美酒佳肴びしゅかこう

今宵は良い月夜だ。
月見酒でもどうだと昌幸を誘い、私の部屋に招いていた。
恋仲であるからして、今宵はしっぽりと…と思っていた。

皆の前では憮然としていた昌幸だが、私と二人きりとなると表情が緩む。
杯を重ねる頃には、昌幸はすっかり私の肩に凭れるようになっていた。
酒が弱い訳ではないのだが、昌幸よりも私が遥かに強い。父上に似たのだと思う。

今日の酒は、随分と美味で強い酒だ。
昌幸が居るからかもしれぬが、いつもよりも呑みやすいが故についつい杯を重ねてしまう。
肴に昌幸は枝豆を食べていたが、私の肴は昌幸である。
ほろろに酔って私の肩に凭れる昌幸の何と可愛い事よ。

昌幸が素面であったのなら肌を合わせて濃密な夜にしたかったのだが、いくら何でも酔いに任せて抱くのは気が引ける。
それに酔わねば素直に甘えられん昌幸が可愛い。

「昌幸、もう終いにしようか。だいぶ酔っただろう」
「勝頼様…」
「ふふ、目がとろんとしているぞ」
「…勝頼、さ、ま…」
「っ…、ん…」

不意に昌幸から口付けられる。
とろんとした瞳で、私に寄り添い唇が重なる。
私は随分我慢していたのだが、酔った昌幸は随分と甘えたがりのようだ。
啄むようにちゅ、ちゅっと私の首に腕を回して口付けを繰り返す。

「勝頼様…、勝頼さま」
「ま、待て、昌幸」
「ん…、駄目…ですか…?」
「駄目なわけがないが!いや、待て、待ってくれ可愛いから!待ってくれ!」
「?」

触れるだけの口付けが十を超えたところで、昌幸の両肩を掴んで止めさせた。
小首を傾げ、昌幸は解っていない。
そんな様子も可愛らしい。

私は昌幸が大好きなのだ。
しかも昌幸から迫られる事など、経験がない為に私が慣れてない。
攻める事は得手だが、攻められると嬉し過ぎて動揺する。

私と昌幸が両想いで恋仲である事は事実であり、私は昌幸の事をとても愛している。
私はその想いを普段から小出しに昌幸にぶつけているが、昌幸は何かと溜め込む性格の為、時が来ると一気にぶつけられる。
私の愛が多いとしたら、昌幸の愛は一撃が重い。そして一撃必殺である。
私はそんな昌幸にいつも打ちのめされるが、それは本望である。

深酒で、昌幸の箍が外れてしまった。
矜恃も礼節も身分も関係なく、ただ昌幸として私に相対する。
その昌幸の、何と愛おしい事か。

もう二十も超えただろう。
口付けのし過ぎで、昌幸の唇が少し腫れている。
私達の唾液で唇が濡れて、何と淫靡な事か。
肩に凭れていた昌幸も、今は私の膝の上に腰を下ろし私の肩に頬を乗せていた。

「…待て、昌幸」
「?」
「水を飲め」
「飲みました」
「…うん、これは酒だな。水はこっちだな」
「飲ませて下され…」
「くっ…お前、覚えておれよ」

昌幸の手は覚束なく、危なかっしい。
水だと持った杯に捧げられたものは酒だった。
それは私が取り上げて飲み干し、昌幸に水を飲ませようものの杯は嫌だと首を振る。
口移しが良いと言うのだ。
しようのないやつだと口では言いながら、内心は嬉しくてたまらない。
望み通りに口移しで水を飲ませた頃にはもう、私も昌幸も欲情しており、もはや取り繕う事は不可能である。

昌幸の手首を掴み、腰を引き寄せて横抱きに抱き上げて部屋に連れた。
襖を足で閉めて、ひとつしかない褥に寝かせる。
昌幸がまた私の首に腕を回した。
私から離れたくないのか、昌幸はやたら私に引っ付いた。
髪紐が解けて、昌幸の白と黒の髪が肩に流れている。

昌幸の事は何もかも全て好きだが、特にこの髪を好いていて私が気遣っている。
人と違うからとか、男の髪など気遣う必要がないだとか、昌幸は何かと自分の髪に対して無下に扱っていた。
綺麗だ綺麗だ好きだと言い続けたら、漸く昌幸も気にしてくれたようで手入れをしてくれているのか指通りが良い。
椿油でも塗られているのか、昌幸の髪が艶々で綺麗だった。

