二人ふたりあに

私には二人の兄がいて、二人の兄とも愛おしく思っている。
十歳上の信綱兄上と、四歳上の昌輝兄上。
雄々しくて逞しくて、優しくて格好良くて、私の自慢の兄上達だ。
私がこんなに憧れているのだ。女子が放っておかぬだろうと子供心にそう思っていた。

私が武田の人質となり、兄上達とは離れ離れに暮らすことになった。
後に奥近習としてお勤めする事になるが、父も兄上達も、時間が許す限りなるべく私に会えるよう、共に過ごせるよう尽力してくれたように思う。
離れれば離れるほど、家族が恋しくなった。
一時会えるだけでも、嬉しくて仕方なかった。
そしていつの間にか、私の兄上を誰にも渡したくないと思うようになった。

元より兄弟仲が良く、特に年の離れた信綱兄上からは目をかけられていた。
私もそんな兄上が大好きだったから、小さな頃から後をくっ付いて歩いていた。
ただ、信綱兄上は嫡男である。故に父上に付いて彼方此方と戦に出向き手柄を上げていた。優しくて強くて、格好良い。
昌輝兄上も、俺達の兄上は格好良いとよく言っていた。

信綱兄上には、いつも昌輝兄上が付いていた。そんな兄上が羨ましい。
昌輝兄上も武芸に秀でており、身体能力や観察眼を認められて、今やお館様よりムカデ衆の地位を授かっている。
私に何かと構いたがる昌輝兄上であったから、何かあれば直ぐに昌輝兄上に頼った。

私が困っていると、何とかしようと兄上達は言葉通りに何とか事を収めてくれた。
今でも、つい甘えたくなってしまう。甘やかしてくれるのが解っているからだ。
兄上達も私が甘えてくるのが分かっているからか、兄上達も甘やかしてくれるのだろう。
幼い頃に離れてしまったからか、好意を随分と拗らせてしまった。そして私の想いを兄上達が悟るのも早かった。

「昌幸」
「昌輝兄上」
「こら、昌幸」
「おかえりなさいませ」
「ただいま」

信綱兄上が好きだと、昌輝兄上が好きだと、それぞれに想いを伝えた。無論抱いてはいけない想いだという事も解っている。
私は想いを昇華したくて、望んではいけない事だと分かっていた。
それなのに、兄上達は、兄上達は私の事を受け入れてくれた。私を否定はしなかったのだ。

信綱兄上は、私の想いを真摯に受け止めてくれた。
真面目な信綱兄上は常識と倫理と理性を盾に、私の想いにどう応えるべきか悩んでいた。
信綱兄上は本当に真面目だから、私を傷付けまいとしていたのだ。
兄上の重荷になりたくなくて、忘れて下さいと微笑むと、お前を否定したくないと、信綱兄上に抱き留められた。
その抱擁が逞しくて優しくて、昔からずっと変わっていない。
それから私は信綱兄上に抱擁して頂いたり、口付けをして頂いたり、大好きな兄上と一緒に居られるだけで幸せだった。
そうしていたら、信綱兄上と一線を超えてしまった。

無論、私が抱かれる側で、信綱兄上は何処までも優しかった。
初めての事だったから、歓喜と苦痛が入り交じり兄上の腕の中で泣いてしまった。
兄上とこんなこと、いけないことだと解っているけれど、それ以上に幸せだった。



次の日はずっと信綱兄上の傍を離れたくなくて、何かと理由をつけて兄上の傍に居たがり、そんな事後の私の我儘を兄上は叶えてくれた。
今思えば、昌輝兄上はあの時から既に何かを察しているような素振りで、兄弟三人で居る事より、信綱兄上と私が二人きりになれるようにと尽力してくれていたように思う。

物陰に隠れて信綱兄上に口付けられて惚けていたら、其れを昌輝兄上に見られていたらしい。
どうしたらいいのか分からなくて困っていたら、信綱兄上が私を護るようにして抱き留めてくれた。
戸が少し開いていたようで、昌輝兄上は其れを閉めに来てくれたようだ。
昌輝兄上に知られてしまった。

軽蔑された、兄弟でなんて、私は即座にそう思った。
どうしたらいいのか分からなくて信綱兄上の胸の中に埋まっていた。
信綱兄上は大丈夫だと言って、昌輝兄上を追いかけて行った。

「そんな顔をして。今回はそんなに離れていなかっただろう?」
「いつでも、お会いしたいと思っています。無事のお戻り何よりでした」
「はは、ただいま昌幸。可愛い事を言って。まあ、実際可愛いのだが」
「兄上」
「会いたかったぞ。大事なかったか、昌幸」
「兄上こそ…」

昌輝兄上が私を軽蔑する事はなかった。
ちうと額に口付けられ、昌輝兄上の膝上に座らせられる。
湯浴みをされたのだろう。触れた肌が温かくて、まだ髪も濡れていた。
目を細めて昌輝兄上を見上げていると、漸く唇に口付けてくれた。
私は昌輝兄上にも身も心も許している。

後に信綱兄上に聞けば、昌輝兄上も私の事をずっと愛してくれていたのだと知った。
信綱兄上にも知られていると昌輝兄上は言うけれど、そんな事をして良いのだろうかと悩みもした。
私は二人の兄をとても愛しているし、愛されてもいる。
いけないことだと解っていても、幸せだった。

「ん…、あにうえ」
「兄上ももう直ぐ帰って来るからな」
「そう、ですか。信綱兄上も今宵帰って来られるのですね」
「ああ。何だ、やはり昌幸は兄上が良いのか」
「…昌輝兄上の意地悪」

信綱兄上の事をお慕いしているが、昌輝兄上の事とてお慕いしている。
信綱兄上の方が色々と先だったけれど、どちらの方が上だとか、そういう事は言いたくない。
比べられるようなものではないといつも言っているのだが、昌輝兄上はいつもそう言って私を少し苛めるのだ。
信綱兄上はいつもとても優しくて、昌輝兄上はいつも少し意地悪だ。

拗ねて兄上の胸元に顔を埋めていると、唇を指でなぞられて上を向かせられる。
すまん、と一言謝られて再び口付けられた。
呼吸の為に唇を少し開けると、すかさず舌を捩じ込まれて深く舌が絡む。
目を閉じていると、目尻を撫でられて背中に腕が回る。
やわやわと抱き締められて、は…と浅く息を吐いた。
力強い腕に抱き留められ、頭や頬を撫でられて、ゆるゆると体から力が抜けていく。
戦から無事に帰ってきてくれた事が嬉しい。
またこうして、兄上に触れられる事が嬉しかった。



ある日、私と信綱兄上との事を聞くと、昌輝兄上は何もかも知っていた。
兄弟だから、兄上やお前に何かあったら直ぐに分かってしまうよと昌輝兄上は微笑んでいた。
私から昌輝兄上の背に腕を回してぎゅっと力を込める。
昌輝兄上にお会いしたかったのは本当の事だ。

「昌幸」
「昌輝兄上、まこと、お怪我はございませぬか」
「おう。この通りだ」
「それならば、良いのですが…」
「何だもう、可愛いな。食べてしまうぞ?」
「…はい…」
「…っ、お前は全く」

そのつもり、でもあった。
信綱兄上の不在時に、昌輝兄上はどうしているのか聞きたくて、二人きりで色々な話をした。
軽蔑されたと思っていたが、全く逆で、信綱兄上が羨ましいよと昌輝兄上は私の頬を撫でていた。
そうして、昌輝兄上とも一線を超えてしまった。
信綱兄上に知られたらと思っていたけれど、昌輝兄上も大丈夫だと、そう言っていた。
一体何が大丈夫なのだろうと首を傾げていたが、昌輝兄上に口付けられてその事を考えるのは止めた。

