奥に奥にと腰を落とす度に、私の腰に触れる手が震えていた。
上から手を重ねて、指を絡める。
私よりも大きな優しい手。
今も私を見上げて眉を寄せている。私を案じてくれているのがひしひしと伝わる。
慣れた大きさではなかった為か、接合部が切れて脚に血が伝う。
兄上が私の腰に触れる手に力が入った。
「昌幸」
「…っ」
「昌幸、血が」
「あにうえ、信綱兄上…」
怖々と私の頬を撫でる手はやはり優しくて、その手に甘えて頬を擦り寄せた。
こんな事をしているのに、信綱兄上は私を引き剥がしたりはしない。
寧ろ私を壊れ物のように触れて、ひたすらに私を案じてくれていた。
このような優しい兄上だからこそ、私は。
ずっと憧れの人だった。大きくて、強くて、とても優しい十歳上の兄だ。
昌輝兄上とも歳が離れていたが、信綱兄上とは十も歳が離れていたからか、兄弟というよりも親子のようだった。
そして、決して好きになってはいけない人だった。
こんな事、常識的に考えて許される事ではない。
それが今は、信綱兄上に跨り兄上の摩羅をその身に受け入れている。
手練に見られるよう信綱兄上に跨り、腰を揺らした。
主家の武田家は衆道に寛容で、奥近習としてお仕えしている手前、そういう事も教えられた。
ただ、知識があるだけで、誰彼に触れられた事はない。
何れお館様に抱かれる事もあろうと普段から言い聞かされて躾られてもいた。
友だと言ってくれる勝頼様や、同じ奥近習の昌次にも、私がそういう事を仕込まれている事は知られていた。
躾られる度に、何れお役目等で体を暴かれるなら、初めては本当に好きな人が良いと思った。
初めては、信綱兄上が良かった。
「昌幸?」
「ぅっ、…ひっ、く…」
「ほら、昌幸…、おいで」
「あにうえ、兄上、好き…、好きです…」
「…っ!」
何も知らぬ信綱兄上を捕まえて、閨事の練習相手に付き合って欲しいのだと迫った。
一夜の過ちだと思って抱いて欲しいと信綱兄上に迫った。
無論、何を言っているのだと、自分の体をもっと大切にしろと酷く怒られ諭された。
信綱兄上は私に特段に甘い。
私からのお願いや我儘を断った事がない。
だから今回もきっと、断らないと思って、信綱兄上に縋った。
私を諭すようにして前に屈んだ信綱兄上の袖を掴み、背を伸ばして口付ける。
初めての口付けだった。
信綱兄上の唇は分厚くて、とても熱かった。
子供の頃に信綱兄上はよく額や頬に口付けてくれた。
いつも、私の事が好きだと、可愛いと、そう言って私を膝の上に座らせて頭を撫でてくれた。
だが、絶対に唇に口付けはしなかった。
私から唇を寄せても、唇にはしてくれなかった。
唇は本当に好きな人になさい、と信綱兄上は私を撫でて笑っていた。
口付けて頬を染め、兄上を見上げる。
信綱兄上がいい。駄目ですかと胸に埋まるとそれでも駄目だと信綱兄上は唇を抑えて私を抱き締めた。
わしはお前の兄で、お前はわしの大切な弟だ。そんな事はしたくない。
お願いだから、自分の事を大切にしてくれと信綱兄上は私の頬を撫でてそう言った。
「…お願い、兄上」
「っ」
私からの三度目のお願いは、信綱兄上は断らない。
子供の頃からそうだった。信綱兄上は何でも私の言う事を聞いてくれた。
その兄上を言い負かして、部屋に連れ込み無理矢理、閨事を迫った。
前戯もままならず、信綱兄上のを勃起させるべく口で御奉仕をして何とか勃たせた。
信綱兄上は私を見ぬよう顔を逸らしていたが、私が口付けて此方に向けた。
