信綱兄上も昌輝兄上はとても素直で真っ直ぐな性格だと思う。
勝頼様や幸村は裏表がない。
体裁は気にされるが、嫌なものは嫌だとはっきり断られるし、言葉も真っ直ぐで清々しい。
私とて表も裏もないつもりだ。だがそれは良い意味ではない。
人に言われる私の批評は、何を考えているのか理解出来ないという扱いである。
父上はわしに一番よく似た息子だと笑って下さったが、私は人からの言葉の意味を深く考えてしまう。
私は言葉を真っ直ぐには受け取れない。
そして何より私は本心を人に語らない。
深謀遠慮を慮れば、事の最悪を考えてしまうのが常だ。
最悪に備えて、最善を尽くす。それが謀略というものである。
それが私の生き方であった。
恋仲となり閨を共にした勝頼様相手でも、私は素直になれなかった。
勝頼様を心からお慕いしている。
その思いに偽りはないが、素直にそれを言葉に出来るかと言うとそれはない。
私が好意を募るだけなら未だ良い。
勝頼様に愛されているという事を自覚する度に、畏れ多い事だと身を弁え、幸福に息が詰まってしまう。
想いが募りに募り、やっと伝えられた時は勝頼様は諸手で特段の笑顔で受け取って下さるのだ。
「落ち着いたか」
「…はい…」
「すっかり冷えてしまったな」
「勝頼様…」
「おいで、昌幸」
先程まで体を繋げて、勝頼様と肌を合わせていた。
勝頼様の身支度を見守り、褥に横になっていたのだが、何も羽織らずにいた為に体を冷やしてしまった。
肩を震わせていると、勝頼様が私を腕の中に抱き締めてくれた。
温かい。勝頼様の温もりを感じて溜息を吐いた。
傍に居てくれるだけで、生きていてくれているだけで幸福を感じる。
勝頼様はそんな人だ。
私の波ある人生で、そんな人は初めてだった。
そして、きっと勝頼様が最後だろうとも思えた。
私は同性愛を好んでいる訳ではない。
勝頼様以外なれば嫌だと拒むだろう。
勝頼様だから、何もかも許しているのだ。
「大丈夫か?」
「はい…」
「ん。よしよし。ふふ、声が掠れているぞ?」
「あ…」
「無理をさせたか」
「大丈夫です…」
二度目の安否確認を聞き小さく頷くと、腰を引き寄せられて勝頼様の上衣を肩に掛けられた。
身を起こそうとしたのだが、腰が立たない。
日をあけて顔を合わせる度にこうなのだから少しは加減して欲しいとは思う。
だが、止めて欲しいとは思っていない。
それを知って、勝頼様は私を案じているのだ。
きっと明日には帰られてしまうのだから、このような逢瀬は刹那の事なのだ。
勝頼様と二人きりである時は、深謀遠慮も何もない。
勝頼様相手に、智謀だの謀略だの、そういうものは使いたくなかった。
そうとは言えど私の性格は既に弄れており、簡単に直るものではない。
「ぁ…」
「ん?」
「ぅ…」
「…うーん、目に毒だな。艶かしい」
「どなたのせいだと…」
肩を引き寄せられて抱き寄せられると、中に出された勝頼様の子種が尻や脚を伝い溢れてくる。
無論孕むことなどないが、腰を動かすと中から溢れてしまう。
勝頼様は脚を伝う白濁としたそれに指を這わせ腰を撫でられた。
後処理をされるのだろうか。
確かに事後の身を処理せなんだら鈍痛に寝込む事になるが、今は余韻に浸っていた。
勝頼様に余計な心配をかけぬよう、平静を装う。
本音や本心を隠すことは得意である。
今はこの気怠い余韻すら愛おしく、勝頼様と過ごす一時一時を大事に愛おしく思っていた。
私は勝頼様を愛している。
「昌幸が艶っぽいのが悪い」
「仰る意味が解り兼ねますな」
「昔はあんなに可愛かったのに」
「勝頼様は今も愛らしいかと」
「む、昌幸は今も可愛いのだからな?」
「何を仰っているのやら理解に苦しみます」
「言ってろ」
私のような者に、勝頼様は勿体ない。
そう思っていたが、それは勝頼様の想いを否定するものだと悟り考えを改めた。
勝頼様は私のことを、自分のものだと仰る。
