一番いちばんおも

今日の昌幸は何処かおかしい。
頬を仄かに染めて、息が上がっている。
普段はしゃんとした姿勢も何処か無理をしているようで、自然に目で昌幸を追っていた為に気になった。

「では、これで終わりとしようかね」
「はい、お館様」

父の号令で躑躅ヶ崎館にて皆を集めての軍議は終わった。
私は何より、昌幸が気になる。
席を立つ際、隣の父が私の肩を支えに掴んで立ち上がった。
それは良いのだが、耳元で話される。

「勝頼、昌幸を見ておいで」
「父上もお気付きでしたか」
「いやぁ、あれは儂のせいなんじゃよ。すまん、勝頼。後は頼んだよ」
「?はい」

何故だか父に謝られたが、何処かにこにこと笑っていらした。
可愛いねぇとか、若いっていいよね、とか何とか楽しそうに呟いておられる。
何なんだと首を傾げつつ、父が下がったので皆も席を立った。
未だ昌幸は席を立たない。
昌幸の傍に駆け寄るも、昌幸は私に気付いていないので顔の前で手を振った。

「昌幸?」
「…はい、勝頼様」
「立てるか」
「はい」
「そうか。熱でもあるのか」
「…勝頼様」

駆け寄る私を見上げ、昌幸は小声で私の名を呼び、私の着物の裾を小さく指で摘んだ。
昌幸とは恋仲にある。
自己主張の少ない昌幸の事、何か大事なのであろう。
そして恐らく、私にしか頼めぬ事を昌幸は言わんとしている。
言えぬのだ、昌幸は。言わぬ性分だ。
故に私が気付いてやらねば、昌幸はいつも無理をしてしまう。

「ほら、手を貸そう」
「は…、申し訳ございません」
「私の部屋に寄ってくれぬか、昌幸。暫しお前と過ごしたい」
「御意」

眉を下げ、はぁ…と息を吐く。
熱に浮かされたような熱い吐息と蕩けた眼差し。
さながら事後のような色気だ。
自覚のない昌幸はこれだから困る。
そのような顔を皆に見せたくないのだ。

手を取り、腰を支えるようにして私室へ昌幸を連れていった。
私の部屋に入るなり、安堵の溜息を漏らす昌幸に足を崩して座るように促した。

水でも持ってきてやるかと少々席を外しただけで、昌幸は柱に凭れて目を閉じていた。
慌てて駆け寄ると、昌幸ははっとして身を正そうとした。

「構わぬ。座っている事すら辛いか。横になれ、昌幸」
「しかし…」
「水を持ってきた。飲めるか」
「はい」

柱では固かろうと、私の胸に昌幸の背を凭れさせた。
水を飲み、一息つけたのか昌幸は申し訳なさそうに私を見上げた。

「勝頼様のお手を煩わせてしまいました…」
「昌幸、何があった。私に話せぬ事か?」
「お恥ずかしい…。自業自得故、軍議さえ終われば何とかと思っておりましたが、立つことすらままならず」
「何があったのだ」
「…実は、お館様に」
「父上に?」

聞けば私との恋仲の間柄を父は知っているらしい。
昌幸は驚き恐れ腹を切る覚悟であったと言うが、実は皆知っている。
昌幸が知らぬだけだ。それは黙っておくとして、父上に何かされたのか不安になった。

「…勝頼様は、その、御立派…でしょう…」
「っ」

昌幸が頬を染めて私から顔を逸らした。
不意に何を言い出すかと思えば。私も昌幸の言葉に頬を染めた。

「事後は、疲労が溜まってしまって…、お館様に無理をしていると見抜かれてしまいました」
「…すまぬ。私がもっと労わってやれば良かった」

日頃何かと無理をしていたのだろう。
昌幸の無理を見兼ねて、父上が昌幸を案じた。
それだけなら、父上が私に謝る事は何もないのだが未だ話に続きがある。

「…勝頼様がどうこう出来るお話ではなかったので、私が至らないのではないかと…悩んでいたところ、お館様が…」
「父上に何かされたのか?」
「いえ、助言頂いたまでで…」

父上に何かされたのではなかったと聞き、安堵して胸を撫で下ろした。
昌幸は幾度か私を見たり目を逸らしたりと忙しなく落ち着かない様子だったが、次第に頬が真っ赤になった。