「…何処で、そんな事を?」
「…気持ちいい…、ですか…?」
「躾られたのか…?」
「はい…。いつか、夜伽に呼ばれた際に…、御相手の殿方に、失礼のないように…」
「…、そうか」
手練に見られるよう腰を自ら揺らして射精を促す。
信綱兄上のをしっかりと見た事はなかったが、私のよりも大きくて、私の中いっぱいに膨張している。
私ので、反応してくれただろうか。
血濡れになりつつある接合部に後ろ手で触れて、信綱兄上の根元に触れる。
根元を掴んで腰を上下させ、ぬるぬるとした感触と卑猥な水音に頬を赤らめる。
眉を寄せて、片手でしがみつき、兄上を見上げて名前を呼んだ。
「あにうえ、はっ…、ぁ…、兄上の、大きい、っ…」
「…っ、やめよ昌幸、わしは」
「…、兄上の事、ずっと、好きでした…」
「っ」
「すき、好き…、信綱兄上…」
「…昌幸」
「好きになって、ごめんなさい…、ごめんなさい…」
「昌幸」
「ですから、これは、私の、昌幸の最後の我儘です…」
お館様の御厚意で、私は武藤家に養子に入る事が決まっていた。
私が真田を名乗れるのもあと少し。
信綱兄上や昌輝兄上の下、真田家の三男で居られるのもあと少しだった。
子供の頃に人質に出されて以来、真田の家には一度も帰れていない。
父上や兄上の真田の名が、私の僅かばかりの故郷だった。
七つの時以来、真田家では暮らしていない。
それまでは兄上達にべったりと甘えていてで、特に信綱兄上には家族で一番甘えていた。
父上に会う度に、懐かしくて恋しくて。
兄上に会う度に懐かしくて愛おしくて。
あの頃のままで居たかった。ずっと傍に居たかった。
真田のまま、あの郷に居たかった。
「兄上…、信綱兄上…」
「昌幸?」
信綱兄上の事がずっと好きだった。
ぽろぽろと涙を零して泣く私を見て、信綱兄上は身を起こして私を怖々と抱き締めた。
「…信綱兄上、あにうえ、あにうえ」
「昌幸」
「っ…?…ん、ん…ぅ…っ…」
不意に信綱兄上と唇が重なり、唇の隙間から舌が絡められて深く口付けられる。
そんな口付けは経験がない。ましてや、信綱兄上からなど有り得ない。
兄上の為されるがままに目を閉じて身を任せていた。
唇が離される頃には口内がとろとろに蕩けて、濡れた唇を兄上に撫でられる。
口付けは優しくて気持ち良くて、閨事もお上手なのかと蕩けた瞳で兄上を見上げた。
私を撫でる大きな手が、私の目尻の涙を拭った。
「…あにうえ…?」
「昌幸。何があろうとわしはお前の兄であり、お前はわしの可愛い可愛い弟だ…」
「…嬉しい、信綱兄上…」
「故に、弟として、見れなくなるのは困る…」
「え…?」
「わしとて、お前を、ずっと愛していたさ」
「…え…?」
今一度、信綱兄上に口付けられて舌を絡められる。
舌が絡まる度に、きゅうきゅうと中にある信綱兄上を締め付けてしまう。
信綱兄上が一度呻き、私を腿に乗せて背を撫でた。
「…いつも一人で無理をして、一人で泣いて…。そういう子だったな、お前は…。源五郎の頃からちっとも変わっていない…」
「ぁ、兄上…?」
「何処かで泣いてやしないかと、わしはいつもお前を思っていたよ」
「あにうえ…」
「お前が甲府に在っても、わしが真田に在っても、わしは」
「っぁ、ぅ…!」
中からずるりと引き抜かれて思わず涙が溢れた。
震えた手で兄上の袖を指で掴むと、兄上に柔柔と抱き締められた。
本当はずっと怖かった。痛くて痛くて、苦しかった。
知識はあれど、体験したことはない。