私の昌幸だ、と皆の前であまりにも堂々と仰るので恥ずかしいが、同時にとても嬉しい。
勝頼様の御手が太腿に触れ尻に移る。
その様子を目を細めて見つめていたら、御顔が近付いた。
唇が合わさり、口付けに蕩ける。
いつも口付けは勝頼様からだ。
幾度か口付けた後に私から一度ちうと触れるだけの口付けをお返しすると、まるで陽の光のような微笑みで私を見下ろした。
「幸せだな…」
「それは良うございました」
「会いたかったぞ、昌幸」
「望外の幸せ…。また、勝頼様に御足労をさせてしまいました」
「昌幸に会えるなら、距離など何の苦にもならぬ」
そうとは言えど、甲州の躑躅ヶ崎館から信州信濃の真田の郷まで随分と距離がある。
徒歩では丸一日、馬でも音を上げる距離だ。
それを会いたい、顔が見たいという理由だけで勝頼様は来てしまわれる。
勝頼様が私を想って下さっているのは身に染みて自覚している。
こうして人を遠ざけて、離れの一室で勝頼様と二人きり。
何て、何て幸せな事だろうか。
逢瀬も情事も身分などの理由を盾に、何もかも勝頼様が為すままである。
私も勝頼様にお会いしたいと、抱いて欲しいと、思ってはいる。
それを言葉にも、行動にも移せないのだ。
畏れ多い、申し訳ないと言いながら勝頼様が私の望みを叶えられる。
手練手管と言えば聞こえはいいが、私がただ意気地のないだけの話。
そっと私の頬に触れられて、腰を引き寄せられ勝頼様に抱き締められる。
勝頼様の鼓動が耳に響いて目を閉じる。
ああ、勝頼様が好きだ。
「実はな、昌幸」
「…はい」
「幸隆殿や信綱にお願いしたのだ」
「何をですか?」
「五日ほど、泊まらせて欲しいとな」
「五日も滞在されるのですか」
「ああ。一応私も公的に信綱と公務の話をしに来ている。昌幸にもそういう話をするからと、滞在許可を得ている」
「左様でございましたか。手狭ではございましょうが、ごゆるりとお過ごし下さい」
「それでな。話は未だ終わらぬのだが、二日昌幸をくれと信綱に頼んだ」
「…私を?」
「二日まるまる昌幸の為に時間を使いたいのだ。渋々ではあったが信綱に許可は得たぞ」
「二日も…」
「昌幸とずっと二人きりで過ごしたい。ただそれだけだ」
「っ」
「昌幸を一人占めしたいのだ」
そのような事、あっていいのだろうか。
信綱兄上がどのような顔をされたのか気になるが、二日もずっと勝頼様と二人きりなど初めてでどうしたらいいのか解らない。
明日の朝には躑躅ヶ崎館に帰られるのだろうと思っていた。
「ずっと会えなかっただろう。一目も見れなかった。手も触れられなかった。昌幸が足らぬと父上にお願いしたのだ」
「お、お館様に何を仰って」
「父上は笑って送ってくれたぞ?」
「お館様…」
お館様も勝頼様には甘い親馬鹿様である。
それに私とて、私とて、勝頼様が足らぬ。
勝頼様と共に過ごしたいと思っても、いつも何時でも時が足らぬ。
だが、今宵は時が有り余っている。
御多忙で在らせられるのだろうに、わざわざ時間を作ってくれたのだろう。
公務の話であれば信綱兄上や私を躑躅ヶ崎館に呼び出せば済む話であられるのに、そうしないのは…自惚れるなら私の為か。
「ずぅっと一緒に居れるのだ。ああ、嬉しいな…昌幸と二人きりだ」
「勝頼様…」
「真っ赤だぞ?」
「っ、勝頼さま…」
嬉しくない訳がない。
未だ一日目の夜であるのにこんな幸福、許されるのだろうか。
衝動的に勝頼様の首に腕を回して抱き着くと、勝頼様の姿勢が崩れて意図せず押し倒してしまった。
慌てて謝罪するも勝頼様は柔らかく微笑み、私の頬を撫でて唇を合わせた。
口付けられながら、勝頼様は私の腰を引き寄せる。
「…んっ、ん…っ?」
「未だ、大丈夫だな…」
「ぁ…、勝頼様…?」
「そのまま、また…しようか。昌幸」
「ひっ、ぅっ…!?」
「時間はたっぷりあるのだからな」