手を引かれて昌輝兄上の前に座り胸に頬を寄せると、兄上は雨のように幾度も口付けてくれた。
昌輝兄上は雄々しくて多少がさつなところがあるけれど、私に触れる時は特段に優しかった。
私から唇を寄せると顎を掴まれ、啄むような口付けから徐々に咥内に舌を絡められる。
戦帰りの兄上が猛っている事は承知している。

「あにうえ…」
「いいのか、昌幸。何れ兄上が戻ってくると思うのだが」
「私の兄上は二人いるのですよ」
「…お前は全く」
「私は兄上達が大好きです」
「ああ。愛しているよ」

此処では人が来るからと昌輝兄上に手を引かれて、奥の寝所に向かった。
信綱兄上の私室だ。
勝手に入っていいのだろうかと戸惑っていたが、俺が兄上に怒られるよと昌輝兄上に手を引かれた。
兄弟で過ごしたいからと言って予め人払いをしたようだ。こういう所は抜け目がない。

「昌輝兄上は、良いのですか」
「何がだ?」
「私は、信綱兄上と…」
「お前は其れを何度も聞くが、逆に何と言われたら満足なんだ?」
「っ、私は」
「信綱兄上は、自慢の兄上だよ。お前もそうだろう?」
「はい。大好きな兄上です」
「それを言われると少し悔しいな」
「昌輝兄上も大好きです」
「ああ、俺達の可愛い可愛い弟だ。愛しているよ」
「兄上」
「二人で兄上のお帰りを待つとしよう」
「はい」

おいで、と腕を開かれて、おずおずと兄上の腕の中に埋まる。
昌輝兄上は力強く、それでいて壊れ物を扱うように私を抱き留めた。
いつも何かと雑なのだが、こういう時だけは慎重なのだからつい笑ってしまう。

「何で笑っているんだ?」
「兄上、そのような触れ方をせずとも。壊れ物でもあるまいし大袈裟です」
「俺は荒っぽいからな、知っているだろう。お前を傷付けたくないんだ」
「兄上たら…」
「寒くないか、昌幸。お前は寒がりだろう。そんな薄着で寒くないか」
「兄上が居るので、大丈夫です」
「とは言え、う、うむ」

すり、と兄上の胸元に頬を寄せる。
温かくて雄々しくて、耳に兄上の鼓動の音が響いた。
兄上が無事に帰って来てくれて嬉しい、本当に心の底からそう思う。



暫し、そのようにして昌輝兄上と触れ合って居た。
胸に抱き留められているだけで、とても安堵するのだ。ほう、と吐息を吐いて兄上を見上げた。
ちゅ、ちゅ、と額に唇で触れられて目を細める。
兄上達は、私が小さな子供の頃からそうして額に口付けてくれた。
唇にして欲しくて顔を上げると、頬を撫でられて唇を啄まれる。
少し擽ったくて微笑むと、兄上の視線が熱いものに変わっていた。
信綱兄上の部屋である手前、昌輝兄上が堪えて下さっているのも解る。
甘えようにして身を寄せると、また唇を合わせられる。

「兄上、遅いですね…」
「もう戻られている。お館様に報告は終えているはずだ。昌景様にでも捕まっているのではないかな」
「待ち遠しいです…」
「お前は本当に、兄上の事が好きだな」
「昌輝兄上の事だって大好きです」

何度このやり取りをしたのか。思わず笑ってしまった。
昌輝兄上の袖を引っ張り、背を胸に預けて兄上に抱き留めて貰う。
腹に腕を回して貰い、膝を立てて兄上を見上げた。
今度は昌輝兄上から口付けてくれた。唇を開けると中に舌が入ってくる。
腕に力が込められて、抱擁が強くなる。昌輝兄上に流されるまま、深い口付けと熱い抱擁を甘んじて受け入れた。



不意に、ぎしっと床の軋む音が耳に響いた。
足音に重みがあり、またよく馴染みのある歩き方だ。足音で解る。

昌輝兄上が頭を撫で、お迎えしなさいと言って背中を押した。
私も昌輝兄上も姿勢を正して、戸が開くのを待つ。

「ただいま。遅くなった」
「兄上、お帰りなさい」
「兄上、お帰りなさいませ」
「方々に捕まってしまってな。二人とも此処に居たのか?」
「勝手に入ってしまって、申し訳ありません」
「昌幸を叱らんで下さい兄上。俺が連れてきたのです」
「お前達なら構わんさ」

ゆっくりと戸が開いて、信綱兄上のお姿を確認し昌輝兄上と合わせて頭を下げた。
信綱兄上は既に着替えを終えられていて、湯浴みの香りがする。
身を崩していいよと兄上に促されると、信綱兄上が昌輝兄上と私の頭を順番に撫でて下さりどかりと床に座られた。

信綱兄上が昌輝兄上と一言二言、戦時報告の確認を終えたところで不意に頬を撫でられる。
ほうと吐息を吐いて兄上を見つめると、信綱兄上は優しく微笑みを返してくれた。
信綱兄上の微笑みは優しくて温かくて、見つめていると胸が温かくなる心地がした。

「昌幸はまた、暫く見ない内に大人びたようだ」
「私とて、いつまでも子供ではございませぬ」
「昌輝も逞しくなった」
「兄上に追い付かんと、精進しております」
「そうか」

信綱兄上が私の唇を指でなぞる。
兄上の眼差しが厳しい。何処か怒っているようにも思えて眉を下げた。
ぴりつく雰囲気を感じて兄上達を見上げると、信綱兄上は昌輝兄上を横目に見て深く溜息を吐いた。

「あにうえ…?」
「…昌幸に手を出したな、昌輝」
「っ…は、言い訳は致しませぬ。俺も昌幸を愛しております」
「昌輝」

信綱兄上から確かに怒気を感じて怯む。
いつも朗らかな兄上が怒るという事は、よっぽどの事なのだ。これは真田家暗黙の了解でもあった。

「兄上、ごめんなさい…。どのような罰もお受け致します。私が悪いのです。昌輝兄上を責めないで下さい…」
「昌幸」

どんなお叱りも仕置も受けようと兄上に頭を下げた。
肌に感じていた怒気が収まり、眉を下げる私を見つめて信綱兄上は私の頬に手を添えた。

「兄上…?」
「すまぬ。怖がらせてしまった」
「俺がどのような罰も受けます。兄上、昌幸はお許し下さい」
「良い。わしがこうも愛しているのだ。お前も何れそうなると思っていたよ」
「兄上」
「信綱兄上、わたし」
「昌幸を責めはしないよ。昌輝もだ。小さなお前を長らくひとりぼっちにしてしまった」
「そんなこと…。兄上達はいつだって」
「二人とも、おいで」

信綱兄上が足を崩して、私達の手を引いた。
誘われるがままに私は兄上に抱きついて、昌輝兄上は信綱兄上の傍らに腰を下ろした。
昌輝兄上の額にこつんと拳を当てるだけで、信綱兄上はそれ以上咎めはしなかった。
私の額にもこつんと拳を当てられて、それだけで良いのかと兄上を見上げる。
信綱兄上は優しすぎた。

不意に顎をすくわれて、 信綱兄上の顔が近付きそのまま口付けられた。
甘く優しく、味わうように何度も口付けられる。
信綱兄上には随分久しくお会いしていなかった。少し唇を開くとそのまま深く求められて、深い口付けに体が疼いてしまう。