ここまで苦痛なのかと思っていたが、信綱兄上の眼差しを見て恐怖はなくなった。
頭や頬を撫でられて、安堵し溜息を吐いて兄上を見上げた。
「閨事は、わしもそこまで手練な訳でもない…」
「兄上…?」
「…このままでは辛かろう。身を任せてくれるか、昌幸」
「…はい…、信綱兄上…」
ころりと床に寝かせられて、柔らかい敷布に仰向けに寝かせられる。
頬を撫でられてそのまま、また唇が合わさり目を閉じた。
信綱兄上の手が優しくて、その手に触れると指を絡めて手を繋いでくれた。
兄上の手は私よりも一回り大きくて逞しい。
深く口付けられ口内が蕩ける。
今まで強ばっていた体から力が抜けて、くたりと敷布に沈む。
深く口付けられ続けて、私のが熱り勃っていた。
そのまま兄上に手で扱かれて、胸元に埋まり声を堪えた。
「ん、ぅ、ぅ…!」
「唇を噛むな。傷付く」
「兄上、あに、ぅ、え…、信綱、あに、うぇ…っ」
「そのまま果てよ、昌幸」
「っ、ん、ぁ…、ゃ、ん…!」
人に触られた事はない。ましてや、信綱兄上に何て。
口付けられながら手で扱かれて、兄上の手の中に果てた。
生理的に涙が溢れてきて、兄上に指で拭われる。
兄上はやはり私を案じられて、私の頬を撫でてくれた。
その手に擦り寄り、信綱兄上の手を握り返した。
「大丈夫か、昌幸」
「っぁ…、っふ…、ぅ…」
「落ち着くまで、横になっておれ」
「…!行かないで下さい、信綱兄上…」
「わしとて…後始末をせねばならん」
「いや、嫌です、信綱兄上、あにうえ」
「…解った。離れはせぬ」
見れば、信綱兄上の魔羅は収まっていない。
張り詰めて、先程よりも大きく膨張しているように見えた。
其れの後始末をせんと私から離れようとしたのだろう。
信綱兄上の袖を引いて、首に腕を回した。
唐突に私に引っ張られて兄上は体勢を崩し、私に覆い被さってしまった。
されとて私を下敷きにはせぬよう、手をついて私を押し倒す。
信綱兄上は何処までも私の兄だった。
「信綱兄上」
「…昌幸?」
「来て下さい…、兄上」
「…しかし」
「兄上が好き…。信綱兄上が好きです…。お願いです、信綱兄上。其れは私のせいです…、ですから」
「弁えよ昌幸。お前はわしの大切な弟である
」
「…やはり、私の事、嫌いになりましたか…?」
「…其れは狡いだろう、昌幸」
「ぁ、ぁ…、あに、うえ…」
腰を撫でられて、そのまま腰を掴まれる。
近くで見るとやはり信綱兄上のは大きい。先程よりも張り詰めている。
私の腹の上に魔羅を置かれて、信綱兄上を見上げた。
私を見下ろし頬を撫でる兄上は眉を下げている。
「先程のは事故だと片付けられよう。しかしこれからの営みは…合意の上の情事となる。今の体を貫通すれば傷付きもしよう」
「…はい。一夜限りで構いませぬ」
「お前は其れで良いのか、昌幸」
「はい…」
「…昌幸」
「…兄上は、私の事を…どうお思いですか」
「生まれた時から、ずっと愛しているよ」
「…弟として、でしょう」
信綱兄上の私への思いはきっと、ずっと私を弟として案じたものだ。
私はずっと兄上にとって小さな弟だ。
だから、今宵の事もきっと一夜の過ちだと。
それでも良い。
初めては私が本当に好きな人に…。その思いは変わらなかった。
信綱兄上は一度深く溜息を吐かれて、私の頬を優しく撫でた。
額同士を合わせられて、信綱兄上と目線が合う。
「兄上…?」
「…今は、違うな」
「ぁ…?ゃ、ぁぁ、ぁっ…!!」
「…きつい」