不意に指を入れられて、中から勝頼様の子種が脚を伝う。
程なくして指を増やされ、三本指を咥えたところで勝頼様に当てがわれる。
いつの間にか勝頼様のがまた屹立されて、私の尻に当たる。
「…勝頼様…」
「ちゃあんと最後まで言葉にしてくれ、昌幸。二日もあるんだぞ?」
「…端ないと思われませぬか」
「艶やかで、好きだ」
「っ…、勝頼様を…下さいませ…」
「ふふ、沢山やろう。それこそ昌幸が孕むまでくれてやる」
「…そんな訳、っ、ん…っ!」
「は…、とろとろだな…昌幸?」
「っふ…、ぁ…っ」
下から突き上げられるように勝頼様と繋がる。
何度したところで情事には慣れない。
何度したところで、一夜一夜は違うのだ。
勝頼様をきゅうときつく締め付けているのを自覚して、思わず勝頼様の胸に顔を埋めて唇を噛む。
ずっと二人きりだなんて、夢みたいだ。
「こぉら、昌幸。噛むな」
「っ、ぅ…」
「ふふ、そんなに締め付けなくても私は何処にも行かぬぞ」
「はぁ…、ん、勝頼様…」
「ん?」
「ずっと…あなたとずっと、など、…私には、幸せ過ぎます…」
「っ…!」
「ぁっ…?…勝頼様…?」
思わず涙が溢れてしまった。
眉を下げて勝頼様を見上げると、急に中の圧迫感が増して腰を押し付けられる。
そのまま抽迭が始まり、下から突き上げられるようにして勝頼様に扱かれる。
勝頼様が下から私に口付けて下さった。
声を堪えて唇を噛む癖を止められない私を叱るように、何度も何度も口付けて舌が絡まる。
もっと、もっと、あなたが欲しい。
そんな事を絶対に言える訳がないが、私から腰を押し付けて勝頼様を求めていた。
繰り返される抽迭と奥ばかりを攻められる快楽に幾度か果てているのに、勝頼様が動きを止める事がない。
勝頼様とて中に果てられているのに、腰の動きを止める気配がない。
「か、かつ、…より、さま…、まだ、だ、め…、だ、め」
「は、はぁ…、まさゆき…好き、好きだ」
「ぁ…、ぁ…!待っ…、ぅ、ぁ…!」
体を反転させられ、勝頼様に押し倒されて脚を抱え込まれる。
これでは逃げられぬと眉を寄せるも、勝頼様は容赦なく突き上げ、引き抜いては挿入し、私を追い詰める。
「だ、め、だめ、です…かつよ、りさま…っ…!もっ、…っ…!っ!」
幾度も私が果てて体が弾くつくのだが、勝頼様が逃がしてはくれない。
脚も腰も勝頼様に抱え込まれている為に、与えられる快楽から逃れられない。
溺れるほどの快楽に頭が働かない。
私が果てたら、何時もであれば勝頼様は待って下さるのに今宵の勝頼様は待たず、私が果てても己が果てても抽迭を止められない。
勝頼様の子種が中から溢れて、腿や腹はどちらのものなのか解らない程の精液で濡れていた。
「ぁ…、ぁ…、勝頼さま…」
「は…、んっ…、んんっ…」
再び中に果てられた。もう何度目なのかも数えていない。
私の方が果てた頻度が多いのだろう。
身も心も勝頼様にとろとろに蕩かされてしまった。
爪先に至るまで勝頼様に染められていくような心地に褥に項を垂れ、目を閉じる。
勝頼様に引き抜かれて褥に沈む。
かぷ、と甘く首筋を噛まれて目を細める。
其方に顔を向けると勝頼様が笑った。
「私のだぞ、昌幸」
「はい、かつよりさま…」
「昌幸、昌幸」
「わたし…、私の…、勝頼様…」
「ああ、私はお前のだ」
「…誰にも…差し上げませぬ」
「おう。昌幸もな。髪の毛一本だとて私のだからな」
「はい…、ぁ…っ」
勝頼様とて疲れてしまったのだろう。
私の隣にくたりと身を横たえた。
股や尻に未だ余韻があり頭を撫でられただけなのに、肩を震わせ目尻に涙が溜まる。
「…昌幸」
「は、い…、勝頼様…」
「今夜は寝かせない、と言ったらどうする?」
「っ…、御随意に…」
「ふふ、本当に寝かせないぞ?」
「勝頼様に負けるとは思いませんので」
「言ったな、昌幸」
「ちょっ…、ぁ…?!」