兄上を想って、一人慰める夜とてあった。
昌輝兄上も今まで触れるだけで、兄上の部屋だからと口付けだけで止められてきた。
信綱兄上に深く甘く口付けられながら、己が徐々に絆されていくのがわかる。

傍で昌輝兄上が頭を撫でてくれた。
蕩けた瞳で昌輝兄上を見上げると、信綱兄上に代わり、昌輝兄上も口付けてくれた。
信綱兄上より少し荒々しく口付けられて、唇を指で撫でられる。
大好きな二人の兄上と、三人だけで過ごせるなど、幾久しい。

信綱兄上と昌輝兄上の膝の上に座り、兄上それぞれの首に腕を回して抱きついた。
腕に力を込めて、ぎゅうと抱き締める。
兄上達は驚いていたようだったが、直ぐに頬を擦り寄せられて、信綱兄上にも昌輝兄上にも抱き留められ背や肩を撫でられる。

「随分、寂しい思いをさせてしまったな」
「はい、とても。信綱兄上、何処もお怪我はございませぬか」
「ああ。大事ないよ」
「それは何より、よろしゅうございました」
「兄上、昌幸を可愛がってやって下さい。随分と兄上を待ち焦がれておりました」
「昌輝兄上は行ってしまうのですか」
「俺は邪魔であろう。お前は兄上に可愛がって貰うのだぞ昌幸」
「行かないで、兄上」
「昌幸?」
「信綱兄上、昌輝兄上とも一緒に居たいです」
「昌幸、それは」
「昌幸は良いのか」
「信綱兄上とも、昌輝兄上とも一緒に居たいのです…せっかく三人で居れるのです。駄目ですか、信綱兄上」
「…わしが無理だと思ったら、直ぐに止めるぞ。良いな」
「俺も居て良いのなら、可愛がってやろう」
「はい。信綱兄上、昌輝兄上」
「くれぐれも無理はするな。お前を傷付けたくない」

部屋を出ようとした昌輝兄上を引き留めて、信綱兄上にお願いするように胸に埋まる。
信綱兄上と昌輝兄上、両方共に口付けられて嬉しくて瞳を細める。
そもそもいけないことだと解っているけれど、三人で何て初めての事であるし、破廉恥だと思いはしたが、誰かを除け者にしたくはなかった。

「愛しているよ、昌幸」
「大好きだぞ、昌幸」
「っ、信綱兄上、昌輝兄上」

信綱兄上と昌輝兄上は微笑み、私の髪や頬を撫でてくれた。
膝に兄上達のが当たっている。もう随分溜まっていらっしゃるのだろう。
それに気付いて頬を染めると私から兄上達に口付けた。



何とか口で咥えるも、兄上のは大きくて頬張りきれず唇を寄せる。
信綱兄上を上目遣いで見上げれば頬を優しく撫でられた。

「っ、ぅ…、ぁ、に、うえ…、んっ」
「もうこんなにして…、ほら、止まってるぞ昌幸」
「は、い…、っん、ん…ぅ」
「昌幸、無理はしなくて良い…」

信綱兄上に奉仕をしている私に昌輝兄上が触れる。
肌蹴て露になった肩に唇を寄せられ、下穿きをたくし上げられて熱くて大きな手に直に触れられる。
十分濡れていた為に直ぐに中に指を入れられて、くちゅとした水音が響いていた。
信綱兄上のを咥えている高揚感と、昌輝兄上に直接的に触れられる事で快感が巡るのが早い。
それに兄上達はどちらも優しく頭や背中を擦るものだから、その触れ方にも感じてしまう。
信綱兄上を御奉仕しているのに、昌輝兄上から与えられる快感に咥えていられなくて、思わず信綱兄上の膝に頭を乗せた。
中に入れる指を増やされて思わずきゅうと締め付けてしまう。
息を切らせながら悶える私を見下ろして、信綱兄上は昌輝兄上に目配せを送った。

「ぁ、っ、ゃ、っいや、あにう、ぇ」
「昌幸、嫌がっているのではないか?」
「大丈夫です兄上。昌幸の『嫌』は嫌ではないので」
「そう、なのか?」
「…まさてるあにうえの、ばか…」
「ふふ。なぁ、昌幸。兄上は優しすぎて物足りないのではないか」
「そんなこと」
「ほう、そうだったのか」
「っ、ぁ、ゃ、や…、んっ」

確かに嫌だと思わず言ってしまうけれど、本当に嫌ならとうに拒んでいる。
ましてや兄弟でなんて、許されないことだ。
信綱兄上が暫し思案するような素振りを見せて、私の頬を撫でた。

指を抜き差しされながら、昌輝兄上は私のも擦り上げる。
心配そうに信綱兄上が見下ろし頭を撫でてくれているが、それも私を煽る。
信綱兄上のを再び口に咥えつつ、次第に動いてしまう腰に昌輝兄上が背後から私の頬に唇を寄せた。
私とて兄上にずっと触れて欲しかった。はしたないと思われてしまうかもしれないけれど、兄上達に触れられたくて仕方なかった。

「も、…いっ、ちゃ、う、あにうえ、あにうえぇ…はや、く…」
「兄上、もう随分良いようです。昌幸は俺が支えましょう」
「一度、果てさせてやれ。随分焦らしてしまった」
「っ、ぁ、や、っ」
「兄上がそう仰るのなら。ほら、昌幸」
「っ、あにう、え、あにうえ、ぁっ…!!」

縋るように信綱兄上を見上げて、昌輝兄上の裾を掴む。
昌輝兄上が私を抱き上げて、胸で私の背を支えてくれた。
信綱兄上が口付けながら、私のを擦る。昌輝兄上が中を解しながら胸を弄り、頬に口付けてくれた。

「んっ…、ぁーっ…!!」
「昌幸」
「は…、はぁ…、ぁ、は…っ、待っ…て、まっ、…て」
「分かったよ、昌幸。昌輝」
「は。昌幸、大丈夫か?」

快楽の逃げ場がなくて、程なくして先に果ててしまった。
上衣は肌蹴て肩があらわになっている。信綱兄上の手の中で果てさせられて、背中を昌輝兄上に預けた。
信綱兄上も昌輝兄上も、ひっきりなし額や唇に口付けてくれるから嬉しくて幸せで堪らない。
幸せ過ぎて、視界がちかちかしている。
足の指を丸めて体を震わせていると、兄上が腰を摩った。

「ぁにうえ、あにうえ」
「大丈夫か?」
「はい…」
「まこと愛おしい…昌幸。可愛いな」
「熱いな。とろとろだ…。ほら、兄上…このように」
「こんなにして…」
「ゃ…、はずかしい…で、す…」

昌輝兄上が信綱兄上を促して、私の中に指を入れさせた。
果てたばかりでまだ過敏になっていた為、入ってきた指をきゅうきゅうと締め付けてしまう。
濡れそぼっている私のを擦り、中に入れる指を増やさせられて、びくびくと体が震える。

「兄上」
「ぁ、にうえ、きて」
「っ」
「兄上、どうぞお先に」

昌輝兄上に指で中を広げられて、信綱兄上に見せ付けさせられてしまいとても恥ずかしい。
そして、信綱兄上が喉を鳴らし私に当てがった。
信綱兄上のは先程より張り詰めていて、とても固くて大きい。
昌輝兄上に背を支えられながら足を開かせられて、恥ずかしいけれど不安げに振り返れば兄上が優しく口付けて頭を撫でてくれた。

「可愛い、昌幸」
「あにうえ…、っぁ、ぁっ…!」
「昌幸、可愛い昌幸」
「んっ、…っぁ、に、うえ…ぇ…」

奥に奥に、信綱兄上が入ってくる。
床であるならずり上がってしまうのだが、今宵は昌輝兄上が背を支えてくれている為に、より奥深くに兄上を感じる。
寧ろ感じ過ぎて、少し怖い。入れられただけで軽く意識が飛びかけた。