「綺麗だ。良かった。ちゃあんと手入れをしているのだな」
「勝頼様がお好きだと…仰るので…」
「今度、良いつげ櫛を贈ろうか」
「そんな…勿体のうございます…」
「ふふ、少し酔いが覚めたか?」
「いいえ、酔うております…」

再びちゅ、ちうと口付けられて笑う。
くそう、何処までも可愛い。
私のものは既にイキり勃っていたし、昌幸も触れれば固い。
酔いに任せてというのは気が引けるが、ここまで煽られているのだ。
据え膳を食わぬは男の恥である。

昌幸に口付けつつ、直ぐ側に置いていた潤滑油を手に取る。
元々今宵はそのつもりであったのだから、色々と準備をしていた。
昌幸を余り脱がさず、下衣きの隙間から手を入れる。
昌幸のはもう触れずとも解る程に張り詰めている。そこには敢えて触れずに、いきなり昌幸の中に指を進めた。

濃厚な口付けの舌の動きが止まり、は、ふ、と昌幸が色気のある吐息を吐く。
中は既に蕩けていて、私の指をきゅうと締め付けていた。

程なくして指は二本に増え、徐々に水音が聞こえるようになってきた。
首に回していた腕は敷布に落ち、昌幸の胸が上下している。
上衣は脱がせていない為に、首元が汗ばんでいた。
私も昌幸も上着を肌蹴させ、もう何度目になるのか解らない程に口付けを続けながら早急に昌幸と体を繋げた。
昌幸の中は熱くてきつくて、少し腰を動かせば離さないとばかりに締め付けてくる。
よくよく昌幸を見ればくたりと褥に力なく身を横たえていて、下衣の湿り気を感じた。
そこに触れれば、どうやら体を繋げた瞬間に果ててしまったようで今はひくひくと体を痙攣させ、私の手を握っている。

「…可愛い、私の昌幸…」
「かつ、より…さま…」
「溺れさせてやる」
「勝頼様に…?」
「ああ…、昌幸」

いつもなら果てて敏感過ぎる体を気遣い動かぬようにしているのだが、今日はそのつもりはない。
過敏だからこそ果てやすい体を突き上げて昌幸を貪る。
あっ、あ、と涙を零しながら昌幸はきゅうきゅうに私を締め付けてくる。
腕は上がらぬのか、私に揺らされながら敷布を握り締めていた。
正常位故に、昌幸に全て衝撃が行く。
服を乱して脚を開かせ、あられもない姿の昌幸の頬を撫でた。

私が中に果てる際に、昌幸の下腹を撫でた。
ここまで私が入っている。
ぞくぞくと昌幸が震えているのを感じ、昌幸の手を取り自らの下腹に触れさせた。

「あ…」
「昌幸の中に私が居る。解るか?」
「…はい…」
「こんな所まで、入っているのだな…」
「っ…、ぅ…」

顔を紅潮させる昌幸の頬に口付け、再び突き上げるように腰を動かす。
今宵は、寝かせるつもりがない。
精液が混ざる水音が聞こえてきて、突き上げる度に昌幸が褥に沈む。

「勝頼…さま、そんな、ぁ、っ、に、したら…、ぁっ」
「ふふ、どうなる?」
「…ゃ、ぁっ、おかし、く、なる、…っ」
「なればいい。ああ…また、果てたのだな」
「ふっ、ぅ…っう…」

