して柔らかく其所に触れた。

「私が触れたから、か」
「ぁ…っ…!」
「傷付けてしまった詫びをしたい」
「…?勝頼様…?」
「私に任せておけ」
「待っ…、勝頼様、そんな…、ぁ、っん…!」

口付けを繰り返し触れ続けていたからか、昌幸のは起ち上がっている。
私とて堪えていたものの、私に触れられただけでこうも感じてくれる昌幸が愛おしい。
挿入せずとも、情事は情事である。
愛する相手と肌を合わせたら、それはもう情事だ。
昌幸のを撫で上げて扱き、口内に含む。
さすがに奉仕はされた事がなかったのか、上体を起こして私を静止していたが、咥え込んでしまえば大人しくなった。
慣れていないからこそ感度が良く、そして昌幸は存外快楽に弱い。

「は…、ぁ、も…、ぁ…かつよ、り…さ、ま…、や…」
「昨夜より敏感だな、昌幸」
「っ…!」

唇を噛んでいた為に、指を入れて噛まぬようにしてやると昌幸の口内がとろとろに蕩けていた。
裏筋を舐め、亀頭を攻めれば昌幸は弱々しく首を横に振る。
果てそうなのだと察して深く奥に咥え込み根本を扱いてやれば、昌幸は声にならぬ声を上げて果てた。
果てたものを飲み干し、唇を舐めて身を横たえる昌幸に顔を近付け、目尻に溢れた涙を拭った。

「…っ、ふ…、ぅ…も、申し訳…ございません…、勝頼様に…そんな…」
「ふふ、良かったのか昌幸」
「は…い…」
「今日は素直だな」
「…昨日の今日で…、このような…」
「昌幸が感じてくれるようになったのであれば、傷付ける事もあるまい」
「…勝頼様…」
「そう見つめてくれるな。私はお前が好きなんだぞ」
「…足りません…、勝頼様…」
「ま、昌幸」

私を見つめる昌幸の眼差しは熱いものだ。
熱を孕んで艶っぽい。
今ので昌幸を焦らしてしまったのだろう。
私達はもう子供ではない。口付けや抱擁、睦みあいだけで満足は出来ない。
昌幸は覚えてしまったのだろう。

「私は…大丈夫です…」
「されど、昌幸」
「勝頼様のが…」
「私は昌幸を傷付けたくない」
「傷付けられるのなら、あなたがいい…」
「っ」
「私を傷付けるのも、癒すのも、勝頼様です」
「昌幸」
「私の何もかもを差し上げました。あなたが私の、唯一の…」
「…、昌幸…」

昌幸の紡ぐ言葉を受け取り、その言葉の意味も受け取り、深く甘く口付け了承した事を伝えた。
私は昌幸と交わりたい。昌幸も私と思いを同じにしてくれていた。
初夜明けだと血濡れだと、色々理由を付けて自分の思いに正直になれずにいた。
私は今、昌幸を抱きたい。




昌幸を押し倒し、口付けを幾度も交わしながら中に指を埋めた。
やはり中は傷付き出血していたが、その血の滑りさえも利用して昌幸を解していく。
私に口付けられながら徐々に力が抜けていく昌幸を案じつつ、目尻の涙に唇を寄せると笑ってくれた。
昌幸は眉を下げて笑う。その表情が愛おしかった。

血の匂いに混じり、精液の匂いが混じる。
先に果てた昌幸のを手に取り、更に指を増やした。
水音が響くほどに抜き差しを繰り返し、昌幸を慣らしていく。
昨日の今日だ。未だ快楽を感じるほど慣れてはいない。
それでも私に応えようとしてくれている昌幸が愛おしかった。
指を三本咥え込み、肩で息をする昌幸の頬を撫でる。

「大丈夫か、昌幸」
「は…、はぁ…、勝頼さま…、もう…」
「痛くないか、昌幸」
「大丈夫です…、ぁ…」
「力を抜いていろ」

繋がる事を伝えて指を抜き、当てがう。
そのままゆっくり深く奥に挿入し腰を進め、これ以上は無理だという奥にまで繋がる。
慣らしたとはいえ、私をきつく締め付ける昌幸は深く息を吐いて瞳を潤ませている。
脚を伝う出血に気付いたが、私の首に腕を回して昌幸から口付けてくれた。
昌幸から、口付けてくれた。

「昌幸…?」
「は…、はぁ、ぁ…かつよりさま…」
「昌幸、もう一回…」
「っ、ん…」
「ふふ…、昌幸からしてくれた」

昌幸からの口付けが嬉しくて素直に喜んでいると、昌幸が頬を染めて私の頬を撫でてくれた。
ちゅ、ちゅっと何度も口付けてくれた。
そして私の腰に脚を絡めている。
色恋沙汰や情事には初であるのに、このような仕草をさらりとするものだから昌幸は堪らない。

血の他に滑りを感じて、少しは感じてくれているのかと奥を揺さぶる。
こつこつと奥に当たる度に、昌幸が悲鳴に近い声を上げて私を締め付けている。
引き抜き、再び一番奥まで突き上げる。
それを何度も繰り返していくと中の滑りが随分良くなった。
表情を伺えば口元に手をやり、些か混乱しているように見える。

「ふふ、少しは感じてくれているのか」
「…あつい…、熱いです…、勝頼様…」
「痛くないか?」
「…ぁ…、あつくて…、しびれ…ます…、な、ん…です…こ、れ…」
「ほう…」