「はっ、…は、…う…」
「昌幸?」
「すまぬ。急いてしまったな。昌幸に合わせよう」

信綱兄上を潤んだ瞳で見上げて裾を握った。
視線だけで信綱兄上は察してくれた。
ごめんなと頬を撫でられて、私から兄上に唇を寄せた。
深く繋がったままではあったが、信綱兄上は私が落ち着くまで動かないようにしてくれているようだ。

胸で息を吐いていると、昌輝兄上が私の目尻を指で拭ってくれた。
昌輝兄上の吐息も随分熱くて、尻に当たる昌輝兄上のも固くて大きい。

「俺は信綱兄上ほど、お前を気遣えていなかったかもしれない」
「まさてるあにうえ」
「わしは優しすぎるのかもしれん。昌幸にもどかしい思いをさせていた」
「のぶつなあにうえ」
「怖いか?無理をしているのなら」
「…ん…」

信綱兄上が眉を下げて口付けるものだから、私から口付けて、兄上の熱い唇を食む。
信綱兄上の手を引いて、下腹に触れさせた。昌輝兄上も下腹に触れる。

「昌幸?…あ…」
「ああ…、兄上のが…こんな所まで、入っているのだな」
「もっと、さわっ、て、あにうえ」
「ああ。こんな所まで…。 苦しくないか?」
「大丈夫です…、っ…ぁ…」

信綱兄上も昌輝兄上も私にやわやわと触れるものだから、嬉しくて目を細める。
不意に信綱兄上が腰を掴み、ぐっと奥に腰を進められた。
唐突な快楽に体が跳ねてしまう。
悲鳴に近い声を出してしまい、慌てて手で口を塞ぐも瞳が潤む。

「っ、ぅ…!」
「すまぬ、昌幸。もう堪えられそうにない」
「ぁ、に、うえ…、ぅん…、して…」
「ああ…、昌幸」
「こえ、が…」
「俺が何とかするから、心配するな」
「ぁ、ぅ…ん…っ、ぁ、にう、ぇ…、あにうええぇ…」

抑えられない声は、昌輝兄上が咥内に指を入れたり、口付けてくれたりして、外に漏れぬよう抑えてくれた。
その間、信綱兄上が私の腰を掴み抽迭を深く深く繰り返していく。
信綱兄上と昌輝兄上、代わる代わるに口付けられながら、奥に奥に突き上げられる。
昌輝兄上に下腹を摩られて、更に煽られてしまう。

奥に奥にと突き上げられる度にくぐもった声が漏れる。
昌輝兄上にしっかり抱き留められているからこそ、ずり上がり逃げることも出来なくて、一身に信綱兄上を受け入れてしまう。
信綱兄上がこんなに激しく私を抱くのは初めてではなかろうか。
いつも私を気遣って下さるから、こんなに激しくされた事はない。

「ぁ、っ、ぁ、ぁにうえ、あにうぇ、っは、ぁ…っ」
「まさゆき…っ」
「あにうえぇ…っ、ぁ…、あ…!」
「っ、ん…っ…!」

信綱兄上に深く突き上げられて、中だけで果ててしまった。吐き出してもいない。
昌輝兄上に直に弄られている訳でもなかったのに、中だけで果ててしまうなど恥ずかしい。
中に注ぎ込まれる感覚を感じて目を細めていると、信綱兄上が優しくそれでいて熱っぽい瞳で私を見つめた。その眼差しだけでまた体が反応してしまう。
愛おしくて愛おしくて、兄上の首に腕を回して、ちゅ、ちゅと口付けると、信綱兄上も口付けを返してくれた。
昌輝兄上も目を細めて、私の腹を撫でる。首に当たる昌輝兄上の吐息も熱くて、尻に昌輝兄上のが固く当たっていた。



中に果てる信綱兄上のをきゅうきゅうと締め付けながら、体の震えが止まらない私を信綱兄上も昌輝兄上も優しく撫でてくれた。

「大丈夫か、昌幸」
「昌幸…、すまぬ、俺もお前を抱きたい」
「はい、はい、まさてるあにうえ…」
「兄上、お許し頂けますか」
「ああ、ほら、昌幸。昌輝にもしてやらねば」
「ぁ…、はぁ…、兄上…、いっぱい…して」
「無論のこと」

信綱兄上に口付けられて、腰を掴まれゆっくり引き抜かれた。
中から溢れるような気がして、繋がっていた箇所に触れて目を閉じる。
人気があり人望のある兄上が相手に困る事がなかろう事は存じている。されとて私から伝う其れは、他で抜いてないのだと思わせた。

「ぁに…ぅ…ぇ…」
「どれ、下りれなくなってしまったのだな…。大丈夫か?」
「ぁ、ぅ、ぁに、うえ、だいすき…」
「ああ。わしも愛しているよ」

不意にふわりと体が浮いて目を開けると、信綱兄上に抱き留められていた。
掴まっておいでと優しく撫でられて信綱兄上の首に腕を回し体勢を整えると、背後から昌輝兄上に腰を撫でられた。
ぞくぞくと背筋が震えて、昌輝兄上が私の顎を掴んで口付ける。

「昌幸、はぁ、昌幸…」
「ん…ぁ、…ん…っ…!」
「っは…、中、きついな」
「…まさてる、あに、ぅえ…」
「いい子だ。今度はわしに掴まっておいで」
「ぁ、のぶつな、ぁに…うぇ…ぇ」

後ろから腰を支えられて、昌輝兄上のが当てがわれ、信綱兄上を受け入れていた其処は難なく昌輝兄上のを受け入れた。
深く息を吐いて、信綱兄上の胸に埋まる。
私がずり落ちないようにと、信綱兄上が優しく、それでいてしっかりと私を抱き留めてくれていた。
昌輝兄上をきゅうきゅうと締め付けて、少し後ろを振り向けば、お顔が近くて、食むように口付けを強請られる。
昌輝兄上のそんな仕草が愛おしくて微笑むと、信綱兄上に頬を撫でられ、そのままぷくりと立っていた乳首に触れられた。
過敏になっている所を触れられて、思わず声を上げると、信綱兄上も昌輝兄上も私を優しく撫でて下さった。

「昌幸、良いのか?なれば…」
「は…、んっ、っぁ、ゃ、ぁ、ゃ…!」
「昌輝、激しすぎるのではないか。昌幸が…」
「大丈夫です兄上。ほら…」
「ぁ、ぁ…っ!」

信綱兄上より昌輝兄上の方が激しくて、奥を抉られる度に声が漏れてしまう。
何度か後ろだけで果ててしまい、それでも吐き出すことは出来なくて信綱兄上にしがみついた。
昌輝兄上に促されて、屹立した私のを信綱兄上が優しく触れる。
信綱兄上に優しく促されて、昌幸と囁かれて耳を甘く噛まれながら、漸く吐き出すことが出来た。

「ぁっ…ぁ…っ!!!」
「ぁ、くっ…っ」

吐き出して果てた事できつく締め付けてしまい、昌輝兄上が奥歯を噛む。
果て続けて狂うのではないか。怖くなって信綱兄上に縋るも昌輝兄上の律動は止まらず敏感に反応してしまい、生理的な涙が止まらなくなった。

「待っ、まって、あにうえぇ…」
「っは、く、まさゆき…もう少し力を抜け」
「だっ、て、あにうえ、ぁっ、ぁ…!」
「待て昌輝。昌幸、ほら…」
「っ、はい」
「ぁ、は…、のぶつな、あにうえ」