昌幸自身に触れなくとも、昌幸が果てている。
女のように果てる昌幸は、果てる度にきつく締め付けて離さない。
私もまた、昌幸の中に果てた。

流石に熱い。
気を飛ばしてしまった昌幸から引き抜き、肌蹴ていた上着を脱いだ。
昌幸の上衣の前を開けて、胸に埋まる。
とくとくとした昌幸の鼓動が聞こえる。

「…勝頼様…」
「ああ、昌幸。大丈夫か?」
「…私…」
「可愛かったぞ、昌幸」
「う…」

頬に添えた手に昌幸は甘えるように寄り添った。
頬を撫でて、昌幸に背を向けて座った。
少し落ち着こう。深く溜息を吐いた。
今日の昌幸は可愛いが過ぎる。

ふと背中に重みを感じて振り返ると、昌幸が背に頬を寄せて私の裾を握っていた。
何度も言うが、今日の昌幸は可愛いが過ぎる。

「ふふ、どうした?昌幸」
「行って、しまわれる…のかと…」
「お前を置いて行くものか。離れてすまなかった」
「勝頼さま…」

ただ一時として私から離れたくないのか、昌幸は私の背に埋まる。
一時でも不安にさせてしまった事を謝り、胡座をかいた私の脚の上に昌幸を横抱きにした。
上着を引っ掛けているだけの昌幸は、股を片手で隠している。
どうしたのかと上着を肌蹴ると、尻や脚を白くとろりとしたものが伝っていた。
昌幸の中に果てた私の精液が溢れてきている。

「あっ、…み、見ないで…下され…」
「…すごく、いやらしいな…昌幸…」
「こ、これは…全部、勝頼様、ので…」
「ああ…、まだ腹の中に沢山あるな」
「っ…」

酔いが覚めたのか、昌幸は肌を隠したがり目線も逸らす。
素面になり色々と思い出したのか、恥ずかしくて堪らないといった心地であろうか。
あんなに沢山昌幸から口付けられたのは初めてで、私も思い出してほくそ笑む。
肩を引き寄せて、もう少し私の方に昌幸を抱き寄せた。

「…勝頼さま…」
「少しは、落ち着いたか?」
「はい…、あの…」
「ん?」
「…もう…、しないの、ですか…」

胸元を握り、昌幸は私を見上げた。
恐る恐る言葉にしたようだが、口付けでぷっくりと腫れた唇は濡れている。
昌幸から私を誘ってくれたのは初めてだ。

「っ、もっと、していいのか?」
「はい…」
「はぁ…、全く…昌幸は、これだから…」
「?」
「愛しているぞ」

昌幸を抱き寄せて口付ける。
食むように口付け続けて、胸に触れる。
先程は早急に事を進めた為、前戯がおざなりであった。
ちゃあんと愛しているぞと、昌幸の全てを愛でるように肌の隅々に触れた。

私も昌幸も、どうにも今宵は感じやすいようだ。
触れられるだけで昌幸は瞳を潤ませていたし、そんな昌幸を見て私のは張り詰めている。
もう少し我慢が必要だな、と着物の下紐を手に取った。

「勝頼様…?」
「ごめんな、昌幸」
「…あの、っ…?」

あからさまに不安がる昌幸を宥めて、昌幸のに触れる。
入れただけで果ててしまうような昌幸だ。
私の事を深く愛してくれているのは解っている。
だが少し堪えて欲しい。私も堪えよう。
昌幸をとろとろに蕩けさせてやりたい。

昌幸自身の根元を直ぐには果てぬよう下紐できつく縛った。
縛って余った下紐の片方を昌幸の手に握らせた。

「昌幸だけでは不公平だからな。私のは昌幸が縛ってくれ」
「…よろしいのですか…」
「ふふ、暫く付き合ってもらうぞ」
「…これで、よろしいですか」
「ん、もう少しきつくしないと解けてしまうぞ?」
「っ…、これで」
「うっ…!よし…」

私が何をしたいのか昌幸は理解したようだ。
頬を染めて私自身を縛り、潤んだ瞳で私を見上げている。
下紐の端は私と昌幸を繋げていた。

手を差し出すと、頬を染めて私の首に腕を回す。
また、ちうと頬に唇を寄せられた。
昌幸は相変わらず可愛い。

脚を開かせて、向かい合わせになるよう私の脚の上に座らせた。
やはり脚を開かせると中から溢れてしまうのか、昌幸の脚に白い粘液が伝っている。
淫靡で堪らない。

唇を寄せながら、昌幸に当てがい腰を撫でた。

「昌幸。昌幸が決めていい。どうされたい?」
「っ、ぅ…、どうとは…」
「このままがいいのか。寝かされたいのか、後ろからがいいのか…」
「…後ろからは…嫌です…。勝頼様のお顔が見れません…」
「ふ、逐一愛いな昌幸は…」
「っ…」
「ではこのままか?だが、このままだと、昌幸が動かなくてはならないな」
「…頑張ります」
「私は今宵、昌幸を寝かせるつもりはないぞ?」
「っ」
「大人しく横になっておれ。存分に乱してやる」
「勝頼様…」