「ゃ、ぁ!ん、大き…、ぁ、兄上、っ!」
体を貫かれる感覚に足の爪先がつんのめり、思わず信綱兄上の首に腕を回してしがみついた。
奥の奥まで突き入れられている感覚に背を仰け反らせて信綱兄上にしがみつく。
それでも未だ根元まで入っていないのか、信綱兄上の腰が引けていた。
何より私を案じて、私を柔柔と抱き寄せる手が触れていた。
「昌幸…っ」
「ぁ、ひゃ、ん…!兄上、あにうえ、兄上…」
「っ、やはり…こんな事…」
「だめ、ゃ、やめ、ないで、あに、うえ、兄上、信綱あに、うえ…っ」
「は…、ぁ、昌幸…」
「ぁ、ぅ、ん…!ふか、い…!」
脚を開かされ、ぐっと奥に腰が進められ、奥の奥まで信綱兄上のが私の中に埋まった。
挿入の圧迫感に下腹を撫でる。こんな所にまで信綱兄上のが入っている。
「…痛くないか?辛くないか?嫌なら…直ぐ…」
「兄上…」
「…昌幸?」
「大好き…で、す、信綱兄上…」
「っ」
胸で息をして、涙目で信綱兄上を見上げた。
いつものように頬を撫でられてきつく締め付けてしまい、信綱兄上の腰に肌蹴た生脚を絡みつけた。
「昌幸」
「ぁん…!ひゃ、っん…!」
「昌幸、可愛い…、わしの…」
「ぁにうえ、あに、うえ…っ」
一度際まで引き抜かれて、再び奥に穿たれる。
それを幾度か繰り返され、その後は暫く優しく揺り動かされた。
男に抱かれている。信綱兄上に抱かれている。
間もなく聞こえてきたぐちゅぐちゅとした水音に、私の体がそうさせているのだと思うと恥ずかしくてまたも信綱兄上を締め付けてしまう。
締め付け過ぎてしまう私の体を解そうと、信綱兄上は頭や頬を撫でながら、ちゅっちゅと幾度も口付けてくれた。
信綱兄上の口付けは優しくて、気持ち良くて、とろとろと体から力が抜けて蕩けていく。
中の滑りは信綱兄上の先走った子種であろう。じわじわと中に溢れて水音が大きくなってきた。
「ひぅ…っ!ゃん、ぁ、っ、は…ぁっ」
「…昌幸、中には出せぬ…。そろそろ…」
「中に…、なかに、だし、て、あにうえ、信綱あに、う、え…っ」
「昌幸、しかし」
「おねがい、あにうえ、兄上、す、き…、好き、です…信綱、あにうえ」
「っ…!昌幸…っ」
「ぁ、っは……!ぁ…、ぁ………」
体の奥に飛沫を感じて、がくがくと体が痙攣して首に回していた腕が落ちた。
視界が白くなり、胸で息を吐く。
涙が次から次から溢れてきて止まらない。
これでこの思いは昇華しなくてはならない。
「昌幸…?」
「だいすき、…信綱兄上…」
「っ」
信綱兄上は変わらずに私を案じて見下ろしていた。
ちかちかとする視界に信綱兄上を捉えて、震える手で頬に触れる。
そのまま瞼の重みに目を閉じた。
ふに、と柔らかい物が唇に当たる感触を最後にそのまま意識が混濁していった。
頬や頭を撫でられる心地にぼんやりと目を開けた。
ぴちゃんという水音に小首を傾げると、どうやら湯船に浸かっているらしく体がとても温かい。
顔を上げると直ぐ近くに信綱兄上が顔があり、嬉しくて頬を擦り寄せて兄上に甘えた。
信綱兄上は湯船に顔が落ちぬよう、私を抱き寄せていた。
「気がついたか」
「信綱兄上…」
「体は、大事ないか?腰が立たぬだろう。後で薬を塗ってやるな。それとお前の明日の出仕はない。昌次にそう伝えておいた」
「はい…」
「今日は…一緒に寝ような。昌幸」
「…本当に?」
「こんな状態のお前をほおっておけぬよ」
頬や額を撫でられて目を細める。
その手に甘えて擦り寄ると、信綱兄上の唇が近くて頬を染めた。