信綱兄上に制されて、昌輝兄上がはっとして漸く動きを止めた。
くたりと信綱兄上の胸元に沈むと、昌輝兄上がごめんなと首元に擦り寄り慰めるように口付けてくれた。
ひくんと体が反応を示していたが、昌輝兄上の事を責めたり蔑ろにするつもりはない。
振り返り昌輝兄上の唇を甘く噛むと、兄上が優しく口付けてくれた。

兄上達の優しく慈しんでくれるような口付けに弱い。
口付けに絆されて、信綱兄上にも撫でられて、体から強張りが抜けた。
それを見逃さなかった昌輝兄上に突き上げられ、信綱兄上にも促されて間もなく果てた。
中に注ぎ込まれる感覚を感じて、昌輝兄上も私の中に果てて下さったのだと目を細める。
信綱兄上の優しく熱い眼差しにも頬が熱った。見られているというのはこうも羞恥心に苛まれ昂るものなのか。
また、昌輝兄上が背後から口付けてくれた。

「あにうえ…」
「大丈夫か昌幸。すまぬ、加減したのだが…」
「あにうえ、いっぱい…なかに…」
「ああ。ずっと、お前を抱きたかったんだ」
「可愛かったぞ、昌幸」
「は、ぁ…あにうえ…」

昌輝兄上の真っ直ぐな言葉に頬を赤らめる。
私と違って兄上達はこういう事を隠しもしない。
中から引き抜かれてほうと溜息を吐くと、私を真ん中に寝かせて、兄上達も横になった。

「可愛いな、昌幸は...」
「ああ、全く。どうしてこんなに可愛いんだか」
「かわいく、ない...です...」
「お前は可愛いんだ。分かったか」
「そんなこと、言われましても」

信綱兄上に髪を掬われて額に口付けられる。
昌輝兄上にも手を握られて、頭を撫でられた。
兄上達に撫でられると嬉しくて、もっと触って欲しくて目を閉じた。
信綱兄上と昌輝兄上が目配せ、次に私を見下ろした。

「…もう終いにしようか。昌幸に無理はさせられん」
「信綱兄上…?」
「…そうですな。後始末もしてやらねばなりません」
「昌輝兄上…?」

お二人共まだ、足らぬ筈だ。
今までただの一回切りで終わった試しなどなかった。現に今も張り詰めていらっしゃるのに、それをどうすると言うのか。
お優しい兄上達の事、私を気遣って下さり、口裏を合わせてくれているのだろう。
兄上達の目配せに気付かないほど、私は鈍感ではない。私とて、兄弟なのだから。



片肘をついて、信綱兄上は私の頬を撫でた。それに擦り寄ると、昌輝兄上が頭を撫でてくれた。
目を細めて、お二人の手を胸に寄せて抱き締める。

「昌幸?」
「どうした?」
「もっとして、兄上」
「…しかし、昌幸」
「もう二度も」
「まだ終わりたくない…。兄上、お願いですから、兄上といっぱいしたい」
「っ、昌幸」
「それは狡いだろう」

私からのお強請りに兄上達は頭を抱えるようにして顔を見合わせた。
兄上達は私には弱いのだ。それは私が一番知っている。
信綱兄上がひとつ溜息を吐いて、私の唇を親指の腹で撫でた。
信綱兄上を見つめ返すと、優しい口付けが降ってきた。

「あにうえ…」
「無理だと思ったら、止めるからな」
「はい」
「昌輝もそれで良いな」
「はい。俺も兄上同様、昌幸を想っています」
「うむ」
「昌輝兄上」
「と言うよりは、兄上に負ける気はしないのですが」
「ほう。昌輝はわしが嫉妬深い事は知らぬようだ」
「あ、兄上?」
「え…?信綱兄上…?」
「昌幸も知らなかったか。昌輝が相手とはいえ…な、これでも妬いている」

信綱兄上の思わぬ告白に、私も昌輝兄上も驚いてしまった。あまりにも不意打ちだったのだ。
声を荒らげて怒ることなどないし、感情を表に出さず、常日頃穏やかな信綱兄上だ。
信綱兄上にこうも愛されていると思い知り、頬を染めて兄上の手に頬を擦り寄せた。
そうしていると、昌輝兄上がむっとして私の頬を甘く食べるようにして噛んだ。
子供の頃もこうして構われていたから、や、と思わず声に出してしまった。
信綱兄上に制されて、昌輝兄上が優しく頬に口付けた。

「昌輝」
「解っています。俺は昌幸の一番にはなれません。兄上には敵わない。だけどな、昌幸」
「…?」
「俺はお前の事を、世界で一番愛しているよ」
「昌輝兄上」

真っ直ぐな言葉が次々と胸に刺さる。
お二人共、相手が女子であったのなら卒倒するような言葉を仰られる。
当の私とて、胸の高鳴りが止まらない。また肌が熱ってきてしまった。
容姿も整っておられて、人柄においては貶すところがない。
でもそれは私が弟だから、私が特別だからと自惚れてみたりもした。
私の二人の兄上達。愛おしくて堪らなかった。

不意に信綱兄上に頭を撫でられて、額に口付けられる。
私をあやすかのような口付けが擽ったくて微笑んでいると、大きな兄上の手がするすると私の腰を撫でていた。

「おいで、昌幸。昌輝も」
「あにうえ」
「大丈夫だ。お前に酷いことはしないさ。わしが出来ない事は解っているだろう?」
「はい…」
「昌輝」
「はい、兄上。その方が昌幸の負担が少ないでしょう」
「あにうえ?」

昌輝兄上は何をしたらいいのか解った様子であったが、私には解らなかった。
信綱兄上が身を起こして、私を抱き上げて向かい合わせに膝に座らせた。
兄上に跨るような形で脚を開き腰を落ち着けると、いい子だと信綱兄上に耳元で囁かれて顔が熱る。
ちゅっ、ちゅと信綱兄上に口付けられながら、中につぷと指を入れられた。
先程まで繋がっていたからか、もう随分と柔く、指一本では足らないと無意識に兄上の指を締め付けてしまう。

「ぐずぐずで、とろとろだな」
「ぁ、ぁにうぇ」
「指一本くらいでは直ぐに飲み込んでしまうな」
「い、言わないでください」
「昌輝」
「はい。ほら、昌幸」
「ぁ…」

背後に昌輝兄上が座り、私の腰を支えた。
私にだけ聞こえるように大丈夫か?と耳元で囁き心配してくれた昌輝兄上にも愛おしさが募る。
胸がきゅうと締め付けられるように切なくなって、思わず昌輝兄上に口付けた。

「昌幸?」
「あにうえ」
「妬けるな、昌幸」
「っぁ、ぅ…!」

昌輝兄上に口付けていたら、くぷと水音がして、信綱兄上に当てがわれ下から挿入される。
ぞくぞくと背筋を這う快感に信綱兄上を横目に見下ろしていたら、不意に腰を引き寄せられて深く奥に突き上げられてしまった。
少々手荒い接合に背を反らし快感に震えた。
いつもの信綱兄上なら、こんなに強引な事はしないのに昌輝兄上に見られているからだろうか。