結局選ばせてやると言いながら、昌幸を褥に押し倒した。
つぷぷと、水音を立てながら昌幸と深く繋がる。
ぞくぞくと昌幸の体が震えて、私の腰に脚を絡めた。
普段そのような事をせぬものだから、昌幸に引き寄せられいつもよりも奥に繋がる。

「っ…ぅ…!」
「ま、昌幸…、大丈夫か…」
「大丈夫です…、勝頼様…」

中から溢れて、昌幸の尻を伝う。
月明かりが昌幸の白銀の髪を照らしていた。
きらきらと光る昌幸の髪が綺麗だった。
昌幸の髪を手に取り、頬を撫でる。

「…ひとつ約束をせぬか、昌幸」
「約束…?」
「このやり方は果てがない。果てたくとも終われぬ。故に私が快楽に狂い、お前を傷付けるかもしれぬ」
「…私がおかしくなるのが先やもしれませぬよ」
「そうなる前に、お前のは私が外そう。私のは昌幸が外して終わらせてくれ」
「はい…」
「それに、私は昌幸に無体はせぬ…」
「そうでしたね…」

昌幸がほうと溜息を吐いた。
どちらかが壊れそうになったら、互いに止めるよう額同士を付けて見つめ合う。
優しく口付けると、昌幸が小さく頷いた。

「勝頼様…」
「ん?」
「…や、優しく、して…ください…」
「勿論だ…、昌幸」

指を絡めるように手を繋いで、いよいよ昌幸に突き上げるよう腰を引き寄せた。
昌幸は少し怖がっているように思えた。
不安は拭い去ってやらねばならない。

先程まで繋がっていた事もあり、中は蕩けていて直ぐに奥に突き上げる事が出来た。
昌幸が感じるところは奥だ。
奥に奥にと突き上げると、やはり感じ過ぎるのか昌幸の瞳が潤む。

「っぁ、ぁ…、ぅ、ゃ…ん…っ」
「はぁ…、とろとろだ…、昌幸…。気持ちいい…」
「ゃ、…っぁ、もうし…わけ…ぁっ…」
「私がそうさせているのだからな。昌幸が謝ることはない」
「かつ、よりさま…っ、勝頼様っ…」
「果てたいのだろうが、すまぬ。そのまま乱れよ、昌幸」
「ぁ、あ、やぁっ、ぁ…!だ、め…っ…勝頼、さま…っ」

いつもなら程なくして果てている頃合だが、下紐のせいで私も昌幸も果てられぬ。
昌幸から溢れた精液が泡になりそうな程に抽迭を繰り返した。
体全てが敏感になってしまったのか口付けだけでも昌幸が感じているのが解る。
乳首を指先で転がせば、ひくひくと体を跳ねさせる。
私も今、不意に昌幸にきつく締め付けられたら耐えられない。
何より昌幸の何もかもが愛おしくて、その昌幸を乱れさせているのは私なのだと思うとどうにも興奮が収まらなかった。

「勝頼様、かつよりさま…かつ、よ…りさま…ぁ…っ、だ、め…、も、ぅ…!」
「昌幸…、愛している…、昌幸、まさゆき…」

互いに名を呼び、唇を合わせて睦み合う。
私も昌幸も快楽に狂い、互いの事しか考えられなくなっている。
昌幸は私の首に腕を回し、いつもなら抑える声も堪えられずぽろぽろと頬に涙を零して啼いていた。

私の背に昌幸の爪が食い込み、引っ掻かれている。
思わぬ痛みに顔を歪めたが、何と嬉しい痛みよ。
そこまで感じてくれているのかと、動作を止めて昌幸に特段に優しい口付けを落とした。
薄目を開けた昌幸は私を見つめて笑っていた。

「…勝頼…、さま…」
「可愛い…、私の、昌幸」
「…勝頼様…、私、も、う…だめ…です…」
「ああ、解いてやろう…。非道い事をしてしまったな…」
「いいえ…、勝頼様…」
「果てよ、昌幸。私も昌幸に果てたい」
「はい…」