再び挿入されて中から勝頼様の子種が溢れる。
また屹立されて奥にまで勝頼様を感じる。
突然の事に挿入されただけで果ててしまい、一瞬視界が白くなった。
私が果てても勝頼様が抽迭を止めぬ為に、勝頼様御自身をきつく締め付けながら幾度も果てて声が堪えられない。
「待っ、ん…あ、ぁ…!っ、か、つよ、りさま…っ!」
「入れただけで果てるなんて、可愛いな…昌幸は…」
「か、つ…より、さま…ぁ、ぁ、待っ…!」
「うん?聞こえないな」
「ぁ、や、ぁっ…、いじ、わ、る…っ」
「っ、ふふ、虐めたくなってしまった…」
「ぁ、っ…!ふ、か…、い…」
「昌幸、昌幸、はぁ…、好き、好きだ…」
「っ…ぁぁ!!」
耳を甘く噛まれながら仰られるものだから、勝頼様の吐息にすら感じて果てる。
果てるとはいっても、吐き出していない。
先程からずっと吐き出しておらず、吐き出したいのに絶頂が止まらず痙攣が収まらない。
「愛している」
「っ、も、もう、もう、かつより、さま…」
「ん?」
「わたし、とて、私…、とて…」
「うん」
きゅうきゅうと勝頼様を締め付けながら、袖を引いて抱擁を求めた。
私の願いを察して下さった勝頼様に抱き締められて涙が止めどなく溢れる。
体勢を変え、片脚を抱え上げられてまた深く繋がる。
私の言葉を待っていらっしゃるのか、勝頼様は動かれない。
髪や額、腰を撫でられて、頬や唇に口付けられる。
どうしよう、どうしよう。
こんなに幸せなのは怖い。
「…かつより、さま…」
「ん?」
「勝頼様…、私…」
「ちゃあんと聞いているぞ、昌幸」
「…こんなに、こんな…こん、な…幸せ過ぎます…」
「ふふ。何がそんなに幸せなんだ?」
「あなたが、勝頼様が…」
「私の事を、昌幸はどう思う」
「お慕いして…おり、ます…、愛しています、愛して…、ぅ、ぅ…」
「昌幸?」
「…こんな、こんな、の…、勝頼様から、離れられなくなってしまいます…」
「…はぁ…、もう、娶る…。結婚しよう昌幸」
「…?」
「もう離さないからな」
「ぁっ…、ん…!!」
再び奥に突き上げられ、堪らず首に腕を回す。
無理な体勢であるのに呼吸が間に合わぬほど深く口付けられ、直に触れられて果てる。
中に再び果てられたのを感じて今度こそ視界が真っ白になった。
肌寒さに目を開けると、そっと背中から抱き寄せられる。
勝頼様が私を背後から抱き締めて眠っていた。
外がほのかに明るい。そして寒い。
どうやらあのまま二人とも気を飛ばしてしまったらしい。
「ん、っ…?」
体に違和感を感じて股に手を這わせば、そこはぐちゃぐちゃに濡れていて、私とも勝頼様のとも解らぬ子種で汚れていた。
何よりも未だ勝頼様を中に感じる。
余りの事態に混乱するも、まあいいかと諦めるのも早かった。
何故なら勝頼様が出立されないからだ。
昨晩、散々虐められ泣かされたのだ。
待ってと懇願したというのに聞いてもくれぬし、随分好き勝手をされた。
私とて仕返しくらいはしたいものだ。
夜這いになるのかもしれないが、どうせ人払いはしている。
眠っている勝頼様を褥に寝かせて、ゆっくり体勢を変えた。
勝頼様のは自身の形を保たれており、随分と固く張り詰めている。
「は…、朝…から、お元気で…」
勝頼様に跨るようにしてゆっくりと腰を落とした。
中は既にとろとろに蕩けていて、勝頼様の子種で満ち溢れている。
朝勃ちというものなのか、私とずっと繋がっていたからなのか、勝頼様のは既に屹立されており、私の体を犯し続けていた。
「仕返しですよ…、勝頼様」
「っん、ん…っ」
「は、はぁ、ぁ、ん、勝頼様…、勝頼さま」
「ふ、っ…んっ…?」
私から腰を押し付けて、勝頼様のを追い詰める。
まるで勝頼様ので自慰をしているかのようだ。
私も朝から随分と大胆な事をして、どうかしている。
昨晩から、もうどうかしているのだ。
勝頼様を追い詰めていたつもりだったのに、私の方が限界に近い。