「ゃ、ぅ…っ、あにうえ…?」
「昌幸、昌幸。わしを見てくれ」
「のぶつな、あにうえ」
「愛しているよ」
「ぁ、は、私、も…」

いつも優しい信綱兄上の眼差しが熱く、雄の瞳をしていた。
猛獣に睨まれたかのような強さを感じて、ああ私は食べられる側なんだと思い知り身を委ねた。

信綱兄上は言わないだけで、表に出さないだけで、私を深く愛してくれているのだと思い知った。
昌輝兄上にすら嫉妬するなんて、信綱兄上の意外な面を知った。
余りにも深く受け入れてしまい、快感で体を動かせない。今動かされたら直ぐに果ててしまう。
肩で息をしていると信綱兄上に口付けられた。やはり口付けは優しくて甘い。
兄上に想われていると思うと、自然にぽろぽろと涙が溢れてしまう。幸せで堪らない。
兄上が眉を下げて私の涙に口付けた。

「痛いのか?すまない、いつもより乱暴にしてしまった…」
「ううん…、兄上」
「ん?」
「うれしい…」

私ばかりが信綱兄上を好きなのだと思っている節が拭えなかった。
信綱兄上は私に付き合ってくれているだけなんじゃないかと、不安で。今はそんな不安も消し飛んでしまった。
程なくして兄上に揺すられるまま果ててしまった。きゅうと兄上を締め付けてしまい、兄上も奥歯を噛んで私の中に果てて下さった。

「俺を忘れていないか、昌幸」
「っ、ぁ…!だ、め、そん、な…、や、ゃ」
「こんな奥に受け入れて…。ここかな」

信綱兄上を受け入れているところから指を伝い、昌輝兄上に下腹を撫でられる。
そのまま腰を掴まれ、上下に揺すられて思わず甘く声を上げてしまった。
信綱兄上も腰を掴み、また下から突き上げられる。
私の声を外に漏らすまいと、兄上に交互に口付けられて唇を塞がれた。

「ん、ぅ、ぁ、ぁっ、ぁにう、えぇ」
「気持ちいいのか、昌幸」
「っ、ん」
「兄上、そろそろ」
「ああ」
「ふ、ぁ…?ぁ、あにうえ…?」
「昌幸」

気持ちよくて、また上り詰めようとしていたのに急に信綱兄上が私から離れてしまった。
脚を伝って中から溢れるお二人のものに目を細めて、どうして?と信綱兄上を見つめた。

「あにうえ?」
「ほら、昌幸。力を抜いて」
「っ、ん…!まさてる、あにうえ…?」
「ああ。今度は俺の番だ。ばてるなよ昌幸」

背後から腰を掴まれて、今度は昌輝兄上が私を貫き揺すっている。
引き抜かれた信綱兄上のはまだ屹立していて、私の腹を擦っていた。
昌輝兄上が背後から顎を掴み、噛み付かれるように口付けられる。
昌輝兄上もまたぎらりと光る瞳で私を見つめていた。

「ぐちゃぐちゃではないか、昌幸」
「い、いわない、で、あにうぇ」
「ふ、気持ちいいんだろう?」
「はい、はい」
「可愛すぎるだろう昌幸。うむ…抱き潰してしまわないようにしなくてはな…」
「いっぱい、して、あにうえ」

暫し口付けられながらも揺すられて、唇を離されたと思ったら、今度は信綱兄上に口付けられる。
その間にも兄上達は代わるがわる私を貫き、幾度も中に果てられた。
信綱兄上には前から優しく抱き留められて、深く貫かれる。
昌輝兄上は後ろから激しく強く揺すられる。
時折、口で奉仕をしつつ、受け入れたりもした。
そんな事しなくていいとか、お前が辛いだろうとか、兄上達に止められていたが、私がしたいのだと伝えるとお二人とも目を細めて私を愛してくれた。

「昌幸」
「昌幸」
「あにうえ、あにうえ…」

幾度か繰り返されて、もう何度果てたのか分からない。
呂律が回らず、視界も涙で滲んでぼやけている。
お二人とも壊れ物を扱うように優しく触れ、熱い眼差しに私だけが映っていた。

「…兄上、もう昌幸が」
「ああ、もう止めてやらねば…」
「っは、ぁ…ぁ…、ぅ、ん…ぁに、うえぇ…っ…!」

兄上達に抱かれている。兄上達に愛されている。幸せで幸せで堪らない。涙が止められなかった。
中に注がれるのを感じながら気を飛ばしかけて、信綱兄上に凭れて肩を震わせた。
中に在るのは信綱兄上だ。
私を慰めるように額や頬に口付けられると、腰を撫でられてゆっくり中から引き抜かれた。尻から股、そして脚を伝うほど、中に注がれた兄上達のが溢れている。
途中から何度目だとかを数える余裕はなくて、ただただ兄上達に翻弄されていた。



接合は解いたのに、未だ揺られているような感覚が残っている。
ひくんひくんと肩を震わせながら信綱兄上の肩に頭を乗せていると、私をあやす様に兄上は私を抱き締めて背や肩を撫でてくれた。
昌輝兄上も私の頭を撫でてくれている。

「昌輝」
「では、俺は先に」
「ああ、後で連れて行く」
「はい。ごゆるりと」
「…昌輝、すまないな」
「いいえ。昌幸を頼みます」

兄上達が一言二言言葉を交わしているのをぼんやりとした眼で見つめていると、昌輝兄上に頭を撫でられ、ちうと額に口付けられた。
口付けの後、昌輝兄上は部屋から出て行ってしまった。

閉じられた戸をぼんやりと見つめていたら、肩に上着を掛けられて抱き留められる。信綱兄上の上着だ。
信綱兄上が私をあやす様に撫でるものだから、子供の頃を思い出してしまう。
兄上は幼い頃の私をいつもこうして寝かし付けてくれた。

「あにうえ」
「大丈夫か。随分無理をさせてしまったな。後はわしらがやっておくからな」
「ぁにうえ」
「ん?」
「だいすき…、あにうえ」
「ふふ、わしも愛しているよ」

優しく微笑まれてほうと溜息を吐いた。いつもの兄上である。
三人で、それこそ兄達に交互に抱かれるなんて、淫靡が過ぎている。
それでも幸せで堪らなくて、まだぽろぽろと涙が溢れていた。
その度に兄上がよしよしと私の頭を撫でるものだから、余計に涙が溢れてしまう。

深く溜息を吐いて、涙を拭った。
乱暴にやるものではないぞと信綱兄上に咎められたが、こうでもしなければ止まりそうにない。
指で目元を拭う兄上をまだ潤んだ瞳で見上げた。

「昌輝兄上…」
「湯を沸かしに行った。そのまま先に入って居るだろう。わしが良いと言ったからな」
「信綱兄上…」
「ん?」

話を続けながら、信綱兄上は私の身を案じて汗やら何やらで濡れた私の体を拭ってくれていた。
信綱兄上と二人きりだ。
思わず胸に甘えるように頬擦りすると、兄上はそのまま私を甘やかしてくれた。
人一倍私を甘やかしてくれる。信綱兄上になら誰でも恋をするのではなかろうか。

事後はいつも幸せに浸っているけれど、同時にどうにも寂しくて堪らなくなる。
ずっとこうしていられたらいいのにと叶わぬ想いを願ってしまう。
私が一番解っている。ずっとこんな事を続けていて良い訳がない。
せめてどちらかを選べばいいのだろうが、どちらを選んでも倫理や常識に反している。事が済めば何よりも兄弟である事を思い知ってしまう。
だからこそ、倫理や常識に反していても、淫らと言われようとも、一時でも長く兄達とこうして居られる事が幸せだった。
どちらの兄にも嫌われたくなくて、どちらの兄にも愛されたかった。これは私の我儘だ。
そしてその我儘を、兄達は受け入れてくれている。

順番的には、信綱兄上が先だった。
何もかも初めては信綱兄上とであった。
憧れが恋に変わっていったのを自覚した時は、それはそれは苦しかった。一人でずっと悩むしかなかった。
私の悩みをいち早く察し、こんな私を受け入れて、果ては想い合うようになったのが信綱兄上である。
そんな私を察し、私を想ってくれていたのが昌輝兄上である。