「…あの、勝頼様…」
「ん?」
「昌幸の、願いを聞いていただけませんか…」
「ふふ、何だ昌幸」

昌幸の、なんて言うものだから余程深刻なのかと思ったが、見上げた瞳は今にも泣きそうで可愛らしかった。
昌幸は唇をぎゅっと引き結び、私の胸に顔を埋める。

「…、て、下され…」
「何?」
「抜いて…下され…」
「抜く?」
「…中のが、私では、取れなくなってしまって…」
「中?」
「お館様に、菊門は広げられないからと…中に…」

はっとして昌幸の肩を抱いた。
この様子はその為か。
私の上着を下に敷き、昌幸を畳に寝かせた。
本当は布団を用意してやりたいが、それどころではない。
有無も言わせず下着を剥ぎ取れば、昌幸の菊門から精液が漏れている。

「これは…」
「…それは、昨夜…、勝頼様の…」
「っ、始末、出来なんだか」
「暇がなく…、栓をする意味でも、中を拡張する意味でも…と…、お館様に頂きました」
「…昌幸、まさか父上に触れさせたのではあるまいな」

怒気を込めて昌幸を見る。
昌幸がそんな事をする筈がないとは思う余り、父上に触れさせたのではと思ってしまった。
昌幸の事、父上には逆らえまい。

「…やってあげようかと言われもしたのですが、恐れながらお断り致しました。自分で…やりました…」
「っ、そうか」
「…勝頼様以外には、触れられたくなかったのです…。申し訳ありません。…お館様に生意気な口を聞いてしまいました」
「昌幸…」

一瞬でも昌幸を信じなかった己を恥じた。
昨夜、事後の昌幸の体をそのままにしてしまった。
このような事に慣れぬ昌幸を気遣い、いつもなら私が後始末をしてやるのだが出来なかった。
昌幸は自分で後始末をした事がない。
知らぬと言う事が、昌幸は怖いのだ。

今日は随分辛かっただろう。
中に拡張器を入れたままだと言うので其処を見やれば、確かに中に何か入っている。

昌幸の額を撫でて、唇を指で触れた。
びくっと震える昌幸を見つめ、優しく口付けた。

「ごめんな、昌幸」
「いえ…、勝頼様は何も」
「抜いてやろう。中に指を入れたら、力め」
「は、い…。申し訳ありません」
「もう謝るな。悪いのは私だった」

拡張器の意味を本当に解っているのか知らぬが、胸で息を吐く昌幸は苦しそうだ。
見れば昌幸のは張り詰めているし、其方も抜かねば辛かろう。

昌幸の中に指を入れれば、中はぐずぐずになっていた。
私の精液の湿り気もあり、事後の色気は隠せない。
父上は、我等の交際を快く思っていた。
昌幸を助けたいとは思うものの、知らぬ昌幸に要らぬ事を教えているような後ろめたさがあったのだろう。
父上には後で、一言二言話をしよう。

「ぁ…、あ…」
「力め」
「んっ…!」
「もう少しだ。ほら、息を止めたら辛いだろう」
「っ、かつより、さま…」
「大丈夫だ昌幸。ほら、いい子だから、な?」
「っ、ん…っ」

中で指が引っかかった。
絹が巻かれた木の棒であろう。昌幸が頑張ったから、何とか中から出す事が出来た。
昌幸はぐったりとしていて、畳に身を横たえて動けなさそうだ。
昌幸を焦らしに焦らしてしまい、正直私でも耐え難い。
昌幸の色気に当てられてしまった。

頬を撫でてやり、昌幸のを抜くべく口に咥える。
咄嗟に身を起こして私の頭を抑えるが、昌幸の腰を支えて逃さぬ。

「だ、駄目です、勝頼様が、そのような、こと…!」
「…大丈夫だ、昌幸。ほら」
「だめ、駄目…です、そんな、ああ…」

抵抗が弱くなり、間もなくして昌幸が果てた。
口に果てたものを飲み込み、昌幸の傍に座る。
畳では痛いかと思い、昌幸の頭を私の腿の乗せた。膝枕だ。

昌幸の事は何よりも愛しく思っている。
口付けも、初夜も、こうなるまでに随分と時間がかかった。
昌幸は、こういう事に疎いのだ。故にゆっくりと教えている。

「いつもはして貰っているが、してやるのも悪くないな」
「…勝頼様…」
「体は楽になったか?」
「…あの、勝頼様、のが…」
「はっ」

膝枕に気を良くしていたが、昌幸に察せられてしまった。
しかも昌幸の頬の下にあるような。
慌てて頬に触れるも、昌幸は私を見つめていた。

「…私も、して、差し上げたいです…」
「それは未だ、お前には早くないか」
「…覚えます。勝頼様の負担になりたくありません」
「昌幸」
「…私が至らないのでしたら、覚えますから…。どうか、お躾下さい…勝頼様」
「っ」