昨日からずっとこの調子なのだ。
中はぐずぐずで、勝頼様を締め付けて痙攣している。
ぐちゅぐちゅと抽迭を繰り返す度に勝頼様の子種が溢れて、聞くのも恥ずかしい水音が響いていた。
もう私が果ててしまう、そう思って腰の動きを小刻みにしていたところ、不意に手首を掴まれて唇が合わさる。
腰も押さえ付けられ容赦なく突き上げられて、嬌声は口内に溶けて私が果てさせられた。
くたりと脱力し勝頼様の胸に落ちると、唇は離されて額を合わせられる。
私の目尻の涙を拭いながら、勝頼様が抽迭を始めた。
「ん、ぁ、っぁ…!」
「こぉら、昌幸。一人で随分楽しそうだな?」
「ゃ、ぁ、かつ、よ、りさま…」
「おはよう。朝だぞ、昌幸。随分けしからん一人遊びを覚えたものだな」
「う、ぅ、昨晩の、仕返しです…」
「ほう?」
昨晩からずっと勝頼様も私も、己が欲情に忠実で何処かおかしい。
二人きりで居られる事に、互いに浮かれているのだろうか。
そんな子供でもあるまいしと自嘲していたら、またも追い詰められて勝頼様をきつく締め付ける。
勝頼様も果てられたのか、中にどくどくと注がれる感覚を覚えて腹を擦った。
「…ふふ、朝から随分積極的だな、昌幸」
「かつよりさま…」
「今日はゆるりと、昌幸と過ごそう。腰が立つまい」
「沢山…出しすぎです…、もう」
「昌幸を孕ませるつもりで抱いているからな」
「ばっ…、何を世迷言を…」
「昨晩から昌幸も随分甘えてくれるからな。私も頗る機嫌が良いのだ」
「勝頼様…」
「大好きだぞ昌幸。ずっと、ずぅっと大好きだからな」
「…私もです…、私も…、勝頼様…」
私から勝頼様に口付けて、勝頼様の想いや言葉の全てを受け取った。
眼差しを見れば、如何に私を想って下さっているのかが解る。
きっと私も同じ瞳をして、勝頼様を見つめているのだろう。
言葉少なくとも私の想いは勝頼様に伝わっているのだろう。
それでも言葉にして伝えなくては気が済まない。
勝頼様に甘えているのは私の方だ。
漸く中から引き抜かれて、勝頼様に抱き締められて目を閉じる。
中は勝頼様の子種で満ちている。
私が勝頼様のものにされたのだと感じて腹を撫でた。
腹を擦る様子を痛みからと勘違いしたのか、勝頼様が眉を下げて私の腹を撫でた。
「無理をさせてしまった。すまぬ」
「違いますよ…、勝頼様」
「そうなのか?」
「余韻に浸っているのです…。勝頼様が…好きです…。想いが溢れて…止められませぬ」
「ま、まさゆき」
「はい」
「それは不意打ちというものだ…。お前、何て顔をして…」
「え?」
「うう、私だって負けないぞ昌幸」
私は今どんな顔をしているのだろう。
柔らかく笑ったつもりだったのだが、違っただろうか。
勝頼様が顔を真っ赤にされて、私を抱き締める。
勝頼様の鼓動が伝わる。
伝わる激しい鼓動に、勝頼様が動揺されているのだと解った。
勝頼様に一度深く口付けられて、あふ、と吐息を漏らす。
目を擦ると、勝頼様が私の頬を撫でて横に抱き上げた。
「勝頼様…?」
「体を清めてから一緒に休もう。昌幸は眠っていても構わない。だいぶ無理をさせたからな」
「…風呂は、彼処です…」
「おう。ずっと傍にいるから安心してくれ」
「はい…」
せっかく勝頼様がいらっしゃるのに私だけ眠るなど勿体ないと思う。
勝頼様に事後の処理をさせてしまうのは申し訳ない。
されとて私も疲労が限界で、昨晩の眠りも浅くうとうとと舟をこいでいた。
勝頼様に額に口付けられ、目を閉じる。
暫くして体に湯が当たる感覚に目を細め、心地良さに遂には意識を手放してしまった。
鳥の声に目を覚まして身動ぎすると、直ぐ近くに寝息が聞こえてほくそ笑む。
体は身綺麗にされ、どうやら敷布なども換えられたのか、部屋に事後の名残はない。
枕元には水差しもあり、勝頼様は私を抱き締めてすうすうと寝息を立てていた。