「どうした、昌幸」
「信綱兄上…、昌輝兄上のこと、怒らないで下さい…。昌輝兄上を嫌いにならないで…。私のせいなら、私が」
「昌幸」
「お二人の仲を引き裂くのが私だなんて、耐えられないのです」
「昌幸、よくお聞き」
「…はい…」

お優しい信綱兄上とは言え、昌輝兄上との事は本心では怒っているのだろうと思う。
その場の流れで三人で致してしまったけれど、本心では許せなかったのではなかろうか。
兄達は夫々私を深く愛して下さっているのは身に染みている。
今更ながら、鉢合わせるべきではなかったのかもしれないと思えて、信綱兄上や昌輝兄上はどんな思いであっただろうかと体が落ち着くにつれ、悩み考えてしまったのだ。
私のせいで、あの仲睦まじい兄達の間に亀裂など生じさせたくはない。
眉を下げて兄上を見上げたが、信綱兄上は優しく私の頬を撫でていつも通り優しく見つめてくれていた。

「確かに妬きはしたが、憎んではいないさ」
「ほんとうですか…?」
「ああ、昌幸に誓うよ。あれとて、わしの可愛い弟だからな。嫌いになどなれない」
「良かった…」
「だが、嫉妬は…してしまうな。それは許して欲しい。わしの本心である」
「信綱兄上」
「…昌輝は随分激しいようだな?」
「ぁ、ぁにう、え…っ」
「わしでは物足りなかったのではないか?」
「そんなこと…」
「ふむ。優しいだけでは駄目なのだな。昌幸は激しいのが好きか?」

信綱兄上の物言いに羞恥心が耐えられず、頬を染めて兄上の胸元に埋まる。
すまん虐め過ぎたと、信綱兄上が額に口付けて頭を撫でてくれた。
本当は、嫉妬をしてくれるのも嬉しい。ただ、それは言葉にはしなかった。

寒気にふる…と肩を震わせると、信綱兄上が羽織ごと胸に強く抱き留めてくれた。
その腕の中から兄上を見上げる。流石に体が冷えてきた。

「あにうえ」
「ああ。行こうか」
「ぇ、…あ、兄上」
「大人しくしておれよ。腰が立つまい」
「…、はい…、ぁっ」

腰を撫でられて、先程までの痴態を思い出してしまった。
あられもない姿を何もかも見られてしまった。思い出してしまうと兄上の顔を直視できない。

兄上は端的に身なりを整えると、私を羽織で包み横抱きにして運んでくれた。
しんと静まり返っている邸の中、湯殿の灯りが着いている。
兄上の腕に揺られて、胸に頬を当てて目を閉じた。

信綱兄上の胸の鼓動が聞こえて落ち着く。
目を閉じていると、額にふと唇が寄せられた。小首を傾げて見上げると、頬を擦り寄せられて擽ったい。

「あにうえ」
「綺麗だったよ、昌幸。いつも綺麗だと思っているが、今宵は、特に…」
「え…?」
「あんなに興奮したのは、初めてかもしれん。わしも随分、堪えきれなかった」
「信綱兄上」
「愛しているよ。益々、惚れてしまうな」

信綱兄上に耳元で囁かれて、顔に熱が集まる。
信綱兄上はいつも格好良いのだが、破顔されると心臓に悪い。胸の動悸が止まらなくなる。
私からも頬を擦り寄せると、信綱兄上から口付けてくれた。



風呂場に着くと、灯りがついていた。
湯気が出ている所を見ると、わざわざ湯を沸かしてくれたのだろう。

「昌輝」
「は…、兄上。此処に」
「あにうえ」
「昌幸、わしは後で行く」
「はい」
「おいで、昌幸」

足早に運んで下さった信綱兄上が戸口に顔を寄せると、湯浴みをしていたであろう昌輝兄上がそっと戸口を開けて私を抱き留めて下さった。
信綱兄上と昌輝兄上が交わす言葉は短く、直ぐに終わってしまう。
幼心に会話をしたくないのだろうかと心配をしたものだが、それは違った。
言葉少なくとも兄上達は互いを認知し、皆まで言わずとも通じるのだろう。
兄上達が仲違いをしてしまうのではないか、なんて私の要らぬ心配であった。

兄達は二人とも私を横抱きに運ぶものだからとても恥ずかしい。
私の額に信綱兄上は唇を寄せて、部屋の方向に戻ってしまった。

「信綱兄上…?」
「直ぐ戻るさ。部屋を片付けに行ったのではないかな」
「はい…」
「信綱兄上が良かったか?」
「そんなこと…」
「すまん。ついな。だいぶ無理をしただろう、昌幸」
「大事ありません、兄上」
「…おいで、昌幸」
「あにうえ」

しゅるしゅると紐を解かれて衣を脱がされて、昌輝兄上に抱き留められ湯殿に運ばれた。
腰が立たぬと察して、兄上は私の世話を焼いてくれた。まるで子供の頃に戻ったみたいで懐かしい。
思わず微笑んでいると、昌輝兄上がちうと優しく触れるだけの口付けを落としてくれた。

「あにうえ」
「昌幸」
「…はい」
「愛してるぞ」
「はい、ふふ」
「ああ、全く、どうしてこんなに愛いのか。困ってしまうな」
「困ってしまうのですか?」
「今宵は凄く綺麗だった。破廉恥でもあったが、俺も随分、我慢したんだ」
「昌輝兄上」
「俺とて、信綱兄上には負けたくはないと思っている」

昌輝兄上にも熱い眼差しを向けられて、腕の中で振り向いて微笑む。
またそんな可愛いことをして、と昌輝兄上は私に唇を寄せる。

「そんなに可愛いとまた食べてしまうぞ」
「…いいですよ、兄上になら」
「こら、そこは駄目だと言わねば」
「兄上になら、嫌じゃないです」
「昌幸、お前は、全く」
「昌輝兄上」
「愛しているよ」

うつらうつらとしている間に昌輝兄上が体を流してくれたようで、湯船の温かさがじわりと沁みる。昌輝兄上が私を抱き留めて湯船に浸かっていた。
目を閉じて舟をこいでいると、戸口が開く音した。頬を撫でられて髪に触れられる。
気配や触れ方でわかる。信綱兄上であろう。

「信綱兄上…、昌輝兄上…」
「ふ、もう三人で湯船は入れんな」
「もうおやすみ、昌幸。後はやっておくから」

兄上二人ともに口付けられて微笑む。
兄上の腕の中で安堵し、体の疲労もあって瞼を閉じた。



ふわふわとした心地と温かさにぼんやりと眼を開けた。
とても温かい。顔を上げると目の前に信綱兄上の顔があった。私が枕にしているのは信綱兄上の逞しい腕であった。
身動ぎ背後を振り返ると、昌輝兄上が私の背中に引っ付いて眠っていた。
綿入れや上着を掛けられて、下には敷布団を重ねているのかふわふわとして柔らかい。
何より兄上達の体温が温かい。

そっと、目の前の信綱兄上の頬に触れた。
ぱちりと瞼が開いて、起こしてしまったと眉を下げる。

「ごめんなさい…」
「寒くないか?」
「はい…。とても温かいです」

信綱兄上が優しい眼差しで見つめる。
昌輝兄上が私の腹に腕を回していたが、信綱兄上とは足が絡んでいた。
信綱兄上も、私の腹を摩る。
体は疲労で重かったが、痛みは感じない。

