何度抱いても、中に出しても、足りない。
ああもう止めてやらねば、もう意識が持たないだろう。
されど、駄目だ。今宵はこれくらいで終わらせてなるものか。
「ぁ……、っ……」
「昌幸」
「かつより…さ、ま……、また…、っ…?」
「うん…、収まらないな…」
「は、ぁ……、ぁ」
再び昌幸の脚を開かせて、奥深くに腰を押し進める。
ひくひくと肩を震わせて、私を見上げて目を細める。
既に幾度も流し込んだ私の子種が昌幸の中から溢れていた。
昌幸は幾度も果て、過敏になり過ぎていた。
少しでも奥に揺り動かせば、昌幸はきゅうと締め付ける。
己が下腹に触れて、昌幸は目を細めて私を見つめた。
「…こん、な……、奥…まで……」
「どれ…、何処まで入っている…?私に教えてくれ」
「…ここ、です…」
接合部に触れる指を上に滑らせ、昌幸に手を取られて下腹に触れる。
此処にあなたがいる、と昌幸は目を細めて微笑んでいた。
ああ、愛おしい。可愛い可愛い私の昌幸だ。
後ろ手で敷布を握り締める片手に触れて指を絡めると、私の手に甘えるように頬を寄せる昌幸が可愛い。
「いくら抱いても足らぬな、昌幸」
「もう程々に…、明日起き上がれなくなってしまいます…」
「そのつもりなのだが」
「っ、そ、それは、こ、困ります」
「昌幸を独り占めしたいんだ」
「ぁ…、ま、た…っ」
ぐっと奥に腰を進めて、昌幸と距離を詰める。
奥に突き上げる度に声を堪えた昌幸の目元が潤む。
声を堪えて欲しくはないと唇に指を入れれば、咥内はとろとろに蕩けていた。
昌幸の舌を掴まえて咥内を弄れば、きゅうと中が締まる。
中が痙攣しているところを見ると、続けて果ててしまったのだろう。
今宵だけでも、もう随分と抱いた。
「はぁ、昌幸…」
「…ぅ、ん…、ん…」
「口付けたい。昌幸、此方を向いて」
「…っ、して…かつより、さま…」
「ああ、好きだ…、昌幸、まさゆき」
接合もそのままに腰を抱き起こし、私の膝の上に昌幸を座らせた。
昌幸を見上げる形になり、下から口付ける。
蕩けた咥内を味わいながら、下からゆるゆると腰を突き上げていく。
接合部に指を含めれば、私が注ぎ込んだ子種が昌幸の中から溢れて指に伝う。
柔柔と優しく腰を揺らしながら、肩に流れる白黒の髪を指に絡めた。
昌幸の反応が徐々に弱くなり、肩の震えに唇を離して昌幸を見上げた。
どうやら体が過敏になり過ぎて、昌幸も混乱しているのか、私の肩口に埋まり身を震わせている。
昌幸が限界なのだろう。
もう果てさせてやらねば、これ以上は無体となってしまう。
私が昌幸を傷付けることは絶対にない。
「昌幸…、此方を向いて」
「…かつより、さま…」
「過敏になっているな…。落ち着くまで、こうしていよう」
「ぁ…」
「ん…?また、綺麗になったのではないか…?」
「そんな、こと…、ないです…」
「む…、困るな、昌幸。また皆に構われてしまう…」
子供の頃から、昌幸は、源五郎はとても可愛かった。
元服した今でも勿論、可愛いと思う。
そして、私と恋仲になってから、益々綺麗になった。
更に、美しくなった。
「全く…、何処まで惚れさせる気だ、昌幸…」
「わたし、とて、私、とて」
「何だ?」
「…勝頼さま、が、すき…、好き、です…、かつより、さま」
「っ…!!」
「ひ…ゃ、ぁっ、ん…っ、んん…!!」
潤んだ瞳で見下ろし、眉を下げて私に言葉を紡いでくれた。
そんな昌幸が、そんな恋人が愛おしくて愛おしくて、思わず押し倒して深く甘く口付ける。