「昌幸、起きているか」
「…信綱兄上…」
「起きていたか。何やら辛そうだな、大丈夫か」
「はい。勝頼様と共におります。未だ眠られているのでお静かに」
「うむ。勝頼様に二人きりにせよと嘆願されてな。わしは部屋には入れぬが、腹が減っただろう。置いておくぞ」
「はい…。お顔が出せず、申し訳ございません。本来、私が取りに行くべき所を…御心遣い痛み入ります」
「…否、今昌幸の顔を見たら勝頼様に恨まれそうだからな」
「?」
信綱兄上はわざわざ食事を届けに来てくれたようだ。
勝頼様に抱かれているので体を起こせない。
寝転がったまま返答をする事に申し訳ないとは思うものの、信綱兄上は私を案じて障子は開けなかった。
信綱兄上は私が心配なのか、障子越しでも表情が読み取れるようであった。
「そう言えば昨日、松茸が採れてな。夜は二人とも此方に顔を出してくれると嬉しいのだが」
「進言致します。せっかくですから、勝頼様に召し上がっていただきたいものです」
「栗も用意しようか」
「はい。きっと喜ばれましょう」
「おう。余り無理をするなよ、昌幸」
「っ、信綱兄上」
「では、またな」
信綱兄上は私と勝頼様の仲立ちをされたのだろう。
私が会えぬ会えぬと口に出していたつもりはないが、信綱兄上には見抜かれていたか。
信綱兄上に感謝していると、勝頼様が目を覚ましていた。
「おはようございます、勝頼様…」
「昌幸、おはよう」
「ぁ…、勝頼様?」
「んー?」
あむあむと頬を甘く噛まれて擽ったい。
そのまま唇も食べられてしまい、思わぬ甘え方に笑う。
勝頼様に首を傾げると、首筋を撫でられた。
見れば、情事の名残だらけの体である。
否が応でも勝頼様との閨を思い出してしまう。
「今は誰にも会うなよ、昌幸」
「信綱兄上が御食事を」
「む…、それは食べる」
「御用意致しましょう」
身を解放してもらい障子を開けると、盆に朝餉と温かいお茶が置かれていた。
冷めぬように蓋をしてある。
茶請けにせよという事なのか、栗の茶菓子も置かれていた。
食事の支度をして勝頼様と二人、朝餉を終えて食後の茶を楽しむ。
勝頼様と過ごすこのような長閑な時も悪くない。
信綱兄上が気を回して下さったのだと思うと感謝しかないが、勝頼様は心做しか何処かむすっとしておられるような気がする。
「まさか、信綱兄上に嫉妬されているのですか?」
「…信綱も昌輝も、昌幸が大好きではないか。昌幸には甘いと見えるし、何よりも私より一緒に居られるのが羨ましい」
「兄弟ですから」
「それに格好良さでは適わぬ。先日、信綱と手合わせをしたら軽く丸め込まれてしまった」
「兄上は兄上ですよ、勝頼様」
「っ」
随分と、信綱兄上に嫉妬されているようだ。
子供のように拗ねる様子に笑って、勝頼様に私から唇を寄せる。
「…こういう事をしたいと思うのは、勝頼様だけです」
「…、……、…昌幸」
「はい」
「…今宵も、寝かせないからな…」
「…御勘弁下さい…」
「それは昌幸次第だ」
がおーと獣の真似をして、勝頼様が笑った。
そのまま私を押し倒して唇が重なる。
されとてその手は優しく、私の背や肩を支えての事だった。
ずっと一緒に居るからか、随分絆されてしまった。
私から首に腕を回してお誘いすると、深く甘く口付けられる。
とろとろと勝頼様に絆される。それがとても心地良い。
「…今日は、ゆるりと過ごしたいと思いましたのに」
「そうしようか。私も腰が痛い」
「…ふふ」
「うん?」
「勝頼様を一人占め出来るのは、良いですね…」
「ま、昌幸…」
「?」
私の胸に甘えるようにして勝頼様が顔を隠されたが、耳まで真っ赤だ。
思わぬ可愛らしさにその耳を甘噛みすると、お返しとばかりに頬を噛まれた。
ずっと一緒だ。
時が止まればいいのにと目を細めながら、また再び口付けられる。
優しく甘い口付けに深々と幸せを感じて目を閉じた。