「体は、大丈夫か?」
「はい…」
「そうか。何かあったら直ぐに言え。負担を代わってやる事は出来ないが…」
「兄上…」

すりと信綱兄上の腕に甘えると、唇を指の腹で撫でられて、そのまま唇が重なった。
信綱兄上の唇は分厚くて、色っぽくて、やはり格好良い。
兄上の優しい口付けに微笑むと、頬を撫でられて目を細める。

「ゆっくりお休み。その様に取り計らう。わしも傍に居たいからな」
「兄上…、傍に居て下さるのですか。お忙しいのでは…」
「やるべき事はするさ。だが、それよりも優先するべき事だろう。こんな状態のお前を一人にしたくない」
「本当…?」
「…源五郎、わしが嘘をついたことがあったか?」
「…源太、にいに…」

唐突に幼名で呼ばれて、思わず私も幼名を呼んでしまった。
信綱兄上は目を丸くして驚くも、照れくさそうに微笑んでくれた。

「…源五郎、兄上ばかり、狡いぞ」
「昌輝兄上」
「おい、何故それなんだ」
「徳次郎、にいに」
「ああ、懐かしいな…。小さくて可愛い源五郎だ」
「む…」

耳をかぷと甘噛みされて振り向くと、昌輝兄上が少し不貞腐れていた。
ぎゅうと腹を抱きかかえられて頬に擦り寄られ、擽ったくて微笑む。
昌輝兄上も私を幼名で呼ぶものだから、振り向いて私も幼名を呼ぶと、ぎゅうと抱き締められた。

「まあ、今でも小さくて可愛いか」
「あにうえ、くるしい」
「昌輝」
「ああ、すまんすまん。可愛くてついな」
「もう、兄上たら」

むっとしていると、顎を掴まれて尖らせた唇に唇を重ねられた。
昌輝兄上の唇は薄いけれど、熱くて雄々しい。うっとりと目を閉じる。

不意に絡んだ足が引き寄せられて髪を撫でられた。
信綱兄上の方に向き直ると、昌輝兄上が更に距離を詰めて引っ付く。
思えば髪は綺麗に撫でつけられていて、櫛で整えてくれた節がある。着物もきちんと着付けられているし、上着も二枚羽織らされていた。
眠ってしまった私の為に、無骨な兄上達があれやそれと世話を焼いてくれたのだろう。目に浮かぶように想像出来た。

信綱兄上に額に唇を寄せられて、昌輝兄上にも頬に口付けられる。
密着すればするほど温かくて、ほうと吐息を吐いた。
兄上達とまだ話をしていたいのだが、また眠くなってしまった。
小さく欠伸をして兄上の胸元に埋まる。

「おやすみ」
「おやすみ」
「おやすみなさい…。昌輝兄上、信綱兄上」

吐息が聞こえる距離に兄上達がいる。
兄上達の体温を感じる。
胸の鼓動を聞きながら兄上の腕の中で目を閉じた。




朝の気配を感じて身動ぐ。
真田の郷よりも、甲府の朝は朝霧が濃い。
天気が良ければ富士の山も見えるだろう。

習慣として朝は早めに起きるのだが、起き上がろうとした私に気付いて胸元に戻されてしまった。
と言うより、行かせぬと、信綱兄上に腕を引っ張られた。

「おはよう、昌幸」
「おはようございます。兄上」
「よく眠れたか」
「はい。お陰様で」

昨夜は気付かなかったが、二つの敷布を横に並べていたらしい。
その内のひとつが既に畳まれ片付けられていた。既に昌輝兄上の姿がない。
今はもうひとつの布団で信綱兄上に抱き留められていた。

「昌輝が言伝に行っている。暫し待て」
「そうなのですか」
「昌輝が良かったか?」
「…信綱兄上」

むっと頬を膨らませると、可愛いだけだぞと信綱兄上に頬を包まれた。
そのまま口付けられるのだろうと思って目を閉じる。
厚い唇を感じ、ほらやはりと笑った。

不意に腰を撫でられて小首を傾げる。
そのまま下腹にも触れられて、するすると上に手を動かされ、最後は唇を撫でられた。

「兄上?」
「ん…、昨夜を思い出してな。随分、破廉恥だったな…と…」
「あ、あにうえっ」
「それに事後の昌幸は、特に甘えたがりだからな…、誰にも見せたくない」
「…兄上だからです」
「ふふ、そうなのか?」

再びころりと兄上の腕に甘えていると、足を絡められて背中を抱き寄せられた。
私も足を絡めて頬を擦り寄せると、また兄上が甘やかしてくれるのだ。

胸元に頬を擦り寄せていると、床が軋む音が近付いている事に気付いた。
耳をすますと、昌輝兄上だと解る。
失礼、と一言声が聞こえてそっと戸が開くと、ぽいぽいと上着やら何やらを脱ぎ落として、畏まっていた態度も崩して私の背中に抱き着いてきた。
そのままちうと頬に唇を寄せられ、擽ったくて昌輝兄上に振り向く。

「兄上、お帰りなさい。おはようございます」
「ただいま、おはよう。昌幸、ああ、まさゆき。離れたくなかったぞ」
「すまなかったな、昌輝」
「いえ、兄上はお休み下さい。ああ、お館様より言伝です。皆疲れてるから今日は皆お休み、との事」
「え、そんな馬鹿な」
「俺が畏まって話す前に、おこと何で来たの休みなよ~と言われてしまった。昌景様や勘助様にもお会いしてな。  お館様と若殿に会いに来ただけで休んでるぞと。真面目な信綱と、めんこい昌幸にもちゃんと休めと伝えてくれと仰った」
「はは、お館様らしい。昌景様と勘助様もか。そうか、皆羽を休めているのだな」
「それは…、つまり…」
「という訳だ、昌幸。今日はずっと一緒に居られるぞ!ええいもう離さぬからな」
「あう」

昌輝兄上にぎゅうと抱き着かれてしまい、信綱兄上の胸に押し潰されてしまった。
思わず声をあげると、あわあわとして昌輝兄上が加減して離れてくれた。

「すまぬ、昌幸。こうやってずっと一緒に居られると思うと嬉しくてな」
「私も嬉しいです兄上」
「そうだ。勝頼様が昌幸に会えぬ事を残念がっていたぞ」
「昌幸、勝頼様に会わなくていいのか?」
「今の姿は、恥ずかしくてお見せできませぬ」
「そうか。我等にだけ甘えてくれるのだな」
「また可愛い事をしおって」

兄上達二人共に撫でられて目を細める。
勝頼様とは懇意であるが、兄上達のように甘える事は出来ない。
この様に私が甘えるのは、兄上達だけなのだ。

私をただの昌幸で居させてくれる。
兄上達の弟の、源五郎に戻してくれる。

私の大好きな二人きりの兄上達。
私の顔を見るなり、何時でも甘やかしてくれた。会えば何時でも愛してくれる。
どんなに離れていても、立場が変わっても愛してくれた。
そして、私も愛している。

「信綱兄上」
「ん?」
「昌輝兄上」
「何だ?」

二人の兄上の手を取り、その大きな手に甘えるようにして頬を擦り寄せた。
未だ事後の気怠さが残っている。眼差しを見つめれば、情欲以上に深く深く愛されている事を眼差しだけで感じ取ることが出来た。
ずっとこうして居られたらいいのにと願いながら、そうもいかない事を知っている。
だが、今日は共に過ごす事を許されたのだ。

「愛しています」
「わしもだ、昌幸」
「大好きです」
「ああ、俺もだよ」

柔らかく優しく微笑まれながら二人ともに口付けられ、兄上達の逞しい胸や腕に甘えて私も微笑んだ。


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