そのまま、奥に突き上げつつ、昌幸のも擦り上げて射精を促した。
昌幸、昌幸、昌幸。
愛おしくて堪らない。
そのまま昌幸を突き上げて、指も舌も絡めて深く深く繋がる。
間もなく声にならない声を漏らし、がくがくと震えて昌幸は果て、気を飛ばしてしまった。
本当に、綺麗になった。
気を飛ばしてしまった体を抱き締めて、昌幸の横に寝転んだ。
未だ離れたくなくて、昌幸の背後に回り、背中を抱き寄せた。
未だ私は昌幸の中にある。
昌幸の絶頂時にきつく締め付けられて、私も中に果てていた。
今も意識がないのに締め付けられて、私も肩で息を吐く。
深く息を吐いて、昌幸の背中に埋まった。
流石に私も腰が立たん。
お前に欲情して、愛して、愛して、この様だ。
今宵は痛み分け、互いに満身創痍になってしまった。
昌幸の前に触れれば、爆ぜた昌幸の子種が腹を汚していた。
もう暫くすれば意識が戻るだろうが、今は余韻に浸りたくて目を閉じた。
夜が明ければ主従に、友に戻る。
恋仲であると感じられる今のうちに昌幸を堪能しておかねばと、毛の一本から指先ひとつ
に至るまで見つめて、触れて、何よりも誰よりも愛した。
私が一等、昌幸を愛していると自負したい。
「…ん……」
「ああ、昌幸…、大丈夫か…?」
「…かつ…?ぁ……、…?」
「ふふ、此処だぞ?」
「ぁ…、勝頼さま…」
「お前を置いて、いなくなったりするものか」
「勝頼さま…」
視界に私がいない事を不安に思ったのか、昌幸は眉を下げて身を捩った。
背後から抱き締めて安堵させると、首だけで振り返る昌幸の頬や髪を撫でた。
艶やかな白黒の髪に埋もれながら、昌幸にちう、ちゅうと口付ける。
唇や頬に口付けるのは飽きない。
このままだとまた兆してしまうなと苦笑していると、昌幸が後ろ手に私との接合部に触れた。
もう無理だと眉を下げて首を横に振る。
解っている、と頭を撫でて身を寄せた。
「すまぬ。抜こう…。今日はやりすぎてしまったな」
「…ん…、ぅ…っ」
こぷ、という音を立てて昌幸から引き抜いた。
私の子種が昌幸から溢れている。
惜しむらくは昌幸が孕まぬ事であるが、孕ませる為に抱いている訳ではない。
そもそも昌幸は男であるし、孕む訳がない。
くたりと褥に身を横たえている昌幸の手を引くと、昌幸の方から私の胸の中に甘えてきてくれた。
思わぬ不意打ちに唇を噛んで、動揺を堪えた。
昌幸は主張が控えめであり、色恋沙汰に関しては奥手も奥手。
とても恥ずかしがり屋で、そしてとても可愛らしくある。
故に、昌幸から甘えてくれると、とてつもなく嬉しいのだ。
そして、誰にも見せたくないと思う。
元来、我等は主従である。
表立って恋仲で居られる事はない。
表立って、昌幸が私に甘えてくれる事はないのだ。
故にこそ、逢瀬では一時も無駄にしたくない。
二人きりで居られる時は、貴重だ。
空いた片手の指を絡めて手を繋いでいると、私の首筋に擦り寄るように甘えてくれる昌幸が愛おしくて堪らなかった。
不意に昌幸が私の頬に触れていた。
思わぬ行為に微笑んで、昌幸の腰や背に腕を回すとかくんと私の胸の中に沈んでしまった。
疲れ果ててしまったのだろう。
受け手側である昌幸の体の負担は大きい。
初夜の翌朝は体を壊して、回廊に蹲ってしまった事を未だ覚えている。
事情を知らぬ信綱や昌輝が昌幸を案じて構い倒していたが、何とか引き離して昌幸と共に自室に篭もり、昌幸を誰にも会わせなかった。