昌幸に下紐を解いてもらい、昌幸の一番奥に果てた。
目を閉じて下腹を擦り、昌幸はうっとりと瞳を潤ませていた。
昌幸を縛っていた下紐を解くと、体をがくがくと震えさせて昌幸は果て気を飛ばしてしまった。
かくんと首に回していた腕が落ち、褥に昌幸の髪が広がる。
深く深く幸せを感じて溜息を吐いた。



額同士を合わせ、気を失っている昌幸に口付ける。
今宵は随分と沢山口付けを交わした為に、昌幸も私も唇が腫れている。
本当は普段、これくらい口付けがしたい。

ゆっくりと繋がりを解き、昌幸に私の上着を掛けた。
腹や脚をどちらのものとも解らない程に精液で濡れている。
昌幸の下腹に触れ、そこを撫でた。
此処に私のが沢山入っている。
女であったなら、確実に孕む量の精液だ。
昌幸を孕ませたかのような錯覚を感じてほくそ笑む。

「…勝頼様…」

昌幸が目を覚ました。
私に触れたいのだろう。
体に力が入らないのに腕をあげようとして、手が震えている。
その手を取り唇を寄せると、昌幸がほっとして私の頬を撫でた。

「昌幸、無理をさせたな…このまま湯浴みに行こう。私が抱いていく」
「…お背中、が…」
「ああ、これか。滲みるやもしれぬな」
「申し訳ありません…」
「ふふ。それほど、夢中だったのだろう?」
「…今宵は、勝頼様の事しか、考えておりませぬ」
「ああ、私も。昌幸の事しか好きじゃない…」
「勝頼様…?」
「綺麗にしようか、昌幸」

淫靡な姿の昌幸は艶々で魅力的であったが、昌幸の意識が持ちそうにない。
とても疲れさせてしまった為、自力で体を起こす事も出来そうになかった。

二人で湯舟に入り、昌幸の背中を抱き留めて事後の余韻にも浸った。
体を清めている間、昌幸の意識は落ちて私に身を預けている。
背中の爪痕は湯に滲みたが、昌幸に付けられた痕だと思えば痛みすら愛おしい。

湯舟に沈んでいる昌幸の手を取り、私の手と重ねた。
昌幸の腕は私よりも細身で、手は一回り小さい。
戦旗を振り回し戦う様はまこと勇ましいが、私と比べれば昌幸は細身だ。
先程は部屋が暗がりであった為によく見えなかったが、また新しい傷痕が増えている。

「…私が傍に居る事が出来たのなら、こんな傷は負わせない…」

昌幸が戦で傷付けられる事が許せなかった。
左手に唇を寄せて、昌幸を抱き上げ湯舟を上がる。
少しでも長く、昌幸と共に過ごしたい。


昌幸がぼんやりと目を覚ましたのは明け方の頃だ。
私は昌幸の寝顔を見守り、ずっと起きていた。
髪を撫でられている心地に気付き、私の腕を枕にさせている昌幸がぼんやりと目を開ける。

「…勝頼さま…」
「ん、未だおやすみ…昌幸」
「…次はいつ、お会い出来ますか…」
「私が耐えられん。直ぐに会いに行く」
「…躑躅ヶ崎館を抜けるのも、大概にして下され…」
「昌幸が足らぬと、直ぐに会いに行くだろうて」
「左様で…」
「ふふ。また唇を腫らしてやるから、覚悟しておれ」
「…楽しみに、しております…」
「直ぐに、会いに行く…。そう待たせはしない」

顔を合わせる度にこれでは、昌幸も持つまい。
されとて昌幸も私と同じように飢えている。
次に会いに行くのは何時にしようと、昌幸の髪を撫でて目を閉じた。

不意に唇に柔い感触を感じて下を向くと、昌幸がもう一度やり直すかのように口付けてくれた。
触れるだけの可愛らしい口付けである。
昌幸の腫れた唇を指でなぞり、昌幸に顔を近付ける。

「…なぁ、昌幸。本当に酔っていたのか?」
「…酔うておりますよ」

勝頼様に。

昌幸は小さくそのように言葉を続けて、私の胸の中に埋まる。
この可愛い恋人をどうしてくれよう。
最初から最後まで素面であった事を知り、昌幸のいじらしさに一際強く胸に抱き留めた。


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