昌幸は、己の体が快楽に善がっている事を理解していないらしい。
響く水音が大きくなっている。度重なる抽迭に昌幸も濡れているのだろう。
己が快楽を感じている事に混乱しながらも、私を必死に見つめている。
奥を突けば突くほど、きゅうきゅうと中が締まる。
昌幸は少し苦しいのが好きらしい。絡まる脚を撫でて呼吸すらままならぬほどに口付ける。

「はぁ、まさゆき、昌幸」
「かつより、さま…、も、もう、だ、め…何か、きて…」
「ほう。後ろだけで果てるのは、初めてか…」
「っ!は、はしたな…い、…もうしわけ、ありません…」
「私を感じてくれるようになった。それだけの事だ」
「…私に、何が…」
「昌幸の体が私を受け入れてくれるようになった。漸く心に体が追い付いたというところか」
「ぁ、も…っ、だめ、だ、め…っ、ゃ…」
「果てよ、昌幸」
「っ…!か…、はっ…ぁあ…、ぁっ…!」
「まさゆき…っ」

後ろだけで昌幸が果て、余りのきつい締め付けに私も中に果てた。
私の腰に絡み付いていた脚が落ちた。
意識を手放してしまったのだろう。
昌幸の頬を伝う涙を拭いながら、未だ痙攣して締め付け続ける心地に目を閉じる。
私もとても気持ちいい。
体が落ち着くまで頬を撫で、額に唇を寄せた。
苦痛ばかり与えているのではと危惧していたが、そうでないならその方が良い。

「愛している」

思わず口から零れた言葉は言わずにいれなかった言葉だ。
昌幸の体が落ち着いたのを見計らって中から引き抜くと、血混じりの精液が溢れている。

全て私のものである。
そうだ。もう昌幸は私のものなんだ。





私の上着を着せて昌幸を胸に横になっていた。
起こしてしまうのは可哀想だろう。
私の腕を枕に安堵した様子で眠る昌幸の寝顔を見つめながら背を撫でる。
部屋の襖の前に人の気配がある。
襖を開ける気配がない事に我等が居ると解っている者であろうと察した。

「勝頼様」
「昌次か」
「は…。湯浴みの支度が出来てございます。此方に諸々御用意致しましたのでお使い下さいませ」
「気が利きすぎて怖いぞ、昌次」
「今朝から勝頼様と昌幸の顔を見ていればお察し致します。未だ慣れぬ昌幸は手負いでございましょう。軟膏もお持ち致しました」
「…そこまで察せられているのなら、昌次に頼みがある」
「何なりと」
「私が傍に居られない時は、昌幸が無理をせぬよう見ていてくれ」
「かしこまりました。…ふ、昌幸にも伝えましょう」
「昌幸に言うのか?」
「勝頼様に想われていると自覚すれば、昌幸も自らを蔑ろにはしますまい」

湯浴みの支度やら何やら、昌次は用意をしてくれていた。
手慣れている昌次に私の知る事後処理の手順が合っているのか口頭で確認しつつ、昌幸を横に抱き上げて湯浴みに向かう。
昌次が襖を開けてくれた。

「信綱殿が昌幸を案じておられましたぞ」
「昌幸も会いたがっていたからな…。だが今は信綱には見せられん」
「勝頼様が御手間でしたら、処理は請け負いますが」
「手間なものか。それに今は昌幸を誰にも触らせたくない」
「失礼致しました。…ふ、昌幸は幸せ者ですな」
「ああ、幸せにしたい」

昌幸に頬を寄せて微笑む。ああ、本当に好きで堪らない。
湯浴みは手早く終えて、事後処理も適切に終えた。
体をそこまで傷めているようではなくて良かった。

部屋に戻ると、整えられた布団が敷かれている。昌次であろう。
軟膏も塗り終わり、身なりを整えていると、昌幸が漸く意識を取り戻した。
私の腕の中に居る事に気付いて、ふわりと柔らかく笑う。

「勝頼様…」
「気が付いたか」
「私…」
「全てやっておいた。体が重いだろう。今宵は私が傍に居るからな」
「申し訳ありません…」
「ん、後で夕食を貰おう。父には伝えてある。私と二人で過ごそう」
「二人きり…」
「ふふ、二人きりだぞ」

指を絡めて手を繋ぐ。
額同士を合わせて微笑むと、昌幸も笑ってくれた。
昌幸は私の前ではよく笑う。

事後の気怠さが心地好い。
昌幸が腕に凭れて私を見つめていた。結いていない髪が敷布に流れている。
ひと房すくって唇を寄せると、昌幸は良い香りがした。


何時だか聞いた。
好きな人からは良い香りがするという。
湯浴みに関係なく、日々昌幸からは良い香りがしている。
昌幸の良い香りに気を良くしていると、昌幸が胸に埋まりすうすうと息を吸っていた。

「どうしたのだ」
「勝頼様…、良い香りがします…」
「っ、湯浴みをしたからだろう」
「勝頼様の香りです。私の好きな香りです…。何かつけていらっしゃるのですか?」

それはつまり、昌幸も私の事が好きだという事だ。ああもう、愛おしい事だ。
腰に腕を回して背を引き寄せ、強く抱き締める。
ああ、ああ、昌幸が好きで堪らない。
何て愛おしいのだろう。

「勝頼様…?」
「愛している。愛しているぞ」
「っ…!」
「こんなに幸せで良いのだろうか、昌幸」
「そんな…、私こそ…」

身に余る事であると恐縮するところが昌幸らしい。
愛して愛されて、私は幸せだ。
もう一方的な恋じゃないんだと思うと、幸せで堪らない。
もっと幸せにするからと伝えると、昌幸は頬を染めつつもまた笑ってくれた。


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