昌幸は殊更に私を想ってくれていた。
その想いに応え、昌幸の唇を指で撫でる。
艶やかな薄い唇だ。
口の中に指を入れて、暫しその舌で戯れる。

「その口に教えてやろう、昌幸…」
「ふ…ぁ、は、い…」

口から指を抜き、昌幸に下着を脱がせてもらう。
屹立した私のものを見やり、眉を下げ恐れる素振りを見せた。
嫌ならと言いかけたところで、昌幸が目を瞑り恐る恐る私のを口に咥えた。
昌幸が私のを口いっぱいに頬張り、何とか舌を動かしている。

「上手だな、昌幸」
「っ、ん…っ」
「そんなに頬張るな。苦しくなってしまうぞ」
「っは…、どうしたら…」
「亀頭だけ…、咥えてみよ」
「はい…」

今更ながら何も知らぬ昌幸に何をさせているのかと罪悪感があったが、それよりも何よりも昌幸の仕草や眼差しが愛おしい。
私に応えようとしてくれる昌幸が愛おしいのだ。
やった事がないのだから、上手くはない。
今は好きなようにやらせようと、白と黒の昌幸の髪を撫でた。
人と違う昌幸のこの髪が私はとても好きだ。

昌幸が困り顔で私を見上げていた。
そろそろ助言をしてやろう。
舌の動かし方などを教えてやると、昌幸は教えた通りにそれを成し遂げた。
何よりも私のを頬張る昌幸という光景に何も感じない筈がない。

「昌幸、もう離せ…」
「?」
「離せぬか…、ならば良い。受け止めよ」
「っ…?ん、ん…!」

口の中に果てたくはなかったが、昌幸が愛おしい余りに口内に果ててしまった。
昌幸の口から引き抜き、昌幸を抱き寄せる。
私の精液を口内に受けて、どうしたら良いのか困っている。

「飲まずとも良い。ほら、此処に吐き出せ」
「…っ、ん…、ん」
「ま、昌幸?」

手巾を昌幸に差し出したが、昌幸は両手で口元を抑え私のを飲み込んだ。
まさか飲み込むとは思わず、顔に熱が集まる。

「…勝頼様の、何か…甘いです…」
「っ、私のだけ覚えておれよ」
「?」
「誰ぞと比べる事などないようにな」
「…はい…」

口でする事、奉仕を覚えさせてしまった。
昌幸は私のを甘いというが、どうなのか。昌幸のは少し苦い。
口元を濯ぐように水を渡そうとしたが、気が変わった。
腰と首を支え、昌幸に深く深く口付ける。

「んっ、ぅ、かつより、さま…?」
「成程、甘いな」
「っ…!」
「昌幸の味も解ったか?」
「…はい…」

思えば私も口を濯いでいない。
昌幸の味も、昌幸が解っただろう。
私も自分の味とやらは解った。

腕の中の昌幸の色気は落ち着くどころか、増しているように思えた。
唇は口付けで濡れて、私を見つめてくれている。

「…勝頼様…」
「ああ、解っている…、昌幸」

畳に押し倒し、また深く深く口付ける。
こんな昌幸をほおっておける訳がなかった。
口だけで満足出来るほど、私も枯れてはいない。
昌幸を今ので十分、焦らしてしまった。
勢いのまま昌幸を抱き、深く甘く情交を重ねた。
昌幸と繋がり、深く口付ける。
昌幸が愛おしくて、好きで好きで堪らなかった。