あれからはもう、あの様な目には合わせまいと、昌幸が寝静まった後でも身を清めた。
敷布なども替えて、寝間着も新しい物に着替えさせ、後始末をするのだ。
香まで焚くと、情事の名残は薄まる。
だが余韻が消える事はない。
昌幸と体を重ねた事実が消えた訳ではないのだ。
作業の途中、不意に視線を感じて顔を上げると昌幸が私を見つめていた。
視線が合ったのでにこりと微笑むと、昌幸も口角を上げて微笑み、再び目を閉じた。
後始末を終えて横に寝転ぶと、待っていたとでも言いたげに昌幸が私の腕の中に飛び込んできた。
「昌幸」
「勝頼さま」
「なぁ、今宵は可愛すぎないか?」
「普段と変わりませぬ」
「いやいや、いやいやいや」
首を激しく横に振り、されとて昌幸は離さずに抱き締めた。
私と二人きりの時は、昌幸は時折、子供のように甘えてくれる。
それこそ、四郎と源五郎であった頃のように、極度に甘えたがりになるのだ。
信綱や昌輝に可愛い可愛いと愛されて育った小さな弟の源五郎であった昌幸は、普段から仕草に愛らしさを感じる事がしばしばある。
小首を傾げたり、袖を摘んだり、仕草が可愛いのだ。
無論、本人に自覚がない。だから可愛いのだ。
私は元より甘えたがりで、昌幸にはいつでも甘えていたいが、事後は決まって昌幸が甘えてくれるものだから落ち着いて眠れた事がない。
今も腕を取られて、胸に擦り寄られている。
片手で目元を隠して天を仰いだ。
駄目だ。今宵は可愛いが過ぎる。
今宵は特に昌幸が甘えたがりで、私はまた苦悩していた。
昌幸が、誰彼構わずこのような姿を見せている訳ではない事は解っている。
昌幸は奥近習、才覚目覚しく、今や武田の人質でもない。
外様ではあるが、武田の家臣である。
私とは主従の関係にあるが、私にとって昌幸は特別だ。
「なぁ、昌幸」
「はい…」
「いつでも、私に甘えてくれていいんだぞ?私も甘えたい」
「…二人きりの時だけ…、にします」
「む、知ってるんだぞ。お前、信綱や昌輝、幸隆には甘えているだろう」
「それはまぁ…。今はそれ程でも」
「む!やはり甘えているのだな」
「家族に悋気など…」
「私が一番昌幸が好きなんだぞ」
「それはそれは…」
「昌幸が私の事を好きなのも知っているからな」
「それこそ、当たり前です…」
やはり昌幸は可愛い。
昌幸は今でも、父兄らにとても可愛がられている。
信綱や昌輝、幸隆は昌幸に特段に甘い。
それどころか、信房や昌景、勘助も子供の頃から各々昌幸を可愛がっていた。
無論、私の父の信玄も、子である私と同じように昌幸を愛でていた。
そんな子供の頃から、私は源五郎を取られたくなくて、源五郎の袖を引いて私のだと触れ回ったものだ。
恋仲となった今、悋気は収まるどころか増すばかりである。
私のものだとばかりに痕を残すのだが、多くは見えぬ箇所だ。
故に、見えるであろう箇所に一つだけしっかり痕を付けておくのだ。
昌幸もきっと其れは承知であろう。
今宵の痕に指を這わせると、昌幸がふわりと私を見上げて眉を下げた。
その後、続いた言葉に私は終始破顔していたと思う。
「勝頼様ばかり、狡い」
そう言って、私の首筋にちうと一つだけ痕を残した昌幸は微笑み、私の胸の中で眠ってしまった。
平時であるなら、不敬だとか無礼だとか尤もらしい事を言う癖に、事後である昌幸の愛らしさは天下無双である。
愛おしくて愛おしくて緩みに緩んだ心を落ち着かせて、私の世界で一番大切なその人を胸に抱き締めて私も目を閉じた。