あれは一夜の過ちだから、もう口付ける事はない。
こうして抱かれる事も、きっともうないだろう。
名残惜しく信綱兄上の唇を指でなぞった。
やはり信綱兄上は優しく、私に触れる。
胸に擦り寄り目を閉じた。
「…酷い、我儘を言いました。申し訳ありません…」
「全く、本当にな」
「この事は、他言無用にて…」
「無論」
「私もこれで心残りはありません…。悔いなく武藤家に行けます」
「…その事なんだが」
「?」
「後で話そう」
額に口付けられて、ふふと微笑む。
信綱兄上に体を支えてもらい、体を拭かれて事後の手当も丁寧にされて寝間着を着付けられる。
腰に力が入らず足元を振らつかせれば、兄上がそっと私を横に抱き上げた。
あんな事があったのに、私に対する信綱兄上の扱いは変わらないどころか、子供の頃よりも私を甘やかせてくれた。
ひとつの布団に入るならと信綱兄上の腕枕が良いと強請ると、ほらおいでと腕を広げて敷布をぽんぽんと叩かれた。
その胸に飛び込むようにして兄上に甘えて頬に擦り寄る。
背中をぽんぽんと叩かれて、もう子供ではないのにとむくれるとその頬を撫でられた。
相変わらず優しい眼差しの信綱兄上だったが、その眼差しは何処か熱っぽい。
「…なあ、昌幸」
「はい」
「ひとつ聞きたい。今でもわしの事を好いているか」
信綱兄上の目付きが変わった。
兄としての目付きではなく、武田騎馬隊侍大将の真田信綱の目付きである。
きっと嘘を吐いても見抜かれてしまうだろう。
私の思いは変わっていない。
私も信綱兄上の弟ではなく、真田昌幸としてお伝えしなくてはならない。
「…今でも好きです…、信綱兄上」
「そうか。…そうか」
「…信綱兄上は…?」
「言っただろう。わしはずっと、お前を思っていると。お前が泣いていたら駆け付けるし、お前が困っていたら絶対に助けに行くさ」
「無論、兄として…、ですよね」
「男としてだ」
「兄上…?っん、ふ…ぅ…」
信綱兄上から唇が合わせられて、舌が口内に絡まる。
もうこんな事はされないと思っていた為、余りにも不意打ちで胸の高鳴りが収まらない。
長く甘い口付けに蕩けた瞳のまま信綱兄上を見上げた。
「信綱兄上…?」
「兄弟であることは変えられぬ。お前が人質に行こうとも、奥近習であろうとも、武藤家であろうとも、お前はわしの大切な弟だ」
「はい…」
「今更…、もう弟として見れん。一夜の過ちなど…、わしは随分前から…」
「っえ…?信綱兄上…?」
「ずっと、言わなかっただけだ。否、いつも伝えていたのかもしれん。お前が気付かなかっただけだ」
「…え?え…?」
「お前に本当に好きな人が出来たら、わしは身を引こう…。どうかそれまで…、いやこれからも、昌幸を思っていたい。そんな兄では駄目か、昌幸」
「っ…、あにうえ」
思わず信綱兄上の首に抱き着いて頬に擦り寄る。
今の言葉は嘘ではなかろうか。
そんな事、有り得ないと思っていたのに。
私に本当に好きな人が出来るまで、なんて。
そんな事を言われなくてもと言いかけて、その言葉は口付けに蕩けてしまった。
ちゅ、ちゅっと甘く甘く幾度も口付けられて、ぽろぽろと涙が溢れてきて止まらない。
「ああ、泣くな…。お前に泣かれるのは困る…」
「…信綱兄上…、っ」
「泣き虫だな…、よしよし」
目元を指で拭われても涙が止まらない。
涙伝う頬に口付けられて、信綱兄上の胸に甘えた。
その手は相変わらずとても優しくて、私から兄上に唇を合わせた。