事後の昌幸はいつも妖艶だ。
艶やかで、色っぽくて、とても愛おしい。
だから、誰にも見せたくない。

私の膝に寝かせ、昌幸に団扇で風を送る。
昌幸に膝枕をする事を気に入ってしまった。
暫し休めと、昌幸に私の上着を掛けて縁側で風を送っていた。昌幸は眠っている。

「何とかなったかね」
「父上」
「そのままで良いよ。昌幸が起きてしまう」
「は…」

縁側に居たからか、父上が通りかかった。
隣に座られ、私達を見やる。
私の頭を撫でた後、昌幸の頭も父上は撫でた。

「昌幸をよく見ておいで、勝頼」
「はい。そのつもりです」
「あれは、儂のお節介だったかね」
「…そうですね。あれはお返ししますよ」
「余りにも昌幸が困っていたから、ついね。昌幸も儂の子みたいなもんじゃからね」
「お気持ちだけいただきます。父上のお言葉は昌幸にも伝えましょう」

父上は昌幸を私のようにお考えであった。
拡張器は手巾に包んで父上にお返しした。
昌幸の髪を撫でて、肩を引き寄せる。
父上だとて、事後の昌幸は見せたくないのだ。

「儂も怒られちゃうからね。幸隆は無論、信綱や昌輝も昌幸が大好きじゃからな。儂とて怒られるのよ」
「負けませぬ」
「ふふ、そうじゃな」

父上は笑っていらした。
扇子で扇ぎながら、縁側から空を見上げている。
昌幸を見ないようにして下さったのだろう。

「人質にしてしまったからね。昌幸に愛情をかけてあげられなかったと幸隆は嘆いておったよ。そんな事はないと思うがね」
「幸隆殿が、ですか」
「信綱も昌輝も、昌幸を大事にしておるよ。故にな、勝頼よ」
「はい」
「昌幸を一番大切にしておやり。昌幸は無理をしがちじゃからな。悩みも痛みも溜め込んでしまう。おことが護るんじゃよ」
「心得ております」
「ふふ。おことも昌幸が大好きじゃな」
「誰よりも一番、昌幸を愛しております」
「ふふ。聞こえているね、昌幸」
「…はい…」

どうやら結構前から昌幸は起きていたらしい。
起きる機を逃したらしく、私に抱き寄せられてしまい動けなかったという。
両手で顔を隠し、頬を染めている。

「昌幸はもう少しそのままおやすみ。勝頼、西瓜は食べるかね」
「食べます」
「後で昌次に持って行かせるよ。お邪魔したね」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます。お館様…」

父上が去った後に昌幸を抱き起こし正面に座らせた。
昌幸は口元を抑え、頬を赤く染めている。
皆の好意を聞き、照れているのだろう。
私の言葉も聞いていたのだろうな。
一先ず昌幸を案じて肩を撫でた。

「大丈夫か」
「はい…」
「後で湯浴みに行こうな」
「はい…」
「今は未だ、おやすみ。後で西瓜を食べよう」
「はい。勝頼様」

昌幸に腕を貸して、二人で畳に寝転ぶ。
昌幸が私の方を向いてくれた。
頬を撫でると目を細めて私を見つめてくれた。
とても疲れさせてしまったが、その瞳は優しかった。

「…勝頼様…」
「ん?」
「お慕い申しております…」
「ああ、私もだ。昌幸」

事後の気怠さは知っている。
特に受け手の昌幸の負担は私よりも重い。
温かくなった手を握り締め、額に口付けを落とした。

「勝頼様、西瓜をお持ちし…、おや」
「しーっ」
「ふ、此処に置いておきます」
「ありがとう、昌次」

昌幸が私の胸元に埋まり、また眠ってしまった。
昌次が西瓜を持ってきたが、昌幸を起こさぬよう口の前で指を立てる。
昌次は笑って、小声で西瓜を置いて去っていった。

流れる昌幸の髪を優しく撫でた。
皆が皆、私達を見守ってくれる。
特に幸隆殿、信綱、昌輝は昌幸を思っているのだと感じられる事が多い。
私も負けるつもりはない。

「昌幸」

額や頬に口付けて、昌幸に愛情を伝える。
唇に口付けたら、睫毛が揺れた。

「勝頼様」

昌幸から口付けてくれた。
昌幸から口付けてくれるのはとても嬉しい。

眠気眼であったが、私を見てふわりと笑う昌幸が愛おしい。
昌幸を護るように背と腰を抱き、頭を撫でた。


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